第四十四話 かあちゃんは謎生物と出会う
ちょっと遅れちゃいました。
ギリギリセーフ?
ごめんなさい。お許しを。
みんなの気配を探ってみると、日の高さでそろそろお昼と気が付いたのか、こちらへと向かっているようだ。
ピノとキティ、アンたちだけは、じっと動かずにいるので呼びに行こう。三人の近くには動物の気配があるので、食事中の動物の観察に夢中なんだろう。
最初に戻ってきたユニたちに、キティたちを迎えに行ってくるから、戻ったらお昼にしようと告げて麦野原へ向かった。
大分奥の方まで行ってしまったようだが、アンがついててくれてるので大丈夫だろう。
近付くにつれ、三人の気配が鮮明になる。
驚いたことに、キティとピノはその野生動物と遊んでいるようだ。
ちょっと心配になって足を早める。
かなり近くまで行くと、キャッキャッとはしゃぐ二人の声と、オウオウクウゥーという何かの鳴き声が聞こえてくる。
敵意は感じられないので、本当に仲良くなったようだが、何がいたんだろう。鳴き声からは判らない。
一応、その動物を刺激しないように、気配を潜めて近寄る。
はしゃぐ二人と二匹の生き物。そして、諦めたように苦笑いしているアンの姿が見えた。
遠目に見ると、その動物はうり坊に似ている。
親イノシシに見つかったら大変だと焦るが、どうもシルエットがおかしい。
遠見の魔法を使って良く見てみると、……鳥?
模様はうり坊に似ているが、寸詰まりのダチョウというか、なんというか。謎生物だ。
頭までの体高は一・五mくらい。嘴と羽毛からおそらく鳥の仲間だと思うけど、大きい頭とずんぐりとした体、長めの足。翼と呼ぶにはあまりにも短い羽根と、頭にはポヤポヤした毛が生えていて、うるうるした瞳をしている。
味があるというか、趣があるというか。言ってしまうなら間抜けな顔をしていて愛嬌がある。
そっと近付き、アンに、
「どういうことになってるの?」
と聞いてみる。
気配を消していたので、話し掛けられて初めて気付いたアンを驚かせてしまった。
私だとわかると、ホッとした後、苦笑して、
「食事を見ていたんですけど、キティがもっと近くで見たいと言って、気配を消して近付いていったんです。私は慌てて止めようとしたんですけど、鳥たちの方が勘が良いようで気づかれてしまって。
食事の邪魔をしたことで攻撃されるかもと、焦って二人を庇おうとした時には、もう、すぐ側まで近付いてきてました。
すぐに魔法を使ってももちゃんを呼ぼうと思ったんですけど……、なんと言うか……、温厚で人懐っこい子たちみたいで、すり寄ってきて、じゃれ始めちゃいまして……」
危険な感じはしなかったけど、私を呼ぼうとしたところに、ちょうど私が現れたということだった。
読心の魔法を使って鳥たちの心を読んでみよう。
オウオウクウゥと鳴く鳥たちは、
『どこから来たの? なんかちょーだい』
と、どうやら食い意地の張った鳥たちのようだ。
敵意も害意も無さそうだけど、野生の鳥がこんな危機感の無い感じで大丈夫なんだろうか?
『ねえ、麦はもう飽きたの』
『その腰のところに何持ってるの?』
二匹……二羽か。二羽の鳥たちは腰カゴの中の果物に興味を持ち、すり寄ってきてるようだが、キティとピノは遊んでいるつもりのようだ。
「キティ! ピノ!」
呼び掛けると、気付き、駆け寄ってくる。
「モモ! 鳥さん!」
「モモ! 仲良くなったの!」
大喜びだが、ここは叱らないと。
「……二人とも動物に近付いちゃダメだよね?! 野生の動物は見た目が可愛くても大怪我するかもしれないんだよ? 約束破ったの?!」
はしゃいでいた二人がシュンとなる。
『この子、いいもの持ってる!』
『すごくいい匂い!』
鳥たちはマイペースに私にすり寄ってくるが、
「この子たちは襲ってきそうもないけど、人間に驚いていきなり攻撃してくる動物の方が多いんだよ? 遠くから見るだけって約束だったでしょ? 絶対ダメ!! 二度とこんなことしちゃダメ!!」
一蹴りで死んじゃうことだってあるんだからね! と厳しく叱る。
涙目の二人は、
「……ごめんなさあい」
「もおぜったいしないぃ」
と猛省しているようだ。
「約束だよ? キティもピノもアンも怪我したら悲しいから。お外ではアンや私たちがいいよって言ってから行動してね」
ニコッと笑うと、二人は泣き出した。
よしよしと頭を撫でると、
「アンねーちゃんもごめえん」
「もおしないぃ」
と泣きながら謝っていた。
そんな中でも鳥たちは我関せずと、
『ちょーだい』『ちょーだい』
とすり寄ってくる。
私の腰カゴには朝の残りの焼き芋が入ってる。いい匂いの正体はそれだろう。
