異世界サザービ 三話 勇者参上! あれ、一人?
来て早々帰りたくなる。
年老いて、絶望的に使えん、こちらの魔王。
魔王軍の四天王も同じく年寄り。
次世代の血気盛んな若者は、勇者に立ち向かい帰って来ぬ。
頭が痛くなってきたワシは、一旦頭を冷やすべく部屋を出て廊下の窓を開ける。
「見たところ、ワシのいた世界と変わらんな」
窓から覗く高さから見ると、この城は中々でかい。恐らく四、五階くらいあるのだろう。
城から見下ろす城下町には、たくさんの魔物が住んでいる。
力の無い魔物だろう。彼らを人間の毒牙にかける訳にはいかんな。
ワシは部屋に戻ると、未だに寝ている魔王に苛立ちを覚える。
「いつまで、寝ておるのだ! どけ! おい、誰かこいつを連れていけ!」
役に立たぬ魔王など要らぬ。
魔王を強引に立たせてワシが玉座に座ると、四人の老魔物が、寄り添う様に魔王を奥へと連れていく。
四人を見ると、魔王と変わらぬ年寄り……待てよ。
「もしかしてあれが、四天王か! 付き従うって、介護か!?」
まぁ、もうどうでもよい。一番手っ取り早いのは、ワシ自ら勇者討伐に向かうこと。
しかし、やらぬ。
魔王はどっしりと構えとけば良いのだ。
「おい! タツオ! さっさと勇者を連れてこい! ここの再建はそれからだ」
「え……ワイ一人でです?」
「他に誰がおるのだ!」
タツオはぶつぶつと何かを言いながら、顔を横に向け全く行く気配を見せん。
「いいから、さっさと行って来ーーい!!」
「は、はいぃぃぃ!!」
走り去るタツオを見て、ワシは一服しようとお茶を頼むことにした。
「おい! 誰か、お茶持って来い!」
しかし、誰か来る訳でもなく返事すらない。
「このワシを無視するとは、良い度胸だ!」
ワシは玉座から立ち上がり部屋を出る。
そして、お茶を探しに城を探索するのであった。
◇◇◇
ワシは魔王の寝室を探ってお茶を見つけると、お湯を沸かしに厨房に向かう。
ようやく見つけた厨房だが、唖然とする。
「なんと、魔力機器ではないのか」
むう、仕方ないと、ワシは薪を竈にくべる。鍋はあるものの水が無い。
厨房の窓の外に井戸を見つけたワシは、鍋を持って水を汲みに行く。
「なんで、ワシがこんなことを」
文句の一つでも言いたくなるが、なんとここまで誰にも会わなかったのだ。
魔王の寝室にも魔王すらおらぬかったしな。
井戸の水は濁っておらず、ほっとする。
鍋を竈の上に置き、薪に火をつけるとポットとカップを用意した。
お湯の入ったポットと、カップをトレーに置きワゴンで運ぶ。
廊下に響くワゴンの音がなんとも虚しい。ワシは何をしとるんだろ。
玉座のある部屋に行く途中で、ひそひそ声が聞こえて来る。
「この部屋か?」
誰かが居るとは思っていなかったワシは、部屋の扉に耳を当て聞き耳をたてる。
「聞かぬ方が良かった……」
ワシは激しく後悔した。誰があの老魔王の営みを聞きたいのだ。
そして、少しは自重しろと言いたい。
何よりあの年齢で子供が出来るか!
気分が悪くなったワシは、さっさと元いた部屋へと足早に戻る。
玉座の横にまでワゴンを持っていき、お茶を淹れる。
ふむ、茶葉は悪くない。とても心落ち着く薫りが漂ってくるではないか。
ひとまず落ち着いたが、このあとどうするか。恐らくタツオはまだ時間が掛かるだろう、そう思った時、目の前にタツオが現れワシはお茶を吹きそうになる。
そう言えば“空間時計”なるアイテムを持っておったな。
試しに使った時、返すのを忘れておったわ。
「勇者、連れて来ましたーです!」
「お、おう」
玉座の段差の前でキョロキョロしている青年が勇者なのだろう。
「思ったより早かったな」
「城下町の前でウロウロしていたのを捕まえたです」
何をやっておるんだ、この勇者は。魔王倒しに来るなら、さっさとやって来ぬか。
「しかし、一人だが……パーティーではなかったのか?」
「一人でウロウロしてたです」
まぁ、良いか。ワシは玉座から立ち上がる時、こちらに気づかせる為に、わざと強く足で床を踏み音を鳴らす。
よしよし、こちらに気づいたな。
「良く来たな、勇者よ! ワシが魔王ガルドラだ!!」
普段より一段低い声で、勇者を威圧する。
「ガルドラ? 魔王の名前はダルゾウだろ?」
あの老魔王、そんな名前だったのか。
「代替わりしたのだ! 今はワシが魔王だ! さぁ、どこからでもかかって来るが良い」
さて、鑑定でもしてみるか。ワシの右眼に鑑定のスキルが宿る。
ハーネス
レベル45
体力235
魔力25
物理攻撃力178
魔法攻撃力25
物理防御力199
魔法防御力184
スキル
物理耐性4
魔法耐性4
勇者
復讐者
あれ? 随分とレベル低いな。それに“復讐者”とか、また随分と勇者に似つかわしくないスキルを。
まぁ、良い。さっさと倒して外出するのだ、ワシは。