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第七十八話 かあちゃんは充実した二日間を終える


 おうとくうはすでに先に休んでいるし、子供たちもさすがに今日はお疲れだ。


 明日からはまた畑仕事を再開するし、集めてきた植物も植えなければいけない。昼近くまで寝ていたとはいえ、早く休んで疲れをとり、平常の生活に戻した方がいいだろう。


 みんなにもその旨伝えると、タオルや着ていた服、スリーパーなどの洗濯、乾燥を済ませたら、少しだけ魔力訓練をして休もうということになった。


 私も五千程も残っているMPを使ってしまわなくちゃ。



 何を作ろうかちょっと考えて燻製所を作ってしまうことにした。

 パン焼き窯を改良して考えれば、こっちの方が造りは断然簡単なので作れるだろう。


 元々、パン焼き窯を二台に増やす予定だったので、パン焼き窯の隣には場所が空いている。煙が出ることを考えても、広場の端のこの位置が丁度良いと思う。


 そういう訳で私は一人外に出て、(ライト)の明かりを頼りにすでに日の暮れた調理場の奧へとやってきた。



 煙を充満させたい都合上、パン焼き窯程大きくなくていいので、一m四方に高さ二m程の石造りの小屋のようなものをイメージする。


 室内の温度も七十度から八十度も上がれは充分なので、丸みを帯びた形状は必要ない。


 その小屋の中で、下で火を焚いて、その上でチップを燻せるようにすればいい。


 火を焚くので全体に耐火性を持たせて、パン焼き窯と同様に二層構造にする。下の部分で薪を焚くと、上段中央を網状にしておくことでその上に鉄皿に入れて置かれたチップが燻されて煙を出す。

 網の部分やチップに肉から出た脂が滴ってしまうと炎が上がってしまったり、煙が強くなってしまったりするので、四阿(あずまや)の屋根のように側面の開いたカバーが必要だ。チップから出た煙は側面から部屋中に巡らされて食材に良い薫りを付けてくれるだろう。


 煙が多すぎてもいけないので煙突も付けて、燻製にするものを置くメッシュ状の棚や台、天井から吊せるようにフックも付ける。


 この小さな小屋の中に煙が程良く充満して、低めの温度で食材がじっくり燻され、美味しい燻製が出来上がるという作業行程から、完成した燻製の味や香りまで事細かく頭に思い浮かべる。


 出入り口となる扉は密閉性を考えると、都度、土魔法で閉じてしまった方がいいだろうから、今は四角く穴が開いた状態でいい。


 中の様子が覗けるように小窓も付けておこう。どうせ燻製中は煙だらけになって良く見えないんだから、ガラスをはめる必要はないだろう。穴だけ開けておいて、ここも土魔法で開けたり閉めたりすればいいや。


