第六十一話 かあちゃんは装備を整える
別で訓練していたアンたちにも今日はここまでと伝えに行く。
アンは矢の魔法は使えるようになっていて、今は壁の魔法を練習中だった。
やっぱり魔力操作の基礎をしっかり訓練していると、コツさえ掴めば成長が早い。みんなの頑張りの賜物だね。
壁についても発動は出来るが強度に自信が無いので、さらに突き詰めているのだと言う。向上心がすごい。
「守る魔法の訓練は楽しいんです」
笑顔の中に集中力も魔力も上がっているのが見て取れる。
ピノも、太い薪を細く切ることは、「もう簡単!」と、用意した薪を全て細く切り終わっていた。結構難しい課題を出したつもりだったのに難なくクリアしてしまって驚きだ。身構えずに素直に出来ると思える真っ直ぐさが上達させるのかもしれない。
キティも虫探しはすごく上手くなっていて、それどころか、
「あっちの茂みに小さい動物がいるの。でも、ここから出ちゃダメだから見に行けなかった」
と残念そうにしている。
あっちの茂みってかなり遠いぞ。感知範囲がすごく広がっている。
「三人ともすごいね! 他のみんなもだけど、上達がすごく早い……!」
それだけ集中して頑張ったということなのだろうけど。
石窯は殆ど冷めていたけど、扉を閉めていたので、窯の中はまだ保温くらいの温かさが残っていた。
水戻ししていた大豆は水からあげ、トマトスープの中へ。
夕食にはトマトスープとパン、蒸かし芋があるので準備バッチリだし、今日はゆっくりお風呂に入ってこれそうだ。
「帰り道、急がなくてもいいように、もうお風呂に行ってきちゃおうか。ゆっくり入れるよ」
と提案すると、みんなも大賛成で早速手拭いとタオルを取りに行き、お風呂に向かうことになった。
ヤスくんとおうとくうは特にウキウキだ。本当にお風呂が気に入ったんだねえ。
男女に分かれてお風呂場に入り、体を洗ってお湯に浸かる。
おうとくうがバシャバシャしてはしゃいでいて、ベル、ティナ、キティも一緒に遊んでいる。
私たちは窓からの景色を楽しみながらのんびり話をする。なんと満ち足りた時間だろう。
「そうだ、相談したかったんだ。夜の狩りは寒いと思うから、何か羽織るもの欲しいよね? みんな大きさがバラバラだから今夜一人ずつ作ろうかな」
「わあ、作ってくれるの?」
「ももちゃん、また無理しないで下さいね」
「今日はMPあんまり使ってないから大丈夫だと思うよ」
動きを阻害しないで暖かい服。マントが良いか、ベストが良いか、と意見がいろいろ出てくる。みんな新しい服が楽しみなようだ。
「かわいい服も作ってあげたいんだけど、今のところ生地を染められないしなあ。何作っても生成り一色になっちゃうんだよね」
「かわいい服!」
「楽しみ!」
「ゆっくり待ってるからね」
ここから話がかわいいもの談義へと変わっていく。
春になったらかわいいお花を広場に咲かせたい。ベリーの実ってカラフルでコロコロしててかわいいよね。動物たちがかわいい、一緒に暮らせて楽しい。などなど。
「ポチくんの毛皮のモフモフはもうたまんないよ。ぜひブラッシングしたい」
私の意見にかわいいもの好きな女子たちみんな、期待に胸を膨らませていた。ぺちゃんこだけど。
ガールズトークは止まらないけど、さすがに長風呂でのぼせてきちゃう。今日のところはここまでとして、みんな上がることにした。
お風呂上がり、タオルで体を拭いて、髪を乾かしてもらう。
「ルーシーは髪、長いよね。いつも同じ髪型だけど、別のはしないの?」
いつものように後ろで一纏めに結おうとしていたルーシーに声をかけると、
「邪魔だから結んでいるだけだよ。考えたことも無かった!」
との返事。麻紐のようなものでキュッと結んでいるだけで、ピンやゴムが有るわけでもないので、アレンジも難しいか。
「ちょっとだけ雰囲気変えてみようよ。いじらせて」
アンから櫛を借り、後ろではなく、サイドテールで結んでみる。
