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第五十二話 かあちゃんはお風呂の素晴らしさを知ってもらう

少し遅れてしまいました。

申し訳ない! (≡ε≡)/


「お披露目します! これが温泉です!」


 長い建屋を前に大きな声で紹介する。


 お風呂自体が見えているわけではないので、みんなの顔は良くわからないといった感じだが、この大きな建物を一日で作ったことに驚かれた。


 すごい、すごいと大騒ぎのみんなに、


「中はこんなもんじゃねーぞ」


「とっておきの気持ち良さだぞ」


「かあちゃん頑張った」「すごいよ」


 マーク、ヤスくん、おうとくうが言う。


 とにかく中を見てもらおうと、一つ目のお風呂の脱衣所の入り口を開ける。


 中はお湯の熱気のおかげで、ガランとしてるが暖かく、入り口で靴を脱いでもらって案内する。


「ここで服を脱いでから、裸になってこっちに入ります」


 浴場への引き戸を開けると、湯気がモワッと溢れてきた。洗い場まで入り、


「まだいろいろ作ってないけど、桶でお湯を汲んで、ここでムクロジで体や頭を洗います。そうして、こっちの湯船に浸かって温まります」


 ムクロジの使い方や、今はまだ着替えがないので風呂上りには清浄をかけてから服を着るといいなどの指南をして、四つのお風呂を見て回る。


 上の二つは温度が高め、下の二つは温度が低め。男女分かれて入る。


 みんなも手を浸けて湯温を確かめたりしながら、


「あったかいね!」

「入ってみたい!」


 とだんだんテンションも上がってくる。


 温度低めの方がみんなの好みに合うようなので、今日は下の二つを男湯、女湯として使うことにした。


 桶は今のところ五つだけなので、男湯に二つ、女湯に三つ、交替で使ってもらう。


「明日には、またもっと作って増やすからね。今日はいっぱい魔法使っちゃったからマークに止められちゃった」


 すると、みんなが、


「マークえらい!」

「よく止めた!」


 とマークを褒める。苦笑しつつも、


「じゃあ、とにかく入ってみようか。みんなも気に入ってくれると思うよー?」


 と男女に分かれて脱衣所へと入る。



 女湯ではキャアキャア言いながらも、みんなでスッポンポンになり浴室へと入っていく。


 おうとくうの羽毛は水を弾くし、洗わなくていいかな。ザッとお湯を掛けて埃だけ流し、


「おうとくうは入っていいよ」


 と言うと、キャー、やったー、と飛び込んでいく。


「ふううう……」「たまらん……」


 二羽の気持ち良さそうな様子に女の子たちもソワソワしだす。


 手拭いを濡らして、ムクロジを泡立て、小さい子から順番に私とルーシーとマリーで洗っていく。


 私たちはお風呂の気持ち良さ、先に楽しんでるからね。


 体をゴシゴシ、髪もゴシゴシ。桶でザバアッとお湯を掛けて流す。


「はい。洗えた子は入っていいよ」


 キティとベルとティナがお湯に飛び込む。


「うわあ、あったかい」

「気持ちいいー」

「ふにゃあ」


 よしよし。三人とも喜んでくれてる。気に入ってもらえたようで良かった。


 壁の向こう、男湯からも、


「おお!」「あったかあい」


 と声が聞こえる。ピノとコリーも先に入ったのかな。


 こちらでも、ユニ、ルー、アンが洗い終わってお湯に浸かる。


「ああ……、これは」

「たまんなあい」

「とろけちゃうねー」


 三人も気の抜けた声やため息が出てる。


 私たちもさっさと体を洗ってお湯に浸かろう。


「あはあ……」

「うう、あったかい」

「気持ちいいですう」


 いや、ホントたまんない。久々に石鹸で洗ってさっぱりした体と髪。ぬくぬくの温泉。


 湯温は四十度くらいのつもりだったが、溜め置いたせいで少し下がったのか、気持ち温めのお湯になっていた。


 私は熱めのお風呂が好みだけど、温めなおかげでゆっくり入ってものぼせずに楽しめそうだ。


「ここの窓を開けると、外の景色を見ながら入れるんだ」


