第八十一話 かあちゃんは野菜畑について考える
今日のお昼は茹でたてのニョッキ入りカボチャスープ。
「これ私が作ったんだよ」
「ピノも! 作ったの!」
キティとピノがアピールしてみんなに褒められている。
モチモチのニョッキとほんのり甘いカボチャスープは相性抜群で腹持ちも良い。即席とはいえスープストックの旨味が染み込んだスープの味は、作った当人のキティとピノもびっくりの美味しさなので鼻高々だ。
「甘くて柔らかくて美味しいよ!」
「キティ、ピノすごいね!」
みんなからも絶賛されて二人とも嬉しそうに、
「またお料理する!」
「おいしーの作ったげるね」
なんて言ってる。いっぱい褒められてますます料理好きになってくれそうだね。
楽しく食事をとりながら私はバズと相談している。今日のことを明日のことを。
「大きい畑三面分の片付けだったから少し大変だったけど、もうすっかりきれいに片付け終えたよ。午後は予定通り森から集めてきた植物を植えてみよう。このカボチャも甘くて美味しいし、他の野菜も楽しみだ。上手く育てられるといいなあ」
「ご苦労さまでした。午後もお願いします。魔法を使うところ以外は任せちゃっても大丈夫?」
「大丈夫! やってみせるよ。モモの方はどんな感じ?」
「狩りの大成功のおかげで肉がいっぱいあるから、午前中は半分弱くらい手をつけたところ。午後ももう少しやっちゃいたいんだ。せっかくのお肉だもん、傷む前に加工しないとね」
「肉の加工にも人手を回した方が良さそうだね。班分けを替えよう。午後は小さい畑だからこっちはそんなに人数いなくても大丈夫だし」
「ありがとう。あ、薬草茶の木は出来れば茶畑にしたいから、それは私にやらせてもらってもいいかな?」
「もちろん。だけど無理はしないでよ」
そんな訳で、午後は薬草集めと野菜集めに関わっていたマーク、ベル、ティナとマリー、ユニ、ルーを畑班として、他のみんなで肉の保存食作りをすることになった。
年長組には包丁を任せられるし、ジェフとコリーは熱気を使えるので乾燥も捗りそうでありがたい。
キティとピノは午前中もやったから要領がわかってるし、お手伝いに燃えているからね。頼りになりそう。
「明日なんだけど何を種蒔きする予定?」
「大麦にしようかと思ってる。その次が小麦で次に大豆。また小麦で大麦って感じにしようかと思う」
なるほど、小麦多めで満遍なく穀物を増やしていけそうなプランだ。
「うん、いいね。そんな感じでやってみよう。あと、コリーから話を聞いた?」
「ああ、魚をとってきてくれるんでしょ? 嬉しいね。こっちは大丈夫だよ。今日これから植える作物の収穫もあるかもしれないから、あまり大人数はさけないけど大丈夫かな? 何人くらい必要?」
「おうとくうを借りられれば、明日は私とコリーで行ってくるよ。興味ある子には、また次の時には同行してもらうことにしよう。ただ、午後に干物とか作るようなら乾燥チームの手を借りたいかな」
「……うん、わかった。その時には声を掛けてね」
少し考えたバズは快諾してくれる。明日はそんなに力仕事は無いから、おうとくうを連れて行っても問題ないらしい。
「それから、そろそろ二回目のパン焼きをしたいんだけど、……明後日は刈り入れだから無理かな?」
「うーんと、そうだなあ。ユニには乾燥に回って欲しいから、アンとマリーにパンの方に行ってもらうんでどう?」
「ありがとう! パン焼きは午前中で終わるから、午後は二人にも畑の方に回ってもらえると思うよ。良かった!」
これで明後日にはまた焼き立てのパンが食べられる。うっかりしないように定期的にパンを焼く習慣を作らなきゃ。慣れてきたらルーと二人でも焼けるようになるかな?
