第四十九話 かあちゃんは子供たちの成長に驚かされる
少しだけ長めです。
もうすぐ空が夕焼けに染まりそうな頃、本日二度目の「ただいま」をしながら家へと帰ってきた。
調理場からは焼き魚のいい匂いがしていて、お腹がぐうと鳴った。
ルーがパタパタと走ってきて、
「モモ、みんな、おかえりなさい。コリーがすごいんだよ。魚をどんどん捌いていって、保存食も夕食もばんばん作っちゃって」
いかにコリーが格好良かったかを熱く語るルー。
うんうん、なるほどね。いや、ここは敢えてツッコまないでおこう。
ニヤニヤしたい気持ちをぐっと堪えて、
「そうだったんだ。コリーすごいね」
と返事をすると、自分が褒められたかのように、
「うん! すごいの!」
と自慢気にして、はにかんだ笑顔を見せた。
ニヤニヤしながらやって来たユニと無言で肯きあった。
荷車いっぱいのリネンを見せると二人とも大喜びで、特にユニは、
「久しぶりにお裁縫が出来るかも」
と喜んでいた。
羊毛も手に入ったし、冬の間は編み物や縫い物もいいかもしれない。編み針や針なんかの道具も作ってあげなきゃ。
他のみんなもやって来て出迎えてくれる。リネンが山ほど採れたことにも喜んでくれてる。
やっぱり、馴染みのある植物が見つかると嬉しいよね。
リネンに関しては、種と茎、両方に需要があるので、分けてからそれぞれ、食料倉庫と資材倉庫へしまった方がいいだろう。ここは魔法でやってしまおう。
創造を使い、種の部分は丸い殻からも出して葦の袋へ。茎の部分はそのまま大きな葦袋へ。それ以外の部分は肥料の材料にするべく、畑の脇に掘った穴へと分かれることをイメージする。
それぞれ分かれた袋を倉庫へしまったら居間へ戻ろう。そろそろ夕食の時間だろう。
なんてったって今日の夕食はとれたての焼き魚だ。米と味噌汁が欲しくなるだろうな……、とは容易に想像がつくけれど贅沢は言えないよね。
片付けを終えて居間に戻ると、思った通りごはんの用意が始まったところで、みんなも焼き魚を楽しみにいそいそと食器を並べたりしていた。
私たちも手伝いに参加して、テーブルの上に料理が並んだ。みんなで席に着く。
誰かの喉がゴクリと音をたてた。
「みんな、今日も一日お疲れ様でした。今日の報告や明日の予定、話すことはいっぱいあるけど、我慢出来ません。まずはごはんにしましょう。魚をとってくれたコリーに、そして仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」
「いただきます!」
コリーが作ってくれたのはニジマスの塩焼きだ。焼き網を作っておいたので、それで焼いたのかな?
皮目はパリッと、身はふっくらと焼き上がっている。
お腹も取ってくれてあって、塩加減も丁度良い。
あっさりしているけど、ふっくらした白身には適度に脂が乗っていてジューシーで、手を止められずパクパク食べ進めてしまった。
久しぶりの魚。めちゃめちゃ美味しかった。
もっと味わえば良かった、と反省していると、コリーがクスクス笑いながら、
「モモは魚が好きなんだな。またとってくるから、そんな顔すんな」
と言ってくれた。みんなからも、
「コリーお願い!」
「頼んだぞ!」
「また食べたい」
「めちゃくちゃ美味い!」
と絶賛されている。私も、
「コリーありがとね。すっごく美味しかったよ。またとりにいこうね。お願いね」
と頼んだ。
今日のコリーはやたら男前だ。
ルーを筆頭にみんなが憧れの目で誉めている。
ここに来てからの十日程で、みんなが強く、たくましく、格好良く成長している。子供ってすごいなぁ。
他にも、ユニとルーが作ってくれた、昼間採ってきた野草のサラダと、サツマイモとサツマイモの茎葉が入った味噌汁を楽しむ。
焼き魚に味噌汁最高。味噌の香りに甘いサツマイモ、ほっこりする。思った通り、米が欲しくなった。
サラダにはなんと! ドレッシングがかけてあり驚いた。
「このサラダの味付け、すごくいいね」
乾燥したペパの実を石ですり潰し、オレモンの汁、塩と混ぜたのだそうだ。
「リネンの種から油を搾ったら、それも少し混ぜるといいかも」
なるほど! とユニとルーの目が輝く。本当にお料理好きなんだね。
「いろんなものが見つかって、出来ることも増えてくるね。落ち着いたら料理一緒にしようね」
「うん! 楽しみにしてるよ」
それにしても、自分で胡椒挽いてたりすごいな。
昨日、今日と倉庫にいろんなものが増えてるし、そっちも何とかしなきゃと思ってたんだけど、このところのみんなの行動力や頑張りを見てると考えさせられる。
