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第四十五話 かあちゃんは大収穫の報告を受ける


 ごはんを食べ終わると、小さい子たちは順番に二羽の背中によじ登らせてもらって、ポヤポヤの頭を撫でたりしていた。



 その間に私は、年長組とユニとルーとともに、午前中の成果の報告会議だ。


「モモ、これを見てよ! 食べられそう?」


 マークが見つけてくれたというその実は、ブドウのように連なった緑色の小さな実だった。


 一粒取って眺めたり、匂いを嗅いだりしてみる。


 ……確認するほどに、もしかして、と期待が深まる。その極々小さな実を口に運び、ほんの少しだけ齧る。


「いきなり口に入れて大丈夫なのか?」


 ジェフが心配そうにしているが、


「……うふ、うふふふふ。これって蔓に生えてた?!」


「え、うん。ブドウの仲間かなって思って。小さいけど」


 私がふふふと笑いが止まらないので、みんなが大丈夫かと心配してる。


「マーク大発見!! すごいよ! これ、胡椒だよ!」


 ふふふふと笑いがますます止まらない私に怪訝な顔をしながら、


「モモ本当に大丈夫か? 毒じゃないのか?」


 とマークも心配そう。


「ふふふ。毒なんかじゃないよ。これは香辛料。嬉し過ぎて笑いが止まらないだけ!」


 ユニとルーも香辛料という言葉に歓声を上げる。


「このまま食べたら辛いけどね。料理の風味付けや、肉の保存にも使えるんだ! マークありがとう! みんなもありがとうね!」


 男子組は午前中これを集めてくれていたそうだ。持ってきた小さい葦袋に入れて荷車に積んであるというので見てみると、十分な量の緑の実が入っている。やったー!