 みんなも温まった頃合なので窓を開けて見せる。


 外には日が傾き出した秋の空と川が見えて、川のせせらぎの音も聞こえてくる。


「これは、幸せな時間ですね……」


 アンがしみじみとそう言う。

 みんなもほおっと息を吐きながら、自然の景色と温かいお風呂を楽しんだ。


「あっちの洗い場の引き戸も開けられるから、夏は涼しく入れると思うよ。他に人もいないから、開けっ放しでも見られることも無いしね」


 年長組は少し恥ずかしそうにしていたが、ベルとティナは、


「夏は川で遊んで、お風呂にも入れる!」


「川で冷えたらお風呂に入って、お風呂で熱くなったら川に入るの!」


 と楽しそうにしていた。



 充分にお風呂を堪能して、そろそろ上がることにする。温めとはいえ、入り過ぎたらのぼせてしまう。


 お風呂から上がると、


「あれ? なんかスベスベ?」

「体がツルツルする気がします」


 確かに肌触りがとても気持ちいい。


「温泉の効能かな? 美人の湯ってやつだね」


 私の言葉に年長組が食いついた。


「お風呂に入ると美人になるの?」

「あ、なんだかアンがいつもよりキレイに見えます」

「ルーシーとマリーもですよ」


「肌に良い成分があるのかもね。汚れも落ちるし、髪もサラサラになって、みんなキレイになってるよ」


 マリーが清浄(クリーン)をかけてくれた服を着て、ルーシーとユニに髪を乾かしてもらう。乾いた子からアンがブラシで梳かしてくれる。


 みんなサラサラの髪になって、びっくりしていた。


 私もやってもらったけど、サラサラと指を通る髪が気持ちいい。


 石鹸で洗っただけならキシキシしそうなのにサラサラだ。後で椿油を塗ってあげようと思っていたけど、リンスしたみたいにサラサラしている。


 ムクロジ石鹸のおかげ?

 いや、この感じは、


「……重曹泉?」


 この肌のなめらかさ、この髪の感じ。

 重曹を入浴剤として使った時みたいだ。


 浴室に戻り、浴槽と洗い場と桶に清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけてから、桶に湯取り口からお湯を汲む。


創造(クリエイト)・重曹」


 お湯が消えて、桶の中には白い粉が残った。


 別の桶にアンに水を出してもらい、その粉を少し混ぜてみると、シュワシュワッと気泡が立つ。


 ……炭酸だよね? ――ちゃんと重曹だ!


 油汚れを落とすからお掃除に使えるのはもちろん、口にしても平気なので歯磨きにも使えるし、料理にも!

 肉を柔らかくしたり、アクを抜いたり、ベーキングパウダーとしてふくらし粉にもなる。ラーメンも作れる。


 これは嬉しい!


 ユニやルーにもその有用性を話すと、それはすごい、使ってみたい、と喜んでくれたし、マリーは、


「この成分のおかげで、お風呂に入るとキレイになるんですね」


 と感心していた。



 男湯のみんなも上がったようなので、男湯にも清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけて、白い粉の入った桶を抱えて家へと帰る。


 みんなほっこほこになって幸せそう。


「いやあ、風呂は最高だ」

「また来ような!」


 男の子たちも気に入ってくれていた。頑張って良かったな。



 家に着いた時には綺麗な夕焼けが広がっていた。


「夕食のスープは出来てるから、あっためるだけだよ」


 ユニとルーがしっかり用意してくれていたようでありがたい。


 スープを温めている間に、みんなで食器を揃えたり、日が暮れる前に干し台を片付けたりしていく。


 温めたスープを配り、みんなで席に着いた。


「今日も一日ありがとう。麦もいっぱい収穫出来たし、お風呂にも入れて、忙しかったけどいい一日でした。明日の午後は魔法の訓練の予定だけど、のんびり楽しみながらやっていこうね。では、仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます」


