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第七十二話 かあちゃんは従魔の力を使う

反省会の回です。

獲物の処置のシーンはありますが

グロくはないと思います。


 倒した猪の巨体を前にし、思わずあんぐりと口を開けてしまっていると、後ろからポチくんに話し掛けられた。


「これだけの大物をこうもあっさり倒せるとはな」


 ポチくんの言葉にも若干あきれの感情が滲む。


「こんな大きな猪、洞窟まで運べるの?」


「このままでは無理だな。うーん、食い千切ってしまうか? どうするか。モモが水を運んできた時の、あの道具を持ってくれば良かったな」


 荷車か。作ることは出来るけど、それにしても解体しなくちゃ載せて運べないかも。


「……解体するか。でも斬撃系の魔法は私には無いからな」


 こんなデカいの包丁やナイフじゃねえ。まだ風の刃(エアカッター)を使えるのはピノだけだし。


「斬撃ならば我の爪があるぞ。何をすればいいのだ? 我がやろう」


 ポチくんの気持ちは嬉しいけど……。それだとズタズタになっちゃわないかな。でもナイフで皮を剥ぎ取ってたら、素人の私じゃとんでもなく時間かかっちゃうよね。


 ……創造を使うか。


『従魔のスキル〈クロウスラッシュ〉を材料として、解体(ディスアセンブル)の魔法が作れます。魔法を作りますか?』


 また、あの声だ!


 え?! 従魔? ポチくん? のスキルを材料?

 なんだそりゃ?


「ポチくん、スキルを使ってもらうことって出来る?」


「スキル? どんなものだ?」


「あれ? クロウスラッシュっていうスキルが使えると思うんだけど。……たぶん、爪の斬撃かな」


「……? しばし待て。……クロウ……スラッシュ?」


 ポチくんの右前肢の爪がぼんやりと青い光を纏った。


「これは……?」


 ポチくんが半信半疑な表情のままに、森の誰もいない方に向かい前肢を軽く振ると、ザシュッ! という音とともに四本の青い斬撃が(くう)を切って飛び、前方の大木の幹には巨大な熊が腕を振り下ろしたかのような深い爪痕が残った。


「うわ、すごい……」


「飛ぶ斬撃か……。これがスキルなのか?」


「魔力がぐっと減ってクラクラしたりしない? 体調は?」


 思わず見とれてしまったけど、慌ててポチくんの調子を確かめる。


「うむ。確かに魔力を少し使ったようだ。だが、体調に影響が出るようなものではないぞ。まだまだ撃てる」


「ああ、良かった。いきなり変なことお願いしてごめんね」


 私の創造(クリエイト)の例もある。どれほど魔力を消費するのかもわからないのに、こんな狩りの最中にお願いしてしまったことを今さら後悔したけど、ポチくんが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。


「それで、このスキルで何をすればいいのだ?」


「もう一回あの木に向かって使って見せて欲しいんだけど、ちょっと待ってね」


 改めて、頭の中の声に語り掛けるように呟く。


解体(ディスアセンブル)の魔法を作ります」


 即答しなかったから時間切れとか無いよね? と心配したのだけど、


『材料、スキル〈クロウスラッシュ〉を発動して下さい』


 何事もなかったかのように冷静な声が頭の中に響いた。


「ポチくん、もう一回やってくれる? お願いします」


「うむ。……クロウスラッシュ!」


 ポチくんが、再び青い光を纏った爪を、今度は勢い良く大木に向けて振り下ろした。


 ――ッザシュッ!!


