第五十六話 かあちゃんは明日の相談をする
ちょっと遅れてその上短めです。
ごめんなさい!
ユニ、ルーとともに調理場へ戻ってきた。
ユニとルーはニコニコしながらパン焼き窯を見つめている。よっぽど嬉しいんだろうな。
「今日の夕食についてと、明日のパン作りについて相談しようか」
と声をかけると、ハッとしたように振り返って、ピカピカの笑顔で「ハイッ」と返事してくれる。
村ではどんな風にパン生地を作っていたのかを聞いてみる。
「麦を粉にしたら、水と混ぜて置いておくの」
「パン種を作るのに時間がかかるんだ」
とのこと。
今日みたいに急いで作る時は、もったいないけどヨーグルトを混ぜれば一晩でパン種になると教えてくれた。
「ちょうどヨーグルトを作ってあって良かったよね」
なるほど。ヨーグルトで発酵を促すのか。少ない材料で良く考えている。
「火をつけて、窯があったまるまでにパン生地をこねるの」
「麦の粉とリネンの粉を混ぜたり、木の実を入れたりする」
ミルクやバター、卵を入れるなんて贅沢しないよね。
「せっかく材料がいろいろあるから、贅沢な美味しいパンを作ってみようかと思ったんだけど……、やっぱりもったいないかなあ」
私がちょっと反省していると、
「え?! 食べてみたいよ!」
「モモ、作って!」
と激しくおねだりされてしまった。
どうしようか。
「窯も初めて使うし、失敗するかもしれないのに作ってみてもいいのかな」
「ええー、食べてみたいー」
「お願ーい」
ねえねえ、と服の裾を引っ張りつつ、キラキラの瞳で見つめられる。ユニとルーの必死のおねだりに負けた。
「……せっかくだし、作ってみようか」
わーい! やったー! と飛び跳ねて喜ぶ二人の様子に、これは失敗出来ないぞ、と少し焦る。
相談の上、ユニとルーにもいつものパン生地を用意してもらって、いつものパンと贅沢パン、両方焼いてみることになった。
「贅沢パンはあまり日持ちしないし、もし私が失敗してもユニとルーのパンがあれば、みんなもがっかりさせないで済むよね」
私のパン種はすでに作り出しているので、ユニとルーにはいつものパン種を用意してもらおう。
私も自分のパン種の様子を見に、一緒に倉庫へ向かうことにした。
家の入り口で、
「あ、そーだモモ。これ見て見て!」
二人に引っ張られ畑に向かう。
最初にトマトを作った一番小さい畑が生い茂ったハーブ畑になっていた。
「何これ、すごい! いつの間に?」
ふふん、と自慢気な二人。
「ここにハーブを植えたの」
「あっという間にこんなに増えちゃった!」
成長の魔法はかけてないのに、どういうことだろう。
「ハーブはすぐ増えるからじゃない?」
「栄養も畑も良かったんじゃない?」
二人は特に難しいことは考えず、素直に受け止めて喜んでいる。
「そっか。肥料だけでも精霊様の力が籠められているから、成長が早いのかもね」
私も素直に喜ぶことにしよう。
「それでね。考えたんだけど、今後また森に行くでしょ?」
「野草とかもいろいろ探して、根っこから採ってきたら、こういう風に育てられないかな?」
おお! 大発見!
「すごい! いいこと考えつくね。やってみる価値ありそう」
二人によると気付いたのはマリーで、三人で相談したらしい。
マリーとバズにもちょっと来てもらって話し合ってみよう。
二人を呼んで、ユニとルーから聞いた計画を話す。
「なるほど……、やってみようか。麦やなんかは大きい畑と魔法でどんどん育てるとして、こっちの畑は野草なんかに使ってもいいよ」
バズが賛成してくれた。
「私がふと思っただけなんで、上手くいくかはわからないんですが……」
マリーがおずおずと話してくれたのは、森から根ごと採ってきた植物を畑に植え、魔法で成長させてみたいという話だ。
「魔法を使って成長した畑には花が咲いていたでしょ? 花が咲いたら種が出来るでしょ? 種がとれればまた育てられるかなって思ったんです。どうでしょうか?」
そこまで考えてたんだ! マリーはやっぱりすごい。
バズも、おおっ! と声に出して感心している。
思えば今まで育てた作物だって、花が咲いて実が生り、畑に落ちて種となっていたものもあったかもしれない。
収穫後に土を攫って、また新しく畑としてリセットしてしまっていたけど、元々野に自生していた植物なんだから、放っといても年々増える強さがあるだろう。
品種改良された野菜の美味しさや品質は見込めなくても、野生の強さで増やせるかもしれない。
「すごいよ、マリー! やってみよう」
バズもすごい乗り気でやってみたいと言ってくれてるし。
こちらにも手を伸ばすと、畑仕事が増えてしまうのが心配だったけど、意欲満々のバズたちが、
「ぜひ! やらせて欲しい!」
と言ってくれるからには試してみよう。
「麦も一面くらい試してみる?」
バズがさらに喜んで、
「やってみたい!」
と興奮している。
元の土地が岩山なので、全て自分たちの手で、とはいかないけれど、魔法で作った畑に種麦を蒔き、成長の魔法は使わないで育ててみることも試してみたい。
肥料もあるし、手はかかるけど、来年の春に麦が出来たなら、自力農業へ一歩近付くかもしれない。
魔法に頼ることも悪いことではないと納得しているので、早急に結果が出したいという訳ではないから、こういう試行錯誤は面白いものだろう。
