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第四十三話 かあちゃんはお出かけする


 朝、目覚めて、まず確認したのは昨晩寝る前に作ったもの。


 一つは、せっかくの遠足にはおやつが必要だと思い作ったきなこ飴。


 大豆からきなこを作り、藁からわら半紙を作って、ハサミで小さく切る。

 きなこを液糖で練ったものを小さく丸めて、まわりにもきなこをまぶし、くっつかないようにわら半紙で包む。昔良くあった両端を捻る包み方。


 それから木箱を一つ作り、今やった作業を全て済ませた完成形のきなこ飴が箱にいっぱい出来るイメージで魔法を使う。


創造(クリエイト)・きなこ飴」


 箱にいっぱいのきなこ飴が出来上がった。


 なんと! 材料が用意されていて形状を変えているだけなので、この行程が八十三のMP消費で出来てしまうのだ。


 木材からオガクズを作るとか、麦束から麦粒を選り分けるとかいうようなことを魔法で出来るんだから、手でやれる作業を魔法に任せてしまうことが出来るんじゃ? と思い試してみたのだが成功した。


 これは非常に便利だ。


 一度作ったことがあり、行程と完成形がわかっていれば、材料を揃えれば魔法で作れちゃうってことだ。


 例えば、うどんを打たなくても、小麦粉と塩水があればうどんが作れちゃう。


 例えば、セーターを一枚編めば、後は毛糸さえあれば何枚でも同じものを作れる。


 しかも、材料がふんだんにあれば、一回の魔法で量産出来るんだ。


 料理はともかくとして、道具作りでは、今後非常に役立つ場面が出てきそうだ。


 最後の方、魔力枯渇ギリギリでフラフラしてたので、夢だったのかも、と思ってしまい、起きてまず確認してしまった。


 それからもう一つ。


 フラフラではありながらも、作り忘れていた物を思い出し、それを作って意識を手放し寝ちゃった物。


 ヤスくんの水筒とカゴ。


 ヤスくんは腰に巻けないので、リュックのように背負えるように作った。みんなで探検遠足だから、ヤスくんにも一緒の装備があった方がいいかな、と。


 こちらも夢じゃなく、ちゃんと作ってありました。



 みんなが起きるまでに全員分のカゴと水筒を用意しておいた。


 それから、これはもう一度試してみたくてやったんだけど、サツマイモを五十本用意して、


創造(クリエイト)・焼き芋」


 をやってみた。


 作る行程と出来上がりの見た目、味、匂いなどをイメージしながら魔法を使ってみる。


 思わず目を閉じてイメージしてしまったので、おそるおそる目を開けてみると、目の前のサツマイモはホカホカの焼き芋へと変わっていた。


「やった! 大成功!」


 大きな声を出してしまったので、みんなを起こしてしまった。ごめん。


 一応、MPを確認。消費したMPは八十三だけだった。


「朝っぱらから大きな声出してごめんね。みんな、おはよう」


「ううん、早く起きて早く出掛けられるから嬉しい!」


 みんなも本当に楽しみなんだよね。ありがと。


 いそいそと準備をして、せっかくだから朝食は焼き芋だ。


 連チャンで芋なのにもかかわらず、朝から焼き芋が食べられるとは嬉しいと喜んでくれた。


「今日はお楽しみの探検です。朝ごはんを食べたら、好きな果物をお弁当に持って出掛けましょう。では、感謝を込めて、いただきます」


「いただきます」


 朝食を食べながら今日の行動をもう一度確認しあう。


 ルートとしては岩山を降り、川原から川沿いを南下して橋のところまで行く。

 橋を渡ったら麦野原周辺を探索するんだけど、小さい子たち、特にベルとティナの二人組は目が離せない。


「私たちがついてるようにするよ」


 ユニとルーが言ってくれた。


「ありがとう。二人ならしっかりしてるから任せられるね」


 でも、うっかり怪我とかしそうだから、私も出来るだけ気を付けていよう。


「キティとピノには私がついてますね」


 アンも手を挙げてくれた。


「それなら安心だね。よろしくね」


 男子組とルーシーとマリーは周辺の探索と採集をしてくれると言う。


「マークとマリーはいろんなこと知ってるからお願いね」


 女子組にはヤスくんもついてもらえば気配察知が出来るようだから安心だろう。


「私は全体的に気配や魔力で警戒しながら、あちこち顔を出すよ。何かあったらすぐ駆けつけられるようにしとくけど、あんまり遠くに離れ過ぎないでね」



