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第六十四話 かあちゃんは冬支度をする その三


 お昼ごはんは大変好評で、ルーお薦めのリンゴンジャムも漬け物もオムレツもみんなとても喜んでくれた。


 チーズオムレツのトロッとした卵と、とろけたチーズにケチャップの組み合わせは特に気に入ってくれたようで、昨日のピザとも相まってトマトの人気が急上昇した。


 美味しい卵はおうとくうのおかげなので、二羽もみんなから感謝されている。


 おうとくうにはさすがにオムレツを出すのは気が引けたので、おからとチーズとトマトを混ぜたサラダを用意したんだけど、


「ちょーだい」「ちょーだい」


 と言われてしまったので、オムレツも少し分けてあげた。二羽的には全く気にしてないみたいだけど。


「美味しーい!」

「卵って美味しいんだ!」


 うん、気にしちゃダメだ。


「美味しくって栄養たっぷりなんだよ。ありがとね」


「いいの、いいの」

「明日も頑張って産もう!」


 だから、また食べさせてね! と言われてしまった。



 畑の方もすごく順調に進んでいると報告を受けた。


「二面でちょうど余裕をもって作れるくらいかな? 午前中で一面と三分の一くらい終わってるから、この調子なら夕方までかからないで全部終わりそうだよ」


「俺たちの魔力も問題ないぞ。みんな半分以上は残ってるから、乾燥してもぶっ倒れたりしない」


 バズとジェフが説明してくれる。みんなもうんうんと笑顔で頷く。


「良かった。魔力の方も二面が丁度良い感じなんだね」


「うん、だから毎回二面ずつ、小麦を作る合間に大麦や大豆も作っていこうと思う。大豆を作る時には刈り入れをしなくていいから、トマトや他の野菜も作れたら作るって感じでどうかな? モモの魔力の予定も考えつつね」


「わかった。すごくいい計画だと思う。明日は予定通り狼さんのところに行けそうだね。森から帰ったら、その計画で進めていくことにしようね」


 バズの計算では、二カ月以内に冬の小麦は充分貯められると言う。


 一般的に大人一人が年に約八十kgの小麦を消費すると言われているらしい。畑二面でだいたい八十kgの小麦が穫れるから、大豆や大麦と交互に作っていくとしても週八十kg、一カ月で四百kgの小麦が獲れる。


 一年の消費量の四分の一、二十kgの十五人分が三百kgだから、種として取っておく分や、何かで畑を休む時を考慮したとしても、二カ月かからないでこの冬の小麦は確保出来るという見通しが立った。


 本格的に寒くなるのがいつ頃になるかはわからないけど、あと一カ月くらいは畑仕事を続けられるだろうとの見解なので、食料に関しては冬支度の目途が立ったと言ってしまってもいいと思う。


 少なくとも、何かしらのトラブルがあったとしても、飢えで冬を越せないということは無さそうだ。


「ああ、良かった……。なんとかなりそうだね。みんなのおかげ、本当にありがとう」


「みんなの中にはももちゃんも入ってるんですからね」


 全員で心からホッとしながら笑い合えた。


「そうなると、後は防寒対策か。森から帰ったら、私はそっちの方に力を注ぐことにする。暖房に布団に服だよね」


 この辺りは材料はすでに見つかっているので、魔力量と相談しつつコツコツ進めれば良い。冬越しが無事出来そうで本当に安心した。


 先が見えない状況で、ただ闇雲にひたすら頑張り続けるというのは、自分で思っていた以上にプレッシャーが掛かっていたようだった。大丈夫、なんとかなると前向きなふりで自分を奮い立たせていくのでは、精神的に長くはもたない。


