第六十二話 かあちゃんはみんなの服を用意する
みんなの反応にドキドキしながら全身生成の私は居間へと向かう。
「あのー、こんな感じで作ってみたんだけど、どう思う?」
壁の陰からこそこそと姿を現すと、マフラー、軍手までフル装備の私を見たみんなは、ポカンという音がしそうな顔をしている。見たこともない不思議な格好しているんだからそういう反応になるよね。
そんな中、マリーがスッと近付いてきて、物怖じもせずに生地の素材や触り心地などを検証し始めた。
「これは……、羊毛の織物ですか? すごく柔らかい……。ちょっと脱いでみてくれませんか?」
私がスリーパーを脱ぎマリーに渡すと、腕を入れてみたりして、
「すっごく暖かい!」
と驚いていた。さらに、私の着ているスウェットも念入りに調べ始め、
「これも肌触りが良くて暖かそう」
何やらブツブツと呟きながら、お腹の中に手を突っ込まれて、
「なるほど。裏がタオルみたいにフワフワになってるんですね。だから、生地に厚みが出るのかな? ……あれ? まだ中に何か着てます?」
とトレーナーをガバッとめくられた。ちびガキだからいいけどね。マリーの知識欲の邪魔はしないでおこう。
「うわあ、この生地も柔らかくて着心地良さそう」
私にスリスリし出しそうな勢いだ。
ポカンが続いている男子に比べ、女子たちはマリーの感想を聞き、わっと集まってきて揉みくちゃにされる。
「うわ、ホントだ。柔らかい」
「あったかそう」
「この上着、すっごいあったかいよ!」
サイズの近いキティはスリーパーを羽織ってみている。
「こんな上等な服を……、私たちにも作ってくれるんですか?」
アンが心配そうな顔をして聞いてくるが、
「特別な織り方や編み方で柔らかくて暖かい生地を作ってるから上等な服のようになってるけど、材料は羊毛と綿だけだから、うんと贅沢してる訳じゃないよ。夜の森の寒さがわからないから暖かくしておきたかったんだけど、どうかな? これでいいと思う?」
軍手やマフラーも外して見せて、スウェットもトレーナーも脱いでみて、みんなに直に手にとってもらい確認してもらう。
女子たちはTシャツの柔らかさも触って確認していたけど、男子はそこはさすがに躊躇したようだ。
三歳児とはいえ女の子の体を触るのはマナー違反だと思ってくれたみたい。
一頻り、「柔らかい」「暖かい」とみんなが確認した後、
「ぜひ、これを私たちにもお願いします!」
と言ってもらえた。
バズからは、さらに絶賛と要望が。
「この軍手? 手の保護にもなるし、畑作業の時にも便利そうだ。すごくいい! でも、僕にはちょっと小さ過ぎるよ」
軍手なので、私にはちょっと大きめだったんだけど、さすがにバズには小さいよね。みんなにも試してもらうと、ベルたちでもちょっとキツそうだった。三サイズくらい揃えた方がいいかな?
「それじゃあ、順番に作っていこうか。一番大きなバズから来てもらっていい?」
バズと資材倉庫に行き、サイズだけは良くバズを見ながらイメージして、すでに一度出来上がっている自分の下着上下を思い浮かべながら、
「創造・アンダーセット」
と魔法を使ってみると予想通り上下一組としてTシャツと短パンを作ることに成功した。やった!
やっぱり、これはセットで一つの物、ってイメージすればいっぺんに作り出せる。番重とスノコみたいにね。
同様に「創造・スウェットスーツ」とスウェットの上下も作れた。
マフラーに関しては多少長めでも巻いちゃえばいいかな、と十四本一気に作り出してしまった。
軍手はバズのサイズで一組作り、みんなにサイズを試してもらった上で、後で量産しよう。
それからスリーパーをバズのサイズに合わせて作って出来上がり。
軍手をはめてみてもらうと丁度良いとのことなので、これだけ一旦預からせてもらって、他の一式をバズに渡す。
「サイズや着心地をみて欲しいから、着替えてみてくれる? それと、次はジェフを呼んできて」
新しい服一式を持って、多少浮き足立った様子のバズが、
「モモ、ありがとう!」
と嬉しそうに出て行き、程なくジェフがやってきた。
軍手のサイズはバズと一緒で大丈夫そうだったので、アンダーセット、スウェットスーツ、スリーパーを作り、マフラーとともに渡して次のマークを呼んでもらい着替えてもらう。
こうして、順番に全員分作り上げることが出来た。
軍手のサイズは年長男子サイズ、女子サイズ、ちびっ子サイズの三種類で大丈夫そうだったので、各サイズを二十組ずつ用意した。
出来上がった軍手を持って居間に戻ると、そこには全身生成軍団がいた。
「あ、モモ!」
「ありがとう!」
「これ、すごくあったかい」
「柔らかいし」
「すごく着心地良いな」
みんながとても喜んでいてくれて嬉しい。
作ってきた大量の軍手は棚にしまって、
「軍手は替えの分もたくさん作ってあるし、足りなくなったらまた作るから、普段の作業にもどんどん使ってね」
と言うと、それもまた喜んでくれた。
だんだんと秋も深まり、気温も日に日に下がってきたし、これからは新しい服を着ていたいとみんなも言う。今までの服は結構ボロボロになってしまっているし、あれでは寒かったよね。
また折りを見て、作れる時に着替えも作るようにしなくては。
