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第四十二話 かあちゃんはみんなの笑顔が好き


 新しく作られた広場で遊ぼうとみんなが走り出した中、ジェフは一人私に近付いて来て、


「攻撃魔法を教えてくれないか?」


 と真剣な目をして言う。


「もちろんいいよ。でも、焦らないで、楽しくやろうね」


 と特別練習が始まった。



「手の平に溜めた魔力が凝縮して丸い塊になるイメージを練習しようか」


 泥だんごも泥のままなら柔らかいけど、ギュッと固めれば硬い球になるでしょ? とイメージを補足すると、なんとなくわかったようで、集めた魔力にさらに魔力を足して固めていく練習をする。


 魔力が歪に集まらないように、ぐるぐる回してまん丸に集まるように……、といろいろとアドバイスをしていくと、


「出来た!」


 程なくして魔力を固めることに成功した。


「すごい! もう?!」


 ジェフの真剣さが伝わってくるようだ。


「ここからは発動だよ。暴発しないように、その溜めた魔力を制御してね」


 と言ってから、地面に土魔法で的を作る。


「振りかぶって投げて当てるんじゃないんだよ。的に吸い込まれるように、当たることをしっかりイメージして、的のどの部分に、どんな軌道で、どんなスピードで。きちんとイメージが出来たら呪文で発動。投げるのはきっかけで魔力で誘導して当てる。わかる?」


「……うん、わかった。力任せに投げつけるんじゃダメなんだな。この魔力はあの的の真ん中へ、真っ直ぐ、鳥のスピードで飛んでいく。そしてど真ん中にぶつかる。……よし、いけるぞ」


「呪文は火の球(ファイアボール)


「行くぞ! 火の球(ファイアボール)!!」


 ジェフの手の平の上の魔力が赤い光を放ち、軽く手首を返すと、ツバメのようにヒュンッと真っ直ぐ、的をめがけて飛んでいく。的のど真ん中へ。


 パンッと火の玉が爆ぜると土の的の真ん中には丸く焦げたように穴があいていた。


「やった……ぜ!!」


「ジェフ、すごい!」


 周りからも、わあーっ! と声が上がり拍手が鳴り響く。


「……みんな」


 みんなジェフの気合に目を惹かれ、途中からはずっと見ていたようだ。


「ジェフ、おめでとう!」

「やったな!」

「すごいぞ!」


 代わる代わるみんなにおめでとう、すごいと言われて照れるジェフは、それでも真っ直ぐな瞳でこちらを見つめ、


「モモ、出来たぞ」


 としっかりした声で言った。


「うん。出来たね。すごいね、ジェフ」


「よしっ!」


 グッと手を握り、喜びを顕わにする。


「今の感覚を忘れないで。他の攻撃魔法もここからの発展だからね」


「ああ! ありがとう、モモ。俺、今の気持ちも感覚も忘れないよ!」


 その後もジェフは攻撃魔法の練習を続けた。


 私もアドバイスしながらジェフの頑張りを見ていた。


 みんなも負けてられないと、身体強化してヤスくんを追いかけ回している。

 今のところ、まだまだヤスくんには及ばない。ヒョイヒョイと軽く逃げられてしまっていた。



 そんな時、アンがすすっと近寄って来て、


「ももちゃん……」


 なんとなく苦しそうな声を出す。


「どうしたの?」


「ももちゃん、私……、攻撃魔法が怖いです……。でも……、使えないと、ダメですよね」


 泣きそうな顔でそう言う。


「なんだ、そんなことで悩んでるのか。良いに決まってるじゃん。人には向き不向きがある。やりたいこともやりたくないこともある。普通のことだよ」


「え?! でも……」


「やりたくないことを無理矢理やらなくてもいいよ。魔法は戦うためだけのものじゃないでしょ?」


「でも! 戦えなかったらみんなを守れない!」


「……大丈夫だよ。みんながいるから。戦う役が出来る人は戦えばいいし、守る役が出来る人は守ればいい。人を癒せる人は癒やせばいいし、育む人は育んでくれればいい。どの役もみんな役割や仕事は違っても、みんなのために戦ってるし、みんなのことを守ってる。違う?」