みんな、自分の出来ることを率先してやってくれるし、私が全部仕切らなくても自ら考えて決めて動ける。
日本の十歳前後の子供とは比べるべくもなく、この子たちは強く、しっかりしている。
もっと頼って、任せてもいいのかもしれないな。
みんなが焼き魚を堪能して、お腹いっぱい、幸せいっぱいになったので、食後のお茶を飲みながら話しをする。
私たちからは今日見つけた、本当にいろいろ、たくさんのものの報告を。
「ヤスくんは本当にいろんなことを知っていて、今日一日、大活躍だったんだ。おうとくうも、すごく力が強くてね。キックなんてすごいんだよ」
「洞窟の中でドカーンって壁を蹴った時は驚いたよな!」
と笑いも交えながら話していく。
冬を越すために必要と思えるものが、たくさん見つけられた報告は、みんなの顔を明るくした。
湖の近くには危険は無さそうだったので、また今度みんなで出掛けようという話しには、小さい子たちから歓声が上がった。
寒くなる前に、近いうちに連れて行ってあげたいな。
「それでね。最後に案内してもらった温泉なんだけど……」
ヤスくんのとっておきの場所の話しと、マリーの気付いてくれたことを話す。
温かいお湯に体ごと浸かる、ということに、どうもピンとこない表情だったけど、ルーシーたちが、いかに素晴らしく、気持ちの良いものだったかを力説してくれたので、多少興味が出てきたみたいだ。
「明日は川原に温泉を探しに行きたいと思ってるんだけど……いいかな?」
「うん、畑の方は任せてもらって大丈夫だから、行ってくるといいよ」
「家のことも任せてください」
次にバズから畑についての報告をもらう。
「今日は大きい畑に麦を作れたし、肥料をいっぱい作ってくれてあったから、午後は他の畑の土作りも出来た。
ベルたちもちゃんと畑仕事が出来るようになってるから、頼りに出来るくらいだよ。
明日の刈り入れと乾燥がどのくらい出来るかによるけど、これから畑は順調に規模を広げてやっていけそうだよ。みんなには明日は特に乾燥を手伝って欲しいんだ」
「すごいね。ベルたちは畑仕事辛くない? 出来そう?」
「ぜんぜん平気! 畑のお仕事楽しいし」
「うん! 私たち力持ちになったから」
「私も! 麦が元気に育つの見るの大好き!」
「ピノもいっぱいおしごとできるお」
本当にすごい。びっくりだ。
バズが上手くやってくれてるのも勿論あるんだけど、小さい子たちも頑張ってくれてるんだ。
「みんなで楽しんでお仕事してますから、家の方は心配いりませんよ」
アンもそう言ってくれた。
「それに、キティとピノは野菜干しも手伝ってくれるよ」
「そうそう、ブドウ干すのとかすごい上手になったよね」
「野菜干しもやってくれてるの?!」
そろそろ乾燥出来たものがあるはずなので、やらなきゃなあと思ってたんだ。
「うん。良く乾いたものは取り込んでる」
「空いたところには次を並べているよ」
みんな、本当に頼りになるなあ。ハーブ類も全部植えてくれたし、居間にはミントが飾られている。
コリーからも、
「今日、夕食に出した焼き魚以外は、小さい魚は塩をして焼いてからひもで縛って吊るしておいた。中くらいの魚や、大きいマスもあったから、内蔵は出して塩をたっぷり擦り込んで、こっちも干してあるよ」
と報告される。
「完璧だね……」
あまりにも、みんなが優秀で呆然としてしまう。
「だから、また魚とりに行きたいんだ」
コリーの楽しそうな明るい声に思考が戻ってきた。
「みんなが優秀過ぎて意識が飛びそうになったよ」
と言ったら、みんなに大袈裟だなあと笑われてしまった。
コリーには湖にも魚がいっぱいいたことを伝えると、ぜひとも湖でも魚をとりたいと熱望された。
明日の予定は、麦の刈り入れと乾燥。
ジェフ、コリー、ルーシー、ユニ、ピノは乾燥班。
バズ、アン、マリーは刈り入れを。ベルとティナは刈った麦を運んだりのお手伝いをするのが畑班。
ルーとキティは干し野菜などの保存食作り、私とマークは温泉探しだ。
ヤスくんとおうとくうも温泉探しを手伝ってくれることになった。
「アン、マリー、お願いがあるんだけど」
今日のみんなの様子を受けて、夜の魔法訓練については二人に任せようと決めた。任せられるところは任せる。そうすれば、その間に私は資材をいじれる。
「アンとマリーはもう充分魔力操作が上手くなってる。夜の訓練は二人に任せる。わからない時や、手に余る時は、いつでも呼んでくれていいから二人で見て欲しい。初級魔法や攻撃魔法の実践訓練は、昼間、広場でやろう。そっちは私も参加するから夜の訓練は頼むね」
