表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/130

第八十三話 かあちゃんはみんなの成長を再確認する


 食料倉庫に戻る際に燻製室の方に視線を向けると、シーローの燻製室の煙も落ち着いてきていた。


 あれも出しておかなくちゃ。


 でも、まずは倉庫にマークをを呼びに行こう。



 みんなで頑張ってくれているおかげで、あれだけあった肉も粗方並べ終わっているようだった。


「マーク、バズが薬草のチェックを一緒にして欲しいって呼んでた。見てきてくれる?」


「了解! もう種が採れるのかな? 一応袋とか持って行ってくるよ」


「お願いね!」


 パタパタと小走りに駆け出していくマークの背中に声をかける。


 さて、並べ終わった薄切り肉は乾燥させなければいけない。乾燥組の出番だ。


 並べ終わっているものにはジェフ、コリーには熱風(ヒート)を、ルーシー、ユニ、ピノには乾燥(ドライ)をかけてもらう。


 午前中よりも人数がいるし、熱風(ヒート)も併用することで時間的にも仕上がり的にも向上している。どんどんジャーキーが出来上がっていく。


 私たちが残りの薄切り肉を全て並べ終えた頃には乾燥組もコツをつかんだようでさらに手際が良くなっている。こちらはお任せしてしまってアン、マリー、ルー、ベル、ティナ、キティにはシーローの燻製を出すのを手伝ってもらおう。



 まだ少し熱のこもる燻製室を開き、入り口を潜ると、またバットとトングを使って燻製されたブロック肉を下ろしていく。


 燻製室に残る熱気に汗を滴らせながら一つ一つ下ろした肉は、これも冷ましておくためにみんなに食料倉庫へと運んでもらう。全てを運び出した頃にはすっかり汗だくになってしまっていたけれど、私の仕事はまだこれで終わりじゃない。


 燻製室は肉の油と煙の煤で大分汚れてしまっている。頑固な汚れだが、清浄(クリーン)の魔法を使えばキレイになる。


 シーローの燻製室の灰を掻き出してから清浄(クリーン)をかけていたら、アンとマリーで残り二つの燻製室を片付けてくれていた。


清浄(クリーン)ならば私も使えますから。モモちゃんはもっと頼ってくれていいんですよ。浄化(ホーリー)も使えるように練習したいので、また教えて下さいね」


「ありがとう。そうだね、もうみんないろいろ出来るようになってるんだもんね。もっと頼るようにする。使える魔法も増やしていこうね。また訓練の時間をとるよ」


 取り敢えず、浄化(ホーリー)については清浄(クリーン)の上位版みたいなものだから、コツを伝えればマリーならすぐに使えるようになるだろう。


清浄(クリーン)は汚れを落としてキレイにするイメージでしょ? 浄化(ホーリー)はそこにさらに私たちを害する物を寄せ付けないって願い、消滅させるイメージをプラスするんだ。それによってばい菌をなくしたり、不浄のものと言われるアンデッドを消し去ったりする。浄化することにより腐敗や劣化を避けるとか、清らかなガードを付与するイメージも出来ると、より強力になるよ」


 それらのイメージを自分の中に取り入れているのだろう。慎重に考えるようにして、一つ一つ声に出しては刻み込んでいるようだ。


「……わかりました! 頑張って練習します!」


 嬉しそうな声とともにマリーが拳を握りしめた。



 燻製室を片付けたら、私たちも食料倉庫へと戻る。


 ブロック肉の燻製はこのまま冷ましておくとして、出来上がったジャーキーや使った道具を片付けなくては。


 土魔法で作った容器にわら半紙を敷いてジャーキーを詰めていった。蓋にはそれぞれ鹿ジャーキー、シーロージャーキー、猪ジャーキー燻製、シーローバラ塩強め、なんていう感じで種類ごとに刻印を入れておく。


 まだ加工していない肉は残っている。シーローのロースとバラが五kgくらいずつ、猪のロースは五kgもないかな? バラは八kgくらいはありそうだ。


 でも、今日はこのくらい進めば充分かな?


