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第九十一話 かあちゃんはストーブを作る


 みんなが午後の仕事に再び精を出している中、私は一人居間にいて、図面とにらめっこしていた。


 これから薪ストーブを作るためだ。


 鉄鉱石やクリスタルなども用意してある。

 設置予定の場所も決まっていて、その位置の床には耐熱加工も施した。

 ミニチュアも作ってあるのでイメージは完璧だ。


 ただ、内部の構造が複雑なので、どこから手をつけていけば良いかに悩んでいる。


 普通に考えて、本体であるストーブの筺体からだろうが、建築の時のように順番に少しずつ作って組んでいくのは難しそう。


 専門ではない私が一つ一つパーツを組み上げていったとしても、上手くいく未来が見えない。


 やはり、ここは面倒でも事細かにイメージをすることによって、スキル先生にフォローしてもらおう。



 まずは外観から。


 ミニチュアと図面を見ながら、各パーツのサイズなども頭に浮かべていく。


 前面は幅六十cm、高さ五十cm。

 鉄枠にクリスタルガラスが嵌まった両開きの窓のような扉が付いている。

 扉の上部は丸みを帯びていて、鉄枠部分には少しばかり飾り彫刻の入ったような、洋風のちょっとお洒落な感じだ。二枚の扉の中央には把手と打掛が付いていて、しっかり扉を閉められる。

 中で揺らめく炎を眺められる仕様だ。

 扉の上には二次燃焼庫用の小さなスライド式の空気穴が付いている。


 本体の奥行きは七十cm。

 背面は少し幅が広く七十cm。

 本体は上から見ると台形になる。前面以外は鉄板に覆われている。


 本体の下部には薪の燃焼用の空気を取り入れる空間が、灰受け皿兼用で付いている。

 この部分は手前にスライドすることで外せるので、燃焼後の灰が処分しやすくなっている。

 その前面にも開閉式の空気取り入れ口が付いていて、着火時には全開にして薪の燃焼を促し、炎を落ち着かせたい時には開き具合を絞って調整出来る。


 本体の下の四隅には二十cm程の猫脚のような湾曲した脚が四本付いている。本体が台形なので正面から全ての脚が見えて、これも洒落ている。


 本体の上には八十cm四方の天板が付いていて、この上でヤカンや鍋を温められる。前世ではこの部分が開いて、二次燃焼庫の掃除が出来るようになっていたが、ここでは清浄(クリーン)で掃除してしまうので必要ない。


 天板の後方からは十五cm径の煙突が伸びている。煙突は天井を突き抜け、外へと続き排気をしてくれる。



 続いて、内部の構造だ。


 扉を開くと、中にはスノコ上の鉄板があり、そこに並べて薪をくべる。スノコの下から空気を取り入れて燃焼するので隙間を開けて積み上げることはしない。


 燃焼庫の奥の壁とストーブ本体の背面の間には二重壁のように空間が作られている。下から入ってくる空気は、庫内の奥の壁の上部にぽつぽつと開けられたいくつかの穴から取り入れられ、庫内に対流を作り二次燃焼庫へと熱せられた空気を流す。

 その空気の流れが炎を幻想的に揺らめかすんだ。


 燃焼庫の天井と天板の間にも空間がある。煙突へと空気が流れる通路になっていて、これが二次燃焼庫だ。

 対流により流された熱い空気は、庫内上部手前からここを通り、二次燃焼されながら煙突へと向かう。この二次燃焼が大切で、ここで空気中に残っていた木ガスなどが熱により燃焼されることで、より燃費良く、より高温で部屋を温められる上に、煙突内に煤も付きにくくなる。


 排気は煙突を通って山の上へ。

 排気がきちんと成されるように、煙突は断熱二重構造にする。熱せられた空気は上へと昇るので煙突から外へと排気される。途中で冷やされてしまったら排気されずに部屋の中に溢れ出てしまうので、煙突の構造が安全性を分ける。


 これが私の知る限りの前世の薪ストーブの知識だ。


 あとは、薪をくべ、火を着け、炎が燃え上がる様を、下部や後部の通気孔からの空気の流れを、それにより揺らめく炎を、完全に燃焼され煙突を通り昇っていく煙をイメージする。


