第四十七話 かあちゃんは新たな地に足を踏み入れる
翌朝、みんなで朝の準備をしていると、
「モモ! あれ!」
バズが大慌てでやってきた。
「畑! 増えてるけど?! あんなに、いっぱい」
走ってきたのか息が上がっている。
「うん、昨晩はMPに余裕があったからね」
これで一アールの畑が四枚出来たので、順番に無理せず回していけるだろう。
朝ごはんを食べながら今日の予定を確認する。
「今日は畑かな。麦を作るんだよね」
「そうだね。でも今日は、取り敢えず一番大きい畑一枚だけにするし、片付けや収穫がないからモモはやりたいことやってもらって大丈夫だよ」
「それなら、羊毛は見つかったけど、他のものも探してみようよ」
バズの答えにマークが探索を提案する。
「昨日集めたハーブを植えたりは……」
「私たちでやっておきますから大丈夫ですよ」
「うん、ハーブなら慣れてるから」
「ジンジャもやっとくよ」
「ペパの実の乾燥もしとくから」
アン、ユニ、ルー、ルーシーもそう言ってくれる。
「じゃあ、ヤスくんに案内してもらおうか。マークも来てくれる? 他に誰か一緒に行く?」
「オレも行っていい? 魚のとれそうなポイントを探したい」
「じゃあ、俺は残るな」
コリーが行くのでジェフが残ってくれることになった。
「マリーはどうする?」
「私は……」
「おうも行く」「くうも」
「私も行きます!」
マリーは結構動物好きだよね。
外出班が決まり、畑仕事の流れも考えた。
今日は私は肥料だけ作って出かけて、成長の魔法は帰ってからにする。
バズたちが土作りと種蒔きをしておいてくれて、帰ったら成長の魔法をかけ、明日は刈り入れと乾燥、明後日は片付けて畑作りと三日サイクルで回してみることにした。
朝食の後、一昨日片付けて穴に入れておいてくれた枝葉などにオガクズや灰を足して肥料を作ると、後はみんなに任せて私たち四人は出発する。
荷車二台はおうとくうが引いてくれるので、私たちは交替で一台の荷車を引いていけばいい。
ヤスくんと相談して川原を川上に向かうことにした。
道中、マリーと話しながら歩く。
「マリーは大変じゃない? いつも家のこと任せっきりでごめんね」
「それは大丈夫ですよ。でも……、私、役に立ってますか?」
ちょっと難しい顔でそんなことを言う。
もちろん役に立ってるし、頼りにしていると言うが、
「私は力も強くないし、料理もあまり出来ない。小さい子たちのお世話もしてるけどアン程上手くないです」
少し落ち込んじゃってるみたい。
「マリーにはマリーの良さがあるよ。私もみんなもわかってる。マリーはいつもきちんと考えて行動してくれてる。言われたから、とか出来るから、だけじゃなくて、理由や原理がこうだからこうなる、これをしようっていつも考えてるでしょ? それは誰にでも出来ることじゃない。マリーの才能だよ」
例えば日の光の向きや高さで時間や方角を見ること。魔法や現象がなぜこの結果をもたらすのか。「そういうものだ」で済ませないというのは新しい発見を生む。
「昨日だって私を安心させるために灯の魔法を使おうって気付いてくれたよね。いつもいろいろ考えてくれてるから、そういう発想が出来るんだと思う。あれにもすごく助けられたよ。ありがとう」
きちんと褒めて、ありがとうを伝えるって大事だ。
マリーは照れながら、嬉しそうに「そっか……」と呟いた。
「数日中にはマリーにも初級の魔法が使えるだけの力がつくと思う。浄化に癒しに盾にスタミナの回復。攻撃魔法だって、マリーならすぐに使い熟せるようになると思うよ。出来ることはこれからもどんどん増えていく。他のみんなもね。
ただ、使えるのと使い熟せるのは違う。マリーは使い熟せる人だと思うから。みんなが気付けない、そういう何かに気付いたら、私にもみんなにも教えてね」
「……うん! わかりました! 頑張ります!」
マリーの顔付きが晴れやかになった。少しでも話しが出来て良かった。
みんな一人一人いろんなことに悩み、考えている。全部に気付いて、わかってあげるのは難しいけど、この笑顔を曇らせないように守りたい。頑張ろう。
川原に着くと、早速コリーは魚を探す。
「モモ! 魚もいる! エビもいる! ここならいっぱいとれそうだ!」
目を輝かせてキラッキラの笑顔だ。
「やったね!」
それにしても動物性のタンパク質、出汁、こいつは嬉しい。
「あれ? この辺の水はあんまり冷たくないんですね。だから魚も集まるのかな?」
川辺で水に手を浸したマリーの言葉に、私も手を入れてみる。
本当だ。流れが緩やかだから?