「あ……」


 頭を撫でながらそう言うと、アンは涙をいっぱいに溜めた瞳で微笑んだ。


「そうです……ね」


「そうだよ」


 ニコッと笑いかけると、ふうっと大きなため息とともに涙がポロリと溢れる。でも、アンの表情は笑顔だった。


「私……、また」


「うん、考え過ぎちゃってた? アンはなんか私と似てるなあ。やっぱり娘だからかな」


 うふふ、と泣き笑いしながら、


「そうですね。娘ですから。ももちゃんと一緒です!」


「だよねー。すぐ考え過ぎちゃうからなあ、私も。みんなに支えてもらわないとダメダメだよ」


 二人で声を出して笑った。


 アンは笑顔が一番可愛いよ、ももちゃんもです、とか言い合って。


「アンは魔力の鍛錬だと思って練習すればいいよ。攻撃魔法も攻撃に使わなくても便利だよ。火を消したり、畑に水を撒いたりね」


「攻撃に……、使わなくても使えるんですか?」


「大丈夫。そんなのイメージ次第だもん。例えば、大きい桶の上で水の壁(ウォーターウォール)を発動して、魔法を解除したら壁はただの水に戻るでしょ? そこにジェフの火の球(ファイアボール)を入れてもらえば温かいお湯が出来ちゃうよ。便利だねー」


「そ、そんな使い方?!」


「うん。水よ(ウォーター)で出すより、一度にたくさん水を出せると思うよ。畑に撒く時だって、きっと上手く使えば楽に水撒き出来るよ。どうやって使ったらいいか考えてみてよ」


「な、なんと言うか……、はい」


 アンは肩の力が抜けて、抜け過ぎて面食らっている。


 魔法なんてそういうものだと思う。


 きちんと魔力が練れて、魔力の使い方が、流れが、結果が、しっかりイメージ出来ていれば多少のアレンジだって出来る。


 魔法建築がいい例だ。


 一カ所ずつ、掘削(ディグ)作製(モールド)平滑(スムース)……ってやっていかなくったってイメージ優先でちゃんと出来上がる。


 アンはアンのやり方で魔法を使えば良いんだ。



 そろそろ日も傾いてきて、夕食の支度に取りかかる時間だけど、せっかくだから最後にみんなと滑り台で遊んだ。


 やり出すと楽しくなって、夢中でよじ登っては滑ってを繰り返して、みんなで大きな声で笑って、久しぶりに子供らしい時間を過ごした。




 さて、たっぷり遊んでお腹を空かせた子供たちに美味しいごはんを作りましょう。


 埃まみれの体を清浄(クリーン)できれいにし、ユニとルーとともにお料理タイムだ。


 まずは土鍋に水を張り、白菜モドキとドングリ茸で出汁をとる。


 その間に材料を揃えよう。


「まだ野草って残ってたっけ?」


「あまり保たないから優先して使ってたけど、まだあるよ」


「山菜もあるよ」


 とのことなので、ザルに集めてワゴンに載せる。


「後はお芋と……」と言うと、「はい!」優秀なアシスタント、ユニとルーはサッと食材を集めてくれる。


 それから地下室からワイン、液糖、塩、醤油を取ってくる。


 資材倉庫では木から麺棒を作った。


 準備OK。



 調理場ではかまどに火を入れてもらって、麺つゆ用の土鍋と水をたっぷり入れた寸胴を火にかける。


 作業台を清浄(クリーン)できれいにしたら、打ち粉をふって寝かせておいた生地を麺棒で伸ばす。三つ折りに畳んで端から切っていく。


 先に沸いた土鍋にはワインを入れて沸騰させアルコールを飛ばす。


 ……ワインで麺つゆ。どうにかなりますように!