 後々必要ならば密閉性のある扉や窓を考えよう。


創造(クリエイト)・燻製室」


 しっかりイメージ出来たので魔法を発動すると、思った通りの石造りの小屋が現れた。


 火の強さや煙の量、燻製時間などは、使い慣れていくうちに覚えるだろう。


 同じものをあと二つ作って、三つの燻製室が並んだ。


 明日は保存食作りも頑張らなきゃいけないな。

 せっかく分けてもらった大量のお肉をいつまでも放っておくわけにはいかないからね。


 調味液にしっかりと漬け込むタイプと、塩やハーブを直接擦り込んで即席に作れるタイプと両方作ってみようと思っている。


 お肉だけじゃなくて、みんながたくさん集めてくれた野菜類やベリーなんかも無駄にしないようにしなくちゃね。



 これだけやっても、まだMPは使い切れていない。それならと、もう一仕事やってしまうことにした。


 まずは干し台とそこに敷く干布を増やした。野菜や果物を干す仕事は手間がかかるけど、効率的に保存食を作るためにも干し場を増やしたかった。


 それに、家の入り口にある、今は干し台を片付けている物置は、農具なんかをしまう場所にするために空けたいとずっと思っていた。


 訓練用の広場側に、増やした干し台も含め片付けられる大きめの部屋を作って、明日からはこちらに干し台を片付けることにしよう。


 土魔法を使って穴蔵を掘り、新たな大きい物置を作った。



 こうやって穴蔵を掘って、氷とかで室温を冷やすことができれば、冷蔵室も作れるんだけどな。


 氷魔法は水属性の上級魔法だ。上級魔法は高い適性が無いと使えるようにはならない。アンたちは通常の適性なので上級魔法を使えるようにはなれないんだよね。


 まあ、無い物ねだりをしても仕方がない。冬になって積雪が多いようなら、冬の間に雪を貯めておくことで氷室が作れるかもしれない。それに期待しよう。


 実際、これからの気温が下がっていく季節より、春、夏と気温が上昇していく季節にこそ必要になるものだしね。



 外での作業はこれくらいにして戸締まりして家の中へ入り、倉庫に行くために居間を通り抜けようとしたところでみんなから声がかかった。


「すごいよ! モモ!」


「みんなレベルが上がってるの!」


 魔力訓練に際し各自ステータスを確認したところ、狩りに参加した全員が三レベルから四レベルも上がっていたということだ。


 私もさっきステータスは開いたのにMP残量しか確認していなかった。急いで自分のステータスを確認してみると……、レベル五になってる!


「わっ、本当だ! すごいね、全員?」


 直接攻撃をしていなくても狩りに参加して、何かしらの行動をしていれば経験となり、レベルアップするものらしい。なんとなく一撃でもダメージを入れないと経験値は手に入らないとか勝手に思い込んでいた。


 考えてみれば、攻撃には参加してないけど狩りの手伝いをしていた、というジェフのレベルが上がっていたんだから、あり得ることだった。


 ……馬車の中にいるだけでレベルアップしていく太っちょの商人とラスボス相手に死の呪文を連発する神官がちらりと頭を過ぎった。


 元々レベル三だったジェフとコリーはレベル六に、他の全員がレベル五になっていた。見学と称していたマリーもだ。これは嬉しい想定外だった。



 私が外での作業から戻るまでの間に、みんなから留守番をしていたアン、キティ、ピノに狩りの話を詳しくしてくれていたらしく、怖い思いをしたことや、むごい光景があったことも踏まえた上で、アンたちも狩りに興味を示していた。


「直接攻撃することはまだ勇気が出ませんが、獲物を冷やすことや火を消すことでなら私でも役に立てると思うんです」


「美味しいお肉を食べたの。だから、私もちゃんと狩りのこと知った方がいいと思った」


「ピノも! ポチくん昼間でもいいよって言ってた。昼ならピノも頑張る。モモ、こんどは一緒につれてって」


 三人とも真剣にきちんと考えた上で参加を決意したことは顔を見ればわかる。私としても三人にもレベルアップして欲しい。


「もちろんだよ。今度は一緒に行ってみようね。すごく尊い経験が出来るから、一度は参加した方がいいと私も思うよ」


 三人は神妙な面持ちでコクリと頷いた。



 とはいえ、またすぐにという訳にはいかない。


 今回、狩りに参加したみんなはレベルアップしたこともあって魔力量もすごく増えている。しばらくは魔法の訓練をきちんとした方がいいだろう。


 畑や冬の準備もまだ終わった訳ではないし、部屋も作らなきゃ。今回たくさん手に入れた食糧も保存食に加工してしまってからでないとこれ以上増やせない。


 せっかくやる気に漲ってくれたところを出鼻を挫くようで悪いけど、しばらくは地盤固めに精を出して、落ち着いてからまた森へ行くことになるだろう。


 その頃には中級の魔法まで使えるようになっている可能性も大きいし。


 その辺の説明をみんなにも聞いてもらうと、みんなも理解を示してくれて納得してくれた。


 特に、中級の魔法も使えるようになるかもしれないという(くだり)は心の琴線に触れたようで、「明日からまた頑張ろう!!」と全員がやる気に満ち溢れていた。



 明日から頑張るためにも、今日はもう休むということで、みんなで居間に畳モドキとキルトのラグを敷き詰める。


 眠るときに布団を敷くという文化はないだろうが、寝心地を知ってしまったからには、みんなが面倒がるなんてことはもちろん無くて、いそいそと嬉しそうに作業が進められていく。