今すぐにでも魚をとりたいと顔に書いてあるコリーに、
「コリー、せっかくだけど魚は後にしよう。探索中ずっと持ち歩くことになっちゃうから。戻る時にとった方が新鮮な魚を持ち帰れるでしょ?」
コリーはがっくりしたがすぐ立ち直り、
「わかった。後でいっぱいとってやるから。モモ、楽しみにしてて」
と言ってくれた。
「うん、頼んだよ。楽しみー!」
「うん、オレも楽しみー!」
と笑い合った。
川原からもう少し上流に行くと、こちらにも川幅の狭いところがあった。
さらに上流に進めば湖があるはずだ。でもヤスくんは、
「ここでこっちに渡るんだ」
とピョンッと川を飛び越えた。向こう岸から「早く、早く」と急かされるが、私やマリーには飛び越えられそうもない。
「このまま、こっち岸を行ったらダメなの?」
ヤスくんに聞くと、
「ここより湖に近いところは林との距離が近いから、山から獣が下りてくるんだよ。強いヤツも出るからこっちの岸を通って湖に行った方が安全だぞ」
と教えてくれた。なるほど、そういうことなら渡るべきだろう。荷車も通すことを考えたら、また橋を架けるしかなさそうだ。
「ヤスくん、荷車が渡れないから橋を架けるよ。一旦戻って」
ヤスくんも呼んで、すぐ近くの北の林で木を伐る。
この辺の杉は背が高く、一本の杉から五本の丸太がとれた。四本の杉を丸太と木材、薪に変え、木材と薪は荷車に積む。
さあ、丸太は重いから積むのが大変だぞ、と思った時、
「運べばいいんだよね」
「私たちにおまかせ」
おうとくうは丸太に華麗なキックを決めて、次々に川原に向かって転がしていく。
「すごい……」
「上手いもんだな」
みんなで唖然として見てしまった。
「かあちゃん、ここからならこの間の薬の木も近いぜ」
ヤスくんが情報をくれたので、丸太転がしをおうとくうに頼んで、私たちは林へ入る。
「こっちの林には猪や鹿なんかの大型の動物もいるから気をつけていこう。大きい声を出しながら移動すれば、気付いた動物の方で避けてくれるからね」
感知を強化し警戒しながら進む。
私が適当に童謡を大声で歌いながら行くと、そのうちみんなも覚えてしまって一緒に歌い出していた。
「この木が薬の木だ。あの辺には栗やクルミがあるし、こっちの辺りの草は食べられるぞ」
おお、ヤスくんえらい! すごい! とみんなでヤスくんを褒めながら、一頻り採取をする。
私はシナモンを、これも後でルーシーたちに乾燥してもらおう。マリーとマークは野草を見つけて、ヤスくんとコリーは木の実拾い。あっという間に私たちの腰カゴはいっぱいになった。
荷車のところへ戻ると、とっくに丸太を運び終わったおうとくうは、草むらで柔らかそうな葉っぱや虫を見つけて啄んでいた。
「おう、くう、運んでくれてありがとう。待たせちゃってごめんね」
「ううん、ここ、ごはんいっぱい」
「いいところ。おいしいものいっぱい」
本当に何でも美味しく食べれちゃうんだね。これなら食料問題も大丈夫そうだ。
川原に戻り、前回同様、丸太を倒して向こう岸へと渡し、今回は私とマークで並べ直して創造で橋を架ける。
前に一度作っているので、作業工程と出来上がりをイメージすることで、瞬く間に橋が出来上がってしまった。
ここら辺は葦が茂ってもいないので、前回よりもずっと楽だった。
橋を渡ると正面には緩やかな山がある。
「この山に登ると、この前かあちゃんが掘ってたピカピカの石みたいなヤツがあるぜ」
ヤスくんが教えてくれたので、荷車は置いて山に登ってみることにした。
腰カゴの中の戦利品は葦袋にしまって荷車に載せておく。水晶があったら少し持ち帰ろう。
大きいが緩やかで高さはあまりない岩山なので、十分とかからず中程まで登れた。
こっち、こっちとヤスくんに誘導された岩肌には浅めだが洞窟のように穴があいており、中に入り灯で照らすと、壁はキラキラと輝いていた。
すごい! まるで壁が結晶で出来てるようだ。
