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第七十六話 かあちゃんは我が家に帰る


 広場では、私たちはリンゴンやベリーを、ポチくんたちはモツを朝昼兼の食事として美味しくいただき、お腹も膨れたところで、帰る前に少し木材や蔓なども集めることにした。



 堅いクルミの木は私が魔法で木材に変えてしまったが、リンゴンはチップにするので細い枝でいい。


「ピノ、魔法で枝切ってみる?」


 風の刃(エアカッター)を使えるようになったピノに尋ねると、


「できう!」


 言うが早いか、ピノは上手に魔力を操作してリンゴンの細枝を落としていく。


「ピノ、すごい!」


 同じ風魔法使いのルーシーとユニがまん丸に目を見開いて絶賛している。


 スパッ、スパッと華麗な魔力捌きで幹を傷つけることもなく細枝だけを次々と落としていくピノ。力むこともなく、無駄な魔力の流れも一切ない。


「すごいね。楽しそう……」


 もし、魔力に心があるのなら、ピノに扱われているのを喜んでいるみたいなんだ。


 ピノの純粋さの賜物なのかな。


 ルーシーとユニは、自分たちも使えるように練習すると息巻いている。

 これを見ちゃったら、触発されちゃうよね。


「薪用の小枝はピノに任せられそうだね。すごく上手でびっくりしちゃった」


 落としてくれたリンゴンの枝を拾い集めながらピノの元に行き、頭をくしゃっと撫でながら褒めると、


「もお、すっごいとくい!」


 と胸を張っている。


「桜の枝を切る時にもお願いするね」


 任せられたことが嬉しくて堪らないのか、鼻息を荒くして「いいよ!」と笑顔をほころばせた。



 ポチくんは前にやった蔓集めを覚えていて、仲間たちと共にたくさんの蔓を取ってきてくれた。


 大きい荷車の空いたところも、クルミの木材やリンゴンの枝、たくさんの蔓で大分埋まってしまった。


「あとでドングリ茸と桜の枝も載せる予定だから、このくらいにしよう」


 野菜や薬草は場所を記録してあるからまた採りに来れるし、栽培が上手くいけば畑で作れるようになる。


 リンゴンもベリーも白菜モドキも集めたし、今回の予定は熟せたかな?


 ドングリ茸と桜を見つけて帰ろうか。


 おうとくうにも約束を守ってハーネスを作り装着させてあげる。


「えへへ、似合う?」

「ワクワクするね」


 なんかクネクネと身悶える程喜んでくれてる。家までガマンさせなくて良かった。


 大きい荷車をポチくんが、小さい荷車を役目をもらった狼とおうとくうが引き、ネコ車やステップ、余った木箱は地下室にしまって出発しよう。



 昨日、ヤスくんが言っていたキノコの匂いがするという場所を目指してドングリ茸を探しに行く。


 だんだん近付いてくると、


「こっち、こっち」


 また匂いを感じ取ったのかヤスくんが先導してくれた。


 そこにはコナラの木が生えていて、木の幹には立派なドングリ茸が付いている。


「やったね、ヤスくんさすが! ありがとう」


「へへっ、任せてよ。……でも、ちょっと足りないか?」


 うーん、ほだ木栽培が成功すれば問題ないけど、出来ればもう少し量が欲しいかな。


「このキノコを探せば良いのだな?」


 ポチくんが視線で指示を出すだけで、狼たちは周囲の森へと散開して行く。


 すぐに、少し離れた場所から「わおーん」と鳴き声が上がった。


 ここのドングリ茸の採取は子供たちにお願いして、ポチくん、ヤスくんと鳴き声のした方角へ進むと、一匹の狼がドングリ茸のびっしり生えた木の根元でおすわりして尻尾を振っている。


「うわあ、いっぱい。見つけてくれてありがとうね」


 頭や耳の後ろ、首廻りをワシワシと撫でながらお礼を告げると、プロペラのようにぐるんぐるんと尻尾が振り回される。やだ、かわいい!


「ヤスくんも、ポチくんもありがとう。これなら充分な量が集められるよ」

「オイラ役に立てた?」

「ヤスが見つけてくれたから匂いがわかったからな」

「うん! お手柄だよ!」


 ポチくんは仲間たちを呼び戻し、ご機嫌なヤスくんと一緒に私はドングリ茸を集めた。


 これだけあるんなら、ほだ木用の丸太も少し増やしておこうと、近くのコナラの木をほだ木サイズに加工してドングリ茸と共に大きい荷車に積み込んだ。


「ポチくん、調子に乗っていろいろ載せちゃったけど重くない? 一人で平気? 後ろからみんなで押そうか」


 ちょっと心配になって聞いてみたら、


「よせよせ、大丈夫だ。この程度なんと言うこともない。重い車を引くのが楽しいのだから我に引かせてくれ」


 とあっさり断られてしまった。


 重い車を引くのが楽しいんだ。ふうん。

 ちょっとわからないけど、筋トレが楽しい人みたいなものなのかな?



