第六十八話 かあちゃんは思いがけず良い物を手に入れる
みんなをハラハラさせる問題はあったけど、マリーたちもマークたちも、いろいろなものを見つけて採集してきてくれたということなのでお披露目してもらおう。
まずは野草を集めに出たマリーたちからだ。
根のままプランターへ植えて持ってきてくれた分を、また引っこ抜く訳にはいかないけど、それとは別に採った分もあるとのことで、葦袋の中のものを見せてもらう。
「これがちょっと細めだけどキャロに似ている根っこ。それからこれは白くて大きいけどラディッシュに似てるでしょ? こっちの二つは太さの違う同じ葉っぱかと思ったら、抜いてみたら根っこが違うの。細い方は匂いも強いし」
ルーが根菜らしき数々を並べて見せてくれる。
「こんなに立派な葉っぱも見つけたよ。柔らかそうだし、きっと美味しいよね! それにこの実を見て。こんなに大きい実が地面を這うツルに生ってるんだよ!」
ユニが一抱えもある緑色の大きな実を重そうに持ち上げている。
「全部数本ずつ、根から掘ってプランターに植えてあります。ただ、その大きい実だけは蔓が広がり過ぎていて、根が取れませんでした」
「すごい! すごい! すごい! 良いものいっぱい見つけたね。実のやつは中に種があるから大丈夫だよ!」
少し申し訳なさそうに報告するマリーにそう告げると、ホッとした顔をしてから、誇らしげに微笑んだ。
もちろん、ユニとルーも成果を認められて嬉しそうだ。
見たところ、ニンジン、カブ、ニンニク。ネギっぽいのは玉ネギと長ネギの中間みたいな感じで、玉の部分も伸びた茎葉も使えそうに思える。ほうれん草のような濃い緑の葉野菜に、極め付けはカボチャ。大きく、重くずっしりとしていて美味しそう。
これらを育てられれば一気に野菜のバリエーションが増やせる。
ビタミン類をドライフルーツだけに頼らずに済む。
成長期の子供たちに色の濃い野菜は大切な栄養だ。すごく嬉しい!
薬草を探してくれていたマークたちもいろいろ見つけていた。
ベルとティナが怪我を負いながらも見つけてくれたアカネは、文字通り赤い色をした根っこで、地上部分は蔓植物になっている。アカネは優れた止血剤として使えるらしい。
二人がはぐれた時、マークが見つけてそちらに気を取られてしまっていたという薬草は、これも根が傷薬になるということだ。
傷薬と止血剤を見つけて怪我するって、準備が良いと言えばいいのだろうか? どういう因果?
それから、ヤスくんも薬草を見つけてくれた。
一つは、葉っぱが解熱、殺菌に使えて、なんと蜘蛛やヘビの毒消しにも効くのだそうだ。すごいの見つけたね!
それにもう一つ。
ヤスくんが言うことにはお腹の薬になるというその根っこは、ショウガをもっとずっと大きくゴツゴツさせたような見てくれで、切り口は鮮やかな黄色をしている。
……ウコンかもしれない。飲む前に飲むやつだ。二日酔いの薬としては、私たちの間では出番が無さそうだけど、スパイスとしてや、食用色素として使えるかな。染料にも出来るかも。
「すごいね。これだけいろいろな薬草を準備しておければ安心だね!」
「あと、これもあるんだけど」
マークが取り出したのは葉っぱの付いた枝だった。
「村では良く使っていた薬だよ。この木の皮が痛み止めになるんだ。木だから根から持ってくるのは無理だったけど、皮を剥いで取ってきた。
葉っぱはお茶にすると体に良いって聞いたことがある。じーちゃんとか、お腹に赤ちゃんがいる女の人が飲むんだ。だから枝も取ってきてみたんだ」
見覚えのあるその枝を手に取り、葉っぱを一枚毟り、裂いてみると白い糸を引く。
「すごい……。杜仲だ……」
前世で私もはまったことがある杜仲茶は、ちょっぴり苦くてちょっぴり甘い不思議な味だけど、鉄分や亜鉛、カルシウムなどの植物性ミネラルや、ビタミンなどの栄養素を多く含んでいて、しかもカフェインが含まれていない。体にも良くて、寝る前に飲むことも出来るし、妊婦さんや子供にも飲める漢方の健康茶だ。
むくみにも効果があると聞き、はまったのだが、何しろ漢方なのでお高い。
仕事先の知り合いに家が杜仲茶の茶畑をやっているという人がいて、挿し木が出来るからと枝を分けてもらい、育てていたことがあるのだ。
その時、杜仲についてはいろいろと調べた。
お茶としての効能も大変素晴らしいのだけど、今の私にとって一番重要なのは、この白い樹液。
――白く糸を引くこの樹液はゴムになるんだ。
「マーク! 見つけてくれてありがとう! 私、この木育てたい。育ててもいいかな?」
バズの方を見て確認すると、
「モモが育てたいなら、もちろんいいけど、どうする? 幼木を探して掘り返して持って帰る?」
「ううん! この枝で挿し木……、枝を土に植えると枝から根が出てくるんだよ。だから、この枝で増やせるの!」
「へえ、良く知ってるね。それなら、この枝を育ててみよう。薬になるし、体に良いお茶も作れるんでしょ? 木を育てるのは大変だろうけど、僕も手伝うよ」
ああ、こんなに大収穫で、やっぱり精霊様が導いてくれているのかな?