 先程よりも大きな音を立てて爪から放たれた四本の斬撃は、青く光の尾を引くように弾き出された。


 誰もが真っ直ぐ大木に直撃すると思っていた青い凶器は、放たれた直後にググッと軌道を変えて私に向かってきて、


「え?」


 体に触れた瞬間、青い光に包まれる。


「――ッモモ!!」


 光は私の中に吸い込まれた。

 目の前が白くなり、頭がクラッとする。


『オリジナル魔法解体(ディスアセンブル)が創造されました。魔法の発動により、素材となる各部位を最適な処理が成された状態で取り分けることが出来ます』


「モモ! 大丈夫なのか?!」


 いきなりの事態に焦るポチくんと、真っ青な顔をして固まっているみんなに、


「大丈夫だよ、何ともない。心配させてごめん。ポチくんのおかげで新しい力を手に入れたの。ありがとう」


 笑顔でどこも何ともないことを示すため動いて見せる。


 その様子に強ばりを解いたポチくん。


「新しい力……。我のこのスキルもかなり強い力だ。我は更なる大きな力を手に入れた。それがモモの力にもなったということか?」


「うん。ポチくんのスキルの力を借りて、私にも新しい魔法が増えたんだ」


「……そうか、モモの力になれたのだとしたら、喜ばしいことだ」


 だが、あまり驚かせないでくれ。生きた心地がしなかった……と、少し情けない表情で言われてしまった。


 私もああなるとは思いも寄らなかったので焦ったんだよ。


 心配かけて驚かせたみんなにも、もう一度謝った。



 かなり大きな獲物を手に入れたけど、まだ狩りは続けるのだろうか?