「マリーも手伝ってくれる?!」
興奮したバズに両手を握られたマリーは頬を赤く染めながら、
「も、もちろんです。私もどうなるか興味あります。頑張りましょうね!」
と答えている。
青春っぽくていいねえ、とニヤつきたい気持ちを抑えていると、すでにニヤニヤしてるユニと目が合った。頷きあう。
ユニはどうも、この手の勘が鋭いようだ。今度ぜひ話し合いたいものだ。
小さい方の畑については、森から帰ってからまた相談することにして、ついでに明日の畑作りについても話した。
「ちょっと気が早いかもしれないけど、麦二面にチャレンジしてもいいかな? 僕、今、やる気充分なんだ。やってみたい!」
「うん、試してみようか。みんな手伝ってくれるよ」
二人でやる気を漲らせていると、
「あの、大豆は作らない?」
「大豆、結構使うよね」
ユニとルーからも手が上がる。
「そうだった。大豆の収穫は魔法でやれるし、大豆も作ってみちゃおうか」
「よし! やってみるよ。明日は忙しいぞ。頑張ろう」
いよいよ畑も本格的に動き出しそうだ。大変だけどやりがいあるよね。
バズとマリーが仲良く話しながら広場へ戻っていき、私たちも倉庫へと向かった。
私の作ったパン種は大分増えている。順調、順調。
「これがモモのパン種?」
「ブドウ入れたの?」
ユニとルーが興味津々で聞いてくるので、天然酵母について説明する。
「……だから、こうやって干しブドウを発酵させた酵母を混ぜてパン種を使うと、パンが膨らんで美味しいパンが作れるんだ」
「ヨーグルトを入れるとパン種が早く出来るのはそのせいなんだ」
「今度これも作ってみたい!」
二人の料理に関する理解力が素晴らしい。村のパンが堅くてパサパサなのは膨らまないからかあ、と二人で話してる。
「パサパサなのはふすまのせいかな? 小麦粉が黒いって言ってたよね。殻を取った後、ふすまをきれいに取り除くことが出来ないと黒っぽい粉になる。そっちの方が栄養はあるけどパサパサしちゃうんだ。堅くてパサパサのパンも、そういう意味では日持ちするし栄養もあるいいパンだよ」
白いパンはカロリーが高いから、今の子供たちには必要だし美味しいけど、ミネラル、ビタミン、食物繊維はブランや胚芽に多く含まれている。ブラン小麦粉もそのうち作ってみようかな。
「夕食は何を作るかもう決めてた?」
「ううん、まだ」
「スープかなあ、くらいだよ」
「じゃあ、夕食は私が用意するから、二人はパン種を作って。終わったら手伝ってね」
「ううう、モモが何作るか気になるよ……」
「……うん。後で教えてね。今はパン種作るよ……」
二人があまりにも残念そうなので、私は先に準備だけしておいて、パン種が出来てから一緒に作ることにする。
「ゆっくり準備してるから、慌てないでいいからね。パン種お願いね」
ワゴンを持ってきて材料を集める。
まず豆乳を作った時のおからは使ってしまおう。炒り煮にするから、ドングリ茸と醤油に液糖。
先に使った方が良さそうな野草。
スープに入れる白菜モドキ。塩、コショウ、生姜とと片栗粉。
材料を集めながら夕食のメニューを決めていく。玉子スープとおやきにしよう。卵を一つもらい、唐辛子と小麦粉も載せた。
蒸籠を作らなきゃ、と資材倉庫へ向かう。
ヒノキは全部、調理場の屋根に使っちゃったけど、薪にした分がまだあったはず。
ヒノキの薪を材料に、土鍋にちょうどのせられるサイズの蒸籠をまず一つ。重ねられるようにもう一つ。そして蓋。
二段重ねの蓋付き蒸籠を作ったところで、それを完成形として「創造・二段蒸籠」と魔法を使えば簡単に複製出来る。全部で三セット用意した。
綿の布巾も欲しかったので、蒸籠に敷けるサイズの布巾を作り、敷いてみる。うん、ちょうどいいね。
確認したところであと八枚。下の段、上の段、蓋の下と一セットに三枚使うから。
こうやってまとまりで作ると魔力が節約出来るし、楽だ。量産するものならすごく便利。
蒸籠と布巾を調理場に持っていき、ワゴンを取りに食料倉庫へ戻る。
二人はボウルにパン種を作っていたけど、木箱をテーブル代わりにしている。
「ごめん、ごめん。ここにも作業台を作っておくべきだった」
「もうすぐ終わるから」
「気にしないで。大丈夫だよ」
土魔法で倉庫にも作業台を作る。ここ使ってね、と二人に声をかけ、ついでに資材倉庫にも作業台を作っておこうと、もう一度資材倉庫へ向かった。
改めて食料倉庫に戻ると、パン種は出来たようだった。ちょっと気付くの遅かったね。
「もう出来たの?」
「後は朝まで置いておくの」
「寝る前に少し粉を足して、また混ぜとけばいいの」
朝になったら、ここに小麦粉とリネン粉をさらに足して捏ね、窯が温まるまで置いて、ナッツなどを混ぜて成形して焼くのだそうだ。
「ドライフルーツとか入れても美味しそうだね」
「やったことないけど美味しそう」
「作ってみよう!」
明日のことを考えると胸が弾む。
待ちに待った、お楽しみのパン焼きだもんね。
みんなの嬉しそうな顔がありありと目に浮かぶ。
美味しいパンが出来ますように!
書いていたら長くなり過ぎてしまって
二話に分割させてもらいました。
そしたら、いつもより短くなってしまった。
ご理解くださいませませ。
m(≡ε≡)m