「乾燥させて砕いて使うんだけど、ルーシーたちにお願い出来るかな?」


 はしゃいでそう言う私を見て、


「任せてよ! 頑張るね」

「うん! モモ、すごい嬉しそう」


 ルーシーとユニが笑いながら答えてくれた。


 何やら考え込んでいたルーが、


「……コショウって、もしかしてペパの実?」


 おそるおそる聞いてくる。


「すっっっごく高いから、村では使えなかったけど、領主様から指示されて献上品の保存用の肉に擦り込んでいるの見たことある」


「そう! きっとそれ!」


「ペパの実?! 高級品ですよ?!」


「金と同じくらい高いって自慢してたよな?!」


 マリーとマークがそう言うと、みんなもすごく驚いていた。



 次にルーシーたちの報告だ。


 ヤスくんが匂いのする草を見つけてくれたおかげでいろんなハーブを見つけられたという。


 こちらも荷車に載せてあるとのことなので見せてもらおう。


 いち早くユニとルーが駆け寄り、


「わ、バジル、タイム!」


「オレガノにローズマリーも!」


 と大喜びしている。私も確認すると、私の知るハーブと同じように見える。


「こんなに種類があったら、いろいろ使えるね!」

「うん、嬉しい!」

「すごいね! やったね!」


 大喜びの私たち三人の姿にルーシーとマリーも嬉しそうにしていた。


「ねえ、これってまだあった? 出来ればハーブは家でも育てたいから、土ごと掘って持ち帰りたいんだけど」


 こういう風に、と私の採ったシソを見せる。


「まだありましたから大丈夫です。鉢を作ってもらえれば採りに行けます」


 マリーの答えに、ユニとルーはシャキン! とシャベルを出して見せて、


「私たちが掘る!」

「持って帰って育てる!」


 と大いにやる気を漲らせている。


「これもハーブなの?」


 シソを見ているルーシーに聞かれ、


「うん、香りが爽やかなんだよ」


 と答えると、ユニとルーは小さい葉をちぎって齧ってみて喜んでいる。


「うん、爽やか」

「さっぱりした青い香り」

「私たちもあれから爽やかな香りのハーブ見つけたよ」

「このハーブの香りはスーッとするの」


 見せてくれたのはミントだった。


「これは口の中や胃がすっきりするから食後のお茶にいいかもね。村では料理にも使ってた?」


「あんまり。スーッとするから好き嫌いがあるし」


「お薬にしたよ。腫れちゃったところに貼って使ったり」


 そっか。好き嫌いはあるよね。


「このハーブは土に植えるとすっごい増えちゃうから、鉢のまま育ててお部屋に飾る方がいいかもね。いい匂いだし」


「うん、そうしよう!」「賛成!」



 という訳で、午後はハーブを土ごと掘ってくる作業を終えてから、羊のところへ行ってみて、家へ帰るということになった。


 早速、土魔法でプランターを十個作り、それぞれのハーブを二個分ずつ集めてくることにする。


 アンとマリーが小さい子たちの面倒を見てくれると言うのでお願いして、ルーシーに見つけた場所に案内してもらう。


 シャベルが五本あるので女の子たちとコリーと私が掘り出してプランターに植えたら、男の子三人が順次、荷車へと運んでくれる。サクサクと作業を進められた。



 ハーブを全て集め終わり、お昼を食べた広場へ戻ると、残った子供たちはまだおうとくうの背中に乗って遊んでいた。マリーも乗せてもらっている。


「ただいまー。楽しそうだね。良かった」


「おかえりなさい。私も乗せてもらいました。すっごく楽しいです!」


 とアンも笑顔だ。


 作業していたみんなが羨ましそうにしているので、


「出発は少し遊んでからにしよう。みんなも乗せてもらおうよ」


 と提案すると、やったー! とおうとくうの元に駆けていった。


 私は今のうちに荷車の整理をしてしまおう。



 今日はおうとくうとの出会いを筆頭に、お宝発見! だらけだった。


 ムクロジにジンジャ。胡椒にハーブ各種。


 山に近付かなかったので野草は集められなかったけど、そんなこと気にならない程の大収穫だった。


 小さい荷車に袋詰めされたジンジャ、胡椒、摘んだハーブ各種を載せ、布を掛けてロープで縛る。


 中くらいの荷車にはプランターをきっちり詰めて載せる。ちょうど隙間なく詰められたので、遊びがなく、帰り道も倒れたりしないだろうから安心だ。


 こちらは敢えて布を掛けないでおいた。様子が見れる方がいいだろう。


 大きい荷車には、持ってきた道具とムクロジが載っている。まだまだ余裕がある。もしも、羊の毛が刈れたら載せることも出来る。


「あ、これ! せっかく作ったのに!」


 おやつとして持ってきたきなこ飴をすっかり忘れていた。せっかくだからみんなで食べよう。


 荷車の整理も済んだので、飴の入った木箱を持ってみんなの元へ向かった。



