異世界サザービ 三日目 五話 行きはよいよい帰りは……辛い
ハーネスの方も軍隊を退けたらしく、意気揚々とサバ村に戻ってくる。
「終わったぜ。ガルドラさん」
ワシは今一度ハーネスのステータスを鑑定する。
ハーネス
レベル87
体力25
魔力55
物理攻撃力325
魔法攻撃力55
物理防御力423
魔法防御力278
スキル
物理耐性7
魔法耐性5
勇者
復讐者
覗き魔の弟子
世界半数の敵
不味いな。せめてレベル90までには、物理攻撃力と物理防御力を900台までにしたかったのだが、このままでは間に合わぬ。
それに何かスキルが増えておるし。
“世界半数の敵”か。まぁ、魔王なのだし当然のような気もするが、半数とは中途半端だな。
「いやぁぁぁぁっ!! 助けてぇぇぇ!!」
悲鳴の混ざる叫び声の方を見ると、ハーネスのやつが若い女性を追い回してやがる。
「イチャイチャしようぜぇ!」
「絶対にイヤッ!! あんたみたいな、女性の敵となんて、お断りよ!!」
ワシは思わず納得してしまった。世界の半数=女性か。
「おい、ハーネス。そこまでにしておけ」
「ガルドラさん、でもよー、終わったら好きにしていいって……」
「そんなこと、一言も言っとらんし。お主にはまだ目的があるだろうが。大体、お主イチャイチャしたいのか? だったら追いかけても駄目だろう。お主のことを好きになってもらわねば」
「何ぃ!? そんな裏技が……」
裏技ではなく、当たり前の話なのだが。何処に嫌な相手とイチャイチャしたがる女がいるのだ、全く。
「ハーネスさん、ハーネスさん。ハルを見たらいいです」
「ハル?」
ワシの足にしがみついて離れないハルに目をやると、体を震わせ興奮し始める。
「くそぅ! ガルドラさん、羨ましいぜ!! これぞ、イチャイチャ!!」
ワシは何もしとらんし立っているだけなのだが。タツオも余計なことを。
「アホなこと言ってるのではない。何処がイチャイチャしているように見えるのだ。イチャイチャって言うのはな……」
ワシはハルを抱き上げて、そのまま抱き締めてやる。
「こういうのを言うのだ!!」
見本を見せてやるとハーネスの奴は益々興奮する。
「さすが、ガルドラさん! これぞ、イチャイチャ! ハルも嬉しそうだぜ!」
嬉しそう?
ハルを見ると、本当に嬉しそうでワシの首にしがみついて離れようとしない。
それどころか、ワシに頬擦りまでしてくる。
「い、いや、違うぞ。ハル、これは……」
「いやぁ、ラブラブです。ハル、良かったです」
こら、タツオ煽るな! それに何だラブラブってのは。
しかも、如何にもワシの弱点見つけた、みたいな顔をするな。
確かにナツにバレたらえらいことになるが。
慌てたワシだが、そこはさすが元魔王。冷静に状況を判断して、元の世界に戻ったら、いの一番にタツオを始末すればいいと考えつく。
「ふっ……」
「ちょっと、何です? その笑みは?」
タツオよ、短い付き合いだったが中々面白かったぞ。
ハーネスもそこそこ育成出来たし、レベルが99になる前に仕上げをするかと、ワシは帰宅することに決めた。
「それで、タツオ。ここから、どうやって城に戻るのだ?」
「ふふふ……お忘れです? この“空間時計”を使えば、一瞬で戻れるです」
おお、二つに割れ、片方に一瞬で移動出来るアレか。
なるほどな。もう片方、にな。
ワシはポケットから“空間時計”の片割れを取り出す。
「え? 何でガルドラ様が持ってるです?」
「お前が渡したのだろうが」
ワシの手にある“空間時計”、そして今タツオの懐から出した“空間時計”。
「……」
「……」
サバ村に静寂が流れる。
「いやいやいや! ここにあったら駄目です!」
「仕方なかろう。ワシのポケットに入りっぱなしだったのだから!」
「どうやって帰るのです!」
「ワシが知るか!」
ちょっと待て。ここから、城まで歩いて帰るのか。
「ハーネス。ここから、城までどのくらいかかる?」
「うーん。真っ直ぐ行っても一ヶ月は」
そ、そんなの駄目だ! ワシには一ヶ月しか残されていないのだぞ!
「ええい! こうなったら! ハーネス、城の方角は分かるか!?」
「北の大地だから、北だろ?」
「わかった……」
ワシは右手にタツオを左手でハルを、背中にハーネスをおぶる。
「何をするです?」
「決まっておろう。ワシが全力で走るのだ」
ワシは腰を落として踏ん張ると、地面を思いっきり蹴って走り出した。
余談ではあるが、このサバ村。ワシらが居なくなったあと、村から若い女性が消えたそうだ。
残ったのは年寄りばかり。
それを聞いたハーネスがこの村を訪れることは、二度となかったそうな。