でも、子供たちのお手柄でもあるよね。
「今日もいっぱい発見してくれてありがとう。みんなのおかげだよ。採集を頑張ってくれたみんなもありがとう。精霊様にも感謝しなきゃ」
精霊様、いつも見守ってくれて、導いてくれてありがとうございます。これからも精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
みんなの無事と大収穫を精霊様に感謝した。
それから、たくさん採集した森の恵みも確認し、みんなで喜び合った後、狼の巣へ出かける準備をする。
ジェフとルーシーのおかげで中くらいの荷車にどっさりと載っているサツマイモを端に詰めて寄せてスペースを作り、狼のところへ持っていく荷物――お土産のトマト、大豆、パンや、着替えのスウェットやスリーパー、マフラーに軍手などを載せていく。もちろんブラシも。
狼のところへはこの一台だけ持って行く。荷車に載せてある食料はみんな向こうで下ろすので、もし、狩りの分け前を少しもらえても、帰りに載せてくるスペースはあるので充分だろう。
他の荷車はここに置いていこう。
一日置きっぱなしにして、もし動物がやってきても荒らされないように、後で土魔法で壁を作り荷車の周りを囲っておけば大丈夫だと思う。
準備が出来たところで、早めだがお昼にした。夜の狩りのために仮眠をとっておく必要があるからね。
採りたての果物を食べてから、みんなで懐かしの地下室に入る。
ほんの半月前のことなのに、もう随分時が過ぎたような気持ちだ。ここへ来てからの密度の濃い日々のせいだろう。
三時間程で目覚めるように調整して、一人ずつ睡眠の魔法をかけていく。
全員が眠りに就いたところで、一応周囲に聖域の魔法もかけて、自分にも睡眠をかけて眠った。
◇
最後に眠ったのに最初に目が覚めた。
時間を確認しようと地下室から地上へ出ると、そこには白銀の大きな狼、ポチくんが待っていた。
「ポチくん! 久しぶり、元気にしてた? みんなで遊びに来たよ」
「モモ、久しいな。我らはあれから問題なく元気に過ごしていたぞ。モモも元気そうで何よりだ。先ほど大きな魔法を使ったであろう。モモの魔力を感じたのでな。多分、ここであろうと思い待っておったのだ」
あらら、寝てる間ずっと待たせちゃったかな?
ごめんね。
謝ると、「気にすることはない。我も寝ておったからな」と笑ってくれる。
「ありがとう、ポチくん。急に来ちゃったけど、前に言ってた焼き芋パーティーと狩り、今日でもいい?」
「我らはいつでも構わぬぞ。そうか、焼き芋か。あれは中々に美味かった。楽しみだな」
「ちょっと待っててね。みんなも呼んでくるから」
地下室に戻り、そろそろ起きるはずのみんなに声をかけたり、揺らしたりと刺激を与えれば、次々に目を覚ましていく。
「みんな起きて。ポチくんがお迎えに来てくれたよ。外で待ってるよ」
既に会っている子供たちは、わあっと喜び外へと駆け出して行くが、まだ狼をその目で見ていない子供たちはちょっぴり身構えて躊躇していて、特にヤスくんは緊張してカチカチだ。
「大丈夫だよ、ヤスくん。みんなもおうとくうも、紹介するから外に出よう」
カチカチのヤスくんを抱え、ぞろぞろと地上へ上がる。
大きくて威厳のあるポチくんの姿に、みんなおっかなびっくりだが、キティは一歩前に出て、
「ポチくん初めまして。キティです。仲良くしてください」
と自分から挨拶した。
ポチくんは目を細めると、
「モモのところの子らは本当に物怖じしないのだな。ふふ、仲良くしよう」
とキティに答えてくれた。
「うん、ありがとう。触ってもいい?」
「ははは、いいだろう。近くに来い」
背中をそっと撫でるキティを優しく見つめるポチくん。もう仲良くなっている様子に安心したのか、続いて飛び出したピノを筆頭に、他のみんなも各々自己紹介と挨拶をしていった。
ヤスくんは未だにカチカチなので、
「ポチくん、新しく家族になったヤスくんとおうとくうだよ。おサルと鳥だけど、今は私の家族だから、仲良くしてね。よろしくね」
とお願いすると、
「ほお……! ワイズモンキーにハイエミューリか。珍しいな。名を持つということはそういうことか」
「は、はい。兄貴。お初にお目にかかります。モモかあちゃんからヤスの名をもらいました。ポチの兄貴とひな姐さんにご挨拶させてもらいにお邪魔しました。拙い弟分ですが、お見知りおきください」
ほら、お前らも! とおうとくうにも頭を下げさせるヤスくん。
「うっす。おうと言います。アニキ、よろしくお願いします」
「うっす。くうです。アニキに会えて光栄っす」
ペコッと頭を下げる動物組。
だから、そのノリはどこから来たのかな?
「ははは。面白いヤツらよの。かわいがってやるから、そんなに畏まるな。お互いモモから名をもらった兄弟ではないか。歓迎するぞ」
「あざっす」
「ざっす」
「ざっす」
もう、いいか……。
「仲良くなれそうで良かったよ。じゃあ、みんなで行こうか。お土産も持ってきたからね。今日はよろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いしまーす!!」
中くらいの荷車をおうとくうが引いてくれて、ポチくんとともに狼たちの巣穴へ向かい、森の中をみんなで歩いていった。