 見通しが立ち、努力が報われていると結果が目に見えることで、モチベーションを持続していける。


「よし! じゃあ、午後も頑張ろうか!」


 明るい話題にみんなのやる気も上がって、午後も頑張れそうだ。



 みんなはまた畑に向かい、私とルーは食事の後片付けをする。


 残ったケチャップは蓋の出来る容器を作って調味料の棚に仲間入りした。


 夕食用のスープもよく煮えていたので、後で温め直すだけで良い。具だくさんなので、スープとパンで夕食になる。


「干せるものは干したし、漬け物もジャムも作ったし、午後は何をしようか」


「モモは物作りをする?」


「それでもいいけど、物作りは夜でも出来るからなあ。資材倉庫をチェックして、足りないものを取りに行こうか。ヤスくんとおうとくうにも手伝ってもらえばブドウも採りに行けるし」


 お留守番が多いルーはとても喜んで、


「そうしたい!」


 と前のめりに言った。



 そんな訳で、まずは資材倉庫のチェックから。


「葦が少なくなってるね。鉄や岩塩はどうしようかな」


 鉱石系は重いから、少人数ではあまり集められないかな。おうとくうがいれば引いてもらえるから持ち帰れるか。


 木材と綿もいっぱい使うから増やせるならいくらでも増やしておきたい資材だけど、木材は大人数で作業した方が効率が良いかもしれない。


 でも、綿なら嵩張るけど軽いから、大きい荷車にいっぱいに採っても、私でも引いて来れるんだよね。


 葦やブドウなら近くにあるから、またいつでも採りに行けるし……、


「綿と岩塩、採りに行ってみる?」


 ちょっと歩くけど、とルーに聞くと、


「私だって強くなってるから大丈夫! 行ってみたい!」


 とワクワクが抑えきれない返事が返ってきたので決行だ。


 腰カゴを付けて、荷車を三台とも引っ張り出して、ヤスくんとおうとくうを連れ出す許可をもらいに畑に行く。


「バズ、お願いがあるんだけど。保存食作りは材料切れになっちゃったから、綿を採りに行ってこようと思うんだけど、ヤスくんとおうとくうも連れて行ってもいいかな?」


「そうなんだ。了解! 他に手伝いに誰か行った方が良い?」


「大丈夫。出来る範囲でやれることやるから。畑も大変なんだから頑張って。木材とか取りに行く時にはみんなに助けてもらうからね」





 ということで、おうとくうに荷車を引いてもらい、小さい荷車を私が引いてお出掛けした。


 往きは空荷だし道もわかっているので十五分とかからずに岩塩のある岩山の麓まで辿り着けた。


 小さい荷車には岩塩を載せる予定なので麓に置いておき、大、中の荷車だけ引いて先に綿の木のあるところまで進む。


 ポワポワの綿花が木にたくさん付いている光景を初めて見たルーは、


「何これ! かわいい!」


 と、とても喜んでいた。麦野原ぶりの採集の仕事にテンションが上がっているみたい。たまには外に出る仕事も気晴らしになるよね。まあ、明日は森行きだけど。


 私とルーで低い位置に付いている綿花を摘み、高いところのはヤスくんにお願いしようと考えていたんだけど、おうとくうもパクッと綿花を咥えては荷車に載せて手伝ってくれた。上手いものだ。


