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第六話 かあちゃんはスキルの力を手に入れる


 そうして子供たちは深い眠りについたようだった。


 一方、私は浅い眠りを繰り返していた。あれからも何度か遠くで獣の遠吠えのような声が聞こえたからだ。

 地下室に近づいたのはあの一回きりだったので、子供たちの眠りを妨げることはなく良かった。


 多分、この森はあの狼のような獣の縄張りなんだろう。


 やっぱり森の中は危険だ。

 早いうちに岩山の方に(ねぐら)を移した方がいいかもしれない。


 書斎で読んだモンスター図鑑から推測すると、フォレストウルフの群れかもしれない。フォレストウルフは中級冒険者が一パーティーもしくは数パーティーで相手取るモンスターだったはず。

 一匹の攻撃力はそれほどでもないが(とはいえ、私たちでは瞬殺だろうが)、群れで襲ってくる習性が厄介だからだ。


 こんなに実り豊かな場所なのに、他の動物もモンスターも出てこなかったのは、狼の縄張りに入ることを恐れてだろう。


 狼は夜行性だ。

 日中だったら食料を集めるくらいは出来るかもしれないけど、あまり危険は冒したくないな。岩山の方にも食料があればいいんだけど。十三人もの子供たちを食わせていかなきゃいけないのだから、よく考えなきゃいけない大切な問題だ。