 作業していたメンバーも順番に乗せてもらったようでご満悦だ。おうとくうも疲れた様子もなく、楽しそうにしている。


「みんな、おやつにしよう!」


 声をかけると集まってきてくれた。


「おやつって何?」


 そうだよね。おやつなんて知らないよね。


「甘い物持ってきたからちょっと休憩して元気出そう、ってこと。食事じゃなくて、こういう休憩の時に軽く口に入れるのがおやつだよ」


 説明しながらかあちゃんは飴ちゃんを配ります。紙に巻かれた飴ちゃんを不思議そうに見ているので、くるくるっと引っ張って包みを外し、口にポイッと放り込んで見せる。


 みんなも真似して口に含む。きな粉を液糖で練って固めただけなので、もちっとぐにゃっとした食感のそれをもぐもぐと食べる。


「甘ーい、美味しい!」

「ツルマメの味?」

「不思議な食べ物」

「でも、うまい!」


 ヤスくんも含めみんな喜んでくれた。おうとくうの口にも包みを外して放り込んであげると、また上を向いてゴクンと飲み込んでしまう。


「甘ーいよ!」「おいしーいよ!」


 とても喜んでくれているようだけど、あれでどうして味がわかるんだろう。謎だ。


 ともあれ、きなこ飴を楽しみ、水を飲んで一息入れた私たちは、そろそろ出発して羊を探すことにした。




 橋を渡り、川上ではなく正面に見える小山に向かって草原を進むことにする。


 荷車を引いて出発しようとした時、おうとくうから、


「これ引いてあげる」

「私たちが運ぶ」


 と声がかかった。


 ベルトのように固定して引っ張る訳ではないのでどうしようか考えていると、引き枠の中にひょいっと入ってきて、持ち手の部分を胸に当て引きだした。


「ね!」「大丈夫」


 うーん。大丈夫そうだけど、胸のところ痛くないかな?


 手拭いの中に草を入れ、巻き付けてクッションにしてみる。


「当たるところ痛くない?」


「うん、これなら大丈夫」

「うん、痛くない」


 そう言って荷車中と小を引いてくれる。大は殆ど物が載ってないので私たちで引く。


 非常に楽だけど、今後も引いてもらうならハーネスを作ってあげなきゃな。皮が手に入るといいんだけど。


「無理しないでね。疲れたり、痛かったら替わるからね」


 と言いつつお願いする。



 そうして、感知を使いながら草原を進む。


 ジャッカルのような敵性の生き物の反応は無い。


 おうとくうも私たちのスピードに合わせてゆっくり進んでくれてるので、荷台の荷物も問題なさそうだ。


 少し進むと前方に数匹の動物の反応を感じた。


 じっと止まって草を食んでいる様子なので羊かもしれない。


 みんなにも説明して、ある程度近付いたら気配を消して私が見てくるので待機しててもらうように話した。


 ヤスくんから、


「襲ってくるようなヤツらじゃねーけど、身軽なヤツならびっくりさせたら突進してくるかもしれないから気をつけてな」


 と言われる。正面に立つのはやめておこう。


 みんなでもう少し前進して、動物に気付かれる前に止まった。


「じゃあ、ここでちょっと待っていてね」


 一応、ハサミと大きい葦袋を持って、気配を消し少しずつ近付く。



 そこにいたのは、これ、羊……? こういう種類なのかな? んめえええ、とたまに鳴き、ゆっくりと草を食む茶色くてモコモコの巨大な塊。うん、塊なんだ。ふわふわした羊のイメージとは違い、なんか重量感のあるずっしりとした馬鹿デカい塊。


 草を食べる様子も、ゆっくりというより殆ど動いていない気がする。オブジェのようだ。


 読心(マインドリーディング)を使ってみよう。何か考えているのかな?


『ふ、う。お、も、い……。か、ら、だ、う、ご、か、な、い……』


『かあちゃ、ん、だいじょ、ぶ?』


『ま、だ、ま、だ……、た、お、れ、た、り、で、き、な、い……。し、ん、ぱ、い、し、な、い、で……』


 最初、私は何かの状態異常にかかってしまったのかと思った。治癒が必要なのかと。


 でも、よくよく話しを聞き、様子を見ていると、どうやらこの子たちは自らの重さに苦労しているようなんだ。


 特に母親らしき一頭は、もう限界が近いように見えた。


 あまりの自重に草を食べるのも困難な様子で、岩石のような大きな体に見えるが、中身は衰弱しきっているようだ。思考の端々に出てくる、


『こ、の、け、が、な、け、れ、ば……』


 という言葉から推測するに、この子らの大きな体の殆どが伸び過ぎた毛の絡まった塊で、数十kg、もしかしたら百kg以上にもなるのかもしれない。


 食事もだが、移動も、すでに呼吸すらも厳しそうな様子。あの毛をなんとかしてあげないともう長くはもたないかもしれない。


 比較すればまだ体力がありそうな子供(と言っても大岩のようだが)の羊たちも先々、同じ道を辿ることになってしまうのだろう。


 毛を刈り取ってあげることが一番の救出方法だとは思う。でも、あの分厚い毛を私に刈り取ることが出来るのかな?