アンに二人を任せ、少し離れると鳥たちがついてくる。
一応、障壁を張ってから、腰カゴから焼き芋を取り出すとピクッと反応した。右へ左へと動かすと、合わせて首が左右へ動く。
いきなり奪い取ろうと襲いかかってきたりはしないようだ。
焼き芋を半分に割り、足元に置く。
『ちょーだい!』『ちょーだい!』
と騒ぎ出す鳥たちに、手の平を向けて、
「待て!」
と言ってみると、またピクッとして固まった。そのまま手の平を二羽に向けたままにして少しずつ離れ、アンたちの元へ近付く。
鳥たちはこちらを気にしつつ、焼き芋も気になっているようだが、動かずじっとしている。
アンたちの隣まで移動したところで「良し!」と言うと、ガッと焼き芋に食いついて、咥えたまま上を向くとパクンと一口で飲み込んだ。
言葉が通じるとは思えないけど、雰囲気を察したのか、思いのほか頭が良いのかもしれない。
泣いていた二人も、その様に涙が引っ込んだようで、目を丸くしている。
「……モモの言うこときいた」
「おりこうだ……」
二人に笑いかけ、
「この子たちは思ったよりお利口みたいで、危険は無くて良かったよ。すごく食いしん坊みたいだね。二人のお弁当の果物を狙ってたみたいだよ」
と教えてあげると、「そうだったんだあ」と声を合わせる。
「私たちもお昼にしよう。みんな待ってるよ」
と声を掛け、四人でみんなの元へと向かう。と、後ろから思念が語りかけてきた。
『待って、一緒に行く』
『おいしいもののところに行く』
二羽がついてきてしまう。どうしようか。
「ダーメ、これは私たちのごはんだから。もうあげられないよ。自分たちの巣に戻りなさい」
キティとピノは残念そうだが、この子たちも群れからはぐれてしまっては可哀想だ。
そう説明すると二人も理解してくれたのだが、状況が変わってしまう。
『帰れって言われても帰るとこなんて無いよ』
『私たち二人っきりだもんね。犬に追い掛けられて仲間とはぐれちゃった』
あれ? 本当に言葉通じてるの?
『この子といると安心』
『ね、この子と一緒にいよう』
あれあれ? 懐かれちゃってるの? 焼き芋? 焼き芋のせいなの?
「ええと……、言ってることわかるのかな?」
『わかるよー、なんで?』
『あなたを見てると安心なのー。ねえ、一緒にいたい。お願い』
うーん、どうしたものだろう。
群れからはぐれちゃったなら連れて行ってもいいんだろうか。
でも、この子たち食いしん坊っぽいし……、みんなに相談してみよう。結果は見えてる気がするけど、一応ね。
「ねえ、モモ。お話ししてるの?」
「なんて言ったの?」
「ももちゃん……」
「うん。と、とにかくみんなのところに行ってから説明するけど、一緒に来たいって言ってる」
キティとピノは大喜びだけど、
「アン……、どうしようか」
「人懐っこい良い子たちだと思いますけど。ひとまず、みんなのところに戻りましょう」
そうだよね。取り敢えず二羽を引き連れてみんなの待ってる広場へと戻った。
不思議な鳥をぞろぞろと引き連れて戻ってきた私たちに、みんな唖然としている。だよね。
「モモ、何だそれ?」
「と、鳥? 何?」
うん、私にも良くわかんない。
取り敢えずお昼にしながら話そうと、みんなで持ってきた果物を食べながら、アンと二人でこの生き物を見つけてからの経緯を話した。その間もずっと、みんなの食べる果物をキョロキョロと涎の出そうな顔で見つめる鳥たち。
『おいしそー』『いいなー』
あちらこちらへ視線を飛ばす。
「それでね、この子たちジャッカルに追われて群れからはぐれちゃったらしいんだ。麦に飽きたから果物ちょーだいって。見ての通りすごい食いしん坊みたいなんだけど、私たちについてきたいって言ってる」
「すっげー見られてると思ったら、そういうことか」
「どうしたらいいと思う? 二羽っきりでここに置いて行くのも可哀想な気がするけど、群れに戻れるかもしれないし。食いしん坊は食料的にも困るよね」
みんなで悩むが正解はわからない。
「でも、食いしん坊だけど勝手に食べたりはしないよね」
「襲いかかってきたりはしないんです。人懐っこくて」
「モモが待てって言ったら待ったんだよ」
「おりこうなの。よしって言ったら食べるの」
みんなが「へえー、頭良いんだ」と感心する。
「ヤスくん、どう思う? こういう時、連れて行っちゃってもいいのかな?」
ヤスくんは少し難しい顔をして考え込んでいた。
「オイラ……、オイラは、群れからはぐれた気持ち、知ってる。こいつらだって、ここに置いていっても生きてはいける。でも、不安で……、寂しいんだ。こいつらが一緒に来たいって言うんなら……」