食後の休憩を挟んで、午後は先ほど決めたように班分けを替えてそれぞれの仕事に取り掛かる。
まずは昼食の片付けからだけど、アンが洗浄を使えるので片付けは任せてくれて大丈夫だと言ってくれた。
他のみんなもやってくれると言うので、私は畑の方を確認してこれる。
大きい畑は全てきれいに片付けられていて、バズとベルが掘ったのであろう穴にはたくさんの株や茎葉が入れられていた。
調理場から灰を、資材倉庫から木材を持ってきてオガクズにして穴へと入れる。
これからの畑がたくさんの野菜や麦、大豆、薬草などで埋め尽くされていくことをイメージしながら、
「いろいろな命を育んでいきたいと思っています。どうかお力を分け与えて下さい」
と祈りを捧げる。
「大地よ、その慈しみをもって、我らにお恵みをお与え下さい」
まばゆい光を放ち、穴の中には大量の肥料が出来上がった。
次に四面の大きな畑の全体を見渡しつつ、
「この畑では小麦、大麦、大豆の穀物を育てていきたいと思っています。元気に健やかに育っていくように、再び大地に力を……」
と祈りを捧げてから魔法を使う。
「大地よ、その慈しみをもって、癒しをお与え下さい」
四面全ての畑に柔らかに輝く光が降り注いでいく。荘厳な風景に心を奪われている間に、掘り返された土は肥沃な畑へと姿を変えていた。
四面一度に魔法を使ったことで消費されたMPは二千五百。一枚につき千五百と比べると大分効率が良い。
この方法なら週に一度、肥料作りと畑の再生をすれば済む。最もMPを消費する大地の魔法の使用を抑えられるのはありがたい。
物作りに回せるMPに余裕が出来るということだから。
みんなが集まっている小さい畑の方に向かうと、バズたちがどこに何を育てるか相談しているところだった。
ここには今、中くらいの畑が五面と小さい畑が二面あり、小さい畑にはハーブとアサツキ、生姜が植えられている。
新たに増やしたいのは、白菜モドキ、人参、カブ、玉ねぎ、ニンニク、ほうれん草、カボチャ、トマト。さらに薬草が四種類に杜仲もある。バズの手作業による麦の試験栽培もしたいし、全て植えるには畑が足りない。
今日のところは持ってきた植物を植えて、増やせるかどうかを試してみるだけなのでこれでも広さは充分なのだが、これから増やしていくとなると全てをここで賄うには手狭だ。家庭菜園くらいの大きさにするとしても、もう少し広さを用意したい。
かといって野菜は穀物とは違い、あまり一度に大量に収穫してしまっても保存の問題があるので扱いに困ってしまうのだ。
どのように分けて育てていったらいいかで悩み、みんなで相談しているところだったらしい。
「モモ、どうすればいいと思う? あまり細かく分けちゃうとモモの消費MPの効率が悪くなっちゃうし」
ああ、私のMPの心配までしてくれてるから余計に悩ましい問題になっちゃっていたのか。
「うーん、そうだねえ……」
薬草やニンニクはそんなに大量に必要なものではないからなあ。トマトやほうれん草はあまり日持ちがしないので、少ない量で都度作っていった方がいいだろう。人参も干すとしても手が掛かるんだよね。玉ねぎは吊して保管が出来るから多く作っても大丈夫そうだ。白菜モドキとカブは漬け物に出来る。カボチャは実が大きい分、一度作ったらしばらくもちそうだし。
必要な量と保存の手間を考えると……。
「五面ある中くらいの畑のうち二面を麦に使うとして、残りのうち二面に半分ずつ白菜モドキと玉ねぎ、カボチャとカブを植えよう。もう一面は四つに分けて人参、ほうれん草、トマトを必要な時に作る感じでどうかな? ニンニクはハーブの場所を少しもらってそっちでいいんじゃない? 少し増えるまではここの残り一カ所を使おう」
一度にあまり大量に収穫しても保存するのに手に余る。毎回全部の種類を作り続ける訳ではないし、作ってみてから必要に応じて考えていくしかなさそうだ。
小さく分けるとMPがかかっちゃうことをみんな心配してくれているけど、
「まあ、大きい畑で節約出来たMPをこちらに使えばいいじゃない」
と先程の畑作りのやり方で大分MPが節約出来そうだということを説明して納得してもらった。
物作りの方は当てが外れちゃったけど、また少しずつやっていけばいいよね。
「薬草に関しては別に薬草茶の畑を作るつもりだから、そっちを薬草園ってことでまとめて作るのはどう?」
みんなにしても、まず上手く育てられるかどうかさえ半信半疑なので異論も無く、取り敢えず増やすことが出来たらそのように作ってみて、その先はおいおい考えていこうと決まった。
今日のところは採ってきた植物を植えられる分だけの畑があればよくて、そこから種を増やして畑を広げていくことになるので、それぞれの畑予定地の一角を畑に変えていく。
