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第七十九話 かあちゃんは冬支度をする その四


「おはよう」

「おはよう、今日も頑張ろう!」


 朝から元気な声が飛び交っている。

 みんな昨日の疲れは残っていないようだ。

 若いって素晴らしいね。


 簡単にパンと豆乳、果物で朝食をとって、さくさくと各自の仕事に移っていく。いつもの日常が戻ってきた。


 みんなの今日の予定は午前中は刈り入れっぱなしの畑の片付け、午後は昨日採ってきた植物を畑に植え付けてみる。


 私とユニ、ルー、キティ、ピノは保存食作りで昨日集めてきたものを干したり、肉の加工をしたりだ。


 みんな熟せる仕事量も増えたし、自発的に気働きが出来るようになっている。畑仕事の効率が上がったおかげで保存食作りに五人も回っても大丈夫。ありがたいことだ。



 畑に行く前のバズを呼び止めて、少し説明を聞いてもらう。


「昨日の夜、訓練場の方に干し台をしまう部屋を作ったから、この物置は農具や種の保管に使って。今まで不便だったでしょう? 棚とか作った方がいいかな? 他にいる物は無い?」


 やはり不便をかけていたんだろう。えっ?! と振り向いたバズの嬉しそうな顔と饒舌な返事。


「うわあっ、ありがとう。向こうの物置も手狭になっていたからありがたいよ。棚は欲しいね。箱や袋は資材倉庫のを使っていいでしょ? 小さい方の畑に麦を蒔くなら、冬越えの保温のために畑の上に藁を被せたりするんだ。それ用の藁もここに貯められるし、種もどんどん増えていくからこの広さがあるのは嬉しいよ!」


 今のところ道具は以前作ったものでこと足りているという。部屋の三分の一程のところで一mの仕切りを作り藁を貯めるスペースとして、反対側の壁には棚を作った。


 それにしても畑に藁を敷くのか。畳モドキに随分使ってしまった。教えておいてもらえて良かった。これからは畑用と資材用と分けて保管していこう。


 それから資材倉庫に行って消石灰のことを話した。


「村でも使ってたんだよね。これは直接触ると皮膚に炎症が出るし、目に入ったりしたら失明するくらい危険なんだ。道具や軍手を使って素手では触らないようにして、使った後は良く手洗いうがいしてね。取り扱いもだけど保管にも充分注意して欲しいの。基本的に私かバズしか触らない方がいいと思うんだけど」


