第六十五話 かあちゃんは疲れを癒やす
大量の刈り入れをやり遂げてもうクタクタだろうと思うのに、麦と藁に分けて運び込んじゃうところまでやっちゃおうと、みんなが言う。
疲れを見せない笑顔で。
葦袋を取ってきて収集の魔法を使うと、麦は袋へ、藁は地面に積まれる。みんなは手早くそれをロープで括りあげ、どんどん束になっていく。
十kg程入る袋に八つ。八十kgの麦と大量の麦藁だ。
収穫された麦のうち、二袋は種として物置に保管され、六袋は地下に新しく作った小麦の貯蔵庫へ運び込んだ。
地下の貯蔵庫ではみんなが驚きの声を上げる。
「いつの間に、ここ、こんなに広くしたの?!」
こことここに小麦を、ここは大麦、こっちは大豆を……と、各部屋の説明をして、
「この部屋にいっぱい麦や大豆が貯まっていくんだよ」
と言ったら、みんなの顔がほころんだ。
それから大量の藁束も資材倉庫に運び入れ、ついでに魚と肉の貯蔵庫になる予定の地下室も見てもらう。
「干物とかもここで作って、この部屋に干して、魔法で乾燥させちゃってもいいと思うんだよね」
「すっごくいいと思うよ!」
コリーはこの部屋に魚がいっぱい干されているところを想像したのか、目をキラキラと輝かせていて、
「頑張って魚とるぞーっ!!」
とやる気に満ちている。
「食材の管理はユニとルーに任せているんだけど、魚についてはコリーに任せたいから、ここの貯蔵庫はユニとルーとコリー、三人でみてくれるかな?」
一人ずつ目を見てお願いすると、三人ともぐっと拳を握って、
「任せてよ!!!」
と力強い返事をくれた。
みんなはどんどん増えていく設備に、
「モモはすげーなあ」
なんて言ってくれるけど、私にしてみたらみんなの方がすごいと思う。
いつも明るく、元気で、前向きで、精一杯頑張っている。麦のように上へ、上へと力強く生きようとしている青い命。麦と同じくキラキラ輝いていて、眩しいようだ。
みんなに元気をもらって、励まされて、教えられて。
だから私も頑張れる。
よし、頑張るぞ!
なんて考えていたら、後頭部をポンッとはたかれて、
「ほら、片付けも終わったし、風呂行くぞ!」
振り返るとニコニコ顔のジェフだった。
畑の方の掃除と片付けも、すでにみんなが済ませてくれたらしい。
「うん、行こう!」
私もニコニコ顔でジェフとともにみんなの元へ向かう。
タオルと手拭いを持って、みんなでお風呂に行こう。
◇
一日良く働いた体に温かいお風呂がしみる。
「……ぽへぇー」
と締まらない声が出てしまう。
なんだかあまりにも順調で、気が抜けてしまいそうだ。
でも、明日は初めての狩りもあるんだから、まだ腑抜けてはいられない。気を引き締めないとポカをやらかす。しっかりしろ私!
とは思うけど、
「……ふはぁー」
今だけ、このお風呂の時間だけはゆるゆるしてしまうのを許して欲しいの。
「モモがダレてるー」
「ホントだ。ふにゃふにゃ」
クスクスとみんなに笑われてしまった。
「もお、お風呂最高。しあわせー」
それでも気の抜けた私の言葉に、
「本当だよねぇ」
「幸せー」
とみんなもふにゃふにゃになった。
今日のガールズトークのお題は何ジャムが一番か。
リンゴン推しのルーが熱く語っている。
やっぱり世界が変わっても、女の子の話題は「かわいー」とか「おいしー」なんだなあ。
ベリー派がやや優勢な感じで話が進んでいたが、
「モモは?! 何ジャムが好き?!」
と言う熱い質問に対して、
「そんなー、どれか一つなんて選べないよー、どれもみんな美味しいのにー」
ふわふわと気合の入ってない返事をしたところ、全員にうんうんと肯定され、
「ジャム最強!!」
という結論に至った。
バズあたりはトマトソースを推してきそうだけどね。
そして、この子たちにはその内に生クリームの洗礼を受けさせてあげよう。心の中でニヤリと笑った。
◇
楽しくのんびりとしたお風呂の時間を堪能し、家に帰ると、スープを温め直して夕飯だ。
干し魚と漬け物から出汁と塩気が染み出して美味しいスープになっているけど、このままでは少しだけ味が薄い。
だから、そこにお味噌をちょこっと足して、味を整えれば出来上がりだ。
せっかく火を熾してもらったので、ついでに明日の朝用のゆで玉子を茹でておこう。
贅沢パンはまだ少し残っているけど、夕食にはスープに浸けて食べても美味しい村のパンを使おうと思う。
柔らかい贅沢パンは明日の朝食に食べて終了だな。
村パンをスライスして、魚のスープを皿によそえば、夕食は出来上がりなので並べてもらう。
「みんな、今日は本当にお疲れ様でした。今日の収穫は、小麦八十kgに大豆五十kg。私たちの方も保存食作りや綿、岩塩、鉄、ブドウ、葦の採集が出来ました。明日は予定通り、みんなで森に行きましょう。
では、仲間と森と大地と精霊様に感謝を籠めて、いただきます」
「いただきます」
スプーンを握り、
「やったー! 魚のスープだ!」
と喜ぶコリー。みんなもパンをスープに浸して食べたり、スープの具を口にしては、「美味しい、美味しい」と喜んでくれている。
