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第八十話 かあちゃんはぼーっと火を見つめる


「そろそろお昼の準備もしなきゃだし、調理場へ行こうか。燻製室に火を入れてみよう」


 肉はまだ半分以上残っているけど、それは午後にまた続きをすることにして、塩を擦り込んだ二種類のロース肉と大量の猪の薄切り肉を持って調理場へ向かう。



 資材倉庫からはチップにするための桜の枝とリンゴンの枝も取ってきた。ピノにお願いして風の刃(エアカッター)で細かく刻んでもらう。


 さらにユニとピノにはロース肉に乾燥(ドライ)を掛けて軽く水分を飛ばしてもらった。


 私は薪を用意している。


 その間にルーが畑からコリーを呼んできて燻製室とついでにかまどにも火を入れてくれた。


 チップを入れる受け皿にロース肉には桜チップを、猪ジャーキーにはリンゴンチップを入れてみた。


 燻製室に肉を吊していると、コリーが面白そうにその様子を見ている。


「魚もこうやって燻製に出来るよ。今度やってみようね」


「え、ホント? やってみたい! また魚とりに行きたいなあ」


「うん、そうだね。……明日は種蒔きでしょ? バズに聞いてみて明日行こうか」


 コリーの顔がパアッと輝く。


「オレ、聞いてみるよ! それでいいって言われたら明日は魚とりだ! 干物も燻製も増やさなきゃね!」


 すごく嬉しそうに張り切って畑へ帰っていくコリー。


 多分バズは許してくれるだろう。明後日の収穫の時には乾燥役でコリーが必要だけど、明日なら他のみんなで充分賄えると思う。まあ、バズと相談だね。



 燻製室の一つにはシーローのロース肉を吊し、もう一つには猪のロース肉を吊す。


 残りの一つには猪ジャーキーを並べる。棚にも平台にも並べたけど、それでも並べきれなくて猪ロースの部屋の棚まで使うことになった。桜チップとリンゴンチップの味を食べ比べられるからこれはこれで悪くないかな。


 こうやって並べる分と吊る分で同時に使えば効率もいいかも。今後に活かそう。


 全ては今回の燻製の出来に掛かっているけど。


 ロース肉には脂が付いているので、肉に火が入ってくると脂が滴り落ちてくる。薪やチップの上に脂が落ちると炎が上がる危険があるのでカバーを付けてある。上だけ覆って側面は開けてあるので、ここから煙が上手いこと部屋中に行き渡ってくれる予定だ。


 温度が上がり過ぎず、煙が出過ぎないようにしなければならない。


 今回は初めてなので、火の強さはチップから煙が出てきたら極力小さく保とうと思う。難しいけどここが大事だ。


 入り口を土魔法で閉めて、覗き窓から中の様子を見ていると、熱せられたチップが燻り煙が出てきた。


 薪の量を調節して火を弱くする。

 煙の量も良さそうだ。


 だんだんと室内に煙が立ち込めてきたので覗き窓も閉めると、煙突からほんのり煙が上がってきた。


 このくらいを維持し続けなければいけない。


 三時間くらいはかけたいのだけど、燻製時間も試行錯誤なので少しずつずらしてみようと思う。

 薄切りの猪ジャーキーはお昼くらいまでにしてみて、ブロック肉の方は午後まで燻製するつもりだ。


 それまで火加減から気を抜けないんだけど……。


「ずっと見続けてもいられないから、時々チェックしながらお昼の用意もしていこう」


 私たちは燻製所を離れて調理場に場所を移した。



 コリーが火を入れてくれたかまどには鍋に水をかけてある。


 湯を沸かしている間にカボチャを切っていく。

 午後の種蒔きに使いたいので、お昼はカボチャのスープにした。半分に割って種を取り出すとキティとピノが洗って手拭いの上に並べて自然乾燥させておく仕事を受け持ってくれた。


 他の植物は苗のように植えるけど、カボチャとトマトは種を蒔かなくちゃいけないからね。


 他の植物ともども、上手く増やせるといいなあ。


 お湯が沸いた鍋には先ほど作りたてのシーロージャーキーをほぐして入れる。玉ねぎの摺り下ろしも入れて即席スープストックにする。


 鍋の番、沸騰させないように灰汁を取りながら出汁が出るまでじっくり煮込むのはユニに、カボチャを小さく切って皮を剥くのはルーに任せて、私は一度燻製室の火加減を見に行くことにした。



 薪を少しずつ足しながら火が消えないように、且つ、強くなり過ぎないように気を付ける。

 煙突から出てくる煙の量も問題無さそう。


 火をぼーっと眺めながら今後の予定を考える。


 明日はみんなは種蒔きの日で、私とコリーは午前中魚とりに行くとしたら、午後は魚の加工になるだろう。明後日は刈り入れだけど、明日は何を種蒔きするのかな?