 浄化(ホーリー)と聖域の効果でどのくらいもつのかはわからないけど、そのまま料理にも使いたいし、様子を見つつ使い切れなさそうだったら、また加工していこう。


 考え事をしながらも片付けの手は止めなかったので大体片付いてきたかな、とみんなを見回す。


「あれ? そういえばヤスくんとおうとくうは?」


「野菜の植え付けの後に、午後は力仕事がないからじっとしてられなくなっていたおうとくうを連れて、外に出掛けて行きましたよ」


「おうとくうが荷車を引くのを気に入っちゃって、ヤスくんが面倒みてくれるって言うからハーネスを着けてあげたんです。今日は荷車は使わないからいいかと思ったんですけど、ダメでした?」


 アンとマリーが教えてくれた。


 ヤスくんが付いていてくれるなら大丈夫だろう。

 元々野生の生き物なんだし、ずっと家でじっとしていろと言う方が酷というものだ。


「ううん、ヤスくんたちなら大丈夫でしょう」


「あまり遠くには行かないように伝えてありますから」


「川原の辺りまで行ってくると言ってました。そろそろ帰ってくる頃だと思いますよ」



 ジャーキー作りも今日の分は全て終わり、片付けも済ませた。


 バズとマークも、白と紫の花が付いていた薬草に種が出来ていたので茎から刈り取って、ねぎ坊主とともに葦布の上に干しておいてくれたそうで、戻ってきて報告してくれた。


 みんな取り敢えず一段落して、残りの野菜の種取りは夕方くらいになりそうとのことなので手が空いた。


 夕食にはまだ早いし、お風呂に行こうかと相談しているところに、ちょうど良くヤスくんたちも帰ってきた。


「ヤスくん、おう、くう、おかえりなさい」


「かあちゃん、ただいま! 葦取ってきたぞ!」

「いっぱい取れたよ!」

「いっぱい運べて楽しかった!」


 おうとくうが引く荷車には、確かに大量の葦が積まれていた。


「ええ!? ヤスくん、すごいけどコレどうしたの? ヤスくんが刈ったの?」


 ヤスくんたら、とうとう鎌まで使えるようになっちゃったのかとビックリしたのだけど、真実はそれ以上の驚愕だった。


「ピノが最近良く使ってる魔法があるだろ? あれ、オイラにも使えたからさ!」


 ヤスくんが魔法を!?

 今、すごい報告をさらっとしたよね?


「かあちゃんがさっき葦がなくなっちゃって困った、取りに行かなきゃって言ってたからさ。オイラたち暇だったから取ってきたんだぞ」


 ヤスくんとおうとくうがエヘン! と胸を張った。


 目も口もポカーンと大きく開いたままで、なんとか思考を巡らせる。


 バズが呼びに来たあの時か。

 私の独り言が聞こえてたんだ。


「あ、ありがとう。でもヤスくん、いつから魔法が使えるようになっていたの? 全然知らなかった」


「さっきだよ?」


 あっけらかんとした答えにまた驚かされる。


「かあちゃんが前にオイラにもファミリアってスキルがあるって教えてくれただろ? あれって、仲間の魔法のマネッコが出来るみたいだぞ。まだスパンッて切るピノの魔法しか使えないけどな」


 ことの経緯を詳しく教えてもらった。


 おうとくうを引き連れて川原に行き、私のために葦を取ろうとしたのだと言う。刈り取る手段は無いので、そのまま引っこ抜こうとしてみたのだけど、思ったよりもずっと大変でちっとも抜けなかったんだそうだ。