 バズはうんうんと頷きながら納得した顔をして、


「だから子供には触らせてもらえなかったのか。わかったよ」


 と真剣に答えてくれた。


 土魔法で蓋をしてしまえば私とバズ、ベルにしか開けられないので保管に問題は無いと思うけど、バズにきちんと管理してもらうことをお願いした。


 これも農具部屋に移して、穴を掘りしまってもらった。


「午後の野菜畑を作る時に使ってみようと思うんだ。用意しておけば必要なら使われると思うけど、その辺は精霊様にお任せで」


「魔法の畑は充分土壌が良いからね。でも試してみよう」


 そうして、バズは畑へ、私はユニたちの元へと別れた。



 干し台も増やしたので、新たに白菜モドキやベリーを干していく。ヤスくんに採ってもらったブドウもだ。


 キティとピノもブドウやベリーを干す作業は手慣れたもので、風通しが良いように、重ならないように、潰さないように広げていくのが上手く、手早くなっていた。


 ある程度干し終わったところで、


「ドングリ茸も栽培して増やせないかと思ってね。昨夜ちょっと実験してみたんだ。みんなで様子を見に行ってみよう」


 四人を連れて地下室へ下りる。

 一番奥のほだ木を並べた部屋へ行く。


 たくさん並べられたほだ木には大分大きく育ったドングリ茸がびっしりと付いていた。


「よし! 大成功だね、良かった!」


「すごい……、ドングリ茸がこんなに!」


 ドングリ茸は美味しいけど見つけるのが難しいごちそうだ。それが栽培出来るようになったことはとてつもなく喜ばしい。


 大興奮のユニとルーはもちろんのこと、キティとピノもキャッキャッと喜んでいる。


 一度菌の付いたほだ木からは数回収穫が出来るので、切らさないように時々新しいほだ木を増やしていけばずっと作り続けられる。ありがたいことだ。


 水瓶の水が減っていたのでルーに足しておいてもらった。湿度が必要なようなので、これからは毎日ルーに水を足してもらうようにお願いした。


「こっちが成功したということは、昨日採ってきたドングリ茸も干しちゃって良さそうだね」


「ドングリ茸を干すだけなら私たちだけでも出来るから、モモは他のことやっていてもいいよ?」


 ユニが気を回してくれる。


「今日は肉の加工もしたいんだけど、燻製は準備から一緒にやりたいからね。みんなでさっさと干しちゃって、一緒に肉の加工もやろうよ」


「うん!」

「そうする!」


 新たな調理方法への期待にやる気の漲ったユニとルーを筆頭に、みんなでさくさくとドングリ茸を干していく。


 一時間程で全ての干し台が埋め尽くされてしまった。


「今日はここまでだね。また干し終わったところへ補充していくようにしよう」


「うん、それは任せて!」


「野菜や果物を干すのは合間を見て私たちがやっておくから」


 森で新しく手に入れた野菜も上手いこと増やせたなら、また干し野菜のレパートリーも増える。それもおいおい覚えてもらうとして、ユニたちにお願いしてしまおう。


 頼りにしてます!



「じゃあ、燻製やってみようか」


「うわあ!」

「楽しみ!」


 跳ねるように軽い足取りでみんなで食料倉庫に行く。


 土魔法で容器を作り、まずは漬け込みダレを作るところからだ。


 長持ちするように塩分濃度を二十パーセントくらいにしたい。


 計量カップのようなものを土魔法で作り出し、説明しながらやってみせる。


「漬け込みダレ全体を十と考えて、日持ちさせたいからそのうちの二を塩にしたいんだ。昨日のお肉はすぐ食べるつもりだったから一を塩にした味付けだったんだけど、あれよりちょっとしょっぱくなるね。しょっぱくすればする程長持ちさせられる感じかな」


「えー、なんか難しい……」


「……私たち計算とか出来ないよ?」


 困り顔の四人に大丈夫、大丈夫と笑いかける。


 材料として、水、液糖、塩、胡椒、ハーブを用意した。


 指折り数えながらカップで材料を掬っては入れていく。


「まず、塩をカップに二杯入れるよ。それから液糖を一杯。その後、水を七杯」

 一、二、三と順番に全ての指が一度開いて、さらに握られる。


「これでこの中にはカップ十杯の材料が入ってる。そのうち二杯が塩になったでしょ? 後はここにハーブや胡椒を入れてよく混ぜる。これを本当は一度煮立たせるんだけど、かまどに火が入ってないから魔法でやっちゃうね」


 ちょっともったいない使い方だけど、創造で状態変化させて煮立たせてしまう。


「これだけだよ。難しい計算をしなくても指で数えるだけだから簡単でしょ?」


「うわあっホントだ!」

「もっかい教えて!」

「私もやってみたい!」

「ピノも! できう!」


 私がいーち、にーい、と声を掛けながら指で数えていくのに合わせて、四人が容器の中にカップで材料を入れていく。


 十まで入れて、ハーブや胡椒をパラパラと入れて混ぜたら出来上がり。


「出来た!」

「ピノも!」

「これなら私にもわかる」

「うん! 簡単!」


「でしょう? 計算だってこんな感じにやれば簡単なんだよ。冬になったらゆっくり覚えようね」


 計算に興味をもってくれたようで、早く勉強してみたいとはしゃいでいる。冬の楽しみも出来たね。


 そんな四人を微笑ましく見つめながら、みんなの作ってくれた漬け込みダレも魔法で煮立たせてしまう。



 続いて肉を各種五kgくらいずつ持ってきて、それぞれ五百g程のブロックに切り分ける。


 ユニとピノにお願いして少し乾燥してもらってから、五人それぞれ自分の容器にシーローのバラ、モモ、猪のバラ、モモ、鹿肉と分けて漬け込んで、密閉するように土魔法で蓋をしてしまった。


 一応誰の容器にどの肉が入ってるか分かるように刻印も付けておく。自分が作ったのはどの肉かわかった方が出来上がった時に嬉しいもんね。


「これで一週間くらい漬け込んでから、一度塩抜きをして、乾燥させて、それからやっと燻製にするんだよ」


「え? そんなに?」

「なんか大変そう」


「下準備にすごく時間がかかるけど、塩をきかせて、水分を取り、煙で燻すことで保存食になる。手間はかかるけどせっかく手に入ったお肉だから頑張ろうね」


 時間や手間に驚いたというよりも、なんだかがっかりした顔をしている?


