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第九十四話 かあちゃんはストーブを試してみる


 まだまだはしゃいでいるみんなには、今日も良く働いてくれたのでのんびりしてもらって、私は夕食を作らなきゃ。


 今日は朝、昼ととても良く食べた上におやつまで食べてしまったので、夕食は軽いものでいいだろう。


 かまどに火を入れてもらい、鍋にお湯を沸かす。


 ドングリ茸とカブのスープに、昼のハンバーグが少し残っているから、小さく切ってミートボールのように入れてしまおう。


 焼き立てのパンもあるしキッシュもある。スープだけ作れば大丈夫だな。


 カブは、茎や葉っぱも栄養たっぷりで美味しいので全て使える。


 鍋にドングリ茸とカブを入れて、煮えたらハンバーグと茎葉を入れる。塩コショウで味を整えたら、もう出来上がりだ。簡単!



 夕食の前にストーブに火を点けてもらい確認しよう。暗くなる前に、排気の様子も見ておきたい。


 居間で寛いでいるみんなに、


「ストーブを試してみるよ。ジェフ、火を点けてくれる?」


 と声をかけると、ストーブの前に集まってきた。


 ベビーゲートのようにしてある低い柵を乗り越えて、前面の扉を開き、スノコの上に薪を載せる。空気穴は全て開いて、ジェフに火を点けてもらう。


 だんだんと火が回り、薪がパチパチと鳴り出す。

 ストーブの傍はすぐに暖かくなってきた。


「途中で薪を足したりで扉を開ける時は、この革のミトンを使ってね。小さい子たちはその柵から中に入っちゃダメだよ」


 扉を閉め、私たちも柵の外に出て、ガラス扉越しに見える炎を見つめる。炎が大きくなってきて、ユラユラと揺らめく。空気の流れは良さそうだな。


 土瓶に水を入れて、天板に載せてみる。水が跳ね、天板からジュッと音がした。上部もしっかり熱を持っているようだ。


 柵の外側にいても感じられる程、部屋が暖まってきた。ストーブの本体は問題ないどころか上出来なようだ。


「ちょっと煙突から煙がちゃんと出てるか確かめてくるね」


 と言ったら、みんなも見たいと言う。火をそのままにして、少しとはいえ離れるのは危ないので躊躇していると、すぐに気付いたアンに、


「ここは私が残って火を見てますから、行ってきてください」


 と言われる。アンには何でも気付かれちゃうなあ。


「ありがと。ちょっと見てくるね」



 久しぶりに岩山を登るみんなと、ゾロゾロと家の真上にやってくる。


 小さな空き地から飛び出た煙突からは、白い煙が真っ直ぐ上へと昇っていた。


 火を焚いたばかりなので白い煙が出ているが、熾火が出来た頃には、上手く完全燃焼出来ているなら無色、無臭になる。白い煙もモクモクと上がっている訳ではないから大丈夫そうだと思うけど、後でもう一度確認に来よう。


「こんな感じで煙は外に出るようになってるんだよ。ここを塞いじゃわないようにだけ気を付ければ大丈夫かな」



 みんなとまた居間に戻り、部屋の暖かさを実感する。


 居間に扉を付けてないので、まだ暖かい空気が逃げ放題なんだけど、テーブルの辺りまで充分暖かい。


 冬がどのくらい冷え込むのかにもよるけど、このストーブに関しては大成功と言っていいだろう。


「良かった。ちゃんと暖かいし、上手くいったみたい。後で熱がこもってきた頃に風魔法を試してみようね」


 ひとまずはこのまま点けておくことにして夕食にしよう。



 キッシュは天板の上に載せて温めておく。パンとスープを配り終える頃には、いい感じに温まっていた。


 土瓶からもしゅんしゅんと湯気が出てきている。


「今日もいっぱい頑張ってくれたね。お疲れさまでした。朝、昼、おやつを食べ過ぎてしまったので、夕食は簡単にしたけど、パイと一緒に作ったキッシュも少しだけ付けたから食べてみて下さい。では、今日も仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます」


 スープはハンバーグからも出汁が出ているので、塩コショウだけでもすごく美味しく出来ている。そのスープを吸ってホロホロと柔らかく煮込まれたカブもとても美味しい。


「あっ昼の肉が入ってる!」


 ちょっぴりの肉でも嬉しいみたい。今日焼いたばかりのパンはふわふわだし、少しストーブで温めたキッシュは生地がカリッとして、柔らかい玉子とチーズやマヨネーズ、ベーコンのコクが調和している。


「美味しい! 温め直して大正解!」


「ケーキと似てるけど甘くないんだ」


「これも美味しー」


「卵で作ったケーキみたいなお料理だよ。おうとくうのおかげだね」


 おうとくうも、


「美味しー」「これ美味ーい」


 と喜んで食べてくれている。



 軽めにしたのでいつもより早く食べ終えた、夕食後のお茶を用意してくれているアンとマリーが、


「ここでお湯を沸かせるのすごーく便利です」


「ストーブってすごく良いものですね」


 と喜んでいた。


 二人がお茶の準備をしてくれている間に、ひとっ走り煙の様子を見てきたが、煙は落ち着いていたし、不完全燃焼の嫌な匂いもしていなかった。



 お茶の時間には、再び部屋の話しをする。


「男子が四人だから、男子部屋側の一列をちびっ子部屋にしたいと思っているんだけど、いいかな?」


 男の子たちには、特にこだわりは無いようで、即許可を貰えた。見本部屋の並びの三部屋をちびっ子部屋として、向かいの四部屋を男子の個室とする。


 男子、女子、それぞれ誰がどの部屋を使うかを話し合い、部屋割りは決まったようだ。


「夜の物作りや、畑の魔法のことも考えて、余裕がある時に順番に作っていくからね。お部屋の配置やイメージが決まった人から言ってきてね。それから、明日はやることが畑の片付けだけなので、約束した属性ごとの訓練をしようと思います」