「ほら、活発な感じで可愛いよ」
鏡を見せてあげると、ぼーっとしたような顔で覗き込んでいた。
みんなからも、
「ルーシー可愛い!」
「いいなあ。私もやって欲しい」
と絶賛されてほんのり頬がピンク色になっている。
羨ましがっている子たちには、今は髪留めが無いからまた今度ね、と約束し、お風呂をキレイにして外へ出る。
暮らしに余裕が出てきたってことかなあ、と嬉しく思った。髪飾りとかも作ってあげたいな。
男の子たちもすでに上がっていて、若干のぼせた頭を冷ましていたようだ。男湯にも魔法をかけてキレイにして、みんなで家に戻ろう。
可愛いもの好きな女の子たちは、ルーシーの髪型についてキャアキャアとかしましく話しながら、足取りも軽く山を登っていった。
夕食には、早く食べちゃった方が良い贅沢パンと、用意してあったトマトスープ、蒸かし芋を食べて、今晩と明日のことを確認しあう。
明日の予定は一日かけての収穫だけど、私とルーは物作りや保存食作りをすることになった。
だんだん役目が明分化されてきている。
大豆の収穫は私の仕事だけど、魔法を使ってやるのですぐに終わると思う。後片付けは畑班のみんなに任せちゃっていいということだ。狼のところから帰ってからやることになるだろう。
それから女湯でも話した、夜の狩りは寒いと思うから服を作りたいという話をする。
みんなサイズがバラバラだから、一人ずつに合わせて作りたいので、夕食後に順番に付き合って欲しいとお願いした。
その件に関しては問題なく了承を得られ、狩りの話から森の話へと話題が移っていく。
せっかく森まで行くので、野草とかも根から採ってきて畑に植えてみようかという計画を話していると、マークから、
「モモがいるから大抵のことは大丈夫なんだろうけど、やっぱり薬になる植物も少し集めておいた方が良くないか?」
という提案がされた。
「うん、確かにそうだよね。木の皮とかは無理だけど、根っこから採れるものなら薬草も増やしてみようか」
「よし、オイラが見つけてやるよ!」
ヤスくんは植物に詳しいからね。ぜひにとお願いした。
「私も探す!」
「私も! またお宝発見!」
ベルとティナも良いもの見つけるの上手いからなあ。
「ピノはドングリをいっぱい拾う。モモにあげるやくそくしたから」
「ありがとう。三人とも楽しみにしてるね」
キティは狼さんに会えるのをとても楽しみに心待ちにしてるし、やりたいことは目白押しだ。
「メインの焼き芋パーティーと狩りもあるから程々に頑張ろうね」
全ては明日の刈り入れ次第なので、予定について詰めるのは明日の晩にということにして、片付けをして夜の訓練をすることになった。
夕食の片付けと干し台をしまうのをみんなに頼んで、私はおうとくうの部屋をキレイにする。今朝はバタバタしていて忘れてしまっていた。
「おう、くう、そろそろ眠いでしょ? すぐキレイにするから待っててね」
「いつもありがと」
「かあちゃんありがと」
ささっと羽毛と卵を回収して、部屋をキレイにした。
「さあ、出来たよ。おうとくうは寒いのは大丈夫? お布団とかいる?」
「私たちは寒くないよ」
「羽根があるから暖かい」
なるほど、なるほど。天然のダウンジャケットを着てるようなものか。
「わかったよ。でも、何かいるものがあった時は言ってね。おやすみ」
「今は特に無いよ。おやすみかあちゃん」
「ここは素晴らしいから。おやすみかあちゃん」
二羽は幸せそうな顔をして眠りに就いた。
居間に戻ると、みんなも片付けを終えて訓練を始めるところだった。
私はまず、見本になるように自分用の服を作ってみよう。
資材倉庫の作業台でわら半紙と木炭えんぴつを持ち考える。
今日は畑くらいしかMPを使ってないから、かなりMPが残っている。七千以上あるから、計算すると一人五パーツは作れる。
上着、服上下、下着上下かな。上手くやれば小物まで作れるかもしれない。
