異世界サザービ 三日目 一話 さぁ、人間狩りだぁ
「さあ、ハーネス、今日はお主待望の攻撃を鍛えるぞ」
「おお! 待ってたぜ! 教えてくれ、相手を一撃で屠れる必殺技を!」
異世界サザービに来て三日目、ワシはタツオを伴い、ハーネスを鍛えるべく、いつもの玉座のある部屋へと来ていた。
しかし、相手を一撃屠れる必殺技ってそんなのあったら、ワシ自身ここまで鍛えておらんわ。
「バカなこと言ってないで行くぞ。タツオ、案内しろ」
「行くってどこです?」
「そうか、説明していなかったな。この世界の魔物は弱いのしか残っていないのだろ? だったら……人間狩りだ!」
まだ、時期は早いが新しい魔王のお披露目だ。恐怖におののくが良い、人間ども。
「嫌だ!!」
「何っ!?」
まさかここに来て、人間としての自覚でも出たか。ふふふ……残念だが、お主はもう戻れぬ。
お主が戻ったら、ワシ、ナツにどの顔で会えばよいかわからん。
大層な口で、魔王の矜持を語ってしまったからな。
「人間は飼い慣らすのが一番だ!」
「はっ?」
何を言っとるのだこやつ。
「もちろん、綺麗どころは全部俺のモンだけどな! 人間の男は労働力にもなるだろ? 狩るのではなく飼うがベストだぜ!」
「お、おう……そ、そうだな」
やだ、何、こいつ。魔王のワシより怖いんだけど。
「これこそ、ザ魔王って感じだろ?」
「そ、そうか……いや、うん、しかし」
魔王って、そんな事するの? ワシも息子も今は人間と仲良くしているし。
邪魔だったのは、勇者と反抗的な人間だけだったし。
今も別に無作為に狩るのではなくて、反抗戦力を削ぐつもりだったのだが。
「やっぱり、魔王と言えばハーレムだろ! なぁ、ガルドラさんもやっぱり、ハーレム抱えているんだろ? くー、俺も早くそうなりてー」
「ガルドラ様、ハーレムあったです?」
そんなもんあるわけ無いだろ。ナツに知れたら──考えただけでもゾッとするわ。
「い、いや、ワシは、その嫁のナツしか……」
「おお! 一途ってやつか! なるほど、嫁に秘密のハーレムか。それもいいな! ガルドラさんの嫁さん、やっぱりいい女なのか? 一度会ってみてぇ」
いい女なのは否定せぬが、会わさぬぞ。こやつに会わせただけでもナツにとって害だわ。
「むぅ……しかし、そうなると困ったな。人間サイズの服も買い揃えるつもりだったのだが」
「だったら、俺の村ならいいぜ。ムカつく奴らばっかりだったからな。村と言っても王都に近いから品揃えもいいぞ。奪い取ればいい」
こいつの事だ。村でも相当嫌われとったんだろうな。それに奪い取るって、魔王のすることか?
むしろただの盗賊だろ。
しかし、埒が明かぬ。
王都の近くを襲えば、軍も出てくるだろ。そうすれば嫌でもこいつは戦わねばならぬ。
よし、そうするか。
「わかった。お前の村に行こう」
「よっしゃあ! ふふふ……待ってろ、あいつらめ。新しい魔王ハーネス様が蹂躙してくれるわ! わははは!」
考え方はともかく、どことなく魔王っぽいな、こいつ。自分が元勇者だと忘れておらぬか?
いや、これでいいのだが。
「タツオ! 馬車を用意しろ!」
「馬車? 何に使うです?」
このゴミ箱は、今までのワシらの会話を聞いておらぬのか。
「こやつの村に向かうために決まっているであろう」
「えっ? 転移で行かないです?」
タツオ曰く、片道だが転移陣とかで、様々な場所へ行けるらしい。
もっと早く言え、早く。
「よし、参るぞ! 案内せい、タツオ!」
「はいです!」
ワシとハーネスは、タツオに案内されてこの城の地下へと赴く。
長く手入れされていない地下は、薄暗くクモの巣が張り、じめじめと湿気が高い。
掃除したいぞ。
地下の部屋には床にワシも見たことのない魔法陣が描かれている。
「行く村はどこです?」
「サバ村だ」
ゴミ箱は、魔法陣に置かれた地図の上に針を刺す。恐らく今刺した場所かサバ村なのだろう。
「光ったです! 早く、早く! 陣の中にです」
魔法陣が緑の光を帯て、ワシとハーネスも陣の中へと入る。
目映い光に包まれたかと思うと、すぐに消え去る。そして、ワシらの眼前には緑の草原の向こうに村の入口らしきものが現れた。