異世界サザービ 二日目 死ぬほど似合わんな……
「死ぬほど似合わんな」
「本当です。一回死んでみるです」
この異世界サザービに来て二日目。ワシはハーネスを魔王にするべく鍛える前に、まずはその身なりからと、この世界の魔王の衣装を着せてみたのだが。
まぁ、似合わん。
ワシみたいにスタイリッシュで、箔がつくような格好にはそうそうなれんらしい。
もちろん、ワシの服は全てナツが選んだ物だが。
今ハーネスが着ている服は全体的に大き過ぎる。
上半身はブカブカで、肩や胸を守る銀の甲冑が付いてあるのだが、歩く度に擦れるのか痛い痛いと言う始末。
下半身も裾が長く引きずっている。いや、裾というより膝の所までで足の長さ精一杯って感じだ。
ハーネスの身長はワシの肩ほどだが、この服はワシでも裾余るわ。
この世界の魔王でもブカブカだろ、これは。
「死ぬほど似合わないです。ですから、魔王諦めるです」
「ガルドラさんよ。俺、やっぱりこいつクビにしたい」
タツオは一日経った今でも、ゴミ箱の中にいる。まぁ、昨日ワシが押し込んだせいでもあるが。
しかし、ゴミ箱ごと、ぴょんぴょんと跳びはねる姿が何処と無くシュールだな。
「服装は、あとで誰かに作らせるか。タツオ、腕のたつ仕立て屋はいるのか？」
「いるです、いるです。腕のたつ盲目の仕立て屋が！」
そうか、いないのだな。既製品で間に合わせるしかないな。
◇◇◇
「身なりは後回しにするとして、次だ！」
「おう！ 何でも来い！ あいつらに復讐出来るならどんなことでもやってやる！」
おお、勇ましいではないか。まぁ、復讐の原因が覗きなのは退けておく。
しかし、鍛えるにしてもワシのやり方ではすぐに死んでしまう。
「まずは、耐久力だ！ 今のままだと、お前が死ぬからな」
ワシはハーネスを前に立たせる。
「まずは、ワシの攻撃を耐えるのだ。なに、死なぬ程度に手は抜いてやる。ギリギリだがな」
「地味だな……」
「何！？」
「もっと、こう、派手な技を教えてくれよ！ どんな相手でも一撃で屠れる技とかさ！！」
地味とか非道くないか。ワシはこの方法で強くなったのだぞ。
かといって、この手のタイプは上手く言わないといつまでも同じことを言いそうだな。
「そんな技、お前が耐えられないだろう。だから、その前に強靭な体が必要なのだ」
「おお、たしかに！」
単純で良かった。大体そんな技あるわけなかろうが。
「まずは、ワシの攻撃に耐えろ！ なーに、死ぬギリギリで手加減してやるから、安心しろ」
ワシは力を抜いて、ハーネスの額を指で弾く。
「ぐわあぁぁぁっ！！」
おお、思っていたより手加減難しいな。部屋の端まで転がってしまった。
ワシはすぐに鑑定を使って確認してみる。
ハーネス
レベル45
体力7
魔力25
物理攻撃力178
魔法攻撃力25
物理防御力205
魔法防御力184
スキル
物理耐性5
魔法耐性4
勇者
復讐者
覗き魔の弟子
よしよし、上手く体力が一桁だな。それに物理防御力も物理耐性も上がっている。
ん？ 覗き魔の弟子だと！？ ちょっと待て！ これではまるでワシが覗き魔ではないか！？
せめて、覗き魔で弟子にしてくれ。
誤解されるだろうがぁ！
「ガルドラ様、ガルドラ様！ 勇者ビクンビクンしてるです」
おっと、いかん。このままでは死んでしまうではないか。
すぐに回復をかけてやらねば。
ハーネスの元に行き、すぐに回復魔法をかけてやる。
「はっ！ かわいい女の子達が川の向こうで、呼んでいたのに」
それは夢だ。絶対あり得ぬし、ただの都合の良い妄想だ、ワシが見たい。
「これを続けるが、異存はないか？」
「当たり前だ！ 耐えて耐えて、強くなってやる！ そして夢を現実にするんだ！」
夢に向かって邁進する若者。字面だけとれば素晴らしいのだが。
「それでは、続けるぞ。取り消しは出来んからな」
途中で魔力も込めてやろう。そうすれば魔法防御力も上がるしな。
こうしてワシの鍛練一日目はデコピンで耐えることで終えた。
その結果、元勇者のハーネスの防御力のステータスは大きく変わる。
ハーネス
レベル47
体力369
魔力40
物理攻撃力199
魔法攻撃力40
物理防御力877
魔法防御力644
スキル
物理耐性77
魔法耐性51
勇者
復讐者
真覗き魔の愛弟子
真覗き魔の愛弟子……おい！！ そんな所、進化するな！！