良く煮込んだので魚は柔らかくなっていて骨まで食べられるし、良い出汁が出ているのでスープも魚の旨味の効いた深い味わいで美味しい。
ちょっと堅くなり出したパンも、そのスープを吸わせると程よくふやけてすごく美味しい。
おからはフワフワ、漬け物がシャキシャキ、芋はホクホク。いろんな食感も楽しめる。
たくさんの収穫を喜び合いながら夕食を食べ、お茶を飲みながら明日の予定を考える。
「前に採ってきたものは、もう殆どを保存食に出来たから、森ではまたいろいろと採集もしたいんだけど、日程をどうしようか」
「薬草や野草も根から採ってきたいんだよね」
「朝イチで出発しようか」
みんなで考えた結果、朝は早めに出発してお昼まで森で採集する。その後、地下室の拠点で少し仮眠を取り夜の狩りに備える。夕方、狼さんの巣へ行き焼き芋パーティーをして、夜は狩りに同行させてもらう。
狩りから戻ったら昼まで休憩させてもらって、帰りにもまた採集やドングリ茸を見つけて、夕方までに帰宅する。
「採集にはまた行ってもいいんだから無理しないでやろうね。メインは狼さんとのパーティーと狩りってことで」
明日の予定も決まったので、片付けをし、明日の準備と魔法の訓練をして、今日は早めに休むことにする。
荷車に水筒、腰カゴ、葦袋、布、ロープを準備して、狼さんのお土産用にトマトや大豆、パンも載せた。もちろん、狼さん用のブラシも忘れずに。
「お芋は森にあるから向こうで採ればいいし、これで明日の準備は大丈夫かな」
夕食の片付け、干し台の片付けも手分けして終わらせているし、タオルの洗濯も終わっている。
「あとは各自、程々に訓練して早めに寝るようにしようね」
おうとくうはすでに夢の中だ。
私も物作りをして今日は早めに休もう。
まずは先に明日の朝食の下ごしらえをしてしまおう。
さっき茹でておいたゆで玉子がある。それとは別に生卵とお酢、油、液糖、塩、胡椒を用意して、創造で一気にマヨネーズを作ってしまう。
マヨネーズを混ぜるのは一仕事なので早く休みたい今日は手抜きさせてもらった。
ゆで玉子を刻んでマヨネーズと和えたタマゴフィリングを作っておけば、明日の朝はパンに挟むだけでタマゴサンドが用意出来る。
余ったマヨネーズは蓋付き容器に入れて、調味料棚のケチャップの隣に並べておいた。
タマゴフィリングの入ったボウルにも蓋を作って乗せて、食料倉庫に置いておく。もう夜は大分涼しいので、このままでも大丈夫だろう。
その後は、今日随分使って減ってしまったロープや葦袋を作る。
葦も取ってきてあるので、五サイズくらい、大きいものから使い勝手の良い小さいものまで揃えておこう。
特に、麦や大豆を入れる十kgくらい入るサイズは多めに。百枚くらいあっても使ってしまうだろう。
また葦が減ってしまった。今度、取ってこなくちゃ。
それから、藁が大分貯まってきたので、これを編んで畳モドキ、厚さのあるラグのようなものを作ろうと思う。
畳くらいの一m×二mのサイズで作って敷き詰めれば、床に直に寝るよりはマシだと思うし、邪魔な時にはどかすのも簡単だ。
これを三十枚作った。
藁が減ったので倉庫も広くなったし丁度良い。
みんなも呼んで運んでもらい敷き詰めると、居間の半分程を埋められた。
このままじゃゴワゴワするかな?
綿を使い、二m四方の中綿が入ったキルティングのラグも十五枚作ってみた。
これをさらに敷けば寝心地良くなるだろう。
今まで敷いていた羊毛の敷物は、予定通り毛布にしてしまった。人数分には少し足りなかった分も作り足した。
全てをセットすると、みんなも嬉しそうに、気持ち良さそうにゴロゴロ寝転んでみたりしている。楽しそうだな。
いよいよ明日が狩りの本番ということで、みんなかなり緊張した様子で自分の使う予定の魔法をおさらいしていた。今日は早めに寝るように言っても、なかなか寝付けないんじゃないかと実は心配だったんだ。
でも、新しい寝床にゴロゴロすることで少しは緊張がほぐれたように見える。
良かった。寝不足や緊張は怪我の元だからね。
私も混ざりたい気持ちを抑えて、残りのMPを使ってしまおう。
狩りで破れたりするかもしれないから、スウェットの着替えを作りたい。
昨日と同じサイズなので、一人ずつ呼ばなくても作れる。
まあ、多少破れたりしたところで、創造で作り直せばあっという間に元通りには出来るけど。
どちらにせよ着替えは必要なものだし、狩りの最中や後にMPに余裕があるかはわからないんだから、作れる余裕がある時に作っておくに越したことはない。
十四人分の着替えを作り、胸や腰にマークも入れて、これでちょうど魔力枯渇ギリギリ。上手くMPも消費出来て万々歳という訳だ。
居間に戻ると、ゴロゴロついでにみんな寝ることにしたようなので、私も一緒に寝転がり、床の感触を楽しんでみた。
これなら土の地面の冷たさも伝わってこないし、程よいクッション性があるので体も楽そうだ。
今日はゆっくり体を休めて、明日の森往きに備えられそう。
おやすみの挨拶を交わし合い、聖域を使って眠りに就いた。