ヤスくんは立ち上がると、自分のブドウを一粒ずつ二羽の前に置いた。
「待て」
二羽はまたピクッと固まる。思念は、
『くれるの? これ、くれるの?』
『食べたーい! おいしそー!』
と煩いくらいだが、身じろぎ一つしないでじっと待ってる。
「よし」
ヤスくんの言葉にブドウをパクッと咥えて上を向くと、ゴクンと飲み込んだ。
『おいしーい!』『ありがとー!!』
毎度、その食べ方で味がわかるのか? という疑問は浮かんだけど、ちゃんとヤスくんの言うことも聞けた。
「オイラの言うこともちゃんと聞けるなら、オイラ面倒見るから連れてってやっちゃダメかなぁ。連れてってやりたい……」
ヤスくんの言葉に異論を言う者なんてもちろんいなかった。
「モモ、僕、畑頑張るからさ」
「私もお世話する」
「採取もみんなで頑張るよ」
「きっとなんとかなりますよ」
そうだよね。助けられるものは助けたい。助けたい気持ちは我慢しないって決めたもんね。
「ももちゃん……」
「うん、連れて帰ろう」
みんなが、わあっと声を上げ喜ぶ。
『一緒に行っていいの?』
『やったー! うれしい、ありがとう!』
鳥たちもパタパタはしゃいでいる。
「みんなと仲良くしてね。仲間になるんだから、ちゃんと約束は守って暮らすんだよ」
『うん、わかった!』『仲良くしたい!』
「じゃあ、今日からあなたたちも家族だね。よろしくね」
笑顔でそう言うと、子供たちも鳥たちも、やったー! と大はしゃぎだ。
「博愛」
魔法を使うと、
「うれしいな、仲間ができた!」
「うれしいね、仲良くしてね!」
鳥たちの声が聞こえる。
みんな、もうこんな奇跡にも慣れたもので、
「おお! 家族になったから話せるんだな」
「キティだよ、よろしくね」
「ピノだお! なかよしだお!」
と疑問なく受け入れてる。
アンは精霊様に感謝の祈りを捧げていた。私もまた、精霊様に感謝する。
楽しい仲間が増えました。みんなの笑顔も増えました。これからも頑張っていきます。いつも助けてくれてありがとうございます。
みんなは自分たちの果物を少しずつ分けてあげて、鳥たちも一緒にお昼の続きを食べながら楽しく話す。
「いつも何を食べてるの?」
「何でも食べるよ! ここでは麦を食べてた」
「虫に果物に種に草。何でも食べれる!」
「一緒に遊べる? 何して遊ぶ?」
「背中に乗ってもいいよ! 乗っけて走ってあげる」
「一緒に走ろうよ。ピューンッて楽しいよ」
騎乗することが出来るの? すごいね。足早そうだもんね。飛べないんだろうけどね。
それにしても打ち解けるのが早い。
本当にこんなに警戒心が無くて大丈夫なんだろうか。
「私たち、すっごく早く走れるから」
「犬からも逃げられたよ」
なるほど。
「子供たちを乗せている時は、あんまりスピード出さないでね」
「わかったー」「おまかせー」
最初に出会ったキティとピノとは特に仲が良いみたいで、手から直接、果物を食べたりもしている。
「仲良しになったんだねえ」
微笑ましい気持ちで二人に言うと、
「うん、とってもなかよしだお」
「名前も付けてあげたの」
と嬉しそうに言う。
名付けなんかして大丈夫なんだろうか、と心配するが、二人ともなんともなさそうだ。
「この子はおうちゃん。オウオウって鳴くから」
「くうちゃんだお。くうってなくから」
確かに最初に見た時、オウオウクウゥって鳴いてたっけ。
ちょっと垂れ目で困ったような間抜け顔の子がおうで、つぶらな瞳に睫毛パチパチの子がくうね。
「そっか、おうとくうね。よろしくね、おう、くう。私はモモだよ」
口にしたその時、ずるっと力が抜ける感覚とともに、おうとくうが淡く輝いた。光が吸い込まれていく。
「……! モモ、ありがとう。なんか力が湧いてくる」
「ありがとう、モモ! すごい、いっぱい走れそう」
魔力量の問題なのか? 私が群れのリーダー扱いだからなのか? わからないけど、名付けの効果は今出たようだ。
「良かったな、お前ら。名前もらったんだから頑張れよ。オイラはヤスだ。オイラもかあちゃんに名前もらったんだ。おうとくうのアニキなんだから、オイラの言うこと聞くんだぞ」
「かあちゃん……」「アニキ……」
おうとくうは、ほわっと笑ったような表情をして、
「わかった。かあちゃん、おう頑張る!」
「アニキ。いろいろ教えてね。くうも頑張る!」
と、嬉しそうに言った。
「うん、よろしくね!」
かあちゃんもいる、アニキもいる、兄弟もいーっぱい、嬉しいね、楽しいね、とはしゃぐ二羽を、みんなも嬉しそうに、楽しそうに取り囲んで、幸せなお昼の時間を過ごしたんだ。




