第三十九話 かあちゃんは物作りに夢中
「おはよう」
「おはようみんな」
「モモおはよう」
今日も爽やかな目覚めと気持ちいい挨拶で一日が始まる。
今日はお昼に甘いものを作ろうと思っているので、朝は軽く果物で済ませることにしよう。
ユニとルーとともに食料倉庫に向かう。
「こうして一食分の果物を調理場へ持っていく時に抱えられる程度のカゴとかザルが欲しいんだ」
今日は一日、みんなの要望に応えて物作りをする予定。早速、これから取り掛かろう。
場所を資材倉庫に移してブドウの蔓でカゴを、葦でザルを作る。
カゴには持ち運びしやすいように把手を付けてみた。
それから、木材でキッチンワゴンも作ろう。十五人分の食材や料理を運ぶのに重宝するはずだ。
すごく重いものを運ぶ訳ではないので、頑丈さよりも取り回しを優先したら、杉の木材だけで材料が足りたらしくMPは八十三しかかからずに済んだ。
この調子で今日はいろいろ作るぞ。
作りたてのワゴンとカゴ、ザルに朝食用の果物を見繕って載せていく。
ユニとルーはきちんと傷みそうな食材から片付けてくれてるらしく、無駄が出ていないのがありがたい。
二人にお任せすると、今朝はアケビにベリー、トマトにするらしい。
「今日はお砂糖……とは言えないかもしれないけど、甘味の調味料も作ってみるつもりだから楽しみにしててね」
キャーッと声を揃えて二人が喜ぶ。
異性化糖が出来れば果物をジャムにしたり、佃煮とかも作れる。干しきれない果実も無駄にせず、保存食の幅も広がる。頑張って作ろう。
果物の朝食を食べながら、今日の予定をもう一度確認する。主にバズの畑仕事についてだ。
「私は今日は一日物作りにあてさせてもらう予定だけど、畑の方はどんな感じ?」
「物作りするならそっちの魔法で魔力使うでしょ? 畑の方は様子見でいいよ」
バズが言ってくれる。
バズたちは、昨日の麦の刈り入れと、魔法による乾燥にチャレンジするらしい。これが成功すれば格段に作業がスムーズになる。
それから、昨日収穫した芋と大豆の畑の片付けもしてくれるということだ。
「ありがとう。掘り起こした根やなんかを片付けておいてくれると、畑を作る時楽になるよ。掘り起こしと穴掘りは魔法でやっておくね」
「穴掘りは僕とベルで出来るから、掘り起こしだけお願いするよ。僕らも自分でやりたいんだ」
「そういうことならお願いするね。普段から生活魔法を使ってる方が魔力の鍛錬にもなるしね」
他のみんなも畑の手伝いをしてくれるそうだ。
「畑仕事に取り掛かる前に、昨日言ってた道具を作っちゃおうね。刈り入れ用の鎌は今使ってるあれで大丈夫?」
切れ味が良く、使いやすいので充分との答えをもらった。
スコップやクワも土魔法で作ってあげれば良かったかな、と思ったが、土魔法だと柄まで土になってしまうので取り回しが悪いだろう。
「他に必要な物は? 思いついたら言ってね」
朝食を食べ終えた後、資材倉庫に移動し、農具から作っていく。
コリーに鉄鉱石でどのくらいの鉄がとれるのかを聞いてみると、
「だいたいこれぐらいの鉄鉱石を十個くらい高炉にかけて鉄の塊を作るんだ。農具なら先の部分だけ鉄だから、その塊一個で作れると思う。武器のような鉄を多く使うものだと二個、三個と必要だけど。ナイフみたいな小さなものなら、一個の塊でいくつも作れるよ」
とわかりやすい説明で教えてくれた。
取り敢えず、鉄鉱石十個と木材を用意してスコップを作ってみよう。
バズに形や大きさ、柄の長さなどを詳細に教えてもらってイメージする。この世界の一般的な農具は見たことがないから、地球よりになってしまうのは仕方ないだろう。
「先は尖ってなくて平らでいいのかな?」
「掘り返すためじゃなくて肥料を掬うためだから」
「ん、わかった……」