 今日の夕食は、私が最初に作ったような具だくさんのスープだった。一日中忙しかっただろうに、ちゃんとこんなごはんを用意してあるなんて、ユニとルーはすごい。


 白菜モドキとドングリ茸の出汁が染み込んだお芋に野草。しっかり味が染みるまで煮込まれている。いつもの塩味でなく、味噌仕立てになっていて、懐かしく心に響く味だ。


「ユニ、ルー、今日も美味しいごはんありがとう。忙しい中で大変だったでしょう」


「ううん、全然大丈夫だよ」


「だんだん寒くなってきたから、温かいもの出したいからね」


 優しさも染みるなあ。


「それより、お風呂! 最高だったよ」


「うん。温かいし、気持ちいいし、髪サラサラになるし」


 それから、みんなからお風呂を絶賛された。


「あれは良い物だよな」

「なんて言うか、染みわたるような気持ち良さなんだよ」


 男の子たちも。


「家の近くで入れるのが最高だぜ」

「毎日入る」「明日も行く」


 動物たちも。


 そして、何より女の子たちが。


「肌触りが違うんです」

「プルプル」

「髪もサラッサラ」

「色が白くなったみたい」


 もう、みんな、キャアキャアはしゃいじゃってる。


「椿の油をちょっと櫛に垂らして梳かすと髪がツヤツヤになるよ」


 と教えてあげたら、目がキラッと光った。ちょっとプレッシャーを感じる程の視線が集まる。


「お、お茶の木も椿の仲間だから。木の実採ってあるから、油搾っておくね」


 キャーッ! お願いね!! とテンションが違う。


 こんなに小さくても女なんだなあ……、と呆れ半分、尊敬半分。


 それから麦の大収穫を喜びあったり、明日の魔法訓練について話したりしながら、今日も楽しい夕食の時間を過ごせた。



 ごちそうさまの後、みんなで片付けをする中、おうとくうはもう眠さが限界という感じなので先に休んでもらう。


「今日はすっごい頑張ってくれたからクタクタでしょ。ありがとうね。また明日。おやすみなさい」


「いいの。お風呂気持ち良かった」

「うん、お風呂大好き。おやすみなさい」


 最後の方は目が開いてなかったね。お疲れさま。



 片付けが終わると、魔力の訓練の時間だ。


 私は自由に物を作っていい時間だけど、今日はあまりMPが残ってない。


 取り敢えず、忘れないうちに土魔法で小瓶を作り、お茶の種子から油を絞り取った。残っていたお茶の木から櫛も作る。


 みんな用のはブラシを作ってあるけど、油をつけるなら櫛の方がいいだろう。


 試しに、櫛の歯に油を数滴だけ落として馴染ませてから、自分の髪を梳いてみる。

 何回か櫛を通しているうちに、髪の手触りがしっとりとしてきて気持ちいい。


 明日みんなにもやってあげよう。

 きっとすごく喜ぶ。


 服とかも作ってあげたいのに後回しにしちゃって申し訳ない。少しずつでもやっていかなきゃな。



 それから、もう一つ。忘れちゃいけない畑の掘り返し。


 刈り入れの終わった麦畑を掘り返しておく。


 この魔法も初級魔法が使えるようになったら、バズやベルが自分たちで出来るようになる。楽になると言えばそうなんだけど、どんどん成長していく子供たちが嬉しく、誇らしく、少し寂しい。


 それでもまだまだ一緒にいられる時間はたっぷりあるので、大人になるまでを楽しもう。



 畑に魔法を使ったら広間に戻る。


 多少の回復はしてるけど、残りMPは二千ちょっとだ。パパッと何かを作ったら終わってしまう。


 でも今日は、MPは無いけど時間はある。

 ここは腰を据えてパン焼き窯について考えてみようと思う。


 ワラからわら半紙を、消し炭と枝から木炭鉛筆を作り、鉛筆削り用の小刀も土魔法で作った。ついでにゴミ箱も。それらを持って、地下室に行く。


 ここには大きめのテーブルを作ってあるので、作業や考え事に向いている。


 今の私たちで出来るパン焼き窯について考えてみよう。


 もちろん、前世のようなオーブンレンジは作れない。ピザ屋さんで見かけるような石窯になるだろう。


 かまどや土鍋を作った時にも感じていたのだが、この辺の土や石は耐熱性が高い。土魔法で耐熱レンガだって作れるだろう。創造で作れば耐久性も出るかな?


 素材としては土、そして扉として鉄。出来れば覗き窓として耐熱ガラスをつけたいところだけど。


 ……ガラスか。


 硅砂から作れるはずだから、火打ち石にした石英で作れるかもしれない。他の材料はわからないけど。


 倉庫の資材を思い浮かべてクリスタルの存在に気付いた。


 クリスタルなら透明だし、耐熱性もあったはず!


