第六十九話 かあちゃんはパーティーを楽しむ
わざわざ、地下室までお迎えに来てくれたポチくんに先導され、私たちは森を北へ進んで行く。
白銀に輝く美しい毛並みを持ち、高級ワンボックスカー並みのの巨躯をしたポチくんの荘厳さに中てられ、最初は萎縮していた子もいたが、優しく懐の深いポチくんのおかげで今では和気あいあいと狼たちの巣穴を目指している。
それにしても、ポチくん、モフモフ度が上がっている気がする。
私たちにスピードを合わせてくれて、隣をゆったりと歩くポチくんをまじまじと見つめる。
体もなんか大きくなった気がするし。冬毛になったのかな? ブラッシングが楽しみだ。
「ポチくん、ブラシを持ってきたから、後でブラッシングさせてね。換毛の時期なの? なんか前よりもっと大きくなったような気がするんだけど」
「モモ……」
ポチくんはあきれたような声を出して、目をパチクリさせた。
「換毛はするが、これは違うぞ。我はモモのおかげで大きく、さらに強くなれたのだ。今の我は進化してフェンリルなのだぞ?」
え? 進化? フェンリル?
なんか伝説っぽいやつ?
「……モモは、本当に何も知らずに我らに名を与えたのだな。モモが名に力を籠めて授けてくれたおかげで、我はダイアウルフからフェンリルへと進化した。ダイアウルフの体では内包出来ない程の力を注がれた故に、モモの魔力が馴染んだことによりさらに強く進化したのだ。
番のひなはグレイウルフからシャドウウルフへと進化したぞ。おそらく、そのヤスもフォレストモンキーがワイズモンキーになったのであろう。おうとくうも、エミューリからハイエミューリに進化している」
「えええ?! そんなことになってたの?! じゃあ、ヤスくんがすっごい賢いのって……」
「進化してのことであろう。おうとくうも力が強くなり、脚もより速くなっているのではないか?」
「うん! 絶好調ッス」
「かあちゃんのおかげッス」
「……はああ、ぜんぜん知らなかった。みんな、なんか急に変わっちゃって不都合はない? 大丈夫?」
「何言ってんだ、かあちゃん。かあちゃんのおかげで、オイラ、頭も良くなって、それだけじゃなくって、みんなと一緒に暮らせて。オイラ、楽しくって毎日すっごい幸せだぞ。ありがとう、かあちゃん」
「おうも! すっごい幸せだよ」
「くうも! 毎日楽しい。ありがとう」
「我らもだ。力漲り、群れの仲間たちも安心して楽しく暮らしておる。モモのおかげだ」
「えへへっ。そっかあ。みんな楽しくて幸せなら良かった」
「……ははは! 何と言うか、モモはいつでもモモであるな!」
ポチくんが堪らないといった風に大きな声で笑い出すと、つられたようにみんなも笑い出す。
朗らかに笑いながら森を進み、狼たちの巣穴が見えてきた。
群れのフォレストウルフのみんなと、艶々とした真っ黒な被毛を持つ狼ひなちゃんが、洞窟の前にズラリと揃って出迎えてくれている。
「モモ様、良くいらっしゃいました。またお会い出来て嬉しいです。幼子たちも良く来ましたね。ひなと言います。仲良くしましょうね」
「ひなちゃん、久しぶり。元気そうだね。良かった。脚の具合は大丈夫? なんか前にも増して黒くてツヤツヤだね」
「はい。ありがとうございます。モモ様のおかげで進化させていただきましたので。体の調子も何も問題ありません。前より良いくらいです。影にも潜れます」
おっと、凄いのきたね。
とか思ってる間にも、ひなちゃんは自分の影の中にスッと潜り、隣にいるポチくんの影からサッと姿を現した。おお! すごい!