「私たちに出来るでしょうか……」
二人は不安そうだったけど、
「二人なら出来ると思ったから任せるんだよ。大丈夫」
と太鼓判を押すと、
「……わかりました! 頑張ります!」
とやる気を出してくれた。
「ありがとう。お願いします」
その時間に私は残った魔力で木箱や葦袋、ロープなどの資材を補充したり、調味料などの加工をしたり、新しく作りたい物について考えたり、畑や肥料を作ったりしようと思うと言うと、みんな納得してくれて、
「頑張り過ぎんなよ」
「夜はモモちゃんの研究の時間にするんですね」
「あんまり遅くまでやらないで寝るんだぞ」
なんて声を掛けてくれた。
「うん、ありがとう。魔力の範囲内で程々にやるから大丈夫だよ。夜は魔力を使い切ってから寝たいし。だからみんなも欲しいものとか言ってね。この時間に順番に作っていくからね」
そんな話し合いの後、「ごちそうさま」をして夕食を終え、片付けをすると、みんなは魔力の訓練をすることになる。
私は早速、倉庫に向かい、まずは確認から始めようと思ったのだけど、おうとくうから、
「かあちゃん」「眠ーい」
と声を掛けられた。
「そうだね。二人はもう寝る時間だ。急いでお部屋をキレイにするから」
二羽とともに鳥部屋へ向かう。
トイレに清浄をかけ、巣へ行くと、結構羽が抜けるらしくポヤポヤした羽毛がそこら中に落ちている。
葦袋を持ってきて、出来るかどうかわからないけど、奪取で羽を集めてみる。
成功と言えるのか、少しだけは集められた。が、非常に効率が悪い。人数を集めて手で拾った方が全然早い感じだ。うーん。
『奪取を材料として、収集の魔法が作れます。魔法を作りますか?』
頭の中に声が響く。おお、なんか便利そう。
「はい、お願いします」
『材料奪取を発動して下さい』
「奪取」
いつものクラッとする感覚の後に、
『オリジナル魔法収集が創造されました。目に見える範囲内にある対象物の全てを収集することが出来ます』
精霊様、いつもありがとうございます。早速使わせていただきます。
鳥部屋に落ちている羽毛を対象とイメージして、
「収集」
と魔法を発動してみる。
ふわっと部屋中の羽毛が舞い上がり、葦袋の中へ集まってきた。
「おお、すごい便利!」
キレイになった巣に清浄をかけようとした時、
「あれ? これって」
巣の中に十cmくらいのニワトリより随分大きな卵が転がっていた。
「おう、くう! 卵産んだの?!」
「ああ、うん、毎日生むよ」
「かあちゃんにあげるよ」
え? あっさり、何?
「くれるって、大事なものじゃないの?!」
「オスのいない卵は大事なものじゃないよ」
「毎日生まないとスッキリしないから生むだけー」
えええ?! そんな感じなの?
話しを聞くと、おうたちの種族は繁殖の時にはオスがやって来て、有精卵が産まれると温めるのも、孵すのも、育てるのもみんなオスの仕事なんだそうだ。
メスは本当に産むだけで、生まれた後の卵には全く興味が無いらしい。
孵った後の雛に対しても、親子の愛情というのはオスにしか無いようで、ある程度大きくなると誰が産んだ卵の雛だろうが同じ仲間という認識になるらしい。
……種族が違えば常識も違う。
かあちゃんというのは群れを率いるメスのことで、最も敬い信頼するもの。兄弟というのはかあちゃんの率いる同じ群れの仲間。血の繋がりとか関係なくみんな兄弟ということだ。
うちの家族にすんなり溶け込んだことにも頷ける。
「オスのいない卵は絶対孵らないからあげる」
「かあちゃん、もう眠い。寝てもいい?」
「あ、ああ。うん、そうだね。ちょっと待って」
卵をよけた巣に清浄と浄化をかけて、
「おやすみ、また明日ね」
と言うと、二羽は、
「おやすみなさーい」
と言った途端に眠ってしまった。
私の手の中には五つの卵。
一日、二、三個ずつ生むのだろうか。
食料としての卵は跳び上がる程嬉しいものだけど、二羽のあまりにもあっさりした態度に喜ぶのも忘れて、ただ呆然と立ち尽くしてしまった。
居間と広間の間にはまだ扉をつけてないので、広間でぼーっと立ってる私に気付いたみんなが訓練の手を止めてやってきた。
「ももちゃん? どうしました?」
アンに声を掛けられて、
「これ……」
と卵を見せると、みんなもびっくりしてる。
「おうとくうが生んだんだって。オスのいない卵は孵らない卵だからってくれたんだけど……」
「すごい!」
「嬉しいね!」
「やったー!」
みんなは素直に大喜びしだした。
