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第七十一話 かあちゃんは想定外に慌てる

獲物の処置と狩りのシーンがあります。

苦手な方はご注意下さい。


 なんとか初めての狩りの初戦を乗り越えた。


 目の前の大きな穴の中には初めての獲物が静かに横たわっている。


 このままにして行く訳にはいかないので、鮮度を維持して尚且つ隠す方法を考え、試してみる。

 ポチくんに了承ももらった。



 近くの木に巻き付いていた蔓をはぎ取り、これで鹿の四肢を縛ろうと思う。


 ……のだが、これはグロ注意だ。


 足をかけられるでっぱりを何カ所か作り、なんとか穴の中に入ったはいいが、むせ返るような血の臭いと、あらぬ方を向きでろりと垂れた首を見ると思わず腰が引けてしまう。


「縛ればいいんだな」


 躊躇う私の手から、いつの間にか穴に入ってきていたジェフが蔓を取り上げ、あっさりと鹿の四肢を縛り上げてくれた。


「……ジェフ、手際良いね。ありがとう。ちょっとビビっちゃった」


「狩りの手伝いをしてたからな。狩り自体に参加することは無くても、獲った獲物の処理なんかはやったことがある」


 そっか。ジェフは狩りの手伝いをしたって言ってたよね。助かったよ。

 でも、解体まではやったことないらしい。


「吊すのは子供じゃ無理だぞ。血抜きするのか?」


「血も狼さんたちにとっては栄養だと思うんだよ。だから、ホントは血抜きはしない方がいいんだろうけど、この傷だとある程度は抜けちゃうかな。このまま放っとくとあっという間に血生臭い肉になっちゃうから、取り敢えず狩りが終わるまで冷やしておきたいんだ」


 本当はよく冷やすためにも内蔵だけでも抜いてしまった方がいいのだろうけど、ジェフも解体の経験はないのだから仕方ない。

 私だって知識としては朧気にあったとしても、ちょっと無理。長くても朝まで数時間なので、魔法で滅菌状態を作ることで保たせられることを願おう。


 鹿を仰向けにして縛った足を上に向け、土魔法で落とし穴の壁から壁へと足の間を通すように棒を作り出し渡して、しっかり強化する。


 ジェフと二人、穴から這い出て、落とし穴の底をさらに掘り下げ深くすれば、鹿は宙に吊られた状態になる。さらに穴のサイズを縮めて、吊られた鹿ギリギリの大きさまで小さくした。


「ルー、ここに水を出して欲しいんだけど出来る? 怖い?」


「コ、コワイ……けど、私も役に立ちたい。水を出す」


 清浄(クリーン)浄化(ホーリー)、さらに一応解毒になる治癒(キュア)もかけてから、ルーに穴を水で満たしてもらう。


「MPは大丈夫?」


「う、うん。水を出しただけだから。まだ全然大丈夫」


「ありがとう、ルー。怖いのに無理させてごめんね」


「そんな! 私の出来ることをしただけだよ。みんな一緒だよ」


 ルーの頭を撫で、ギュッと抱きしめる。


「ありがとう」


「うん、役に立てた。嬉しい」


 仕上げに落とし穴の上をしっかりと蓋して塞ぎ、周囲の土も含めて強化をかけてしまう。


「これで鹿が冷やされて菌も増えないだろうし、他の動物に荒らされないと思う。帰りに掘り返して持って帰ろう」



 穴のあった地面に向かい、手を合わせ祷る。感謝と贖罪、そして決意を。


 他者の命を奪って生きる。今までだって、前世でだって、ずっとしてきた事だけど、自分で手を下したのは初めてだった。


 まだ動揺はしている。でも続けていかなければならない。アンとの会話を思い出す。糧としていただいた命の分も真摯に頑張ろう。そして、報いるために、みんなで楽しく幸せに暮らそう。


「ありがとうございます」


 気付くとみんなも手を合わせていた。



 ポチくんにお願いして、少しだけ休憩させてもらう。みんなまだドキドキが収まらないから。


 せっかくだから、この時間を使って反省会をしておこう。


「今回はすごく上手くいった。相手に気付かれなかったのが良かったし、罠の設置も早かった。マークたちも、すぐ魔法が撃てるように準備してくれてたし。マークが素早く魔法を当ててくれて助かったよ」


