自宅三話 外出チャーンス! 命懸け
ワシにナツを説得しろなんて、自殺行為と同等じゃないか。
確かに斬られても、超速回復で傷はすぐに治るが、ワシとナツは、この家にほぼ二人っきりなのだぞ!?
全く口を利いてくれなくなった嫁と二人でずっと居るなんて、考えただけでも死ねる。
いや、待てよ。ガルドラよ、よく考えるのだ。
これはチャンスなんじゃないか?
別の魔王を同じ元魔王として説教をする。
これは、魔王としての矜持の問題だ。
ナツは、魔王としての矜持を尊重してくれる。
してくれる、よな?
よし、ワシは覚悟を決めた。ナツを説得するぞ。
決してかわいい娘が目当てではない。
これは仕事、所謂単身赴任だ!
「いいだろう、そっちの魔王に説教してやる。ついでに勇者も何とかしよう。ナツを説得してくる」
ワシは勢いよく立ち上がると、目の前のモノを掴む。
「本当ですか!? ところで何故ワイの耳を掴むのですか?」
「決まってるだろ。お前も一緒にナツを説得しにいくのだ。ワシ一人では心細いだろう」
「嫌です、嫌です! 一人で行ってくださいです!」
諦めろ、ワシとお前は最早一蓮托生。一人残るなど、許されんのだ。
ワシは自室を出ると今頃テラスで、お茶をしているナツの元へと向かった。
◇◇◇
二階のテラスで優雅にお茶を嗜むナツ。ワシはテラスに直接は行けぬ。
ナツ曰く、テラスも外だそうだ。
仕方なく、テラスの入口のガラス張りの扉を叩く。
「ナツ、ちょっと話がある」
「あなた。何故、全裸でゴミ箱を持っているのです?」
ワシは下半身に目をやる。
いかん、全裸のままだったか、まぁいい。
ワシは気にせずにテラスの扉を開くと、ゴミ箱ウサギの話を伝える。
もちろん、震える声を我慢してだ。
「ふーん」
ものすごく興味なさそうだ。
なので、ワシは魔王の矜持の問題だと説得にかかる。
長い話なので、この辺りは割愛しよう。
まぁ、魔王とは如何にあるべきかとか、そんな話を長々と話したのだが。
「ふーん」
あれ? 予想していた反応と違う。快諾してくれると思ったのだが。
「あなた。今日はウサギの素焼きが食べたいわ」
うむ、やはりそうなるか。残念だったな、ゴミ箱ウサギ。今日はお前の命日になりそうだ。
「お願いします!! 長い間とは言いわないです! 一年、一年でいいのです!」
ゴミ箱ウサギがいつの間にかワシの手から抜けて土下座し始めていた。
単にゴミ箱が倒れているだけにしか見えぬが必死だな、まさしく命懸け。
「この通りだ! 行かせてくれ! 元魔王として許せぬのだ!!」
ワシも正座をして、両手と頭を床につける。
土下座ではないぞ。
正座をして、両手と頭を床につけているだけだ。
「お願いします、半年、半年でいいのです! 全力で勇者を誘導して、さっさと終わらしますです!」
「まだ長いわね」
ナツから意外な言葉が聞かれた。
幻聴かとも思ったが、ゴミ箱ウサギの目の輝きがそれを否定していた。
頑張れ、ゴミ箱。もう一息だ!
「一ヶ月。一ヶ月で、向こうの魔王を囮に使い、誘導しますです!」
囮に使うのか! 勝手に決めていいのか?
「久々に息子に会いに行こうと思うのよね……その期間が五日の予定なのよね……」
そうなのか? ワシは聞いていないぞ。また置いてきぼりだったのか。
「わっかりましたぁ! 五日、五日間でケリをつけるようにしますです!」
「……あなた」
「はい!!」
ワシは直立不動で、ナツの言葉を待つ。
「今回だけは許可します。もし、五日で帰って来なかったり浮気したら……」
「……したら?」
「本気で斬ります」
今までは手心を加えてくれていたみたいだ。しかし、それでも……それでも!
お、おお、おおおお! 久々、久々に外に出れる! よくやったゴミ箱! しかし、五日って、大丈夫なのか?
◇◇◇
ワシは服を着る為に一旦自室へと戻る。
「しかし、五日とは。大丈夫なのか?」
ゴミ箱は「ふふふ……」と含みのある笑いをする。
「実は……向こうとは時間の流れが違うのです! こちらの一日は、なんと向こうでは十日なのです!」
「何!? すると一ヶ月半ほどか!?」
これは朗報じゃないか! さっさと説教してさっさと勇者を倒せば……あとは自由時間か。
観光もいいな、そういえばかわいい娘を用意とかなんとか……ぐふふふ
「おっと……にやけていてはナツにバレるな」
ワシは今まで以上に、引き締まった顔つきをする。
「それで、一ヶ月半で足りるのか? 出来れば長くて一ヶ月で全て終わらしたいのだが」
「説明する前に、ワイをゴミ箱から出して欲しいです」
なんだ、何も言わぬし気にいったとばかり思っておったわ。
ワシはゴミ箱からゴミ箱──もとい、タツオを力任せに引き抜いた。
ゴミ箱から出たタツオは懐を探り燕尾服の内側から、丸い懐中時計を取り出し見せてくる。
「なんだ、これは?」
「これは“空間時計”です。まず、こっちを持っていてください」
どう見ても懐中時計なのだが、タツオはそれを半分に割って、片方をワシに渡してきた。
タツオは、もう片方を持って部屋を出て扉を閉める。
突然ワシの持っていた懐中時計の半分が輝き出すと、目の前にタツオが現れたではないか。
「おお! なるほど! もう片方の場所へと一瞬で行ける訳だな」
「えっへん! しかも、時計としても使えるのです」
時計はオマケらしい。
いや、しかし、なるほど。
勇者と言うくらいなのだから知名度も高いだろう。
居場所は比較的割れやすい。
これなら早くても一週間で終わらせられそうだ。
これは楽な単身赴任になるかもしれぬな。
「さて、準備するか」
「着の身着のままでいいです。向こうで全て用意してますから」
「何を言っておる。ナツの出発の準備に決まっておろう」
ワシは自室を出てナツの準備を開始するのだった。
元魔王ガルドラ
レベル999
体力9999
魔力9999
物理攻撃力7999
魔法攻撃力9990
物理防御力9500
魔法防御力9999
スキル
物理耐性99 魔法耐性99 物理貫通 魔法貫通
闇魔法 光魔法 四属性魔法(火、水、風、土)
詠唱破棄 同時詠唱4 超速回復(体力・魔力)
万能言語 鑑定 纏炎