自宅二話 外出チャーンス! 到来
「やっと開けてくれましたです。まだか、まだかと待ちくたびれたです。
もしかしたらこのまま忘れ去られるのではないかと。あー、そうそう手土産持って来たんで食べてくだ──あ、ちょっと!」
ワシはウサギの耳を鷲掴みして持ち上げた。どっからどうみてもウサギ。
ただし、ウサギは燕尾服など着ないし、喋らんがな。
「貴様、何者だ! ここをワシの家と知っての狼藉か!?」
少し脅してやろうと睨み付けてやった。
なのにこのウサギ「耳! 耳千切れるです!!」と叫びながら暴れるだけ。
しかも、本当に耳が千切れるのではないかというくらいに暴れやがる。
ワシはひとまずコイツをゴミ箱に捨てた。あとで、ゴブリンの使用人に捨てさせよう。
「ちょっと、ちょっと。ゴミ箱にワイを捨ててどこ行くつもりなのですか!?」
ワシは無視して部屋を出ようと扉に手をかける。
「わー! わー! せめて話くらい聞いてください! お願いします。魔王の名が泣きますよ。あほ、狭量、すかぽんたん」
よし、コイツ殺すか。ワシに向かってアホとは。
大体話を聞いて貰う態度じゃないだろ。
「よし、話を聞いてやる。素焼きがいいか、蒸し焼きがいいか、どっちだ?」
「え? ご馳走してくれるのですか? ありがとうございます。ワイは、やっぱり素材を活かした素焼きが……あ」
コイツ馬鹿なのか? 自分の食べ方を選ばしただけなのに。だが、流石に気づいたようだな。
「最近太ったので、脂を落とした蒸し焼きもいいです」
ワシは何だか馬鹿馬鹿しくなってくる。さて、ワシは忙しいのだ。そろそろナツが目を覚ます。目覚めの紅茶を淹れなければ。
「ちょっと、待っていろ。今、嫁に紅茶を淹れてくるから。お前の調理はその後だ」
ワシは自室にウサギを置いて部屋を出る。
自室の扉を閉めた瞬間に、一目散に寝室に向かい走り出す。
ナツが起きていないか心配だ。寝室の前に着いたワシは扉の隙間から覗き込む。
「大丈夫……だな。よし」
何事も無いように寝室に入ると、ゴブリンが持って来ていた紅茶セットが枕元に置かれていた。
ワシは早速紅茶の用意をし始める。仄かに薫る茶葉の匂いが心地よい。
ワシが紅茶を注ぎ始めると、ナツが目を覚ます。
タイミング、バッチリ。流石、ワシ。
「おはよう、ナツ」
起きたばかりのナツの額にキスをする。
寝起きのキス、紅茶、着替えの用意。
これが、起きたナツへの三種の神器。
ワシは紅茶のカップをソーサーごとナツに差し出す。
ナツは紅茶を口にすると、手を止めて紅茶をワシに返してくる。
あれ? もしかしてやっちまったか、ワシ。
「獣臭い……」
は? 獣? あ、アイツか! しまった、アイツの匂いが紅茶に移ったのか。
ナツが不機嫌な顔をするので、どうしてやろうかと寝室を出ようとする。
しかし、ワシのガウンをナツが掴んで、それを阻んできた。
「どうした?」
不機嫌だと思っていたが寂しげな目をするナツ。
ワシのガウンの裾を掴む様な甘える仕草を見せるのは珍しい。
思わず口元が緩んでしまうではないか。
「家に居るのに、どうして獣の匂いがつくの? 浮気?」
甘える為ではなく尋問の為の引き止めだったみたいだ。
しかも、思わずニヤけてしまった。
尋問中にニヤけるなどもっての他だ。
ナツはベッド脇の紐を引く。そんな紐あったか? と考える間もなく、ザンッ! と音と共に天井からベッドに剣が突き刺さった。
ちょっと待て。そこワシがいつも寝る位置ではないか。いや、確かに昨日寝る時には無かったぞ。
いつ仕掛けたのだ。
「ウケケケケケッ!!」
そして、またワシはナツに斬られる。折角の高級ガウンもビリビリだ。
ワシの頭の中は、あのウサギをどうしてやろうかとばかり考えていた。
◇◇◇
全部、あのウサギのせいだ。
ワシは寝室から飛び出て、自室に居る筈のウサギに、一言文句を言うべく足早に向かう。
どこかに行ってないだろうな。
力強く叩きつける様に扉を開けると、視界にいまだゴミ箱に入ったウサギがいた。
「なんで、全裸なのですか?」
「うるさい! お前のせいだ!」
ガウンが破られ全裸のままのワシは、ウサギの耳を鷲掴みするとゴミ箱ごと机の上に載せ、椅子に深々と座った。
「話は聞いてやる。冥土の土産にな」
「そんな……ご馳走だけじゃなくお土産まで頂けないです」
会話が通じんのか、コイツは。苛立ちが増してくるではないか。
「いいから、話せ」
「はい、それじゃ失礼して。あれ……取れないな……ふん! あれ?」
ゴミ箱から抜けようと試みているが抜けんらしいな。
「まぁ、あとでいいです。まず自己紹介を。
ワイは次元ウサギのタツオって者です。
実は此処とは別の世界サザービの魔王から助けを求めてやって来たんです」
普通のウサギではないのはわかったが、次元ウサギ? 聞いたことないな。それに別の世界の魔王だと?
少し興味の出たワシは、ひじ掛けに片肘をついて顎を乗せる。
「なるほど。別世界の魔王に追われておるのか」
「へ? あ、違うです、違うです。サザービの魔王が助けを求めてるのです。その、勇者パーティーが異様に強すぎて……」
何!? 魔王のクセに助けを? 情けない!! 同じ魔王だった者として、説教してやりたいわ!
それに異様に強い勇者か……ワシの場合、消化不良だったからな。
少し、興味はある。
「うむ……行ってやりたいのは山々なのだが、ワシは嫁に外出を禁止されとるしなぁ」
「だったら、説得してくださいです! お願いします!! かわいい娘も用意してあるのです! 是非!」
説得? ワシが? 嫁に? コイツはワシに死ねと言ってるのか!?
元魔王ガルドラ
レベル999
体力9999
魔力9999
物理攻撃力7999
魔法攻撃力9990
物理防御力9500
魔法防御力9999
スキル
物理耐性99 魔法耐性99 物理貫通 魔法貫通
闇魔法 光魔法 四属性魔法(火、水、風、土)
詠唱破棄 同時詠唱4 超速回復(体力・魔力)
万能言語 鑑定 纏炎