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第五十八話 かあちゃんは待望の石窯を使う


 今朝は寝床でだらだらせずに、パッと早起きだ。


 念願のパン焼きのためにパン生地を捏ねないといけないからね。


「かあちゃん、早いね。おはよう」


「ヤスくんも早起きだね。おはよう」


 パンを知らないヤスくんは、みんなの浮かれた様子を見て、実はとても気になっていて、早く目が覚めてしまったらしい。


 ユニとルーも約束通り起こして、顔を洗い、ヤスくんも一緒に食料倉庫へ行く。


「うん、いい感じ」


 パン種は元の三倍程に増えていた。


 作業台に清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけて、パン生地作りに取りかかる。


 私の作業を見学しながら、ユニとルーも自分たちの生地を作っていく。パン種の入った大きいボウルに小麦粉とリネン粉を混ぜて捏ねている。


 私の贅沢パンにはいろいろな材料が投入される。まずは材料を集めて揃えなくちゃ。


 小麦粉、塩、液糖、卵。豆乳とバターも作り出す。


 パン種にバター以外の材料を入れて混ぜた生地を、纏めて、捏ねる。

 ある程度捏ねたところにバターを練りこんでいく。大豆バターは柔らかいのでそのまま使えてなかなか便利だな。


「ホントにいろいろ入れるんだね」


「これは贅沢パンだ」


 ユニとルーはその贅沢さと手間に驚き、感心していた。


 いつの間にか自分たちのパンは捏ね終わり、一纏めにして休ませてあって、ひたすら捏ねていく私の作業を真剣に見つめていた。


「こっちもこれで二倍以上に膨れるまでは休ませるよ。その後、ガス抜きして、また捏ねて、小さく分割してから濡れ布巾に包んで、また休ませて発酵させるんだ」


「え? そんなに膨らむの?」

「え? そんなに捏ねるの?」


 すごーい、たいへーん、とそれぞれ驚愕の声を上げてる。


「ええ? じゃあまだまだ食えないのか?」


 じっと見ていたヤスくんまで声を上げた。


「ふふ、パンが食べられるのはお昼だよ」


 三人とヤスくんでパンのことを話していると、もうすぐみんなも起きる時間になる。


「みんなも楽しみにしてたし、ちょっと早いけどジェフとコリーを起こしてパン焼き窯に火を入れてもらおうか」



 火種になるオガクズと細い薪を石窯の下へ突っ込み、寝起きのジェフとコリーに火を点けてもらう。


 パン焼きだ! と気付いた途端、二人もパッチリ目が覚めたようだ。


「後は薪を足していって、どんどん温度を上げるんだ」


 薪が熾火になり、温度が安定したところでパン焼きに入るんだとジェフが教えてくれる。


「高温なうちに何か焼いたりはしないの?」


 と聞いてみるが、ユニとルーは村にいた頃、火を焚いているうちはパン生地作りや手伝いに忙しいので窯の様子を見に来れず、よくわからないと言う。


「狩りが上手くいって肉がとれた時なんかは焼いたりするよ」


「大きな魚を焼く時もあるよ」


 料理をしないジェフたちの方が詳しいようだ。


「でも、そんなのは本当にたまにだ」


「たいていパンだけだったよ」


「朝ごはんにちょっと作ってみようか」



 火の方はジェフとコリーがやってくれると言うので、ユニ、ルーと朝ごはんの準備だ。


 パンに使った残りの豆乳でチーズを作ろう。


「沸騰させないように温めながらオレモンの汁を少しずつ足していくと脂肪分が分離するから、分離したものに今度はイチジクのペーストを混ぜて、最後に布で絞れば出来上がり……、なんだけど、今朝はかまどには火を入れてないからね」