「ヤスくんは服は着ないよね。寒くない?」
「オイラは毛皮があるから服はいらないけど……」
ちょっぴり寂しそう。おいで、と資材倉庫に連れて行き、ヤスくんのサイズのスリーパー、いや丈が短いからチョッキかな? を作って着せてあげる。
「わあ、お揃いだ。すごくあったかい。かあちゃん、ありがと!」
みんなに見せてくる! と急いで居間に走っていった。ヤスくんも嬉しそうで良かった。
さて、ここで一つ問題がある。
みんな同じ生成の微妙にサイズが違う服。いつも身に付けているアンダーやスウェットはまだしも、スリーパーを脱いだらどれが誰のだか判らなくなっちゃいそうだ。どうしよう。
名前を書いちゃえばいいんだけど、今はまだ木炭えんぴつしか無いし。
ヤスくんのお揃いチョッキのお披露目で喜び合うみんなの中、一人悩んでいると、
「どうかしましたか?」
アンが声をかけてくれる。
「せっかくそれぞれにサイズを合わせて作ったのに、脱いだらどれが誰のか判らなくなっちゃうよね。目印を付けるにしても道具も無いし」
と相談してみる。みんなもうーん、と一緒に考えてくれる。
そんな時、キティが、
「ヤスくんのお皿に絵を描いてくれた時みたいにすれば?」
とあっさり答えを見つけてくれた。
「転写か! やってみようか」
文字を読めない子も多いので、それぞれ何かマークを付けよう。
上手く出来るかわからないので、まずは自分のスリーパーの胸のところにピンク色のハートをイメージして、
「転写」
と魔法を使ってみる。ばっちりピンクのハートが転写されている。これなら色も着けられるし、結構かわいい。
「出来た! こんな風に自分のマークを入れておけば誰のか判るよね。みんなのにも付けよう。何がいいかな?」
「なるほど。わかりやすいな。桃か!」
「うん、桃のマークが付いてたらモモのだってすぐ判るね」
ハートなんて知らないか……。そりゃそうだ。うん、桃でいいや。
「ピノはドングリがいい!」
ぶれないね。ピノの左胸に薄茶の帽子をかぶった茶色いドングリのマークを付ける。
「やったー! ドングリ!」
キティが続いて、
「私は可愛いネコちゃん!」
と言うので、国民的白猫キャラクターのパチモンのようなマークを入れてあげたら小躍りして喜んでくれた。黒縁をつけているとはいえ、生成に白では目立たないので、赤いリボンも左耳に付けてあげたよ。
ジェフは炎と言うので、ファイアパターンのような、ちょっとカッコいいのを。
「じゃあ、俺は光っぽいのを」
と言うマークには黄色で十字が重なったように輝く星っぽいのを。
「僕は土じゃあ変だし……、葉っぱにする」
と言うバズには緑で輪を描く月桂樹のマークを。
当然、魚を選んだコリーにはデザインっぽい青い魚のマークを胸に入れた。
あっさり決まった男子に比べて、女子はうんうんと悩んでいる。
先に決まったのはベルとティナだけど、
「私はカエルにする!」
「じゃあ、私はヘビ。紫色のやつ!」
……本当にそれで良いの?
出来るだけ可愛いイラストを思い浮かべて転写してみた。緑の体に目がキョロッとしたしゃがみ込んだカエルと、紫にピンクの水玉模様のウインクしたヘビ。
「やったー!」
「かわいい!」
……本当に? 二人が気に入っているようなので良しとしよう。
続いてアンがおずおずと、
「私はやっぱり月にします」
と決めたので、三日月にニコニコ顔が付いていて、隣に小さい星が並んだイラストを入れてみた。
「可愛いです!」
アンには珍しい程はしゃいでくれて、私も嬉しくなる。
「私も葉っぱにしたいな……」
と小さな声で呟いているマリーには、緑で四つ葉のクローバーを。
「幸運のお守りのマークなんだよ。夢が叶うといいね」
と囁くと、少し頬を赤らめていた。
ユニはお花、ルーはリンゴンに決めた。
「アンのみたいにお顔付けて!」
「私のも! あれ可愛い!」
とお願いされたので、黄色とオレンジのひまわりのようなニコニコ顔付きの花と、ぱっちりお目々の顔付き赤いリンゴンに小っちゃい緑の葉っぱも付いたマークにした。
最後にルーシーが、
「キティのネコちゃんに付いてたようなリボンがいいな。赤いの」
と恥ずかしそうに言う。元気印のルーシーは女の子っぽい部分を見せるのがちょっぴり恥ずかしいみたい。
ちょうちょ結びの赤いリボンを胸のところに転写したら、エヘヘッと照れて喜んでいた。
ヤスくんの胸にもせっかくだから何か付けてあげようとしたら、
「お皿と同じヤツがいい」
とのことなので、おサルの顔を転写する。
「へへへ、オイラのだ」
みんなそれぞれ、とても気に入ってくれたようなので良かった。
おうとくうも欲しいかな? でも、あの二羽はそういうのあんまり気にしない気がする。欲しそうだったら、また作ってあげよう。
全員分の転写の魔法で、私はすでに魔力枯渇ギリギリになっていた。多少ふらつきながら、
「ごめん、MPが限界だ。今日は先に休ませてもらうね。また明日頑張ろう、おやすみなさい」
「モモ、ありがとうな」
「また明日」
「おやすみなさい」
みんなの声をぼんやりと聞きながら、聖域を発動して、暖かいスリーパーに包まれたまま、私は一足先に眠りについたのだった。




