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第五十七話 かあちゃんは騒がしくも楽しい夕刻を過ごす

ちょっと短めです。


 話しをしながら、三人でワゴンを押して調理場へ向かった。


「明日が楽しみだよね」

「うん、頑張ろうね」


「今日は何を作るの?」

「おやきと玉子スープだよ」



 さて、夕食の準備だ。


 まずはドングリ茸を水に浸して戻しておく。

 アサツキを摘んできて材料は揃った。


「ルー、かまどに火を入れてもらいたいから、コリーを呼んできてくれる?」


「……! わかった、行ってくる」


 ユニと二人でニヤニヤしながら、小走りのルーの背中を見送る。


 六台のかまどに薪を用意しながら、


「いじらないで見守ろうと思うの」


「そうだね。私もその方がいいと思う」


 なんて話していると、ルーがコリーを連れて戻ってくる。


「六台とも火を入れていいの?」


「うん、お願い」


火よ(ファイア)


 もう慣れた手つきで六台のかまどに火を点けてくれて、


「広場のみんなの訓練も問題ないよ」


 と言い残して、コリーは広場へ戻っていく。その背中をルーが見つめて見送っていた。


「さて、夕食作ろうか」


 声をかけると、赤い顔をしてルーが振り向いた。かわいいなあ。



 土鍋三つに水を入れて火にかける。これは蒸籠用なので、スープ用には大きな鍋を使おう。

 スープ用の鍋には水と白菜モドキを入れて火にかけた。


 調理台では野草やアサツキなどを刻み、水で戻したドングリ茸も刻む。


 ボウルに小麦粉、片栗粉、塩と液糖少々を入れて、水で少しずつ溶いて混ぜていく。一塊になったら少し捏ねて置いておく。


 次は具材作りだ。残り二つのかまどにはフライパンをのせて、片方ではおから、アサツキ、ドングリ茸を、もう一方では野草を多めの油で炒めていく。


 おからの方には、ドングリ茸の戻し汁、液糖、醤油を足して、水分が飛ぶまで炒り煮する。

 野草の方は醤油と少しの唐辛子で。


 どちらも水分が飛んだら火から下ろす。余ったドングリ茸の戻し汁はスープに入れちゃおう。


 具材が少し冷めるまでに生地を作る。置いておいた生地を三つに分け、ユニとルーとまた少し捏ねてから二十個ずつに小さくちぎり丸める。


 一つの玉を指で潰して平たく皮にして具のおからをのせ、皮の端をヒョイヒョイと引っ張りながら持ち上げて真ん中で合わせ、平べったいお饅頭の形にする。


「こうやって包んで、焼いて焦げ目をつけてから蒸して作るんだよ。どっちの具かわかるように、おからの方は丸い方を上にして、野草の方は皮を集めたところをちょっと捻ってこうしよう」


 今度は野草の具をのせて、ヒョイヒョイと集めた皮の端を立ててちょっと捻って留める。


 肉まんとあんまんみたいな感じだ。


「やってみる」

「難しいー」


 と最初は悪戦苦闘していた二人だが、三つ、四つと作るうちにどんどんコツを掴んで、五つ目くらいには手慣れた感じで包めるようになっていた。本当に器用だね。


 出来上がったおやきは、フライパンで軽く焼き目をつけてから、十個ずつ布巾を敷いた蒸籠に並べ、沸騰した土鍋の上にのせて十分程蒸しあげる。


「具には何を入れてもいいし、今日は醤油味だけど、味噌と液糖で野草を炒めても美味しいよ」


 と教えると、ふむふむ、なるほどと感心していた。


 スープの鍋も白菜モドキが煮えたので、生姜のすり下ろしを加えて、塩コショウで味を整え、水溶き片栗粉でとろみをつけた。


 最後に溶き卵を入れるだけなので、みんなを呼んでもらおう。



 訓練から戻ったみんなが食器などを用意してくれている間に、卵を溶いて箸を伝わらせスープに入れていく。フワッと卵が広がり、箸で二、三回切るように混ぜれば出来上がりだ。


 蒸籠を下ろして、二種類二個ずつ、一人四個のおやきを皿にのせて配ってもらう。スープもボウルによそって運んでもらう。


 おうとくうには味をつけないおからとお芋の茎葉を用意した。


 スープを盛っているルーから、


「どうしてこのスープとろっとしてるの?」


 と聞かれたので、片栗粉を水で溶いて熱いものに入れるととろみがつくこと、とろみがつくと味が絡まりやすかったり、温かさを保てることを教える。


「へえ、この粉すごいんだね!」


「おやきのモチモチ感もこの粉のおかげだよ」


 隣で、蒸かされてうっすら透明感のある皮になったおやきを盛っているユニにも伝えると、ユニとルーは二人で新しい料理の知識を喜びあっている。


 マヨネーズやケチャップの作り方や洋食も教えてあげたいな。パンも焼けるようになるし、今度は洋食にチャレンジしよう。



「今日は全員、初級魔法の発動が出来るようになりました。おめでとう! いつも頑張っている成果です。明日も魔法の訓練をするんだけど、畑もちょっと頑張ってたくさん作る予定だし、パン焼きにも挑戦します。いろいろやらなきゃだけど、みんなで力を合わせて頑張ろうね。では、仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます!」