 パンがもう終わってしまうのでパン焼きもしなきゃいけなかった。

 明日か明後日には焼きたいところだけど、バズの予定とすり合わせないと決められないな。


 うーん。明日の魚とりは早まっちゃったかな。でもあんなに喜んでいたコリーにやっぱりとは言えない。


 パン焼きは明後日以降になるかもしれないから、今日はパスタにしておこう。


 そんな感じで数日分のメニューに思いを馳せつつ火加減を見ていると、


「こっちは出来たよ!」


 ユニとルーから声がかかった。


 たっぷりのスープストックが湯気を立てている。大量のカボチャも切り終えてあった。


 あれ? いつの間にかそんなに時間が経ってた?


「ありがとう。パンがもう少ししか無いから、今日は小麦を練ってパスタにしようと思うんだ。夕食の分も含めていろいろ作るから手伝ってくれる?」


「もちろん! パスタってどんなもの?」


「やったー! モモと新作料理!」


 キティとピノも身体強化が使えるので結構力がある。生地を捏ねるのを手伝ってもらおうと二人にもお願いすると、「ごはん作るぞー!」と張り切っている。



 スープストックは火から下ろして、別の鍋に水を張ってまたかまどにかけておく。


 食料倉庫から芋に小麦粉、卵。野菜はニンニク、人参、玉ねぎ、ドングリ茸、ハーブ。肉はシーローと猪のロースを一kgくらいずつ。地下の調味料の棚からトマトソースと油、ワイン、液糖、塩、胡椒。さらに豆乳を搾って、朝の分と合わせておからも持っていく。


 ワゴンがぎっしり山盛りだ。


 最初に芋の皮を剥いて小さく切り、鍋に放り込んで茹でる。芋を茹でている間にパスタの生地を作ろう。


 小麦粉におからと卵を入れ、塩を少し油を少し足して捏ねる。水を加えつつ一塊になったら、キティとピノにお願いしてコシが出るように良く捏ねてもらう。

 力仕事で大変だけどお願いします。


 カボチャのスープも作らないと。

 切ったカボチャを鍋に入れ、ひたひたになるまでスープストックを注いで柔らかくなるまで煮る。


 これも煮えるまでの間に夕食用のミートソースの準備だ。ユニとルーにブロック肉を小さく切り分けてもらう。


 私は魔法を。創造の出番だ。


 材料は土で作っちゃうけど、イメージを補填してくれる創造に頼んだ方が確実ということで、頭の中でミンサーを思い浮かべる。鉄だと臭いが移っちゃいそうだからね。ステンレスって何で出来てるんだろう?


 手回し式で台に固定出来るように下部が万力のように挟んで止められる型にしたい。

 ミンサーの上部から小さく切った肉の塊を入れて器具で押さえつけながらハンドルを回すと、スクリューの付いた筒状の部分を通りながらカッターで細かくされて穴のたくさん開いた出口からにゅるにゅると挽き肉が出てくる。


 前世でさんざん使ってたからイメージはバッチリ。


創造(クリエイト)・ミンサー」


 三十cm程の大きさの肉挽き機が出来上がった。

 早速調理台に固定して試してみよう。


 シーローと猪を交互に入れてはハンドルを回していけば、出口からはミンチ肉がにゅるっと出てくる。


 これは便利!


 ユニとルーが面白がってやってくれるのでしめしめとお願いしてしまう。その内右手が悲鳴を上げるかもしれないけどよろしく!


 私は野菜を刻んでいく。

 玉ねぎ、人参、ニンニク、ドングリ茸、みんなみじん切りだ。


 正直、この作業が一番面倒くさくて手間がかかるけど、十五人で食べてもまだ余るような大量のミートソースを作らないといけないので、ひたすらに包丁を動かし刻んで刻んで刻んでいく。


 ミートソースの材料が用意出来た頃には芋とカボチャも煮えていた。

 芋は鍋からあげて、水を切ってボウルに入れた。


 パスタ生地も充分捏ねられていたので、キティとピノにお礼を言って濡れ布巾で包み休ませておく。


「ありがとうね。すごく上手に出来てる。助かっちゃった! 大変だった?」


「お料理楽しい!」

「お手伝い楽しい!」


 もっとお手伝いしたいと言ってくれるので、「熱いから気を付けてね」と注意をしつつ、今度は芋を潰してもらう。私も隣でカボチャを潰していこう。


 どちらも大量でフォークで潰すのは無理があるので、ここでも便利な道具を。土魔法でマッシャーも作ってしまおう。


 キティとピノにも渡してやり方を説明したら、


「おもしろーい!」

「どんどんつぶれる!」


 と楽しそうに交代で芋を潰してくれる。一人はボウルを押さえる係だから仲良く順番こ。


 私も鍋の中のカボチャをガシガシと潰して、ドロッとしたカボチャペーストにする。そこに豆乳を混ぜて伸ばしていく。漉した方が口当たりは滑らかになるけど、おうちごはんなのでそこは手抜きしちゃう。