 まずは明日、岩山へと移動して周辺を探索し、狼以上の危険はないか確認してから、新しく(ねぐら)を確保しよう。


 食料があるかどうかも確認しなきゃ。最悪、日の高いうちにこの森に食料集めに通うことになるかもしれない。


 それに冬が来る前に保存食も用意しなければ。


 うとうとしながら色々と考えを巡らせていると空気穴から光が差し込んできた。そろそろ夜明けらしい。


 疲れ果てていた上に夜中の騒動で起こされた子供たちは、まだまだ起きる気配はない。

 それにすっかり日が昇るまでは、まだ狼が彷徨いているとやばいので、穴の外に出るのは控えたい。もう少し寝かせておいてあげよう。


 少しだけ明るくなって子供たちの寝顔がうっすらと見える。


 気を張って強がっていた子たちもあどけない子どもの寝顔をしている。心から素直に愛しいと思えた。


 かあちゃんは愛しいあなたたちを守るためなら、いくらでも頑張れるよ……。


 寝顔を見ながらニヤニヤしていると、寝不足で重かった頭がすっきりとして、ろくに休めずキツかった体にもパワーが漲ってきた。


 慈しみの力……。


 これで今日も頑張れそうだと、子供たちと天の意思に感謝した。



 ◇



 眠気もなくなってしまったので、昨日教えてもらったステータスをもう一度確認してみることにした。



 ======================


 モモ レベル1 人間 女 三歳 ☆

 HP17/17 MP9015/9015 土+ 光+ 闇+


 ======================



「小間使いの特性って……」


 多少ヘコんだ気持ちで、何気なく最後のマークにチョンと触れたら別ウインドウが開いた。



 ========

   小間使い

 ========



 うわ、マジで小間使いの特性付いてるし……。

 なんか残念過ぎて指でぐりぐりとしてやった。


 すると、また更なるウインドウが開いた。今度のウインドウには、何かいろいろ書き込まれている。


「スキル、加護、称号……」



 ==============


 パーソナルデータ:通常非開示


 スキル:US慈母の溢れ出る愛

 加護:月の精霊の加護

 称号:転生者

    慈母

    加護に認められし者


 ==============



 何気なくスキルのところを触ってみると、今度もウインドウが開き、詳しい説明を見ることが出来た。



 ======================


 US慈母の溢れ出る愛


 月の精霊の加護による開放条件が満たされた時、

 開放されるユニークスキル。

 慈愛の力からあらゆるものを創り出せる。

 創造時MPを消費する。

 材料となるものを用意することにより消費MPを

 抑えられる。


 呪文「創造(クリエイト)」をキーワードにMPならびに材料を

 消費することによりイメージした物質や魔法等を

 創り出す。


 *慈愛の力によるスキルなので、我欲や悪感情に

  囚われ過ぎると封印される


 称号付与:慈母


 ======================



「にゃ、にゃにぃ……?!」


 マジか、これマジか。これスッゴいいいヤツなんじゃない? あらゆるものを創り出せるって。

 とにかく何か作ってみよう。試してみなきゃわからない。


 やっぱりみんなに温かい食事を作ってあげたい。


 取り敢えず、調味料としてもミネラルとしても必須の塩を作ってみることにした。


 一日三十gの塩を使うとして一kgの塩があれば取り敢えず一カ月保つ。

 現代日本人の食生活、一日一人五gを目指しましょう、から考えると、十四人で一日三十gは大分少ないけど、成人一人当たりの必要摂取量は二gくらいだった筈だから、みんなまだ子どもだし充分だろう。


創造(クリエイト)・食塩」


 掌に魔力を集めて、頭の中にはいつもスーパーで買っていた一kgの食塩の袋を思い浮かべる。なんか違うの出てこないように、塩味もしっかりイメージした。


 すると、ズルズル、ズルズル、ズルッという感覚で体から大量の魔力が抜け出した。

 頭がガンガン痛み、血の気が引く。貧血みたいな感じだ。フラフラしてやばい。


 目の前には確かに見覚えのある塩の袋が現れていた。現れていたが……


 一回でこんなに魔力使うの? これキツすぎない?! いや、確かにとんでもなく素晴らしい能力なので、そりゃあ大量にMPが必要なのも納得出来るけど。


 その場に倒れ込みながら「ステータス オープン」と呟き確認するとMPが九百くらいになっていた。


「うわ、残り一割切ってんじゃん……」


 魔力枯渇を起こしていた。

 私は現れた塩を抱えて、そのまま意識を手放した。



 ◇



「ももちゃん、大丈夫? 気がついた?」

「全然目を覚まさないから心配したよ」

「モモ、大丈夫か? 具合悪いのか?」


 目を覚ますと、子供たちがみんなでぐるっと囲み、心配そうな顔で見つめていた。


「だ、大丈夫、大丈夫。ごめん、ごめん。寝坊しちゃったみたいだね。今、どれくらいかわかる?」


 なんだよもー、とみんながホッとした様子になる。


「入り口が閉まっているからちゃんとは分からないですが、空気穴から漏れる光が真下を向いてきているのでもうすぐお昼頃だと思います」


 マリーがきちんと考えられた答えをくれる。

 やっぱりマリーは頭いいね。


 夜明け頃からだから六時間くらい倒れてたんだ……。


「ごめん、みんな。私が寝てたから外にも出れないし、困ったでしょ? お腹も空いてるよね」


「お腹は少し空いてるけど……」

「お外はモンスターが出るんでしょ?」

「怖い……」


 みんながポツリ、ポツリと言う。


 その問題があったよね。倒れてる場合じゃないじゃん、もう。

 今日はここを離れて岩山の方へ移動したかったけど、既にお昼じゃあ夕暮れまでに周辺の確認と(ねぐら)の場所を決めるには時間が足りないか。もう一晩はここにいて、明日こそ朝から行動することにしよう。ホントすみません。


 という訳で今日は休もう。

 スキルやステータスの検証もろくに出来てないしね。せっかく頑張って作り出した塩もあるから、スープくらい作ってあげたいし。


「ねえ、みんな。みんなが起きてからモンスターの声が聞こえたり、足音がしたりした?」


 みんなが顔を見合わせブンブンと首を横に振る。


「起きてからは何もないぜ」


 ジェフが答えてくれる。ありがとう、とジェフに頷く。


「あのね。姿を見ていないから、これは多分なんだけど、昨晩の遠吠えからあれはフォレストウルフって狼のモンスターだと思うの。フォレストウルフは夜行性だから、日があるうちは絶対じゃないけど、比較的安全だと思う」