 出汁をとり、具にもなる白菜モドキが柔らかくなった頃、液糖、塩、醤油で味を整える。


 うーん、ちょっとフルーティだけどまあまあかな。


 麺つゆは出来たので土鍋は下ろして、油の入った中華鍋を火にかける。次は天ぷらだ。


 ボウルに小麦粉と冷水を少しずつ入れてザックリ混ぜる。ダマが残っているくらいでいい。


 ユニとルーに下拵えをしておいてもらった塩水につけたサツマイモの薄切りを、プツプツ泡が浮いてきた油へ、衣をサッとくぐらせて投入する。

 ジュワッと良い音が鳴る。あまり高くない温度でゆっくりと次々に揚げていく。


 途中こまめに天かすを掬うのが油をへたらせないコツだ。


 お芋が揚げ終わったら野草、山菜も衣を作り足し、お芋より高温の油でカラッと揚げていく。


 バットの上には山盛りの揚げたての天ぷら。


 寸胴も沸騰したのでうどんをパラパラ入れていく。


 ユニには天ぷらを皿に分けてもらい、ルーにはうどんを泳がせて様子を見ていてもらう。


 その間にデザート作りだ。


 余った天ぷらの衣に、残っていた粉を足し、昼作ったおからを混ぜて練る。ジャムを付けるのでお砂糖はいらない。

 水で硬さを調節したらスプーンで掬って丸くして油へ入れていく。まん丸おからドーナツだ。


 ベーキングパウダーや重曹が無いので、膨らまないずっしりしたドーナツになっちゃうけど、そこは許してもらおう。


 揚げている間にうどんが茹で上がったようだ。食事用の木のボウルに取り分け、麺つゆを注いでもらう。仕上げに刻んだアサツキをパラパラと。


 ドーナツも揚げ終わり、次々に居間へと運ばれていく料理たち。


 小さい子たちもスプーン、フォーク、水を用意してくれていた。


 私たちも席に着き、


「今日も一日ありがとう。いっぱい働いて、いっぱい遊んで、いっぱい笑って、楽しい一日でした。明日はいよいよ探検です。ごはんもいっぱい食べて、明日に向けて元気を出してね。それでは、仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます」


 とは言ってみたものの、みんなキョトンとしている。初めて見る食べ物だから、食べ方がわからないんだろう。


「バズに分けてもらった小麦で作ったうどんと天ぷらだよ。天ぷらはつゆにつけて、うどんはフォークで掬って、こう」


 ズルズルッと啜ってみせる。


 その姿がおかしかったのか、みんな笑うが、


 うーん、美味しい! 良く踏んだのでコシがあり、ツルッとした口当たり。ああ、久しぶりの味。

 天ぷらもつゆにつけてシャクッと食べる。ああ、この噛み心地。天ぷらから染み出た油でつゆにコクが出て、また美味い。


 私がズルズル、シャクシャクと美味しそうに食べる様を見て、みんなも真似して食べ出す。


「美味しーい!」

「モチモチ」

「ツルツル」

「何だコレ!」

「こっちも美味い!」

「このつゆも」

「サクサクの天ぷらに、おつゆが染みるとふにゃっとなって……」

「美味しい!」


 良かったー。みんなも気に入ってくれた。啜るのは難しいみたいだけどね。


 あっという間に麺つゆまで全部なくなりました。


 最後はデザート。


「ベリーとイチジクのジャムをかけてあります。甘ーいよ」


 ニヤッと笑ってそう言うとみんな飛びつく。


 ああ、膨らまなかったけど、おからのおかげでふんわりモチモチ。

 ベリーのジャムの甘酸っぱさも良い。ブルーベリーとクランベリーに似たベリーで作ったけど、香りが良くてすごく美味しい。イチジクのジャムもクセがなくなって美味しい。色も赤くてきれいだし。