「全然出来ないからさ。オイラにも魔法が使えたらな、ピノの魔法みたいに簡単に切れたらいいのになあって思ったんだ」


 おうとくうの馬鹿力で引っ張るとブチブチ千切れちゃうし、何とかならないか考えて前に教えてもらったスキルのことを思い出したらしい。


「スキルのファミリアでなんとか出来ないかなぁって考えてさ」


 ピノが魔法を使っているところを思い浮かべながら、みんなのマネをして魔法の力を集めてみたのだそうだ。そしてファミリアと呟いた時、風の刃が葦に向かって飛び出したらしい。


「オイラがファミリアって言ったらさ、スパーンッていきなり葦が切れたんだよ! それをおうとくうが咥えて荷車にのっけてくれたから、こんなにいっぱい集められたんだぞ」


「ヤスくんすごいね! そして、ありがとう。こんなにいっぱいの葦、すっごく嬉しいよ。おうとくうもありがとう。三人とも大変だったでしょう? すごく助かっちゃったよ」


 ヘヘヘッと照れながら嬉しそうにはにかむヤスくんと、


「やったー! かあちゃんに褒められた!」

「やったー! かあちゃんが喜んでくれた!」


 とはしゃぐおうとくう。翼と翼でハイタッチをしてからお尻とお尻を合わせてイエーイと喜びのポーズをしている。二羽も案外器用なことするのね。


 私も嬉しい。

 頼んだ訳ではないのに、自分たちで考えて喜んで欲しいと頑張ってくれた気持ちが何より嬉しい。


 ありがとう、すごいね、と順番に頭を撫でて褒めていく。一応、ヤスくんには、


「すっごく嬉しいけど、三人だけで無理したり危ないことしたりはしないでね。大怪我したりしたらかあちゃん悲しいから」


 とお願いしたら、


「大丈夫。わかってるよ。オイラだってかあちゃんに悲しい顔はさせたくないからな」


 と答えてくれた。


 やんちゃだったヤスくんもすごくしっかりしてきたな。おうとくうの面倒をみてくれているからかな? なんだかお兄ちゃんっぽくなっている気がする。


「じゃあ、これ片付けちゃって、みんなでお風呂に行こうか!」


「やったー!」

「お風呂!」

「片付けてからだぞ」


 うんうん、いいお兄ちゃんだね。



 あっと、その前に。


 ヤスくんとおうとくうはジャーキーを味見していなかった。


「今日作っていた干し肉だよ。ジャーキーって言うんだ。ヤスくんたちも味見してみて」


 一枚ずつ渡すとパクリと口に入れて、


「うんまい!」

「美味しーい!」

「最高ー!」


 と小躍りするほど喜んでくれた。


 おうとくうは相変わらず、上を向くとパクンと丸呑みだったけどね。



 葦を資材倉庫に下ろして、荷車とハーネスは物置にしまう。タオルと着替えを持って、みんなでお風呂に行こう。


 今日は燻製室に入ったせいで汗だくになったし、ところどころ煤けてしまっている。

 みんなも畑仕事と肉の加工をどちらも頑張ってくれたからサッパリしたいだろう。


 さあ、みんな大好きお風呂の時間だ。



 みんなで良く働いて、温かいお風呂で疲れを癒やす。何気ない会話を楽しんだり、こっそり内緒の相談をしたりなんてこともある。


 男湯の方では何が起きているんだろうな。男の子同士でも相談しあったりとかするのかな?


 お風呂っていうのは裸の付き合いなんて言うけど、ただ汚れを落とすためだけのものではないよね。


 ぬくぬく、ゆらゆらと湯船に浸かり、キャッキャッと姦しい女の子たちを眩しく眺める。


 相変わらず「可愛いー」と「美味しいー」が会話のメインを占めているようだけど、それこそが暮らしに、心に余裕が生まれたってことなんだと思う。それにみんな少し女の子らしくなったかな。



 イキイキとした輝くような笑顔を見ていると、昼間、畑で花を眺めていた時のような穏やかな気持ちになれる。


 ああ、私今幸せだなぁ。

 私も、もっと、もっと幸せになろう。

 みんなで元気に笑顔で。


 バズの言葉をもう一度噛み締めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