異世界サザービ 二話 象さんが二人いる
この目の前にいるヨボヨボの象が異世界サザービの魔王とは。
なんとも情けない。
しかも、耳も目も悪くワシの声や姿がわからんとは。
何の為にその大きな耳をしておるのだ。
ワシは玉座の置かれた段差を上がり、目の前に立つ。
「ワシは魔王ガルドラ! お前か、ワシに助けを求めたのは!?」
「ほう……ほう……」
うむ、今度は聞こえたようだな。
「おじいさん……お昼食べたじゃったかいなぁ?」
駄目だ。ボケておる。ワシが例え勇者を倒しても肝心の魔王がこれでは……ん? タツオ?
タツオはワシと異世界の魔王の側にピョンピョン跳ねてやって来た。
「お妃様、そこは魔王様がお座りになるです。退いて下さいです」
魔王と違うんかい、しかも女だったのか。
いや、しかし魔王の嫁がこの年齢だとすると、魔王も大して変わらんか。
タツオに手を引かれ袖に消えていき、またタツオが一人戻ってくる。
「魔王様もうすぐ来るです」
ワシは部屋の中央に敷かれた赤いカーペットまで戻り、魔王を待ち構える事にした。
……
…………
………………長いな。
タツオは、ワシが睨むと急いで確認しに行った。
再び戻ってきたタツオに手を繋がれ、現れたのはヨボヨボでやはり象だった。
「おいおい……さっきのと区別出来んぞ」
服を着替えただけかと思うほど、見た目変わらぬ相手にワシは頭が痛くなり、既にちょっと帰りたい。
「おい! タツオ!」
ゆっくり玉座に腰を掛けようとしている象に介助をしていたタツオを呼ぶ。
「何です?」
「何です、ではないわ! どうしてこうなったのだ!?」
「ですから、詳しくは魔王様から……」
「あれが話出来ると思えんぞ。さっきのお妃と変わらぬではないか。もう、いい。お前が事情を話せ」
ワシは再び玉座に目をやると、象は寝ていた。話をする気など更々無いではないか。
「大体、あの魔王はいくつなのだ?」
「ええっと、七百歳くらいです」
「七百!!?」
ワシで百五十だぞ。七百歳など……今までこの象は何をしていたのだ!?
「おい、タツオ。この魔王は今まで何をしておったのだ?」
「子作りです」
「何だって!?」
「ですから、魔王に就いてからずっと子作りです。子供が全く出来なかったので……」
まぁ、気持ちは分からぬではない。ワシも息子が産まれた時は、跡継ぎが出来たと喜んだりもした。
しかし、魔王がずっと子作りとは……
「タツオ、今の現状を説明しろ!」
「今ですか? 今魔王様と対面してるです」
「……誰が、ワシの現状を説明しろと言った! 今の魔王軍の現状だ!」
そういえば、この場所にはワシと象とウサギしかおらぬ。
普通兵士なり見張りなりなんなり居そうだが、姿が見えぬ。
よく見ると、この部屋も所々修繕されている跡があるし、埃っぽいし、クモの巣も張ってある。
もし、ワシの部屋だったら掃除が行き届いていないと怒る所だ……ナツが。
「今は百居るか居ないかです」
百以下の魔王軍なぞ、全く怖くもないぞ。例え人間でも。
「何故、そんなに少ないのだ!?」
「実はです……」
チッ! 思わず舌打ちしてしまう状況だ。タツオが言うには魔物狩りが人間の間で広まっているらしい。
勇者どもに挑んだ魔物をギリギリまで痛めつけておき、弱った魔物をただの人間が狩ってレベルアップしておるとは。
そうして力をつけた人間がまた同じ事を繰り返し、今や勇者でない人間にも魔物は敵わなくり、数を減らしていっただと……
情けない!
そして、人間ら許さん!!
「タツオ、もう戦力になる魔物はおらぬのか!?」
こうなったら、今いる魔物をワシ自ら鍛え直してくれるわ。
「居るです! 魔王様が魔王就任以来付き従う最強の四天王が!!」
おお、四天王。ワシの場合、ワシが強すぎて作らなかったが、邪竜ジャバウォックの所には居たな。
いや、ちょっと待て。
「今何て言った? 魔王就任以来? アホかー! そんな年寄り集団、ワシが鍛え終える前に死ぬだろうがぁ!」
タツオは、きょとんと小首を傾げる。あー、本格的に帰りたくなってきたぞ。
しかし、これで帰っては魔王の名折れ。いや、ワシ元魔王だけれども。
「若い魔物は居らぬのか?」
「いるです! 血気盛んな若い魔物らが!」
なんだ、居るのではないか。だったらソイツらを鍛えて新四天王に……いや、五人だったら五芒星、六人だったら六輝星とか──いいな!
「すぐ連れて来るです!」
タツオは走って部屋を出ていく。あれ、ワシと象と二人きりとか間が持たぬぞ。
改めて象を見るが、玉座に座ったまま寝ている。
早く戻って来い、タツオ。
十分ほどして、タツオが一人で部屋に戻って来た。あれ? 五芒星は? 六輝星は?
「タツオ一人か?」
「はいです。他の魔物に聞いたら、血気盛ん過ぎて勇者倒しに向かって帰って来ないそうです」
ああ、やっぱりそうなるか。ワシは思わず天井を見上げてしまう。
あ、クモの巣発見。掃除だけして、帰ろうかなぁ。