「私、あれで目が眩んじゃって、気が付いたら終わってた」

「俺もだ」

「オレも」


「立っていた位置もあるんだろうけど、輝き(シャイン)の呪文が聞こえたら、みんな即、目を瞑るクセをつけよう。出来れば片目で。そうすれば、魔法が使われるまでも、使われた後も視界を確保出来るから」


「わかった」

「なるほど」

「気を付ける」

「出来るだけ大きい声で呪文を言うようにするよ」


「それから、ルーシーとユニは大丈夫だった? 上手く操作出来てたけど」


「モモがちゃんと指示出してくれたから」

「うん、わかりやすかった」


「僕もだ。イメージしやすかった」

「私も」

「私の罠にはかからなかったけど、上手く出来たよ」


「良かった。これからも出来るだけ早く見つけて、ちゃんと指示が出せるように頑張るね」


「オレは何も出来なかったな……」


 コリーがちょっとヘコんでる。


「ジェフとコリーには指示の出し方が思い付かなくて。ごめんね。……魔法を撃って欲しいところに土魔法で的を出すよ。名前を呼んだら、それに素早く当ててみて。数をこなすうちに魔法を撃つタイミングや、当てる場所が自分の判断でわかるようになると思う」


「やってみる。次は頑張る」

「俺もだ。頼むなモモ」


「ルーは次もまた水をお願いしても大丈夫? 無理はしないで」


「大丈夫。必要なことだから怖くない。美味しいごはんや、あったかい毛皮のためだもん」


「ありがとう。魔力が三十まで減ったら教えて。それ以上は無理したらダメ。お願いね」


「わかった。狩りの途中で倒れたら困るもんね」


「マリーはどうだった? 怖くない?」


「私は……、怖かったけど、私も役に立ちたいって思いました。最後、モモちゃんが罠を消していたのは、狼さんたちが罠にかからないように、ですよね」


「ちゃんと細かく見ててくれたんだね。そうだよ」


「今回は、すごく上手くいってたと思います。一つだけ、全部終わるまでは気を緩めないようにしないと、って思いました。これからもしっかり見ていて、気が付いたことがあったら言いますね」


 反省会を終える頃には、またみんなのやる気も満ちて力を取り戻していた。一回目で心が折れちゃうことも考えていたけど、みんな逞しい。


 最後にポチくんたちにも、


「獲物の捕獲が成功して、他の罠を解除したら声をかけるようにするね。さっきはもう少しでポチくんたちも罠に嵌めちゃうところだった。ごめんなさい」


 と謝って反省すると、


「初めてなのだ。失敗を恐れるな。失敗しても我らがなんとかする。何でもやってみろ。先程だって上出来だったではないか。さて、そろそろ次の獲物を探そうか?」


 と優しく言ってくれた。


「うん、まだまだ頑張れるよ。もう大丈夫。行こうか!」


 鹿を埋めた場所は地図作成(マッピング)で記録しておいて、再び私たちは歩き出した。



 少しすると、山の中に大きな気配を感じる。


「ポチくん、山の中に大型の気配。じっとしてて動きがないから、寝ているのかもしれない。大きさは三m以上……ひなちゃんくらいありそう」


「それは猪かもしれんな。大型とはありがたい。行くか」


 ルーシーとユニには、進行方向と逆、向かい風を吹かせてもらう。


 近付いていくと、浅い窪みの中に巨大な猪が横たわり、眠っているのが目に入った。


「こっそり近付いて、猪の前方と左右を罠で囲んじゃおうか。後方にはポチくんたちがいてくれるから、そのまま罠に掛けられれば万々歳。もし先に目を覚ましちゃったり、罠を避けられちゃったら、猪は突進するから、進行方向には立たないように。走り出したら真っ直ぐ突き進むと思うから、もし自分に向かってきたら、後ろへ逃げずに左右へ避けるんだよ。まずは突進を避けること。最悪、逃げられちゃってもいいから、安全第一でね。一発目の突進を避けた後、逃げずに振り向いて、また突進して来ようとするなら、マークの目眩ましとジェフとコリーの火魔法で足止めをしよう。その側に罠を張り直すか、そのまま足止めしてポチくんたちに任せよう。ポチくん、こんな感じでいいかな?」


「うむ。危険と判断したら我らが出よう」


 作戦は決まった。



 ポチくんたちは猪の後方に静かに移動していった。


 罠の魔法が設置出来るギリギリの距離まで近付くが、猪が起きる様子はない。


 バズとベルが左右に落とし穴を、ティナが前に痺れ罠を設置する。


 他のみんなはいざという時逃げやすいように、適度に間隔を開けて散開した。


「罠の大きさは三m、深さも三m。ティナの発動範囲は丸じゃなくて、バズたちの落とし穴の方まで届くくらいに少し横長にしよう」


「よし」

「いくよ」

「……うん」


 ジェフたちも魔法を発動する準備は出来ている。私も何かあってもすぐ対応出来るように魔力は集めている。


 OKのサインを出すと、すぐにバズとベルは落とし穴を設置したが、……なぜかティナが遅れている?


