異世界サザービ 三日目 三話 いや確かに若い娘とは言ったが若すぎやしないか
「こら、離れろ! そしてどっかに行け!」
閉じ込められていた幼い娘を助けたのは、いいが何故か懐かれてしまい、振り払おうと足を動かすが、ズボンをしっかり掴んで離そうとしない。
頭にきたワシは、少女の首を掴んで引き離しにかかるのだが。
「こら! ズボンが伸びるだろ!」
それでも、がっちりと掴んで離そうとしないのだ。ガリガリに痩せた体のどこにそんな力があるのか。
この娘の対処は後々考えるとして、素っ裸だからな、変に誤解を生みそうでワシは自分の上着を少女に着せてやる。
さすがにサイズが大きすぎて、足の先まで隠れてしまった。
首元もスカスカで、ちょっと動くと肩が露になってしまう。
「ズレないように、気を付けろ」
ワシがズレた服を正してやると、少女はぎこちない笑顔を見せる。その笑み痛々しい。何せ歯が数本しかないのだ。
元々か、それとも殴られてなのか……
「最近ならば、回復出来るはず」
少女に回復をかけたワシは思わず舌打ちをしてしまう。
戻ったのは数本で、前歯は戻らない。
せめて抜けたのが乳歯であることを願わずにはいられなかった。
ナツと出会った頃を思い出して。
◇◇◇
ワシはこの少女を連れて、ハーネスの所に戻る。
攻撃力が低い分、上手く手加減になっており、死人は出ておらぬようで安心する。
何せ許せん奴らがこの中におるからな。
ハーネスと戦闘中にも関わらず、幾人かワシの隣の少女を見て、顔色が変わった奴らをワシは見逃さなかった。
「おい、ハーネスよ。気が変わった、ワシも参加するぞ」
サバ村の者達はそれを聞きぎょっと目を剥く。
「何言ってんだよ、ガルドラさんよぉ。俺がやるって言ってんだろ」
ワシはハーネスに鑑定をかける。レベルは66。ちょっと上がりすぎたな。
レベルが99になると、成長が止まるからな。
なるべくレベルを上げないで鍛えたい。
「なに、ワシも思うところがあってな」
「その隣の女の子か? さすがガルドラさんだぜ。もう、一人手籠めにするとはな」
何を勘違いしておるのだ、こいつは。まぁ、いい。ワシはワシのやることをするだけだ。
「おい、娘。ワシにしがみつけ」
少女を抱えてやると、ワシの首にしがみつく。
「では、いくぞ」
ワシは一瞬で顔色を変えた男の前に行き、拳を振り切った。
「チッ!!」
男は遥か先まで転がっていく。ワシの拳がまともに当たれば、この程度ではない。
「なぜ、止めた?」
ワシの腕にしがみつく少女を睨み付ける。少女はただ黙って首を横に振る。
「甘いな、お前はもっと酷い目に遭わされただろうに。分かった、全力を出さん。だから離せ」
少女はワシの腕を離して首に手を回す。再び突撃したワシは軽く目星をつけた男どもを吹き飛ばす。
「他に見覚えのあるやつは?」
少女は、次々に指差して教えてくる。さすがに腹に据えかねているのか、躊躇いは感じられない。
ワシは片っ端から吹き飛ばしていった。
◇◇◇
「どうか命だけはお助けを」
あらかた片付けたワシらの前に、村長らしき白髪の爺さんが、頭を地面に擦り付ける。
「よーし、だったらこの村の若い娘を──ふぐっ」
「少しは黙っておれ。じいさんがこの村の代表か?」
ワシはハーネスの口をふさぐ。この男、口を開くとろくなこと話さんしな、
「は、はい」
「この村は魔王ハーネスの傘下になる。だから……」
「まずは、若い女性を!」
「お主は黙っておれ!」
ワシは一つ咳払いをして場を立て直す。
「この魔王ハーネスに似合う服を献上しろ。それと……」
ワシは少女を前に出すと、村長を問い詰める。
「この者は、あの家で閉じ込められていたおった。理由は言わずもがなだがな。覚えは?」
「ありません。本当ですか?」
ワシは少女を見つけた状況を説明してやると、爺さんは、ワナワナと肩を震わし関わりがあったと思われる男達を捕らえた。
「ところで、軍隊はいつくるのだ?」
「な、何のことでしょう」
「分かっておる。軍隊を呼びにいかせただろう? いつくるのだ?」
先ほどまで若干余裕を見せていた村長から、余裕がなくなった。