そして子供たちに、
「よろしくね」
と気軽に挨拶してくれた。
子供たちは、わあっ! と歓声を上げ、
「ひなちゃんすごいね!」
「キティだよ。よろしくね」
「ピノだおー仲良くしてね」
次から次へと挨拶されている。ひなちゃん大人気だ。
ヤスくんとおうとくうも、
「姐さんすっげー!」
「すてき!」「そんけー!」
と憧れの目で見つめている。
「みんなも久しぶり。元気そうだね。今日は、よろしくね。お土産も持ってきたよ」
ずらっと並んで出迎えてくれたフォレストウルフたちにも声をかけると、ポチくんたちより小さいとは言え、小さめの軽自動車くらいある巨体を伏せ、パタパタと尻尾を振りまくって歓迎してくれる。
ちょっぴり持ち上がったお尻が可愛い。
こんなに大きな狼の群れなのだ。本当ならば、みんな恐怖に縮み上がってしまうはずなのに、ポチくんとひなちゃんの優しさと、狼たちのその可愛らしい仕草のおかげで、子供たちも緊張をほぐして、
「よろしくね」
「仲良くしてね」
と話しかけることが出来ている。
まだ多少ぎこちないところもあるけれど、この様子なら次第に打ち解けることが出来そうだ。良かった。
早速、焼き芋パーティーの準備を始めよう。
前に作った水瓶に清浄と浄化をかけて、アンに水を作り出してもらう。
土魔法でお皿やカップを作って、みんなに配ってもらい、洞窟の前の広場の真ん中には大皿をいくつか作り出す。
包丁とまな板も作って、持ってきたパンを切ったり、別の水瓶には大豆から豆乳を作ったり、ボウルを作ってそこに豆乳を汲んでもらったりと、次々に用意していく。
切ったり、配ったり、並べたりは子供たちに任せて、私は魔法を次々に使っていく。
採りたてのサツマイモも魔法で焼き芋にしようとしたところで、
「皆と出会えた祝いの席であるのに、酒が無いのがちと寂しいなあ」
とポチくんが言う。
「ポチくん、お酒飲めるの?」
「この群れと出会い、この森を住み処としてからは酒は手に入らぬがな。昔は良く捧げられたものであったが」
何か少し遠い目をしながら懐かしそうに呟く。
ポチくんってなんかすごい過去を持ってるの?
「うーん、じゃあ、夜には狩りもあるから、少しだけ作るよ」
また別の水瓶に、焼き芋用のサツマイモの一部を使って、
「創造・芋焼酎」
とお酒を作ってみた。
「今は材料が芋しか無かったから、これでも飲める?」
ボウルにほんの少しだけ汲んで差し出すと、
「おお! これは中々良い香りがするし、酒精もある。良い酒だ。モモは何でも作ってしまうのだな。さすが我らが友だ」
私はお酒には詳しくないので味とかわからない。
「飲み過ぎないでね」
とだけ言っておいた。
「わかっておる。乾杯とやらをするのであろう? その時だけだ。残りは狩りの後にしよう」
ポチくん嬉しそうだ。尻尾が振れちゃってる。
せっかく乾杯なら、私たちも果物を持ってきてジュースを作れば良かったな、と少し残念に思った。
次回はいろいろ持ってこよう。豆乳はお土産なので狼たちの分だしね。
と思ったところで、腰カゴの中に箱に詰め忘れたオレモンの実が入っているのに気付いた。
少しのサツマイモを液糖に変えて、オレモン汁と水で割り、ハチミツじゃないけどレモネードだ。
私たちの分の飲み物も用意出来たので、今度こそ全てのサツマイモを創造を使って焼き芋にする。出来上がった湯気を立てるホカホカの焼き芋は大皿に山のように積まれ、隣には子供たちの手によりトマトも並んだ。
料理と呼べる程のメニューではないけど、食べ物がずらっと並べられ、飲み物も配られて、パーティーの始まりだ。
ポチくんたちから何か一言、と頼まれてしまった私は、
「今日は突然押し掛けたのに、歓迎してくれてありがとう。焼き芋と、私たちの畑で採れた作物で作ったものです。口に合うかわからないけど、試してみてください。それでは、ポチくんたちと私たちが出会えたことを祝って、そして、これからもずっと仲良くしていけることを願って……、乾杯!」
「乾杯!!」「乾杯!!」「ワオーン!」
みんなで楽しく焼き芋や、お土産に持ってきたものを食べていく。子供たちは狼たちのお皿に取り分けてあげたりしている。
ポチくんは芋焼酎をとても気に入ってくれたようで、美味しそうにごくごくと一杯空けていた。
約束したので、二杯目は豆乳を注いだんだけど、
「なんと! これは乳か?!」
と驚いて喜んでくれた。量はあまり無かったので、狼たちに一杯ずつしか用意出来なかったけど、ひなちゃんもみんなも気に入ってくれたようだった。
「植物の実を搾った乳なんだけどね。口にあったなら良かった」