一応、バズが消石灰を用意してくれてあったが、やはり魔法農業では必要なかったようで使われなかった。
これの出番は来年だな。
続いて、畑広場の南、訓練場と反対側に土地を十mほど延ばして、そちらを薬草園にしよう。土魔法を使って平地を広げる。
杜仲は割と背の高い木になるので三分の二ほどを割り当て、残りの三分の一を四分割して薬草を植えることにする。
薬草の分の畑の準備も出来たところで、後はバズたちにお任せして私は肉の加工に取り掛からなきゃ。
「植物を植え終わったら声を掛けてね。じゃあ、後はお願いします」
と言い残して調理場に戻った。
思いの外、畑で時間がかかってしまったので、保存食作りのみんなを待たせてしまったようだ。
「ごめんね、遅くなって。始めようか」
「モモ、燻製室の火が消えそうだけど、どうしたらいい?」
「あ、いけない!」
大急ぎで燻製室に向かい火を確認すると、小さな火だけどまだ燃えていたので安心する。
先に火を落としたジャーキーの燻製室は、すでに煙が収まっているようなので覗き窓を開けてみる。
煙は出てこないので入り口も開けても大丈夫だろう。
中に入って灯で燻製されたジャーキーを確認すると、程良く色と香りが付いていてしっかり乾燥されていた。
この感じだとロース肉の方もそろそろいいかもしれない。シーローの方だけは少し長く燻してみようか。
外に出て猪ロースの部屋はこのまま火と煙が落ち着くのを待つことにする。シーローの方だけに薪を少し足して火力を持続させた。
「気が付いてくれてありがとうね。まだ燻製時間をどのくらいにしたらいいのか試している感じだから、こっちだけもう少し続けてみるよ」
それからみんなで燻製の終わった猪ジャーキーを運びながら食料倉庫に移動した。
出来たてのまだほんのり温かいジャーキーをみんなに一枚ずつ配り味見してもらう。
「今からみんなでこういう干し肉を作るよ。今配った物よりも塩を効かせてもっと日持ちするものにするつもりだけど、まずは味見してみて下さい。これは燻製にしたけど、乾燥や熱気の魔法で作りたいので協力お願いします」
みんなは美味しそうな香りを放つ硬く燻されたジャーキーにごくんと喉を鳴らすと、おそるおそる小さく食い千切りモグモグと噛み締める。
…………!!
「うわあっ!」
「美味しい!」
「すげえ塩辛いのかと思ったのに……」
「こんな干し肉初めてだ!」
「すごくいい香りがします」
「ホントだ、この匂い知ってるけど何だっけ?」
私も少し齧って噛み締めてみる。
「うわ、本当だ。チップでもちゃんとほのかにリンゴンの香りがするんだね」
「ああ! リンゴンだ!」
みんなも納得して、あとは美味しい、美味しいとペロリと平らげた。
まだちょっと煙臭かったり酸っぱい感じもあるけど、少し置くと落ち着くはずだからそこは大丈夫。
みんなも気に入ってくれたようで良かった。
「これを作るんだな」
「よし! 頑張ろう!」
「うん!」
美味しいものを作るとなるとやる気も出るよね。
シーローのロースとバラ、猪のモモをそれぞれ四、五kgずつ取り出して、ルーシー、アン、コリーにひたすら薄切りにしてもらう。
私は先程同様のジャーキーの特製調味液を大量に用意した。塩分だけはさっきより強めにして、ジェフとキティとピノには切り終わった肉を漬けて揉み込んでもらうように頼む。
ジャーキー作りはみんなに任せて、私は塊肉を漬け込もう。ジャーキーの味付けが思いの外良かったので、この調味液でも塊肉の燻製を作ってみようと大量に用意しておいたんだ。
さらにシーローのロース、バラを五kgずつ、猪のバラ、モモも五kgずつを取り出して、五百gぐらいに切り分け、それぞれの肉を入れる容器を作り漬け込んでいく。
刻印を入れておかないと後で何肉かわからなくなっちゃうからね。まあ、どの肉も美味しいんだけどなんとなくね。
これは一週間くらい漬け込んでから燻製にしよう。来週が楽しみだな。
「モモ、このお肉は全部さっきみたいに広げて干すんだよね?」
「布ちょーだい!」
キティとピノに言われて気付く。
干し台用に作ってあった干布は、さっき燻製に使ってしまったので燻されて真っ黒だ。干布を新しく作ってこなきゃいけない。
「ごめーん。資材倉庫に行って作ってくるから作業進めていてね」
塊肉を漬け込んだ容器にきっちり蓋をして片付けて、そそくさと資材倉庫に向かった。
明けましておめでとうございます。
新年になっても相変わらずの
だらだらしたお話で申し訳ない!
本年ものんびりまったり
スローライフで進めさせていただきます。
猪突猛進とは行けそうもありません。
こんなマイペースな作者ですが
モモと子供たち、動物たちともども
今年も変わらず応援してやって下さいませ。
本年もよろしくお願いいたします。
(≡з≡)/