「それもあった!」

「楽しみ!」

「毎日楽しいねえ」



 夢や希望で膨らむ胸をドキドキさせながら、いつものように片付けをして訓練を始める。


 私も物作りの時間だけど、その前に。


「ルーシー、天井付近に暖かい空気が溜まっていると思うから、部屋の中の空気をかき回すように風を吹かせてくれる?」


「部屋の中の空気がかき回されて混ざるイメージだよね。やってみる。微風(ブリーズ)


 ルーシーが部屋に優しい対流を作ると、やはり上には暖められた空気が溜まっていたようで部屋の温度がぐんと上がった。


「うわっ、結構暖まるね。今の時期だと暑いくらい」


「居間だけなら真冬でもこの一台で充分だね」


 ぐるっと家の中を回ってみると、広間の辺りまでは少し暖かくなっている。個室部屋の方まではさすがに行き渡らないか。


「食料倉庫が暖まっちゃうと食材が傷んじゃわないかな?」


 ユニとルーが心配している。


「居間と広間を隔てる扉を付ければいいかな? それとも食料倉庫に扉を……。考えてみるね」



 みんなが訓練を始める中、私は部屋の仕切りについて考える。やはり、各部屋に扉を付けた方がいいよね。


 広間を使う時には居間の扉を開けて暖かい空気を送ればいいけど、そうすると倉庫も暖まってしまうので倉庫の入り口にも扉を付けたい。


 木材を運ぶのが大変なので、今度みんなにも手伝ってもらって、各部屋に扉を作ろう。


 暖かい空気が上に溜まるんだから、天井付近に通気孔を作れば、個室の方まで暖められるかな? ルーシーたちに手伝ってもらって試してみないとわからないけど、やってみようか。


 土魔法で居間の上部から隣の個室、個室から廊下、さらに奥の個室まで、天井付近で空気の流れる道が繋がるように通風孔をあけてみる。


 後でまたルーシーに対流を作ってもらって各部屋の様子を見てみよう。



 その後は、今日収穫した大麦でリカーを作ってみた。


 貯蔵庫に作り置きしておいた甕を一つ取り出し、大麦を用意した。


 梅酒や果実酒作りに使うホワイトリカーをイメージし、「創造(クリエイト)・ホワイトリカー」と魔法を使えば、甕の中は透明な液体で満たされる。少し掬って舐めてみれば、麦焼酎になっているようだ。


 別の甕と液糖、リンゴン、オレモンを少し用意して、今度は「創造(クリエイト)・リンゴ酒」と唱えてみる。


 漬け込むなら氷砂糖が必要なんだけど、上手くいくだろうか。


 おそるおそる味見をすると、香りの良いリンゴ酒が出来上がっていた。


「うふふ。ポチくん喜んでくれるかな?」


 液体で運ぶよりも、大麦で持っていって森で作る方が運びやすいだろう。


 今度、森へ行く時には、大麦を持って行こうと決めた。



 今日は畑の魔法を使ってないので、まだ五千もMPが残っている。


 明日の片付けのために、刈り入れと収穫の終わった畑を掘り起こしながら、残りMPの使い途を考える。


「あ、今日、杜仲のところに行ってないや」


 せっかくだから、このMPを使って杜仲の仲間を増やしてこよう。


 ネコ車に肥料を載せて、(ライト)の灯りで薬草畑に行き、杜仲の林になる予定の土地に畑作りの魔法をかける。


 薄明かりの中、せっせと肥料を混ぜ込み、大分大きく育った、先に植えた杜仲の木から枝を分けてもらう。


「手折っちゃうけどごめんね。仲間を増やすために少し分けてね」


 癒しの力も使いながら、枝を集めていく。


 その枝を間隔を空けて畑に挿し木した。百本まではいかないが、数十本の杜仲園となるだろう。


 みんな元気に育ってね、と願いを籠め、杜仲の枝が幼木へ、若木へと育っていく様をイメージして、残りMPを魔力枯渇ギリギリまで注いで成長の魔法を使う。


「大地よ、その慈しみをもって、子らをお導き下さい」


 杜仲園全体が優しい光に包まれて、挿し木された枝からは柔らかい若葉がついた細い枝が伸びていく。


 可愛らしい幼木がずらっと並んだ。


「これからよろしくね」


 声をかけると、さわさわと揺れる木の葉が返事をしてくれているかのようだ。


「おやすみ。また明日ね」



 ネコ車を片付けて居間へ戻ると、みんなも訓練を終え、眠る準備をしていた。


「ルーシー、寝る前にもう一度部屋の空気を動かしてみてくれる?」


 先程同様、優しい対流が部屋の中を巡る。個室部屋の方にも回ったからか、さっきほどは部屋が暑くならなかった。眠るには暑過ぎず丁度良いかもしれない。


「ほんわか暖かくていいね」


 ルーシーも言ってくれた。


「うん、これくらいが丁度良いよね。今は熾火の残り火だし、すごく寒くなったらもっと薪を足せば暖められると思う。その都度、少しずつ考えながらやってみよう。ルーシーありがとうね」


 家の中を回ってみると、個室の方もさっきよりはほんのり暖かいように感じられる。


「寒さ対策もなんとかなりそうで良かった……」


 後は冬が来るまでに、出来るだけ食料や資材を貯め込んでおければ、少しずつ物作りや部屋作りもしていける。



 私も居間に戻り、敷物に横になる。


 暖かい部屋で眠れるというのは妙に安心感があるものだな。


「今日も一日ありがとうございました」


 精霊様に感謝し、聖域をかけて、私も眠りについた。


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