「かあちゃんが掘ったピカピカと同じヤツはもうちょっと先のところにあるんだけど、ここの塊もピカピカしてきれいだろ? たまに動物もやってくるんだ。舐めると味があるからな」
「これって……、コリー」
「モモ! これ全部岩塩だ!」
村でも塩は岩塩から作っていたということで、マークもマリーも知っていた。みんなで大喜びだ。
「すごいよ! ヤスくんありがとうね。これ欲しかったんだ!」
大はしゃぎでヤスくんの手を取り、ぶんぶん振ってそう言うと、
「いや、そんなに喜んでもらえてオイラも嬉しいよ」
と照れてる。これは採掘して持って帰らないと、と採掘の魔法を使おうとした時、ドッカーン!と壁におうとくうのキックが炸裂した。思わず、瞬時に障壁を張り崩落に備える。
……岩塩の洞窟は頑丈だったようで、壊された壁以外に被害は出なかった。肝を冷やすってこういうことだって実感してしまった。
「おう……、くう……」
「これで持って帰れるよ」
「ちっちゃくしたよ」
うん、気持ちはありがたいけど……。
「おう、くう。手伝ってくれる気持ちはすごく嬉しいけど、洞窟の中でキックはダメ。天井が崩れてきたら危ないからね。また、お外でお願いしたら、その時にやってくれる?」
「そっかあ、わかった」
「うん、今度はお外でやる」
おうとくうが崩してくれた岩塩をみんなで拾って、急いで洞窟を出た。……ホントに崩落しなくて良かった。
さらに先の方に進むと、ヤスくんが言った通り水晶もあったので、こちらはちゃんと採掘で掘り出した。
大収穫に喜び、みんなでヤスくんを褒めている時、コリーが、
「モモ、ちょっとこっちに来てみて」
と呼ぶので行ってみる。
「モモ、ここを掘ってみてくれる?」
コリーがしゃがんで調べている地面を採掘してみると、赤茶色の塊がとれた。やっぱり……、と呟くコリー。
「モモ、この辺、全部鉄だ」
言われてみると、その地面の辺りから岩肌が赤茶色の地層になっている。この赤茶色のところが全部、鉄の鉱脈なんだそうだ。
「岩塩に水晶に鉄まで……」
「うん! ここは宝の山だ!」
コリーがはしゃいでヤスくんに飛びつく。ありがとう、大発見! とヤスくんを撫で回していた。
鉄も少しばかり掘って、みんなの腰カゴはまたずっしりといっぱいになった。
ほくほくして、荷車に戻ろうかと立ち上がった時、ヤスくんが私の肩にピョンッと跳び乗って、
「かあちゃん、あの川のそばに枯れ木の茂みが見えるだろう? あれがモコモコの生えた木だぞ」
ヤスくんが指差す先には、確かに茶色い枯れ木が結構広い茂みになっている。場所的には私たちの住む岩山の下の川原の対岸の先だ。
さらに山の反対側を指差し、
「あっち側から見える湖の手前にも茶色の草原があるけど、あっちはモコモコはついてないんだ」
山の反対側が見えるところまで歩いて行き、北の方を見ると、茶色い草原の向こうに湖が見える。
「湖って言うの? でっかい池だよね。湖にも魚いるかな?」
コリーがワクワクしている。
「ヤスくん、あの茶色い草原の辺りは危なくない?」
「あそこは草が枯れてるから、この時期はあんまり動物来ないぞ。まあ、来ても実を食べに来る小さくて弱いヤツらばっかりだから大丈夫だ」
私も感知を研ぎ澄ましてみるが、大きな気配は林の方に集中しているようで、湖の草原側にはいないようだ。
こっち側の山は岩山が多くて食料が無さそうだから、向こうの山に集中するんだろうな。
「モコモコの木を見たら、湖の方にも行ってみようか」
ひとまず、この岩山を下り、重い鉱石を荷車に載せよう。
荷車のところへ戻り、小さい荷車に鉱石を積んでいく。四人と一匹の拾ってきた量はかなり重くて、小さい荷車はこれで満載ということになった。
どうせ帰りもこの橋を通るのだからと、小さい荷車はここへ置いていく。
大と中の荷車だけを引いてモコモコの木を目指して歩き出した。
次第に茶色の茂みが近付いてくる。遠見を使って見てみると、なるほど、これは確かにモコモコの木だ。
その茂みには綿花がいっぱい生っていた。