 予定外の働き手の登場に、三十分程で大中両方の荷車は綿花でいっぱいになってしまった。嬉しい誤算だ。


「みんなで採ったからすごく早く終わったよ! ありがとうね」


「任せて!」「簡単、簡単」


「前にもやったからな」


「面白かった!」


 大収穫でみんなもごきげん。

 荷車を引いて岩山まで戻り、荷車は麓に置いて葦袋を持って岩塩の場所まで山を登る。


「おう、くう、キックは無しでね」


「はーい」「わかった」


 私が採掘(マイン)で岩塩を掘り出し、ヤスくんとルーが持ってきた葦袋に入れる。それをおうとくうが咥えて荷車まで運んでくれる。


 何回か往復してくれたので充分な量を集められた。みんなが働き者なので仕事が早く進む。


 おかげで時間に余裕もあるし、せっかくだから、ついでに鉄鉱石も少しばかり掘っていこう。


 私とルー、ヤスくんの腰カゴと、おうとくうには葦袋に鉄鉱石を掘り集めたものを入れて咥えてもらい、全員で山を下りる。


 鉄鉱石は結構重いのにクチバシで咥えて運べるおうとくうはかなりの力持ちだ。足も早いし、キック力もすごいし、パワーがある。

 来てもらえて助かった。


 岩塩だけでも小さい荷車にたっぷり載っていた。これだけでもかなりの重さだと思う。これはこのままおうに引いてもらおう。


 中くらいの荷車の綿は嵩張ってるだけなので、ギュッと詰めて場所を無理やり空けて鉄鉱石を載せる。これはくうが引いてくれる。


 大きい荷車には大量の綿花が積まれているけど、これは大して重くないので私が引くことにした。ルーも後ろから押して手伝ってくれる。


 こんなに大収穫なのに、帰り道も難なく、トータルで二時間程で帰ってこれてしまった。



 荷物を資材倉庫に下ろし、荷車を片付けて外に出る。


 畑の進み具合を見に行くと、どうやらもう少しかかりそうだ。力持ちのおうとくうが抜けちゃったせいだろうか。


「こっちはまだかかりそう? あとどのくらいかな?」


 バズに聞いてみると、


「刈り入れはこれともう一度で終わると思うから、乾燥時間を考えると……あと一時間くらいかな?」


「慌てなくていいからね。まだまだ時間はあるし。私たちもブドウを採りに行ってこようと思って」


「わかった。帰ってくる頃には終わってると思うよ。気を付けてね」


 一時間あれば行ってこれる。ブドウだけなら小さい荷車だけでいいな。



 もう一度、荷車を引っ張り出し、今度は南の林に向かう。


 ブドウ採り名人のヤスくんにお願いしたので、立派なブドウがあっという間に集まる。


 あまり採り過ぎて傷ませてしまっても勿体ないので程々に集めて岩山に戻ろう。



「荷車に載る分だけでも葦も刈って行こうか」


 時間にも荷車にも余裕があったので、土魔法で鎌を作り、岩山下の川原でザクザク葦を刈った。ルーがせっせと荷車に運んでくれる。


「みんな本当に優秀だから驚いちゃったよ。すっごく仕事が捗った!」


 私がベタ褒めするもんだから、照れながらもウキウキと足取り軽く、一時間もかからずに家に戻ってきた。


 畑のみんなもすでに終わったようで、道具を片付けている。


 私たちもブドウと葦を倉庫にしまい、荷車を片付けて畑に行った。


「お疲れ様。全部完了?」


「おう、バッチリ! 乾燥も終わったぞ」


 大量の麦をチェックしているバズに代わってジェフが答えてくれた。


「はあ、本当にすごいね。二枚なら大丈夫と聞いてはいたけど、この量を直に見るとびっくりだよ。こんなにたくさん一日で刈っちゃうなんて……」


 空いている畑に山のように積まれた麦に呆然としてしまう。


 チェックが終わったバズがやって来て、いい笑顔で、


「無事、全部刈り入れも乾燥も終わったよ。みんなの頑張りがすごかったんだ。乾燥してくれるみんなも魔法の操作がすごく上手くなってね。むら無く風を回してくれるから乾燥時間も早くなったし、すごいんだよ!」


 とにかくすごい、すごい! と興奮して熱く語ってくれた。


「こっちの採集も、午前中の保存食作りも仕事が早くて驚いたけど、畑仕事もめちゃめちゃ手際良くなってるんだねー。みんなすごい……」



 なんだろう。ルーやおうとくうもパワーアップしている感がありありと見られて驚きの連続だったけど、みんなの成長が怖いくらいだ。



 子供ってこんなにも一日、一日、伸びていくものなんだな。



 ワクワクする。

 見逃したら勿体ない。

 日々忙しく毎日を過ごすだけじゃなく、この人生ではもっと子育てを楽しめそうで期待に胸を膨らませた。



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