 朝食が終わると、みんなお弁当を持ち、水筒を下げ、腰カゴを着ける。


「はい、これヤスくんの分」


「え? オイラにもあるの?」


 カゴを背負わせてあげて、動きにくくないか確認すると、


「へっちゃらさ!」


 と言い、キティとピノに、


「おそろいだぞ」


 と見せに行った。すごく嬉しそうで、作って良かったと思う。



「それでは、出発しまーす」


「はい!!!」


 年長組は荷車を引き、アンたちには小さい子たちを見ててもらいながら岩山を下る。


 予定通り川原に向かい、川沿いを進む。


 川原の南端にある、提灯みたいなかわいい実の生る木は、大分黄色く色付いていて景色がとてもきれいだ。


 近くまで行くと、黄緑色だった実も黄色やオレンジに色が変わっている。木の下には風で落とされた実がいっぱい落ちていて、ピノが夢中になって集めている。


 私も一つ手に取って眺める。


 周りの殻は透けるような感じで、日に翳すと中に黒い実が入っているのが見える。


 ピノが興奮しながら走って来て、


「モモ、これふるとカラカラって鳴るの!」


 とやって見せてくれる。


「面白いね」


「ねえ、中のたね出して!」


 ピノに言われて割ってみると、中から黒くて堅くてまん丸の実が出てきた。割った殻の内側が粘ついていて、手に付いてしまった。


 毒のあるものだったらピノには渡せない。


 でも……、もしかして……、これって!


 私は急ぎ川辺へ行き、手を濡らして擦る。


 ネバネバが泡立つ。やっぱり!


「ピノ! これムクロジだ! 石鹸だよ。いっぱい集めて!」


「あい! わかったー、いっぱい集めるお!」


 嬉しい! 久しぶりの石鹸!

 みんなも集めてくれてる。


 ムクロジの中の堅い実は羽根つきの羽根の頭になる実だ。あの実を見て思い出した。

 ムクロジの外皮は内側にサボニンの成分を持つので、石鹸として使える。早速良い物を手に入れた。


「ピノ、お宝発見だよ!」


「おたからはっけんー」


 村では石鹸は無かったようで、説明するとみんな感心していた。


 ああ、お風呂入りたいなあ。


 たくさん集まったので、その辺の葦を袋にして詰め、荷車に載せる。


 幸先良くてみんなウキウキとまた歩き出す。


 家を出てから三十分程で橋まで着いた。みんな体力ついたなあ。


 橋を初めて見る面々は驚きの声を上げる。


「これもモモが作ったの?」


「すごーい!」


 橋の上から川を覗くと魚が泳いでいるのが見える。コリーは魚をとりたがったが、


「ここは流れが早くて危ないから、また川原でね」


 と諦めてもらう。


 橋を渡った広場の先には麦の野原が広がっている。


 手前の三分の一程は刈り取ってしまったが、風にサワサワと揺れる麦に、しばらくみんなで見惚れていた。



 探索をする前に一応、周囲の危険は探っておこう。


 少し先の麦の向こうに隠れた気配を感じるが、敵意はないので草食動物が麦を食べているんだろう。

 前方に見える山の方には気配があるようだが、これだけ離れていれば大丈夫そうだ。


 みんなにも、麦を食べに来てる動物さんたちの邪魔をしないこと、山には獣がいそうだから、あっちには近付かないことを注意した。


 私も山方面は特に警戒しておこう。


「ヤスくんは、この辺りも詳しいの?」


「いや、オイラはこっち側にはあまり来ないから。ここよりもっと川下に行くと川原があるけど、その辺には山から犬が降りて来るから。オイラもこの辺には近寄らないんだ」


 あの時のジャッカルかな? 確かにここの川下の川原だった。


「みんな聞いてた? ここより川下にも近付かないでね。最初に来た時にいたジャッカルが出るんだって」


 みんな、あの時の恐怖を覚えているから真剣に「はい!」と返事した。


「一人にはならないで何人かでまとまって行動してね。何かあったら大声で呼んで、何でもいいから魔法を使ってもいいよ。魔力感知に引っかかるから気付けると思う。では探索を始めましょう。約束を守って楽しんで下さい。それじゃあ、始め!」


 みんな思い思いに動き出す中、


「わあーっ!」


 ベルとティナは早速走り出した。


「ちょっと! 二人だけで遠くに行っちゃダメ!」


「約束守れない子は次お留守番だよ!」


 ユニとルーが追いかけてゆく。


 すみませーん、よろしくお願いしまーす!