「じゃあ、今日は食べられないんだ」

「残念……、でも頑張る」


 なるほど、なるほど。

 ふふっと笑って声を掛ける。


「今日はまだまだ他にもいろいろ作っていくからね。今日食べる分も作ろう」


「やったー!!」


 残念そうだった四人の目が輝いた。



 さあ、どんどん作っていこう。肉はまだまだあるんだから。


 さっき持ってきた五kgずつのシーローと猪のロース肉から取りかかろう。


「漬け込まなかったこっちのお肉は即席の燻製にするよ。表面に直接、塩、胡椒、ハーブをよく擦り込んで」


 五百gずつ二十本に分けられたブロック肉に手分けして調味料を擦り込んでいく。


 数が多いので結構大変な手作業だと思うのに、みんな一生懸命、丁寧にやってくれてる。ルーなんて「美味しくなあれ、美味しくなあれ」とお(まじな)いも掛けながら。


「お料理には気持ちを込めることが大事なんだよ。ね、モモ」


 私がそうだね、と肯定したのでみんなも一緒にお呪いを掛けながら頑張ってくれた。


 擦り込み終わったら、少し置いて味を馴染ませるので、その間に他の肉も加工していこう。



 新たに猪のモモ五kg、シーローのモモの残り三kg、鹿肉の残り三kgを持ってきて、今度は細い薄切りに切り分けていく。


 包丁を使うこの作業は私とユニとルーで行った。


 キティとピノには切った薄切り肉を、液糖、塩、胡椒、ハーブ、醤油、ワイン、さらに摺り下ろしたリンゴン、ニンニク、生姜、玉ねぎまで加えて混ぜた特製調味液に入れて、よく揉み込んで味を染みさせる作業をしてもらった。


 味の染みた薄切り肉は、使ってない干布の上に一枚一枚広げて並べていく。途中で干布が足らなくなり追加で作り足した程の量だった。


 みんなでせっせと只管(ひたすら)に並べ終えた薄切り肉に、ユニとピノに乾燥(ドライ)の魔法を掛けてもらって水分を飛ばし干し肉にする。


 これまた量が量なので大変そうだったけど、二人は頑張ってくれた。


 猪モモの五kg分だけは燻製にもしてみようと思うので、


「これはすっかり水分を飛ばさなくて大丈夫だよ。生乾きでいいから軽く乾燥させてくれる?」


 とお願いした時にちょっぴりホッとした顔をしていたから、二人でこの量の干し肉作りはやっぱりちょっとしんどかったんだろうな。ありがとうね。



 二人が頑張ってくれたおかげで、すっかり水分が飛ばされて出来上がったシーロージャーキーと鹿肉ジャーキーを味見してみよう。


 まずは鹿肉ジャーキーを一枚手に取る。

 硬く乾燥された肉を千切り、みんなで少しずつ分けて口に入れる。


 最初の感想としてはとにかく硬ーい干し肉。みんな必死になって噛み締めている。


 だが、よく噛んでいるうちにだんだん柔らかくなり、そして噛めば噛むほどに……。


「うっまーい!」

「うわあっ美味しー!」

「ハーブの香りもしてすごく美味しい」

「いっぱい噛むとどんどん味がするよ」

「これすっごい美味しーい」


 うんうん。止まらなくなりそうに美味しいね。

 これは大成功だ!


 でも今は味見なのであっという間に口の中から消えてしまった。もっと食べたい気持ちをぐっと我慢する。


「……シーロージャーキーも味見してみなきゃね」


 鹿肉ジャーキーは一枚を千切って分けて食べたのに、シーロージャーキーは一人一枚ずつ食べちゃったけどね。



 ずっとモグモグしていたくなるが、残念ながら最後のゴックンをしてしまった。


「はあ……、美味しかった。でも長持ちさせるなら、もっと塩をきかせた方がいいのかもしれないけど」


「ええ! しょっぱい干し肉にしちゃうの?」


「こんなに美味しいのに?!」


 ユニとルーには信じられないといった風で意見されたし、キティとピノからもブーイングされてしまった。


「この作り方のジャーキーはそのまま食べる用で、料理に使う分はもっと塩をきかせて長く保存出来るように作ろう? それは許して」


 保存しなきゃいけないってことはわかっているので、しぶしぶながらもみんな理解してくれた。



 冬を越えて春が来るまで三、四カ月くらいだろうか? 豊かに冬を過ごせるように上手いこと保存しなきゃね。


 ジャーキーは良い具合に作れそうなので、この調子で燻製も美味しく作れるように頑張ろう!



ご覧いただきありがとうございます。

年末年始もいつも通りに更新する予定です。




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