 ……!! ブモオォォォ!!


「ヤバっ!」


 前方の罠が設置されていない状態なのに、魔法の気配に感付いたのか、猪が起きてしまった。


 寝起きとは思えない俊敏さで、前肢を一掻きすると前方へ向かいすごい勢いで突進を始めた。


 巨大な体躯に見合わない速度だ。


 ターゲットはジェフ、コリー、ルー。

 ジェフとコリーは左右にさっと避けたが、ルーは体が固まってしまったかのように動けずにいる。


岩の壁(ロックウォール)!!」

「ルーこっち!!」


 私が魔法を発動したのと、コリーがルーの腕を引いたのと、ほとんど同時だった。


 真っ直ぐに突き進んだ猪は岩壁に激突した。


 そのまま倒れてくれれば良かったのに、一瞬動きが止まっただけで、クルッと向きを変えこちらへ振り返る。

 うわ、怒ってる!


「マーク!」


 マークに指示を出しながら、猪の周囲に的を作り出す。


「目を瞑って! 輝き(シャイン)!」


 猪の顔の前で光がはじけて再び動きが止まった。


「ジェフ! コリー!」


 二人は間髪入れず、猪の周囲に置かれた的めがけ次々に火の球(ファイアボール)を撃ち込んでいく。

 下草が燃えて周囲が炎に包まれ、猪が躊躇した。


「ティナ、落ち着いて。猪の前に三mの痺れ罠を設置」


「はい! (トラップ)!」


 設置の早さならティナが一番だ。


「ルー、罠の前の火だけ消して!」


「……! 水の球(ウォーターボール)!」


 焦った猪は火が消された方向へ向かい、突進して逃げようとした。

 が、一歩踏み出せばそこには痺れ罠がある。


 捕らわれた猪は、身動き一つ出来なくなった。


麻痺(パラライズ)


 これで完全に動きは封じたはず。


「ポチく……」

「罠の解除がまだです!」


 マリーの声に教えられ、急いで落とし穴を戻し、痺れ罠も解除した。未だ燃えていた下草には土魔法で土を被せて消火する。


「ポチくん! お願い!」


 木々の間から次々と現れたフォレストウルフたちが猪に群がり、辺りに血飛沫が舞う。断末魔の声が低く響いた。


 ――巨大猪は仕留められた。



「ふーっ、マリーありがとう。危なかった」


「いえ、モモちゃんかなり焦ってましたから。間に合って良かったです」


「やったー!」

「成功ー!」


 今回はみんなも腰を抜かしたり呆けたりせず、狩りの終了と成功を喜んでいる。


 ただ一人、逃げ遅れたことにより、未だ恐怖に引き攣っているルーを除いて。


 急いでフォローしなくちゃと、駆け寄ろうとしたのだけど……。


 そんなルーの背中をポンポンと優しく叩きながら、


「もう大丈夫だよ。狩りは終わった。安心して」


 コリーが話し掛けている。


「あ、あ……コリー、ありがとう。怖かった……。動けなくて。コリー、助けてくれて、ありがとう……」


 あーあ、泣いちゃった。

 よしよしと頭を撫でながら、「もう大丈夫だよ」と優しく繰り返しコリーが落ち着かせてくれてる。


 ルーのことはコリーに任せよう。



「すごいぞ、モモ。ひなに続いて我らも飛び出すところだったが、お主の魔法の方が早かった」


 気付けば、ひなちゃんはルーの傍にいる。あの時、瞬時に影を伝って助けに行ってくれていたんだろう。真っ黒で気が付かなかった。


「ポチくん、ひなちゃんありがとう。かなり焦っちゃったよ」


「いやいや、的確な指示と作戦であったぞ」


 ポチくんは私たちの思うようにやらせてくれたんだろうな。



 かなり危うかったけど、なんとかかんとか連携を成功させ、猪を狩ることが出来たのだった。



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