「そ、そうだよね。嬉しいね!」
やっと私にも喜びが湧き出してきて、みんなと喜びあった。
焼き菓子やパンを焼く時に、亜麻仁を卵代わりに使うことは出来るけど、やっぱり本物の卵が手に入るのは嬉しい。いろんな料理に使えるしね。
「明日、起きたらおうとくうを褒めてあげなきゃね」
みんなは訓練に戻り、私は食料倉庫に向かう。
卵をしまいがてら、今ある食材の様子を確認すると、ユニとルーがきちんと管理してくれているようで傷みそうな食材などもなく、先に食べるべきものはわかりやすく除けてあるようだった。
ここの管理は二人に任せてしまって良さそうだな。
今日手に入れたリネンの種を油や粉にする時や、ジャムの保存、調味料の補充などの魔法を使う時に手を貸すくらいで、二人に無理がないならお願いしよう。
という訳で、食料倉庫に関しては、また二人と相談しながら進めよう。
資材倉庫も大分物が増えている。
衣類や布団など作りたい物は多々あるけど、まず今日は木箱と葦袋、ロープを補充しておこう。
畑が順調なおかげで麦を入れる袋が早急に必要になるし、保存食を入れておく木箱も既に足りなくなってそうだし。
それから、試してみたかったことを一つやってみる。
今日、手に入れた岩塩。
岩塩はもともと、大昔に海であった地形に残った塩分が結晶化して出来ている。
塩には変わらないけど、ミネラルの量が違うし、味も違う。
料理によっては岩塩が合うもの、海塩が合うものそれぞれだが、ここでは海塩は手に入らない。
創造で作り出すことは出来るけど、一発で気絶してしまう程のMPを消費してしまうのでは手が出しにくい。
でも、材料があれば違うんだ。
岩塩を材料に海塩を作り出せないだろうか?
頭の中では赤○の天塩をイメージし、まろやかな塩の味を思い出す。
ビニール袋はいらないので、土魔法で作った甕を用意し、岩塩の塊が海塩に変わることを願いながら、
「創造・海塩」
と魔法を使う。
また、倒れてしまうことや、MP不足で発動しないことも念頭に置いた上での挑戦だったのだが、上手くいったようだ。
MPは八百ちょっとの消費で甕いっぱいの海塩が出来た。
もう一つ甕を作った中には、岩塩を挽いた状態の塩を作った。こちらは八十三のMP消費で作れる。
二つの味を比べてみると、海塩として作った方は少し苦味などがある複雑な味。岩塩の方が塩味が強く感じた。
良かった。成功だ。
なぜ、わざわざこんなことをしたかというと、ミネラルの少ない岩塩では豆腐が作れない。にがりの材料として海塩がないと気軽に豆腐が食べれないから。ではひどすぎるかな?
私の食の趣味のためと言ってしまえばそれまでだけど、魔法の可能性を図るためと言わせて欲しい。同じ成分で出来ている別の物に作り替えることが出来るかの検証だ。今の私の手には余るかもしれないけど、化学的な成分の取り分けや創造も出来るなら、いつか役に立つかもしれない。
倒れてもいい時に一度試しておきたかったんだ。
甕にはそれぞれ、海塩、岩塩の刻印をし、調味料とともに貯蔵室にしまっておいた。
成功したおかげでまだもう少しだけ道具作りが出来るので、石英だと思われるキラキラした石から、火打ち石として使えるように手の平に収まるサイズの石を切り出し、鉄鉱石から火打ち金にするべく焼き入れした鋼を細長い板状に作り出した。
これで火が着けられれば、ジェフとコリーがいない時でも調理が楽になる。明日、試してみよう。
残り少なくなったMPを使い、羊毛で厚手の毛布のようなシンプルだけどすごく大きな生地を作ってみた。途端にふらっとしたので、今日はこれくらいにしよう。さすがに魔力枯渇ギリギリだ。
居間に戻ると、みんなも訓練を終えて休むところだった。
近い内にお布団か、せめて敷物を用意してあげるつもりではあるけど、いつまでも土の床にごろ寝ではあんまりなので、羊毛で作った布を広げてその上で寝てもらうことにした。
ちゃんとしたお布団が用意出来たら、毛布にでも作り直せばいい。
子供たちもMPを消費して、一人、また一人と眠りについていく。
おやすみなさいをして全員が眠りについたのを見届け、私も毛布の上で聖域を使い、みんなと一緒に眠りについた。
今月から、火、木、土、日の夜11時に
更新させていただくことにしました。
温かくご理解いただけると嬉しいです。
今後とも応援よろしくお願いします!
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の方も、お待ちしております!(≡ε≡)/