 それから、ウキウキと楽しそうに荷車を引くポチくんに桜の木まで案内してもらった。


 森の出口からいつもなら東寄りに川の方へ向かって進路をとるのだけど、西側に向かって歩を進める。


「この辺りの木がそうだ。一面、薄桃色に染め上げられるから、この辺りは全てモモの望む木だと思うがどうだ?」


「ああ、これだよ……。ポチくんありがとう」


 この幹は私の知ってる桜の木で間違いない。日本を思い出させるものを見るとほんの少しだけ鼻の奥がツンとしてしまう。


「ピノ、この木はすごく弱くてね。枝を切ったら切り口を治してあげないと枯れちゃうの。下の方にある細い枝を切っていってくれる? その後から私が癒しの魔法をかけていくから、一本ずつ丁寧にお願いね」


「うん、わかった! 優しくしてあげなきゃなんだね」


 一本の木から切り過ぎないように、たくさんの木から剪定していくように小さい枝を落としていく。

 その後から私が癒し(ヒール)の魔法をかけて切り口をケアしていく。


 春になったらまた来るね。

 元気でいてキレイな花をつけてね。


 落とした枝はみんなが拾い集めてくれた。


 それらもまた大きい荷車に載せたので、私が少し心配気な顔をしてしまったらしい。


「ははは、モモは心配性だな。我らにはまだまだ余力があるから大丈夫だ。そうだ、背中に乗ると良い。この程度の荷物なら、モモを乗せても余裕だぞ」


 それを聞いたおうとくうまで、


「おうも乗せられるよ! キティ乗って、乗って!」

「くうも大丈夫。ピノ乗って、乗って!」


 荷車を引いてもらってる上に騎乗までさせてもらえることになってしまった。


 荷物を引いていない狼たちもみんなを乗せたがり、ひなちゃんも荷物を引いてる狼も、


「さあ、どうぞ」「うおん!」


 と蹲って、乗りやすいように背中を低くしてくれているので、喜んでみんなで背中に乗せてもらう。


 荷物はシートとロープで固定してあるけど、あまりスピードを出さずに進んでもらうようにお願いした。



 背中の私たちや荷車に負担がかからないように緩やかに走ってくれるポチくんたちとおうとくう。


 それでも、それなりにスピードが出ていて風を切る感覚が気持ちいい。


 私の膝の間のヤスくんも、


「すごい! 早い、早い!」


 と喜んでいるし、ポチくんも、


「わっはっは。これは楽しいものだ!」


 と上機嫌で嬉しそうに走ってくれてる。


「うん、すっごく気持ちいい。楽しいね!」


 私もウキウキしてくる。


 しばらくポチくんの背中を楽しんでいると、もう川原が見えてきた。三十分もかかってないだろう。さすが!


「ポチくん! あの川原に温泉を作ったんだ。気持ちいいよ! 先に荷物を下ろしちゃいたいんだけど、家まで一緒に来てもらえる?」


「岩山の上だな。たやすいことよ。案内してくれ」


 そのまま川原の横を走り抜けて岩山の麓まで来ると、登りは荷物を落とさないようにスピードを緩めてゆったりと進んでくれた。



 広場に足を踏み入れる。

 一日ぶりの我が家に帰ってきた。


 ゆっくりと歩みを止めたポチくんの背中からひらりと飛び降りた私は、先頭に立つと大仰に両手を広げてくるりと振り返る。


「私たちの家へようこそ! 良かったらゆっくりしていってね」


「ここが……」


 畑の間を通り、キョロキョロと物珍しそうな様子のポチくんたちも荷車を引いて家へ向かう。


 入り口の両開きの扉を大きく開けて中へ迎え入れる。


「おお! これがモモたちの巣穴か!」


 興味津々のポチくんを先頭に、みんなでゾロゾロと居間を通り抜け広間へと進む。


「荷物をしまっちゃうから、少しお待たせしちゃうけどごめんね。喉が渇いたでしょう?」


 タライをキレイにして、アンに水を出してもらう。


 ユニとルーには夕食のスープの準備をしてもらって、他のみんなで荷物を片付ける。



 食料倉庫から始めて、まずは食糧を下ろしていく。白菜モドキに木箱に詰められた果実にドングリ茸。葦袋に入れられた野菜。

 そして、待望の肉!


 食料倉庫に収められた大量の食糧に思わず頬が緩む。


 プランターの植物を植えるのは明日でもいいよね。今日はポチくんたちをおもてなししたいし、何よりみんなお疲れだろう。

 プランターも取り敢えず倉庫の一角に保管した。


 次に資材を倉庫に、と取りかかろうとしたところで、水を飲んだポチくんたちも重い木材や革などを下ろすのを手伝ってくれたので、随分と早く全ての荷を下ろすことが出来た。


 留守にしていたので切れてしまっていた聖域を張り直し、肉の滅菌も一応また掛けておいた。


 こんなもんかな?