 弱火で温めつつ、塩、胡椒で味を整えればスープは出来上がりだ。


 カボチャスープは冷製でも美味しいので明日の朝にも使うように大量に作ってある。朝の分は別の容器に取り分けて冷ましておこう。



 ミンチを作り終えたユニとルーも一緒にサツマイモのニョッキを作ろう。


 キティとピノが潰してくれた芋が熱いうちに小麦粉と塩を加えて、引き続きマッシャーで混ぜていく。

 水を加えて少し冷めた生地を一塊になるように手で捏ねると、すぐにモチモチした塊になるので、清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけた調理台に打ち粉を振って何本もの棒状にしていく。包丁で小さく切った生地をみんなでコロコロ丸め、丸めた生地をフォークの背で潰せばニョッキの出来上がりだ。


 ユニとルーもキティとピノも粘土遊びみたいで楽しいらしく、次々に丸めてはフォークで潰してくれるのであっという間に大量のニョッキが出来た。


「何を作るにも人数が多いから大変だけど、みんなでやると楽しいよね」


「うん! お料理面白い!」

「ごはんのお手伝い楽しい!」


 料理の楽しさに目覚めたキティとピノを見て、ユニとルーもニコニコしている。今後もいろいろと手伝ってくれることだろう。



 最後に夕食用のミートソース作りだ。


 鍋に油とニンニクを入れて火にかけ、香りがしてきたら玉ねぎ、人参、ドングリ茸も入れる。


「玉ねぎの色が変わってきたら肉も入れて炒めるよ」


 ユニとルーに教えながら作っていく。


 とろみをつけるために小麦粉を少し入れて軽く混ぜたら、ワイン、スープストック、トマトソース、ハーブ、液糖を加えて少し煮込む。煮詰めたところで塩、胡椒で味を整えれば出来上がりだ。


 煮込むところからはユニとルーに任せて燻製室の様子も見に行かなくちゃ。



 料理中もチラチラと確認はしていたので、火の調子も煙の加減も問題なさそう。


 ジャーキーの火はそろそろ落としてしまって良い頃合かな。このまま薪を足さずに、火が消えて煙が出なくなるまで放置しておけばいいだろう。


 ロース肉の方はまだ燻製を続けるので、薪を足して火加減を見る。


 ユラユラと燃える火をぼんやり眺めているのって、なんか落ち着くよね。


 ぼーっとしているのに集中して考え事が出来る不思議な時間。


 パンについては慌てなくても、こうやって小麦を使った主食は作れるから大丈夫だね。みんなパンが好きだから、出来るだけ早く焼いてあげたいけど焦るほどではない。


 これで燻製が上手くいけば魚も燻製にも出来るし、ミンサーがあるからすり身にも出来る。またいろいろ作れるなあ。うん、魚とりは必要だ。


 作ると言えば、暖房も作らなきゃだし、みんなの部屋も準備しなきゃ。今晩にでも少し考えてみよう。


 午後は野菜や薬草の植え付けもする。この辺が上手くいけば、後はゆっくり服や必要なものを作っていけるな。


 革が手に入ったし、そのうちにゴムも使えるようになりそうだし!


 何から作っていこうか。まずはやっぱり……


「モモ! 出来たよ!」

「はーい」


 またいつの間にか時間が過ぎていたみたい。

 まずはやっぱり昼食からだね。



 とはいえ後はニョッキを茹でるだけだ。

 時間も丁度良いし、畑のみんなにも声を掛けてもらおう。


「キティ、ピノ、畑に行ってそろそろお昼にしようって呼んできてくれる?」


「はあーい。お腹空いたあ」

「ピノが作ったごはん!」


 パタパタと駆けていく二人を微笑ましく見送り、私たちはニョッキを茹でながらみんなを待つのだった。




今年最後の更新となります。


いつまでもダラダラしたお話に

お付き合いいただきありがとうございます。


作中はいまだに秋ですが(苦笑)

リアルは寒さが厳しくなってきました。

皆様も体調をくずされることなく

良い新年をお迎え下さい。


たくさんの皆様に拙作をお読みいただき

本当にありがとうございました!


(≡з≡)/


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