 あつ、あつ、ふうふうと生姜ととろみでぽっかぽかになるスープを飲んだり、おやきのモチモチな食感や味の違いを楽しみながら、みんなで今日のこと、明日のことを話す。


 初級魔法が使えるようになったことは、もちろんみんな嬉しくてたまらなかったが、


「これでみんな初級魔法使いだね」


 と言ったら、エキサイトしてしまった。


「魔法使い!」

「村にもいなかった!」


 と大騒ぎ。


 中級になれば一人前の魔法使いと言われるらしいけど、みんなならすぐそこまでいけそうだもん。夢が広がるよね。


 その勢いのまま、明日は小麦を二面作る話が出たから、俄然やる気が漲ってしまい、パン焼きの話にはそのまま大興奮で突入した。


 食後のお茶を飲みながらもなかなか興奮が収まらずにいるので、気持ちを切り替えさせようと、


「そろそろ片付けてお風呂に行こうか。日が暮れちゃう前に」


 と声をかけたら、


「そうだ! お風呂!」

「キャー、行こう行こう!」


 と落ち着かせるどころか、さらに騒がせてしまった。



 食事の片付けと干し台の片付けを済ませ、手拭いを持ってお風呂へ向かう。


 空は夕焼けが始まっていて、お風呂から見る景色もひとしおだろう。


 マークと目配せして、男女に分かれ脱衣所に入る。


「うわあっ!」


 棚やベンチが置かれ、昨日とは雰囲気の変わった脱衣所に驚いている。


「なんだ?! コレ!!」


 男湯から聞こえるジェフの声に振り向いた女の子たちにも鏡が目に入った。


「何? これ!」

「え? これ私?」


 みんなおそるおそる鏡を覗いては、改めて見る自分の姿にびっくりしている。


「ね、私も自分がこんな顔してたって初めて知ったよ」


 鏡が面白いらしく、代わる代わる笑ってみたり、変な顔をしてみたりしてるけど、早くお風呂に入っちゃわないと日が暮れてしまう。


 みんなを急かしてお風呂へ入る。


 洗い場も桶やイス、シャワーが置かれて雰囲気が変わっている。ここでも驚いているみんなにシャワーの使い方を説明して、体を洗い湯船に浸かる。


 髪が洗いやすいとシャワーは絶賛され、マリーには鏡のことを問い詰められた。


 ガラスの向こう側にピカピカに磨いた鉄板を重ねてあること、光が反射して姿が映ることを教えるが、科学の基礎がないので説明が難しい。


 そんな拙い説明でもマリーは、


「水面はユラユラ揺れるからきちんと映らないんですね」


 と自分なりに何か得たものがあるらしい。マリーさんすごいです。


 窓を開け、外を眺めると、オレンジから青、紫へと変わっていく空が美しい。

 ずっとこのまま眺めていたくなる。でも、


「本当の真っ暗になっちゃう前に家に帰らなきゃね」


 と名残惜しい気持ちを抑え込んでお風呂から上がった。


 ふかふかのタオルを渡し、体を拭くと、その気持ち良さにみんなから喜びの声が上がる。


 今日は時間が無いので髪を乾かすのは家に帰ってからと、みんなで頭にタオルを巻いて帰宅することにした。


 男湯のみんなも上がったようなので、両方のお風呂に清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけてから、急いで家に帰る。


 マークがニヤッと笑いながら、


「みんな、すっげー驚いてたよ。大成功!」


 と報告してくれた。みんなを驚かせちゃったけど、悪いイタズラじゃないからこのくらいの刺激はいいよね。


 辺りはすでに薄暗く、(ライト)の魔法を使って歩いた。


 明日は夕食の前に来るようにしよう。そんなことを考えながら家路を急いだ。



 家に帰り、髪を乾かしてもらったら、パン種の様子をユニとルーとともに見に行く。


 順調に発酵が進んでいるようで、私の種は二倍程になっていた。


 ユニとルーの種には、さらに粉を少し足してぐるぐると混ぜている。


「これで明日の朝にはパン生地が作れる!」


「うん、明日が楽しみ!」


「私の方もいい感じだよ。明日は少し早起きしてパン生地作りだな」


 と言ったら、


「モモのパン作り絶対見たい!」


「私たちも早起きする!」


 と二人が熱望するので、パンを作りだす前に必ず起こすことを約束した。



 タオルの洗濯はアン、ルーとルーシー、ユニたちが洗浄(ウォッシュ)乾燥(ドライ)で魔力訓練の時にやってくれるというのでお任せして、みんなは訓練、私は物作りの時間だ。


 今日もいろいろと作ったので大分MPを使ったけど、まだ二千五百以上残っている。


 今日作るものは決まっている。

 焼き上がったパンの粗熱を取るためのスノコと保管用の番重だ。


 木材で鉄板と同じ九十×六十cm、深さ十五cmの番重、積み重ねが出来て持ち運びの出来る把手付きをイメージし、創造する。


 その中にちょうど納まるサイズの細い木を組み合わせたスノコは、少し脚を付け、下に三cmくらい隙間が空くように作る。


 番重に填めてみればピッタリだ。


 これをあと九セット作り、五段重ねにした上には蓋を作ってそれぞれ載せる。

 一番重に十五個のパンが入るのでこれで百五十個のパンを収納出来る。


 後はこれを運ぶための台車を作ろう。


 距離を運ぶ訳ではないけれど、番重の中にパンが詰まったら結構重くなるだろうから、しっかりと強さを持った車輪と車軸、持ち手にしたい。


 ここはMP八百三十かけても妥協せず作った。


 粗熱が取れたパンは本当はラップやビニール袋に入れておきたいんだけど、当然そんなものは無いので、わら半紙に油を染みさせて油紙を作っておこう。これで包んでおくだけでも多少は乾燥を防げるだろう。


 これで準備は整ったかな?



 MPもギリギリまで使い切ったし、明日は早起きだから今日はこの辺で聖域をかけて寝てしまおう。



 居間に戻ると訓練を終えたみんなもちょうど寝るところだったので、今日はおやすみを言い合えた。



 さあ、明日が楽しみだな。



前話との二分割のため

今回もちょっと短くなってしまいました。


お許しをー。

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