「ポチくん、温泉に入ったら夕食も食べていってね」


「良いのか? モモたちの暮らしにも興味があるし、そうさせて貰おうか」


 ユニとルーもスープの仕込みを終えて、後は軽く煮込むだけとのことなので、みんなでお風呂に行こう。


 せっかくだから、用意したけど結局着替えず仕舞だった新しいスウェットも持って行こう。それなら下着もキレイなものに替えようか。


 急いでアンダーも用意して、ポチくんたちのタオルと手拭いも作った。



 たくさんになってしまった荷物をポチくんたち用の大きいタオルに包んで手分けして背中に背負うと、またポチくんたちの背中に乗せてもらって川原へ向かう。


「ところでモモ。()()()()とは何だ?」


 何も言わないからわかってるのかと思ってた。知らなかったのか。


「あったかい水に入る水浴びだよ。すっごい気持ちいいんだ」


「水浴びか! 我らもするぞ。狩りの後ゆえ丁度良いな」


 ふんふんと機嫌良さそうなポチくんの背中に揺られて温泉に着く。


 中を見てもらうために川原側に出て、洗い場と川原を隔てる引き戸を開けて、そちらから入ってもらった。


「なんと! 池を作ってあるのか?!」


 ポチくんたちに一番川上にある温度の高い温泉から案内し始めると、湯温を確かめたポチくんは温かい水というものにいたく感動して早速入ってみたいと言ってくれた。


 桶でお湯を掛けてざっと埃だけ流してあげる。


「熱くない?」


「問題ない。いや違うな。とても心地良いぞ」


「じゃあ、入ってみて」


 ちゃぷん、ちゃぷんと前脚をお湯に浸けたポチくんから、


「……おお! これは温い!!」


 と感嘆の声か上がる。ざぶざぶと体を湯船に沈めていく。


 ひなちゃんと他の狼たちにもお湯を掛けてあげると、順番にお湯に浸かっていく。


「ほおぉー……」


 深いため息を溢したひなちゃんに、


「どう? 気持ちいい?」


 と聞いてみる。


「こんな体の芯まで温まるようなものが……。これは水浴びとは違うわ」


「お風呂って言うんだよ。こうして温まると疲れも取れるし、毛並みもサラサラになるし。清潔にすることで病気にもなりにくいんだ」


「んまあ! 何と素晴らしい!」


 ひなちゃんはとても気に入ってくれたようだ。


「石鹸を使って洗うと、もっとキレイになるんだよ。気が向いたら言ってね。洗ってあげるから」


 石鹸で洗い過ぎるのは良くないかもしれないけど、たまにキレイに洗って余計な油分を落とし、ブラッシングで抜け毛による毛玉を解してあげることは皮膚病の予防にもなるだろう。


 ポチくんたちもお風呂が気に入ったようで、独自の楽しみ方をしている。お風呂で温まり、熱くなると川原に出て涼み、またお風呂に入る。


「体を冷やして風邪を引かないようにね!」


 子供たちも男女に別れ、いつものように温度の低い方のお風呂へ入った。私はたまには熱いお風呂に入りたかったので、今日は二番目のお風呂に入ることにする。


「ひなちゃんも来る?」


「はい!」


 二人で隣のお風呂に移動し、私は脱衣所で服を脱いでくる。


 かけ湯をし、石鹸を泡立てて体を洗い、髪を洗っているところをひなちゃんがじぃっと見てる。


「洗ってみる?」


「……! やってみたいです!」


 ムクロジをたっぷり泡立てて洗うが、すぐに泡がヘタってしまう。一度流してもう一度、まだダメだな。三回目、たっぷりの泡を付けると今度は泡立った。


 顔の廻りも手拭いでキレイに洗ってあげて泡をしっかりすすぐ。


「どう? すっきりしない?」


「すごい気持ちいいです! サッパリしました」


 一緒に湯船に浸かり、窓を開けて外を眺める。涼しい風が吹いてきて心地良い。


「お風呂っていいものですね。ほっとするし、サッパリするし、最高です」


「気に入ってもらえて良かったよ」


 川原ではしゃいではお風呂に戻っていくポチくんたちが見える。あーあー、もう川に入っちゃってるし。


「夫も最近とても楽しそうで私も嬉しいの。モモ様……モモちゃんに会えたおかげよ。本当にありがとう」


 ひなちゃん、頑張って口調を変えてくれてる。


「私こそありがとう。ひなちゃんたちのおかげで昨日だってとても心強かったし。それにこうして一緒に過ごせるのすごく楽しい。これからもよろしくね」


「ええ、よろしくね」


 お風呂もいつでも入りに来てくれていいし、お互いに行き来しようねと話した。




「そろそろ上がろうか」


 ひなちゃんはお風呂から上がるとブルブルブルッと体を振って水気を飛ばした。それを私がタオルでガシガシと拭いてあげる。


「うふふ、気持ちいいです」


 私も体を拭き、新品の服を身に付け、お風呂を片付けて外に出る。



 まだまだ楽しんでいるポチくんたちにも声を掛け、子供たちのところへ行くとみんなもすでに上がっていて髪を乾かしているところだった。


 ルーシーたちに毛皮を乾かしてもらったひなちゃんは目を奪われるほどにすごくキレイで。


 黒く艶めく毛皮にご機嫌なひなちゃんは更にお風呂好きになっていた。



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