 歪みない平ガラスにできるかどうかはわからないけど、スキル先生に助けてもらって試してみよう。



 考えなければならないのは石窯の構造。


 石窯でパンを焼くには、窯を上下二層にして、下で薪を焚き、その熱を上の窯部分に伝えて温度を上げる。


 ピザなら高温にして短時間焼くので扉もいらないんだけど、パンの場合は中温を長時間保たなければいけないから、温度を逃がさないように扉が必要なんだ。


 わら半紙に鉛筆で構造を考えながら書き込んでいく。


 熱を効率良く循環させて庫内温度を保ちたいから丸みを帯びさせる。かまくらのような全体にして、下部に薪をくべるための開口部を作る。

 中は上下二層だが、下部で薪が焚かれた熱気が後方から上部の窯へ回るように、後ろの方だけ上下つなげておかなくては。


 上昇する熱気を上手く循環させるには、釜の内部が真四角より丸の方が良いゆえのかまくら型だが、さらに前方に向けて緩いカーブにさせた方がいいと思う。かまくらというより、ガ○バートンネルを縮込めたみたいな形になるな。


 対流した後の空気の逃げ道として、手前に煙突もつけよう。これがないと扉を開けた時に熱気が吹き出してきてしまう。



 前世の仕事で、食のイベントで石窯パンを焼いた時の記憶を必死に思い出して、なんとか雑な設計をしていく。何回も書き加えたり、書き直したりを繰り返し、かまくらの手前にひょっとこみたいに口がにゅっと伸びた形にしてみようと決めた。


 ひょっとこの口の上に煙突をつければ、扉を開けても熱が吹き出してこないだろう。


 扉以外は全て土で作るので好きに形がいじれる。実際に一つずつレンガを積んでく訳ではないので、ドームの構造を選べるのがありがたい。



 後は大きさだな。


 直径十五cmのパンを、一度に十五個焼くとしたら、幅六十cm、長さ九十cmくらいの鉄板を入れられるサイズで作りたい。


 その鉄板を入れるなら、扉のサイズは幅七十cm、高さ三十cmくらいで……、と細かく考えながら、またわら半紙に数字を書き込んでいく。


 さんざん試行錯誤して、直径二m、高さ一mのかまくらに、幅一m、高さ六十五cmの半円のひょっとこ口がついた筺体とする。


 下から二十cm程を薪を入れ、火を焚く場所にすれば、上段に欲しいサイズの扉をつけられる。

 かまくら部分の厚みを二十cmとったとしても、中は充分な広さを確保出来る。


 ただ、かなり大きな窯になっちゃうな。


 この窯でどのくらいの熱量がとれるかわからないし、取り敢えず大きくてもいいか。

 作ってみて、使ってみてから、調整したり、作り直したりすればいい。やってみなくちゃ何事も始まらない。



 庫内を二百度以上で一時間維持出来れば、三回パン焼きが出来る。この窯が上手くいってくれたなら、二台に増やせばパン焼きは三日に一回とかに出来るだろう。


 とにかくやってみて、みんなの意見も聞いて、手直ししていくことにしよう。



 あまりにも考えに没頭し過ぎていて気付かなかったけど、もう大分時間が経ってしまったようだ。みんなもとっくに寝ているだろう。


 起こさないようにそっと居間を覗くと、やっぱりみんな、もうお休み中だった。


 MPを使い切るために資材倉庫に行って綿を取り出す。お風呂が出来たことで、どうしても欲しかったものを作ろう。ふかふかのタオルだ。


 残りMPから計算すると十七枚作れる。おうとくうもいるかな? 仲間はずれはよくないので、一応作っておこう。


 ふかふかのバスタオルをイメージする。表面がループ状になってるパイル地だ。吸水性が良く、肌触りのいい、お風呂上がりの体を優しく包むバスタオルを十五枚。創造を使って作り上げる。


 目の前に現れたバスタオル。頬を寄せてみるとふかふかで気持ち良い。お風呂上がりにこれを使うことを思うとテンションが上がってしまう。


 もう寝る時間なんだから、落ち着いて、私。


 それから、おうとくう用のどでかサイズのタオルを二枚作った。殆どタオルケットみたいだ。


 これに包まって眠りたい衝動を抑えて、タオルは畳んで棚にしまう。



 居間で寝てるみんなの寝顔を見渡してから、ヤスくんの隣に潜り込む。


「おやすみ。ここは聖域なりて(サンクチュアリ)


 私も眠りについた。



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