 と、今回は創造でチーズを作ってしまう。


 畑からアサツキとハーブを摘んできて、アサツキの根はみじん切りにする。


「ハーブも乾燥させておくのもいいね。冬のために」


「もう作りだしてるよ」


 ほら、と物干し台に案内される。


 そこには枝ごとドライフラワーのようにハーブが干されていた。


「気が利くなあ。ありがとう!」


 乾燥したオレガノをもらってトマトを取ってくる。


「トマトもまた作らないとだね。バズに相談しよう」


 トマトはスライスとザクザク切ったものの二種類を用意する。


「本当は湯むきって言って、お湯にくぐらせて皮を剥いた方が舌触りが良くなって美味しいんだけど、今日は手抜きしちゃうね」


 二人は全ての手順を覚えようと、私の話ややることを見て、聞いて、記憶しているようだ。


 液糖、塩、胡椒、酒、油、赤唐辛子を持ってきて、いよいよ調理にかかる。


 鍋に油、刻んだアサツキの根、赤唐辛子を入れて、石窯の中に入れる。


 油が熱せられて香りがついたら、すぐ鍋を出し、辛くなり過ぎないように唐辛子は取り出してしまう。ザク切りトマトとワイン、乾燥オレガノを入れてひと混ぜしたら窯に戻す。


 しばらく様子を見ているとグツグツと沸騰してきた。


「よく煮詰めれば濃いソースになるし、塩気を強くすれば保存もある程度出来るけど、保存用のソースはまた今度作ろうね。今日はこのくらいで」


 グツグツしている鍋を取り出し、混ぜながらトマトを潰していく。


 液糖、塩、胡椒で味を整えれば、簡単トマトソースの出来上がりだ。ユニとルーはふうふうしながら味を確認している。


「こうやってソースにしておけば炒め物でも煮込みでもスープでも、すぐに使えるから便利でしょ?」


「うー、美味しい!」


「ちょっぴり酸っぱくて、いい香り!」


 二人とも気に入ったようでレシピが増えると大喜びだ。


「さて、後は」


 寝かせてある私のパン生地を見にいくと、二・五倍くらいに膨らんでいる。そこから生地を取り分け、作業台をキレイにして打ち粉を振り叩きつける。


「これは何をしているの?」


「ガス抜きだよ。発酵してガスが入ってると、膨らんだ時に中が空洞になっちゃうからね」


 取り分けた生地をガス抜きしたら、さらに十二個に分けて、それを大きめのお皿くらいのサイズに丸く薄く伸ばす。


 鉄板に並べてトマトソースを塗り、スライスしたトマトをのせ、生のバジルやアサツキの葉を散らし、細かく切ったチーズをかける。


 直径三十cmくらいなので一枚の鉄板に六枚のせられる。二枚の鉄板に十二枚のピザが並んだ。


 みんなもトマトソースのいい匂いに鼻をヒクヒクさせて起き出してきていて、なんだ、なんだと興味津々だ。見たこともない料理でも、その食欲をそそる匂いに否が応でも期待が膨らんでいるようだ。