 さらには、暖かい部屋、天板に置かれたヤカンからシュンシュンと立ち上る湯気、パチパチと爆ぜる薪の音や、ゆらゆらと優しく揺らめく炎を囲む家族たちの笑顔と笑い声まで。


 幸せの光景を思い浮かべて、


「スキル先生、お願いします」


 と魔法を発動する。


創造(クリエイト)・薪ストーブ」


 大量の鉄鉱石と少しのクリスタル、そしてMP八百四十を消費して、目の前にイメージ通りの薪ストーブが出来上がっていく。


 上部から伸びる煙突に合わせて天井には穴が開く。その中を煙突が地上まで伸びていっているのだろう。



 完成したストーブは、私が憧れた前世の記憶通りの出来栄えで、今の暮らしには不似合いな程に小洒落た可愛らしいものだった。


 ガラス戸を開けて中を確認してみる。

 これも前世の記憶にあるものと同じに出来ていると思う。


 ぐるぐると周囲を歩き回って、あちこち確認してみる。


「……出来た。……使ってみなくちゃわからないけど、上手く……いったと思う」


 MPの消費量は全然問題ないけれど、細かくイメージすることに脳味噌がフル稼働したようで、キーンという頭痛とともに精神的な疲れが襲ってきた。


 その場で体を丸めて横になって目を閉じる。気持ちを落ち着かせると、少し楽になってきた。このまま少しだけ休憩しよう。



 五分程そうしていたら、何事もなかったかのように元気が戻った。


 今までで一番頭を使った気がするからなあ。中身はかあちゃんとはいえ、三歳児の体には負担だったんだろうか。


 またみんなに心配かけちゃうところだった。自分がまだ三歳だということを自覚して、本当に無理しないように気を付けよう。


 続けて魔法を使っても大丈夫か、おそるおそるストーブ周りの道具を作り出してみる。


 火かき棒に火ばさみ、灰かき棒にスコップなども鉄製で揃えてみる。


 ……大丈夫そうだな。


 こういった単純な造りのものなら創造(クリエイト)を使ってもなんともなさそうだ。


 灰を入れる容器は土でキッチリ蓋の出来る耐熱性のあるものを用意した。


 薪の投入や扉の開け閉めの時などに使う革手袋も必要だよね。倉庫に行き、猪の革をスウェードに加工した厚手のミトンも作った。


 ついでに居間に薪を少し運んでおこう。


 ストーブの周りには、土魔法でベビーゲートのような柵を作って囲む。子供たちがうっかり触ってしまい、火傷をしないようにしなくちゃ。


 これでストーブを使う準備も万端だと思う。


 残るは、山の上に飛び出ているであろう煙突の様子を確認しておくくらいかな。



 家を出て、訓練用の広場の端から回って久しぶりに岩山を登ってみる。

 煙突はどこにあるのだろう。


 家の入り口の位置から居間の真上に当たる位置を考えつつ探してみると、ちょうど岩陰になったところに少し飛び出た煙突を見つけた。


 私もここへ来た時以来だし、みんなも家より上にはあまり来ることはないと思うが、ここに煙突が出ているとわかりやすくしておいた方が良いだろう。


 煙突の周囲を半径一mくらい平らに均して、鉄の部分が剥き出しにならないように、土魔法を使い耐熱の石で覆うようにカバーを付けた。


 ここから排気が出てくることになるが、周囲には何もないので問題なさそうだ。


 夕食の前にでも一度試しに火を入れてみて、部屋の暖まり具合や排気の様子も確認してみよう。



 悩んでいたり、細かくイメージしていた時間は長かったが、まだ一時間程しか経っていないだろうな。


 午後の残りは何をしようか。

 余った鉄鉱石やクリスタルを片付けながら考える。


「そうだ、湯たんぽも作ろうと思ってたんだっけ」


 資材倉庫の作業台で湯たんぽについて考察する。


 小判型で表面は波打っていたよね。

 お湯が漏れないようにキッチリ蓋が出来なきゃいけないけど、ゴムはまだ取れないからゴムパッキンは作れないな。


 木材でやってみようか。


 鉄鉱石で湯たんぽの形状をしっかりイメージして本体と蓋を作るのだが、捻るキャップの裏の部分にオガクズを固めたコルクのようなものを付けて水が漏れないようにしてみる。


創造(クリエイト)・湯たんぽ」


 三十cm程の抱えられるサイズの湯たんぽが出来た。


 蓋を開けてみると、イメージ通りにコルクのようなパッキンが付いている。昔のビール瓶の蓋のような感じ。


 試しに水を入れて蓋をして、水が漏れないか確認してみる。


「良かった。これでも大丈夫そうだ」


 それでも使用中に熱いお湯が漏れたりしたら危ないので、裏返してしばらく様子を見てみることにする。


 その間に、鉄製の湯たんぽのままでは熱くて持てないので、これを入れる袋も作らないと。


 綿とリネンを用意して、リネンの生地の間に薄く綿を敷いてステッチをかけたキルティングの布地をイメージする。その布で巾着袋を作る。

 三十cmの湯たんぽがちょうど入る大きさで、口の部分は紐を通してシュッとすぼめて結べるように。


 薄手のキルティング地なら、程良く熱を通して布団を温められ、紐があれば持ち歩くにも熱くないだろう。


 保温性もいいので湯たんぽの温度を長く保てるだろうし、表はリネンだから肌触りも良い。


創造(クリエイト)・湯たんぽ袋」


 出来上がった袋に湯たんぽを入れてみる。

 ぴったりだ。


 あれ? だけど、これやっぱり水漏れしてる?

 ほんの少しだけど蓋の周りが濡れてきている。


 やっぱりコルクじゃなくてオガクズだから水が染みてきちゃうのかな?


 熱いお湯が染み出してきちゃったら危険なので、残念だけどこの案は却下するしかなさそうだ。


 みんなが個室で寝るようになるまでにゴムが取れるようになればいいんだけど……。


 まあ、最悪いちいち土魔法で蓋をしてしまえば水漏れの心配はなくせるから、それでもいいかな。


 きっとこの仕事はバズやベルが作成(モールド)強化(ストレングスン)を覚えたら、喜んでやってくれるだろうし。


 そんな訳で、湯たんぽについては一旦ここで後回しにすることにした。


 ストーブが稼働することで、居間ではなく個室で寝ることを希望する子がいたら、その子の分は作ってあげるようにすれば良いだろう。



 ――個室かあ。


 年長の子たちは喜んでいるようだったけど。どんな部屋にしたいか考えてみてと言っても、あまりイメージが湧かないみたいだったな。


 モデルルームじゃないけど、私の部屋的なものを作って見せることで、みんなのイメージも膨らむだろうか?


 私もぼんやりと、ベッドやタンスや机なんかを作ってあげたいなとは思っていたけど、どんなものにするかきちんと考えていなかった。


 自分が部屋を使うとして、レイアウトや家具なんかをどんな風にしたいかな?



 ちょっと考えてみよう。



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