異世界サザービ 三日目 四話 ヤバい、ナツに怒られる……
軍隊を呼びに行ったことを指摘すると、村長の脂汗が止まらない。
「安心するがよい。軍隊など、この新魔王ハーネスが追い返すわ」
「え!? 俺かよ。結構疲れたんだけど」
「回復はしてやる。それに話はよく聞くべきだ。ワシは追い返すと言ったのだぞ」
別に全滅などさせる必要はない。いずれ、この村の者ども同様、労働力になるだろうしな。
「ワシも参加する。ただし、メインはハーネス、お主だ」
「よっしゃ! ガルドラさんが参加するなら勝てる!」
現金な奴だ。まぁ、よい。
「軍隊が来てくれたぞー!」
初めに仲間を呼びにいった男だな、あれは。すでにサバ村は落ちたとも知らずに。
「村長」
「はい! 何でしょう?」
「この村は何もしなくてよい。ただ、降伏したことか正解だったと噛み締めるがよいわ」
さぁて、久々に暴れるか。
◇◇◇
「お前は、ワシにしがみつけ」
少女はワシの首に力を込めてしがみつき、ワシはタツオの耳を掴む。
「痛いです、痛いです!! もっと優しくです」
「ここに置いていってもよいが、村人が何をするか分からんぞ?」
「是非、このままでーす!」
ワシは腰を落とすと、そのまま足に力を込めて軍隊に向けて走り出した。
「ハーネス、行くぞ!」
「おう! って、速ぇ!」
先頭を走る男にデコピンで吹き飛ばしながら、軍隊へと迫ると軍隊を掻き分けながら、一番最後尾に辿り着くと振り返る。
「こ、これが魔王!」
ワシと目が合った兵士が驚き腰を抜かす。
魔王で間違いではないが、お主らの相手が迫っておるぞ。
「うおおお! 魔王ハーネス、見参!」
ハーネスは、剣を一振りすると強引に三人の兵士をまとめて吹き飛ばす。
上々。それではワシは軍隊特有の統率の取れた攻撃を潰すか。
統率の無い軍隊なんぞ、蟻と同じよ。
ワシは隊列を組もうとする指揮官らしい者を気絶させていく。
その間、ハーネスが烏合の衆となった兵士を吹き飛ばす。
鎧に包まれた兵士も平然と吹き飛ばす辺り、成長が窺える。
「痛いです!」
おっと余所見していて、思わずタツオで殴ってしまった。
しかし、想像していたより少ないな。
三百ってところか。
一度ハーネスの近くにより、兵士の少なさを聞いてみる。
「多分、魔物が一般人にも負けるからだろ。兵士の需要が減ったんじゃねぇのか?」
なるほどな。一理ある。たまには役に立つなハーネスも。
「ならばこちらは任せたぞ。指揮官はあらかた倒したからいけるだろ? ワシは村に向かった兵士を追う」
ワシは反転し、村の警護に向かったであろう数十人の兵士を追う。
「ん?」
ワシの目に飛び込んできたのは、兵士に石礫で抵抗する村人たち。
兵士も困惑しているな。まさか助けを呼びにきた村から抵抗されるとは。
兵士どもの真後ろに立つワシに気づくと蜘蛛の子を散らすように散っていく。
「村長。まさかコッチにつくとは思わなかったぞ」
「ガルドラ様の力を目にしましたから。ただ、新魔王があのハーネスだと若い女性が酷い目に遭うかと思うと不憫ですが」
ああ、まぁ気持ちは分からんでもない。ハーネスの方はもう少し時間がかかりそうだな。
「村長、悪いがこの娘に合う服を持って来てくれ。それと若い女性に関してだが、ワシからも注意しておこう」
「それは感謝します。それでは服を持って来させましょう」
村長が持ってきたのは、ブルーのワンピースで、スカート部分が青と白のストライプ。
少女はワンピースに袖を通すと、なかなか様になっている。
汚れた顔を指で拭ってやると、顔を歪めるが嫌がる気配はない。
「名前、言えるか?」
「あ……う……あっ……」
回復はさせているため、精神的ショックからかもしれないが、上手く喋れんらしい。
「名が無いと不便だな」
こうして名前を付けてやると、やはりナツを思い出す。
ナツという名前を付けてやった時の事を。
ふむ。ナツか……
「よし、お前は今日からハルだ。ハルと名乗るがいい」
ハルは、喜色満面にワシに飛び付き、懸命に何やら礼を言おうとしていた。
しかし、こうして懐かれるのは嫌では無いのだが、どうしたものやら。
「ハル、ハル。ガルドラ様にはナツ様という正妻がいるです。ハルは、現地妻で我慢するです」
タツオの奴は何を言っているのだ。それに、ハル。わかったといった表情で頷くでない。
そんなことしたら、ワシ、ナツに怒られるではないか……