 キティは駆け出さず、ちゃんと聞きにきた。


「ごはん食べてる動物さん見つけたら、遠くから見てるならいい?」


「うん、いいよ。びっくりさせないように遠くからね。アンがダメってことはしちゃダメだよ。悪いけどアン、よろしくね」


「大丈夫ですよ」


 さあ、行きましょう、とキティとピノを連れて麦野原の外側から回って行く。


 ルーシーたちはヤスくんに聞きながら、川の側でいろいろ見つけようとしているみたい。


 ジェフたちは前方の森へ行こうと思っていたらしいが、山へ近付くことを禁じられてしまったので、麦の周りの茂みを物色している。


「あ、イチイの実の種は食べちゃダメだよーっ!」


 大声を出すとジェフが苦笑いで、


「はーい」


 と返事をした。


 アンたちとユニたちにも教えておいた方がいいな。橋を渡りイチイの小枝を二本手折り、まずアンの元へ。

 アンたちはすぐに見つかった。


「川の近くにこの木が生えているけど、この赤い実の中の黒い種は毒があるから食べないでね。赤いところは甘いから種だけ吐き出せばいいよ」


 一粒取って口にしたキティとピノは、「甘ーい」と顔を綻ばせる。


「わかりました。よく見ておきますね」


 アンも一粒味見をして、そう言ってくれた。


 三人は「もっと欲しい」と言うピノのお願いに川の方へ行くことにしたようだ。


 ベルとティナは……、すでに川の方にいるっぽい。急いで教えないと! あの二人なら食べちゃってそう。


 川の周りは橋を作ったところ以外は葦に覆われているのでなかなか見つけにくい。魔力感知を頼りに近付いていくと、


「お宝発見ーっ!」

「やったあーっ!」


 二人の声が聞こえて居場所がわかった。葦を分け入り、四人を見つける。


「あんまり川に近付かないでね。ここは流れが早いから」


 声を掛けると、


「あ、モモ!」

「すごいもの見つけたよ!」


 二人に手を引っ張られ、ヒョロッとした膝程の丈の草の前へ連れて行かれた。ユニとルーもワクワクした顔で、早く早くと急かされる。


 ベルとティナがその草の周りを掘り、ぐぐっと引き抜くと、根にはゴロゴロ塊が付いている。


「ショウガ!」「ジンジャ!」


 ルーと二人で声が揃ってしまった。


 イェーイ! とベルとティナは手を合わせて飛び跳ねている。


「これは嬉しい! ありがとう二人とも。良く見つけてくれたね」

「えらい!」「すごい!」


 ユニとルーも大喜びだ。冬に向けて体を温める生姜は欠かせないらしい。


「いっぱい採ろう!」


 と四人が土に向かい手を伸ばすのを止めて、


「ちょっと待って、手じゃ大変だから」


 と土魔法で移植ゴテのような小さいシャベルを五つ作り出す。ついでに鎌を一つ作り、ジンジャを採りやすいように付近の葦を刈る。刈った葦で袋を作り、その中へ次々にジンジャを入れていく。


 五人がかりで十kgの米袋くらいの葦袋二つ分のジンジャを掘り出したが、まだまだ生えている。


 こんなに生えるなら畑で育ててみてもいいかもしれない。


 取り敢えず、これだけ採れれば当分はもつだろうけど。


 生姜にはしゃいですっかり忘れていたイチイの説明をしなくちゃ。


 イチイの実の付いた枝を渡し、


「この赤い実は甘いけど、ここのところの黒い種は毒だからね。絶対食べちゃダメだよ。種は吐き出してね。……まだ食べてないよね?」


 ユニとルーがなぜか苦笑している。

 え? まさか?


「ま、まだ食べてないよ!」


「うん、食べようと思ったらジンジャ見つけたから!」


 危ないところだったらしい。


 二人の腰カゴには摘んだイチイの実が入っていた。


 一粒つまみ食いしようとしたところ、落としてしまい、転がるイチイの実を追いかけてジンジャを見つけたと。


「……精霊様が守ってくれたのかなあ? 五粒も食べたら死んじゃうくらい強い毒だからね。本当に気を付けて。周りの赤いところだけなら大丈夫だから。種を取り除いてジャムやお酒に出来るけど、種を抜くのが結構大変だから、持ち帰らないでここで食べちゃった方がいいね」


 口に入れて、プッと種を飛ばして見せた。実は甘くて美味しいんだけどね。


 枝や葉っぱも口には入れないように注意してから、四人と別れる。


 ベルとティナは早速赤い実を口に放り込みプッと種を飛ばしていた。その動作が楽しかったようなので、種を飲んじゃう心配はもういらないだろう。


 戻りがてら運んできたジンジャは荷車に載せて、みんなの位置を把握するべく感知を働かせる。


 キティとピノは麦の方へ戻ったようだ。男子組はまだ茂みにいる。何か見つけたのかな? 女子組とヤスくんは川べりを少しずつ上流に向かっているので、そのうちにユニたちと出会うかもしれない。


 敵性の生き物はいないようだ。


 良かった。ちょっとジンジャに夢中になってたからね。



 私も何か見つけてみようかな。


 麦のあった辺りから川の間をうろうろしてみると、緑の葉が茂っている中に紫の葉が生えているところを見つけた。


 近寄り、観察してみると、このギザギザした葉っぱはシソだ!


 良く見ると緑の葉っぱの中に青ジソも生えている。


 本来なら柔らかそうな葉っぱを選んで摘むところだけど、シソは勝手に増えてくれるからこのまま持ち帰りたい。


 土魔法でプランターのようなものを作り出し、さっき作ったシャベルで土ごと掘り返して二種類のシソを移した。


 シソの実もたくさんついてるので、このまま植えれば増やせるだろう。


 ホクホクして荷車に運ぶ。




 さて、そろそろお昼だけど、みんなどうしてるかな?


 一旦、集まってもらおうと、もう一度みんなの居場所を確認することにした。



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