今着ている服は、袋に穴があいて首を通せるようにしたものに袖が付いた程度のもの。良く言えばチュニックと言えなくもないが、私の印象としてはズタ袋だ。
その下に下穿きとしてゴワゴワの股引のようなものを穿いて腰のところを紐で縛っている。
靴だって厚めの袋を被せて紐で足首を括っているだけのもの。みんなも似たようなものだ。
革を手に入れられたら、もっとしっかりした靴も作ってあげたい。でも、今日のところは、まず服から。
このゴワゴワ服では丈夫だが寒いので、動きやすくて暖かい服を考えよう。
下着は綿のメリヤスニットでTシャツと短パンでいいだろう。
服は可愛さは無いけど、スウェットの上下ならこの服よりはずっと動きやすくて暖かいと思う。
上着はマントとベストの案が出ていたけど、羊毛で作れば暖かいかな。薄い毛布をかぶるような感じで。いっそのことスリーパーみたいなのにしちゃおうか。
取り敢えず自分の分だし、一回作ってみよう。ゴムが無いので紐で縛るようにするしかないけど、そこは仕方ない。
まずはTシャツから。
前世のTシャツを思い浮かべ、首回りはリブ編みで伸びるように。自分が着ることをイメージしてサイズを補正してもらう。
「創造・Tシャツ」
慣れ親しんだものだからイメージがしやすかったこともあって、柔らかくて吸湿性の良さそうな生成のTシャツが出来た。
今度は短パン。
夏のルームウェアで着そうなTシャツ地の薄い短パン。ウエストの部分はやはりリブ編みの袋にして紐が通っている。私が着るサイズで。
「創造・短パン」
女性用の下着とは言えないけど、この際我慢しよう。この柔らかい生地なら充分だ。
続いてスウェットパンツ。
裏パイルのジャージー生地で、汗も吸うし暖かい。ウエストは短パン同様、袋にして紐で留める。足首もリブにして少し窄める感じだ。私が着ることをイメージして創造を使う。
こちらも思った通りの生成のスウェットパンツ。柔らかくて暖かい。ああ、綿が見つかって良かった。
同じ生地のイメージでトレーナーも作る。首回りと袖口、裾もリブにする。私が着るサイズで。
見事、スウェット上下と下着の上下が出来上がった。早速ちょっと着替えてみよう!
綿百%の柔らかい服に久々に袖を通す。肌触りも良いし、暖かい。下着もある。それだけですごく嬉しい。
もっと寒くなったら、裏起毛にして作ってもいいな。お腹の紐二本が鬱陶しいけど、充分満足出来る仕上がりだ。
前世なら、これでコンビニにでも行ったもんなら、息子たちに叱られたものだけど、ここでは上等な服と言えるだろう。自信をもって外出しちゃおう。
全員、全身生成になっちゃうけど、ご愛嬌。
さて、問題の上着だけど、材料は羊毛。
羊毛は暖かいけど重くなっちゃうので、薄手の毛布を思い浮かべて、柔らかく保温性のあるスリーパー、ファスナーは無いので被りになる。膝下まで包まれる丈にするので、歩きにくくならないようにゆとりをもたせてスリットも入れよう。
「創造・スリーパー」
薄手で軽いけど暖かそうなスリーパーが出来た。
上から被って着てみると、肩までしっかり暖めてくれるし、歩いてみても足が縺れたりしない。
これなら、ちょうどベストとマントの間を取った感じだし、毛布を被ってるみたいに暖かい。しかも身動きも取りやすい。
今の私は寝る前の幼児そのままだろうけど、まあいいんじゃないだろうか?
秋の夜の森の寒さがどんなものかわからないけど、今までの服とは比べものにならない。あんなズタ袋で夜通し森の中を彷徨くなんて無茶だよね。
念のため、同じ薄手のウールのマフラーと、綿で軍手も作ってみた。
マフラーは帽子代わりに頭から巻きつけてもいいだろう。
軍手は普段の作業にも使えるから、多めに作っておいてもいいかもしれない。
これにて、装備一式が整った。
狩りに行く出で立ちとはちょっとばかりずれているけど、冒険の最初は『ぬののふく』から。
ここから始めよう。