 最初は真面目な顔でしっかりと伝え、それから不安がらせないように余裕の笑顔を作り、


「食料集めがてら外の様子を確認してみるね。今日の任務は偵察です。偵察だから声や足音にも注意して。その結果、日中は動きがないようだったら、明日は森から少し離れた狼の縄張りの外に(ねぐら)を移そうと思う。だから今日はここで安心してゆっくり過ごそう。この中なら大丈夫だからね」


「任務……。偵察ってなんかかっこいいな!」


 ジェフが変な踊り付きのノリノリな感じでそう言うと、みんなの緊張も少しはほぐれたみたいで、


「偵察かあ」

「ジェフはお調子者だねー」

「変な踊り」

「うふふ」


 なんて笑い声も聞こえてきた。


 ホント、ジェフには助けられるよ。


 みんな朝は昨日の木の実なんかの少しの残りを分け合って食べてくれたらしく、これから昼、夜用の食料を探しに出ることにした。


 慎重に入り口を塞いだ壁を少しずつ消していき、周囲を確認してから外に出る。

 昨日は気づかなかったけど、良く見ると地面には動物よりもずっと大きな獣の足跡がそこかしこに残っていた。


 うわあ、この肉球、子どもの顔くらいありそうだ。


 もちろん私には気配を察知するとか、そんなどこかの武士みたいなことは出来ないけど、魔力操作の鍛錬を積んでいたおかげか、周囲の魔力になら反応出来るようになっていた。なので辺りの魔力を探ってみる。

 今のところはこの周辺に他の生き物の魔力反応はなさそう。意を決して食料調達に動き出した。


 小さい子たちにはお留守番してもらい、年長組の七人に手伝ってもらう。


 あまり遠くには行かず一人では行動しないこと。もし、見つけられるのなら野草や薪になるような小枝も集めて欲しいこと。お腹も空いてるし、まだ危険な状況かもしれないので、短時間で済ますことを伝える。


 男子チームと女子チームに別れて食料を探す。


 木の根元にはキノコが生えている。キノコはいい出汁が出るけどさすがに怖い。マリーもキノコには詳しくないと言うのでやめておいた。代わりに薪になりそうな枝を拾っていく。

 昨日あんなに採ったのに、果実はまだ(たわ)わに実っている。ルーシーとアンがいろいろと集めてくれてる。

 灌木の生えている辺の草むらでマリーが野草を見つけたので摘んでいく。アサツキに似た草は根から引き抜いた。


 ふと見ると、ハート状の葉がついた蔓草が地に這っていたので引っ張ってみる。


「やった!」


 サツマイモに似た感じの赤く長い形の芋がズルズルッと抜けてきた。


「何これ、食べられるの?」


 ルーシーに聞かれるが、これは植物図鑑で葉も根も茎も食べられるって書いてあったやつだ。芋類は保存も効くしありがたい発見だ。


 このくらい集めれば充分だろう。大収穫にホクホクして地下室へ戻る。


 ちょうど男子チームも戻ってきたところらしく、集めた戦利品を持って地下室の入り口を下りるところだった。

 赤や紫、オレンジ色に熟した様々な果実に、栗やクルミに似た木の実を抱えている。

 何より私を驚かせたのは、白菜程の大きさで縮れた緑の葉をつけた立派な野菜に見えるものだった。


「少し向こうの日の良く当たるところに結構たくさんあったんだけど、食べ切れないともったいないから一つだけ大きいのを採ってきたんだ」


 とマークが教えてくれる。


「すごい! 偉い!」


 更にこの野菜の素晴らしいところは、そのまま生だと辛くて食べられないけど、煮るとおいしい出汁が出るらしい。漬物にしてもいけるとか。村でも育てていたらしく、子供たちは詳しかった。


 これで夕食にはお芋と菜っ葉と野草のスープをごちそう出来る。温まるし、お腹に溜まるだろう。



 取り敢えずお昼には採れたての果物をみんなで、美味しく、お腹いっぱいいただきました。

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