 床が寝やすくなったし毛布やスリーパーがあるので今のところは暖かく眠れるが、布団や暖房も揃えていかなくてはいけないよね。


 私も明日からまた頑張ろう。



 みんなとおやすみの挨拶を交わして、私はまだ少し残っているMPを消費するために居間を後にする。


 手を付けられずにいたドングリ茸のほだ木栽培の実験をやってみよう。


 食料倉庫から今日採ったばかりのドングリ茸を持ち出す。傘が開きかけ、胞子をたっぷりと貯め込んでいそうなドングリ茸を一つ選んで、地下室へと下り、ほだ木の部屋へ行く。


 一本のほだ木用に切ってきたコナラの丸太の前に立ち、少しだけ緊張した気持ちを落ち着ける。


 前世の知識を思い返してみる。

 私は田舎の地方都市から少し離れた小さな町にいたおかげで、都会生まれ、都会育ちの人と比べたら、聞きかじりでも少しは山の知識があって幸いした。


「確か、ほだ木の表面に穴をあけて、オガクズを菌床にしたもので作ったペレットみたいなのを打ち込んでいた気がする。乾燥させた原木に種菌を植え込むイメージで作ってみよう」


 ほだ木作りの行程と、その後の成育のイメージ、出来上がった肉厚のドングリ茸。すべてを頭の中で描きつつ、


創造(クリエイト)・ほだ木」


 と魔法を使う。


 目の前の丸太がほだ木へと変わる。

 ところどころに穴があきはしているが、種菌が仕込まれた状態になっているのかどうかは、よく見たところで素人目にはわからない。


 続いてこれを成長させる。

 たっぷりの水が必要だった気がする。水瓶を用意しておこう。


 まずイメージするのは種菌から伸び出した菌が丸太へと繁殖してこと。

 充分な水分と風通しの良い環境でほだ木の中へ菌が浸透していく。木の表面に小さな小さなドングリ茸の赤ちゃんが発生してすくすく育ち、肉厚の大きなドングリ茸がほだ木を覆うようにびっしりと生えていく様をイメージしながら、


「この丸太に根付くキノコの菌が強く元気に成長し、立派なドングリ茸となりますように……」


 とお願いごとのような祈りを捧げた。そして、


「大地の精霊様、その慈しみをもって、この小さき子らをお導き下さい」


 と魔法を発動した。


 ほだ木が柔らかく温かな光に包まれていく。


 ぼんやりとした光の中、丸太の切り口にはポヤポヤと白い胞子が伸びていき、種菌が植え付けられたと思われる穴の周りも白くなっていった。


 そして光が霧散した後には、丸太の表面から小さなキノコがポコポコと顔を出してきた。


 ――成功だ!!


 どうやら順調に上手くいきそうなので、今回持ち込んだほだ木用の丸太も壁に立て掛ける。またドングリ茸をいくつか選んできて、残りの丸太にも胞子を浸透させてほだ木にし、全てに成長の魔法をかける。


 ほだ木部屋にズラリと立て掛け並べられた、たくさんの小さな赤ちゃんキノコを生やした丸太の数々。


 後はこのまま成長を待てばいいのだろう。なんとなく部屋の湿度が心配になったので、大分減っていた水瓶の水をたっぷり満たしておいた。


 明日が楽しみだな。



 このままいい気分で眠ってしまってもいいんだけど、あと一回だけなら創造を使えそうなので、地下室を後にし資材倉庫へ向かう。


 明日の畑に試してみるために、石灰岩を消石灰に変えておこう。


 土魔法で蓋付き容器を作り、その中へ変化させた消石灰が入るように魔法を使った。


 消石灰は目に入ったりすると失明する危険もあるので、舞い上がらないように粉状ではなく顆粒状のものにしてあるが、皮膚に着いたりしても炎症を起こす危険があり良くないので、きちんと蓋をして注意して管理しなければいけない。


 その辺に置いておく訳にはいかないので、穴を掘り容器を入れて土魔法で穴の上を閉じてしまう。


 明日、バズに確認してもらって管理もお願いしよう。



 手洗いうがいをして、一応自分に清浄(クリーン)もかけてから居間に戻る。


 私ももう休もう。


 実りの多い二日間だったなぁ。

 食糧や薬草、物資はもちろん、貴重な経験もしたし、レベルも上がった。ポチくんたちとも今まで以上に仲良くなれたと思う。



 ギリギリまで使用した魔力のせいでふらふらしながらも満ち足りた気分で横になり、毛布と聖域をかけて眠りに就いた。



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