 これで終わりなら、手に入れたばかりの魔法で猪の解体をしなければいけない。


 ポチくんに確認すると、


「モモたちがまだやれるのであれば続けよう。この猪は先程のように埋めておけばよかろう?」


 との答えだ。


「みんなにもまだやれるか聞いてみるよ。かなり怖い思いをした子もいるからね」


 みんなの体調や気力を確認するために集まってもらう。

 ルーはすでに落ち着いて泣き止んでいた。


「みんなお疲れさま。ルー、大丈夫? ちょっと大変な狩りだったけど、まだ狩りを続けられそう? 今日はこれで終わりにしようか?」


 特にルーの心と体を心配して話し掛けるが、


「ぼんやりしちゃってごめんなさい。私は大丈夫。コリーが……、助けてくれたから。まだやれるよ」


 それより、さっきのモモの方が驚かされちゃったよ! なんて笑顔も見せているけど。

 うーん、まだやれるってのは、もう無理と紙一重なんだよね。どうしようかな。


「みんなの気持ちはどう?」


 他の子の中に心が挫けちゃった子はいないだろうか。


「今の連携はすごかったよな」

「俺はまだやれるけど」

「私はちょっと失敗しちゃったから、……出来ればもう一度狩りたい、でも」

「私たちはまだやれるけど」

「ルー、本当に大丈夫?」


 この様子だと、みんなも多分まだ狩りを続けたい気持ちはあるのだろう。でも、ルーのことを慮ってはっきりと言えずにいる。


「私はもう一度狩りたい。怖かったままで終わったら、次の時、また怖くなっちゃいそう。気持ち良く成功して終わりたい」


 ルーがそこまで考えているのなら、もう一回だけ狩ろうと決まった。


 ポチくんにみんなの気持ちを報告する。


「みんなやる気はあるから、もう一回狩りたいって言ってる。でも、私から見ると大分疲れているように思えるから、あと一回狩りをしたら今日は終わりにしてもいいかな?」


「良いとも。我らだけで狩っていた時よりも随分効率良く狩りが出来ているからな。我らに不満はないぞ。少し休むか?」


「うん、今の狩りの反省会だけやらせてくれる?」


 もう一度、みんなの元に戻り、休憩がてらの反省会をしよう。だが、その前に。



「あと一回だけ狩りをして、今日は終わりにするって決まったよ。反省会をしようと思うけど、その前にあの猪をさっきの鹿みたいに埋めちゃいたいから手伝ってくれるかな?」


 男の子たちが蔓を取ってきて、猪の前肢と後肢をそれぞれ縛り上げてくれた。

 仰向けにすると、そのまま少しずつ穴を掘り深くしていき、体が収まりきったところで前肢、後肢をそれぞれ通る棒を壁から壁へ渡し、強化させた。

 その後からまた少しずつ深さを増していくことで、猪が穴の中にぶら下がった状態になる。

 清浄(クリーン)浄化(ホーリー)治癒(キュア)をかけてから、ルーに水を満たしてもらい、しっかりと蓋をして地面を固め、場所の記録もした。


 これで獲物の方は大丈夫だな。



「お手伝いありがとう。それじゃあ、休憩しながらさっきの狩りを振り返るよ」


 地面に座り込み、水を飲んだりしながら話し合う。


「まず魔法の発動に反応して猪が起きちゃうとは思わなかった、私のミス。ごめんなさい」


「違う! モモのせいじゃない。私がさっさと罠を仕掛けなかったから、ごめんなさい!」


 ティナも謝るが、


「……ティナは魔法の設置がとても早いのに、わざと二人の設置を待っていたように見えましたけど」


 マリーが指摘した。


「それは、バズとベルのところまで範囲を広げようと思ったから……、どこまでをイメージしたらいいかわからなくて」


「じゃあ、やっぱり私のミスだ。ぼんやりした指示を出しちゃってごめん。今後は気を付けます」


 反省会の様子を覗いていたポチくんが、


「今日が初めてなのだ。慣れるまでは仕方のないこと。今後に生かせばいい」


 と声をかけてくれる。


「はい!!」


 私とティナが声を揃えて返事をした。


 その後の突進は予想していたけど、動けなくなることは考えられることだったのに失念していた。


「これも私のミスだよね。あんなに大きな獣に向かって来られたら固まるよ。みんなのフォローが早かったことは喜ばしいけど、ルー、怖い思いさせちゃってごめんね」


「モモのせいじゃないよ。でも、私も同じ失敗はもうしない。これからは真っ白にならないように出来る。モモ、コリー、咄嗟に助けてくれてありがとう」


「ひなちゃんもあの瞬間に影を伝ってルーのすぐ傍に飛んでたんだよ。何かあってもポチくんたちがちゃんとフォローしてくれるから、安心して大丈夫。次の狩りは落ち着いてチャレンジしようね」


 そうだったんだ! とみんなも気付いてなかったようでびっくりしていた。


「そこからの連携はすごかったね。足止めも誘導も上手くいったし、みんなの魔法の発動の早さもすごかった。ありがとう。こういう風にバッチリ決まると気持ちいいよね」


「うん、すごかったよな」

「流れるように魔法が決まってたよ」

「モモの指示もすごかった」


「あの時は無我夢中だったから」


 ここでマリーの見解が。


「私が見ていた感じでは、ジェフとコリーが二手に別れた位置にいたので、全ての的にスムーズに火の球を放つことが出来たんだと思いました。二人の立ち位置は今回のように左右に別れていた方がいいと思います。

 マークの声掛けは有効だったと思います。みんなちゃんと目を閉じて、すぐに次の行動に移れていました。

 ルーも怖い目にあったばっかりだったのに、魔力はちゃんと手放さず貯めていれたので、咄嗟に発動が出来ていました。みんなすごかったです。また気付いたことがあったら言いますね」


「マリー、ありがとう。それに罠の解除のことも教えてくれて助かったよ。良く見ていて気付いてくれるからありがたいよ。

 ジェフとコリーの立ち位置は次の狩りで試してみよう。マーク、声掛けありがとう。ルーもあんな時なのにちゃんと魔力を貯めていてくれてありがとう。これはみんなも見習おう。なかなか出来ることじゃないかもしれないけど、心掛けていようね」


「はい!」


「初めての狩りとは思えないほど上手くいってるけど、気を抜かないで、ラスト一回の狩りも集中して行こう。頑張ろうね!」


「はい!!」


 みんなの気合も入ったところで元気よく立ち上がる。



「よし。ではもう一狩り行くぞ!」

「うおん!」


 ポチくんたちも気合を入れ直したようだ。



 私たちは月だけが照らす暗闇の森の中、今宵最後の獲物を求めて歩き出した。



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