「……綿だ!!」
急に私が駆け出すから、みんなびっくりして追いかけてきた。
「どうしたモモ?!」
「マーク! これ、綿の木だ。……お布団が作れる。服も!!」
マークもマリーも綿は知らなかったようだが、フワフワの綿花を触ってみると、うわあ! と言って顔を綻ばせる。
「これでお布団を作ったらふかふかですね」
「うん、冬でも暖かく眠れるね!」
「よし! じゃあ収穫するか!」
「うん! 頑張ろう!」
四人で気合を入れて綿の実を摘み始める。
一mくらいの高さの木なので収穫も捗った。たまに一・五mくらいまで育った背の高い木があるが、ヤスくんが登って採ってきてくれた。
一本の木からは半分くらいの実を残すように収穫していったが、モコモコは嵩張るので、しばらくすると荷車がいっぱいになってしまった。
「これは一回戻るしかないね」
おうとくうに大と小の荷車を引いてもらい、後ろからコリーとマリーが押す。中の荷車は私とマークで引いて一度家へ帰ることになった。
帰り道、川原でコリーがちょっとだけ掬ってみたいと魚とり網を取り出した。しっかり持ってきてたんだね。
魚が集まっているところに狙いを定めて、素早い動きで網を水に入れザバーッと持ち上げる。
身体強化を使っても腕がプルプル震える程の大漁だ。
「コリーすごい! こんなにとれるの?!」
「ハァハァ、オレもこんなにとれたの初めて! モモ、この網すごい使いやすい。こんな大漁でも破れないし」
確かに普通の網なら破れてるくらいの量の魚がピチピチ跳ねてる。
荷車もそうだけど、創造で作った道具はとても丈夫だ。
とれた魚を腰カゴに移していくけど、アユっぽいの、ニジマスっぽいの、ワカサギみたいな小魚も、ヒメマスみたいな大きな魚もいろいろととれていた。ここ生け簀? ってくらいの釣果だね。
「コリーお手柄!」
「今日の夕食に使ってくれるかな?」
コリーはすでに食べることで頭がいっぱいみたい。
「きっとね。ルーに頼んでおこう。でも、こんなにあるなら焼き干しにしたり、塩漬けにしたりも出来るね。ヤスくんが塩も見つけてくれたし!」
みんなで今日の夕食に思いを馳せ、ウキウキと家へ帰る。
家に着いたのはちょうど昼時で、みんな昼食の準備をしているところだった。
「ただいまー」
「あれ? 早かったんですね」
「すぐ、みんなの分もごはん用意するよ!」
「待って、待って。ユニ、ルー、これ見てよ!」
魚の入った腰カゴを覗いた二人が、キャーッと叫ぶ。
喜んだのかと思ったら違ったようだ。
「い、生きてるお魚は……」
「怖いんだよ……」
他のみんなは、やったー! 魚だ! と大喜びだが、二人がこれでは夕食には出せないだろう。
……私がやるしかないか。
「二人が出来ないんなら、オレ、午後は残って魚捌くよ。余ったヤツは焼き干しとか塩漬けにしとけばいいんだよね」
コリーが言い出した。
「コリー、魚捌けるの?!」
「とったら食うんだから、そりゃあ出来るさ」
「うわっ! カッコいい……!!」
思わず、本音が出てしまった。
実は私も生きてるヤツはちょっと苦手だ。
食材と思い込んでしまえばやれなくはないけど、現代人はスーパーの魚に慣れてしまっていていけない。
命をいただくことをちゃんと理解して……とは思うけど、やっぱりちょっと怖い。ユニとルーに共感してしまう。
だから、余計にコリーが凛々しく見えてしまう。
ユニとルーも尊敬の眼差しでコリーを賞賛している。
そんなコリーは真っ赤になって、
「なんだよ。普通だよ」
とか照れてる。かわいい。
――と言う訳で、魚はコリーに丸投げさせてもらうことにしました。
毎日楽しみにしていただいた方には
申し訳ないのですが、
今月から、火、木、土、日の夜11時に
更新させていただくことにしました。
温かくご理解いただけると嬉しいです。
今後とも応援よろしくお願いします!
作者の元気の素、感想、ブクマ、評価
の方も、お待ちしております!(≡ε≡)/