「モモ様の持ってきてくださる物はみんな美味しいです。この赤い実も、こっちのこれも」
「それはパンだよ。麦っていう植物の実を粉にして作るんだ。赤いのはトマト。どれも家でみんなで育てたんだよ」
ポチくんたちは基本肉食なんだろうけど、私たちのお土産も楽しんでもらえたようで良かった。
みんなして、自分たちの暮らしのことや、今晩の狩りのことなんかを話しながらの食事はとても楽しくて、目の前の山のような料理もどんどん減っていく。
ジェフとルーシーが頑張って掘ってくれたサツマイモは、少しお酒や液糖に使わせてもらったけど、それでもたくさんの量があったので、体の大きな狼たちにも満足してもらえたようで良かった。
違う種族だけど、同じものを食べて楽しく笑い合えたなら仲間だよね。
緊張していた面々も今はもう打ち解けて、狼の背中に乗せてもらったり、撫でさせてもらったりしてるし、狼たちも初めての賑やかなパーティーを楽しんでくれているようで何よりだ。
ヤスくん、おう、くうは、ひなちゃんにすっかり心酔してしまっていてベッタリだし。
「そうだ、ポチくん。ブラッシングさせて。そしてふわふわになったポチくんをモフモフさせて」
「ブラッシングというのは知らぬが……いいだろう。モモの好きにして良いぞ」
お茶の木で作った大きいブラシでポチくんの背中を梳かす。大きな背中をじっくり梳かしてから、頭や耳の後ろ、胸の毛なんかも全部梳かす。
ポチくんがどんどんサラサラのフワッフワになっていく。
「尻尾は触られるの嫌だよね」
時々、わふわふと小さい声が出てしまっていたポチくんは、
「いやいや、これは気持ちが良い。構わないから尾もやってくれ」
とお許しをくれたので、尻尾の先までサラッサラにしてあげた。
ポチくんの白い毛並みがさらに輝きを増している。そんなポチくんのふわふわの毛皮に顔を埋めてモフモフしまくる。
「うはあ、ポチくんふわっふわ。最高。気持ちいい。癒やされるー」
ブラッシングされるのも撫で回されるのもポチくんも気持ちいいらしく、終始、目を細めてうっとりしている。
「いいなあ、モモ。私も触ってもいいですか?」
キティもふわっふわに惹かれてやって来た。
ポチくんにちゃんと許可を得てお許しをもらったので、顔を埋めてモフモフを楽しみまくっている。
「はあ、ポチくんの毛皮、最高ですう」
蕩けそうな笑顔だ。
「じゃあ、次はひなちゃんの番ね」
「私もやってもらえるのですか? お願いします!」
ポチくんの毛皮がキレイになっていくの興味津々に見つめていたから、羨ましかったんだと思う。狼でも、女の子はキレイに敏感なんだね。
ひなちゃんのサラサラ、ツヤツヤの黒い毛並みをブラッシングして、さらにサラッサラのツヤッツヤにしていく。
「ひなちゃん、話し方が固いよー。もっと気楽に話してよー」
「ええ? が、がんばります」
なんて話しながら梳かしていく。頭のてっぺんから爪の先、尻尾の先まで整えて、
「ひなちゃんキレイ。すっごい美人さんになったよ」
少し動く度にサラッサラッと揺れる毛並みが美しい。
「おお! ひな、美しいぞ」
ポチくんにも褒められて、ひなちゃん嬉しそう。
「私たちもやってあげたいです!」
マリーが鼻息荒く言うので、ブラシを渡してバトンタッチ。狼たちの毛皮もみんなで交代しながら、順番に梳かしてあげていた。
私とジェフ、マーク、バズは、ポチくんに今夜の狩りの私たちなりの作戦について相談し、指南してもらうことにした。
みんなから少し離れ、まずは私が立てた作戦を説明する。
「獲物を感知で見つけたら、風を操れる子がいるんで匂いを気付かせないように近寄れると思うんだ。私も気配を隠す魔法を使えるし」
ここでバズに落とし穴の魔法を使って見せてもらう。
「これは上に乗ると穴に落ちる罠。痺れさせて動きを止める罠もあるよ。獲物に気付かれずに近付けたら、この罠の方に追い込んで、身動きが取れなくなったところをポチくんたちに仕留めてもらおうと思うんだけど」
ジェフとマークにも魔法を見せてもらう。
「子供たちの使う魔法は、まだ威力が無いから仕留めるのは難しいけど、逃がさないように牽制したり、怯ませたりなら出来ると思うんだ。どうかな? この作戦。使えそう?」
ポチくんはとても驚き、うーむと唸ると、
「我らは速さに任せて、ひたすら追い詰め狩ることしかしてこなかった。これは上手くいけば、大分楽に狩りが出来そうだ。ぜひ、試してみよう」
「私たちには狩りの経験が無いの。ポチくんの指示に従うのでお願いします」
いよいよ、この後は狩りの時間だ。