「後は窯の温度が上がってれば焼くだけだよ。今日の朝食は焼き立て石窯ピザです!」


 ユニとルーもゴクンと唾を飲み込んで、


「ピザ! 初めて聞く」


「知らない料理。でもすごい美味しそう!」


 まだ焼いていないピザを前に大興奮だった。


 搾ったベリーと液糖を水で割ってベリー水を用意しておく。食事の時にクエン酸代わりのオレモン汁と重曹を混ぜればベリーソーダも振る舞える。


 みんなも顔を洗ってきて、まだか、まだかと待ち構えている。


「ジェフ、大分熱くなったかな?」


「おお、大分温度は上がってるけど、パンを焼くにはもっと中の温度が落ち着いてからだぞ」


 ジェフは結構パン焼きに詳しいね。


「さっきからいい匂い! 何を作ってるの?」


「ピザっていう料理だよ!」


 コリーの問いかけにルーが笑顔で答えてる。


「私たちも初めての料理だけど、すっごく美味しそうだよ。楽しみにしててね」


 うわあっと喜ぶコリーと、コリーの笑顔に嬉しそうなルー。そしてその様子をうんうんと頷きながら見守るユニ。


 私も微笑ましい様子に頷きながらジェフに答える。


「この料理は高温なうちにさっと焼けばいいんだ。今が丁度良いくらいだと思うよ」


「あー、匂いだけで腹がグウグウ鳴るよ。早く食いてー!」



 同様に待ちきれないみんなも手伝ってくれて朝食の準備を進める。重曹を混ぜたベリーソーダや食器を並べてもらって、私たちは鉄板を窯に入れる。


「中の空気が熱いから気をつけて」


 注意しながら二枚の鉄板を並べる。

 私たち三人も並んで窯の中の様子をじっと見守っている。


 少しするとチーズがトロッと溶け出し、生地は少し膨らんで厚みが出てきて焦げ目がついてきた。


 チーズの匂いとバジルの匂いがさらに食欲をそそる。


「こうなったら、もう出来上がり。ミトンを使って気をつけて調理台に運ぼう」


 辺りにもチーズとバジルとトマトのいい匂いが溢れていて、焼けたピザ生地の小麦の香りが混ざりあい、……ああ! 涎が出ちゃいそう!


 大急ぎで土魔法を使ってピザがのるサイズのお皿を十二枚作り、一枚ずつのせると八等分に切れ目を入れていく。


 切れたお皿からどんどん運んでもらって、全てがテーブルに並び、私たちも席に着く。


「みんな、おはよう。いよいよパン焼き窯に火が入りました! 朝食にはパンの前哨戦でピザを焼いてみたよ。今日は畑仕事頑張ってもらわなきゃだから、元気に働けるようにいっぱい食べてね。アツアツだから気をつけて、でも熱いうちに食べた方が美味しいんだよね。それでは、仲間と森と大地と精霊様に感謝をこめて、いただきます」


「いただきます!!」


 みんないい匂いがたまらなくて待ちきれない様子だったのに、ちゃんと祈りながらいただきますをしていた。えらいなあ。


 そうして、挨拶が済めばピザ解禁だ!


 耳のところをアチアチと手で持って手前に引くと、とろーり溶けたチーズが伸びて糸を引く。フォークで絡め取りつつ、自分のお皿にピザを一枚。


 フムフム、なるほどといった感じで、みんなも自分のお皿にピザを取り分ける。


 耳のところを手掴みで持って、熱々をハフハフパクリ!


 みよーんと伸びるチーズをピザを遠ざけることで切って、口に頬張ったピザをもぐもぐと噛み締めて味わう。


 このよくのびーるフレッシュなチーズはコクがあるけどサッパリと食べやすく、熟成させてないので臭みも無い。初めてのみんなにもとっつきやすいだろう。

 モッツァレラチーズにも似たその味は、もちろん爽やかなトマトと独特の食欲を刺激する香りのバジルにぴったりで、今日は濃く煮詰めなかったトマトソースのあっさりめの味とも相性抜群。


「うっまあーい!」


 思わず声を出してしまう。


 みんなも真似してハフハフパクリ!


「ううううっまあーーーい!!!」


 それはもう感動の叫びだった。


 ヤスくんもハフハフしながら、


「なんだコレー!! こんな美味いもの初めてだー!!」


 と興奮しているし、みんなも、


「俺だってこんなん初めてだ!」

「のびーる! 美味しいー!」

「このパン! サクサク、ふわふわ!」

「トマトのソース? これすごい好きだ!」

「チーズ? と合うねえ!」

「ソーダとも合うよ!」

「モモのパン生地すごい!」


 と大歓声の大喜びで食べてくれてる。


 果物を食べていたおうとくうも、


「食べてみたい!」

「ちょーだい、ちょーだい!」


 と言うので取り分けてあげたら、


「オウオウ! これはすごい!」

「クー! 素晴らしい、最高!」


 と大いに気に入ってくれていた。




 十二枚もあったピザがペロリと食べ尽くされてしまった。


 全員、朝から大満足で、


「よし! 今日もバリバリ頑張るぞ!」


 と気合の入り方が違う。


「近いうちにまたトマトも作ってもらえる?」


 バズに相談すると、


「作る、作る! トマトソース作らなきゃだもんね!」


 返事がノリノリだった。



 大成功のピザのおかげでテンション高く元気いっぱいに一日が始められそうだ。


 みんなのやる気も充分だし、きっと畑仕事も捗ることだろう。


 なんだかパン焼きも上手くいきそうな気がする。



 私も気合入れて、本番のパン焼きも頑張るぞ!



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