 母親と二頭の子供。三頭分の毛刈りにどれだけ時間がかかるだろう。すでに限界そうな母親の体力はもつだろうか。


 でも、助けない訳にはいかないよね。そういう風に生きるって決めたから。


 出来るか、出来ないかより、やってみなくちゃ。



 私は一度、みんなの元に戻り、かなり厳しそうな羊の状況を説明した。


「助けられないかもしれない。出来る限りのことをしてあげたいと思うけど、どれだけ時間がかかるかわからないから。みんなは先に家に帰った方が……」


「モモ。俺たちはここにいたら邪魔になるか?」


 ジェフに問われる。


「モモのやるべきことの邪魔になると言うなら、俺がみんなを家に連れて行く。でも、出来るなら俺はモモの傍についていたい。もしかしたら、何かの役に立てることもあるかもしれない。モモがまた倒れたり、何かあっても助けられるかもしれない。でも、モモが全員帰れって判断するなら俺はそれに従う」


 ジェフの声は真剣だった。


 他のみんなも、その様子に反論はしない。


 みんな、助けられない命もあることを理解していて、その上で助けられる命なら助けたいと思ってくれてる。

 私のこれからしようとしていることを理解してくれて、判断を委ねてくれている。


「何人かだけでも残っちゃダメか?」


 みんな最善を尽くそうとしてくれている。


 羊たちも心配だが、私を心配してくれている。


「……夜になるかもしれない。もしかしたら明日になるかも。食料も持ってきてないし、危険が近付いたら守りきれないかもしれない。だから小さい子たちには戻って欲しい。家の中で閂を掛けて待っていてくれれば、私も安心して羊に集中出来る」


 私も真剣にジェフたちに答える。


「小さい子たちの引率と守りに何人かついて欲しい。ヤスくんには私の代わりに家の周りを警戒していて欲しい。だから、年長から数人だけついてきてくれる?」


 よく考えてからお願いする。みんなもちゃんと考えてくれてる。


「わかりました。長時間かかるかもしれないなら、水が必要でしょう。私は残ります。ユニ、ルー、小さい子たちのごはんとお世話頼みますね」


「わかったよ」

「こっちは心配しないで」


 アン、ユニ、ルーが最初に答える。


「私がみんなを引率して家へ戻る。ジェフはモモについていてあげて。みんなの守りは任せて」


 ルーシーがそう言ってくれる。


「私もみんなと戻ります。夜の訓練もちゃんとやっておきます。心配しないで羊さんをお願いします」


 マリーも。


「ジェフが残るなら、オレは帰る。火が必要だろ?」


 コリーも。


「俺は残る。暗くなったら灯りがいるだろ? モモは羊に集中してくれ」


 マークも。


「力仕事があるかもしれないな。僕も残るよ。男が三人いれば何か出来るかもしれない」


 バズも。


「私たちは家で待ってる」

「モモ、無理しないでね」

「羊さんに頑張ってって伝えて」

「おるすばんできう」


 ベル、ティナ、キティ、ピノも。


 みんな自分の取るべき行動、出来ること、きちんと考えた上で決めてくれてる。


「モモ、頑張ろうぜ。俺たちも頑張るから」


 ジェフが私の背中をポンと叩いた。


「みんな、ありがとう。みんなで羊さんたちを助けよう。頑張るね。家まで気を付けて帰ってね」


「無事に着いたら、広場で灯りを灯します。確認した方が安心出来るでしょ?」


 マリーの提案はありがたい。


「うん、そうだね。よろしく。おうとくうもみんなの言うこと聞いて良い子で待っててね。ヤスくん、みんなをお願い」


「わかったー」

「良い子で待ってるー」


「おお、任せとけ。帰り道も家に帰ってからも警戒しとくし、こいつらの面倒もちゃんと見ておく。かあちゃんも頑張ってな」


 ヤスくんたちまでも。




「じゃあ、羊さんたちを助けよう」


「おお!」


「はい!」



 私たちは二手に別れて行動を開始した。



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