「これ、なんて食べ物?」

「ドーナツだよ」

「ピノ、ドーナツだあいすき!」

「キティも!」


「また今度作ってあげるけど、油や砂糖の摂り過ぎは具合が悪くなっちゃうから、今日は特別だよ。これからは程々にね」


 みんながちょっとだけがっかりするが、食べ過ぎなければ大丈夫だから、と言うとパアッと明るい顔になった。



 食後のお茶を楽しみながら、明日のことを話す。


「朝ごはんを食べたら出発しようね。目指すは麦野原。周辺も探して香辛料やハーブも見つけたいと思ってる。他にも何でも面白いもの見つけてね。

 あの辺は食べ物が見つけられなかったから、各自、水筒とお昼用の果物、腰カゴを持って行きましょう。年長組は荷車を引いて行くので手伝ってください。

 帰りに草原に寄り道して、羊がいるか確認したいです。羊毛は欲しいよね。

 バズは明日も行かないの? 畑?」


「うーん。ちょうど今、畑に何も作ってないから、明日は行ってみようかな。畑は明後日からだ」


「うん、そうしよう! せっかくみんなでお出掛けだもん」


 みんなも嬉しそうだ。しばし楽しく談笑する。


 野草も使い切っちゃったから見つけようとか、何か動物がいるといいなとか、みんな明日が楽しみで仕方ないようだ。


 明日のために早く寝ようと、夕食の片付けをして訓練に移ることになった。



 夕食の片付けをしていて思う。


 廃油どうしよう。


 取り敢えず清浄(クリーン)をかけてみたら、割合きれいになって、くたびれた油の匂いが無くなったので、土魔法で(かめ)を作ってその中に溜めておくことにする。




 干し台もしまい、調理場の片付けも済み、訓練の時間だ。


 今、私の残りMPは三千程。ちょっと試したいことがあったので、みんなには身体強化の訓練をしてもらいバズとアンと外に出る。


「考えていることがあるんだけど、協力してもらえないかな。畑のことなんだけど」


 二人に私の考えを説明する。


 最初に畑を作った時、一m四方の小さい畑で五百程MPを使った。三m四方の時は千くらいだ。単純に考えて、広さは九倍なのにMPは倍だ。

 つまり、小さい畑をちまちま作るより、大きい畑をどーんと作った方がMPの効率が良いのでは? と考えたんだ。


 そこで、十m四方の畑を作ってみたいと思う。私の予想では更に倍の二千くらいでいけると思う。それなら、ギリギリ魔力枯渇を起こさない。


 だけど、もし、それ以上のMPが必要だったら倒れてしまうかもしれない。


 だからその時、バズには私を運んで入り口を閉めて(かんぬき)を掛けて欲しいこと。アンにはその後の子供たちの面倒をお願いした。


「また無理をして……」


 呆れられたが、寝る前だから、とお願いして了解してもらった。


 倒れちゃうかもしれないので、先に聖域は使っておいた。さあ、どうなるだろう。


 大きい畑の隣の土地に十m四方の更に大きな畑を作るイメージをしていく。


 この大きな畑に青々とした麦がサワサワと揺れる景色を。金色の麦がキラキラと煌めく光景を。そして、それを成し得る肥沃な畑を。


「私たちに恵みを与えてくれるこの大地に力を……」


 跪き、祈りを捧げて呪文を唱える。


「大地よ、その慈しみをもって、癒しをお与え下さい」


 癒しの光が降り注ぎ、目の前の大きな範囲をキラキラと照らす。


 そして、十m四方の大きな畑が出来た。


「……ありがとうございます」


 精霊様に感謝してからMPを確認すると、


「……! この広さで消費したMPが千五百だった! 肥料から成長まで、多分四千五百でいけると思う」


 今までの大きい畑の十倍以上。一アールの畑を四千五百のMPで作れるなら、一日一枚でも充分過ぎる。まだみんなの畑仕事の方が慣れていないから、あまり大き過ぎても手に余るだろう。

 みんながこの畑を扱えるようになる頃には、私のMPも増えて、もっといろいろ出来るようになるかもしれない。


「お騒がせしました。倒れずに済みました。バズ、このサイズの畑、扱える?」


「うーん、あっちの畑四枚は見れたから、種蒔きの日と、刈り入れる日と、片付ける日、三日で回すならやれると思う」


 おお、さすが。頼りになる返事!


「バズ、頼りになるなあ。でも、バズも無理はしないでね。みんなでゆっくり進めていこう」




 そうしてみんなのところに戻った私たちは、少しだけ訓練に参加するが、明日のためということで早めに切り上げて眠ることにした。


 毎度の生活魔法での魔力枯渇にもみんな慣れてきていて、自分たちで上手く眠りにつけるようになってる。


 それでも一人一人におやすみ、と声をかけ、全員が眠ったことを確認すると、私も残り少しばかりのMPを明日のための物作りで使ってから眠りについた。


 ヤスくんは今日はキティとピノと一緒に眠っている。



 明日、楽しみだね……。


 おやすみなさい。




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