私はよくある角スコ、持ち手が三角になっているやつをイメージして魔法を使う。
用途としての肥料を掬い上げて畑へ撒くところまで詳細に。
「創造・角スコップ」
目の前の材料から、鉄鉱石が八個と木材が少し消えて、MPは八十三消費された。
そして、一本のスコップが現れる。
「あまり見ない形だけど……?」
柄を支点に持ち手を握って使う実演をしてみせると、バズも試してみて、
「これは使いやすそうだよ!」
と喜びの声を上げる。
「何本くらい作ったらいい?」
と聞くと、しばし考えてから、
「四本お願い出来る?」
と遠慮がちに答えた。
「足りなかったらまた作るからね」
と同じイメージであと三本の角スコを作る。
さらに、クワは刃の部分がこのぐらいで、肩までくらいの長さで……と教えてもらいイメージする。
これは肥料を撒いた土を起こして混ぜ合わせるのに使う。
木の柄は握りやすく、刃の付く部分は太くしっかりと、刃は掘り返しやすいように少しカーブをつけて鋭角に付く感じで。
イメージが固まったところで魔法を使う。
「ええ? これもすごい!」
聞くと、村で使っていたクワは日本で言う鋤のような一直線な物で突き刺して使うものだった。このクワだと腕の力で持ち上げ、振り下ろすことになる。
「慣れない物だと使いにくいかな?」
「いやいや、これ使ってみたいよ!」
バズが興奮して言うけれど、一応、持ち手がT字でスコップの先が縦長になったような鋤のタイプも作り、使い勝手を確認してもらってから、問題なさそうなので三本ずつ増やした。
「こっちも、この持ち手が使いやすそうだ」
バズの目が輝いている。
バケツのサイズなども聞くが、これは私の知っているバケツと変わらないようなので、木製の樽のような本体に鉄の持ち手を付けて、握る部分にも木の握りを付けて持ちやすくしたバケツを作る。本体ごと鉄にすると重過ぎるからね。
「うん、これも持ちやすくていいよ!」
バケツは何かと使うと思うので八個作った。
ひしゃくは小さい物なのでMPをケチって土魔法で作ってみたが、充分使えると言ってもらえたので、これも八本作る。
バズはホクホク顔で、
「ありがとう、モモ! 頑張るよ!」
とやる気を漲らせている。
バズが農具を運んでいる間に、ルーに頼まれたフライパンも作ろう。
日本の家庭で一般的なフライパンと中華鍋を、持ち手部分を木にして作ってみた。
ちょっと重いかな? と思ったけど、
「身体強化があるから大丈夫」
と二人から言ってもらえたので、それぞれ三個ずつ作る。
それからバーベキューで使うような鉄板と焼き網も作ってみると気に入ってくれたようなので二枚ずつ作った。
寸胴のような大鍋も一つあったら便利かと思い作ってみた。さすがに重いかと思ったが、身体強化を使えばなんとかなるものだ。
調子にのって一回り小さい中鍋も二個も作ってしまった。
調理器具はユニとルーが居間の棚へ片付けてくれている。
続いて前に頼まれていたホウキも作っちゃおうと、葦を使った外用の竹ぼうきモドキと麦わらを使った中用の編みぼうきを二本ずつ作る。
ユニとルーは道具が増えて嬉しそうにしている。
バズたちの農具の運び出しが終わったので、一緒に外に出て畑へ行く。
昨日収穫してくれた四枚の畑を掘り起こすためだ。掘削の魔法で根を浮かせるように掘り起こす。
「ありがとう、モモ。後はここは僕たちに任せて。モモはモモのやることやってよ。いろいろ作ってくれるんでしょ?」
バズから声が掛かり、みんなも任せて! と言ってくれる。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
私は家に戻った。
まずはハサミだな。
一人、資材倉庫の中で鉄鉱石を用意して裁ちバサミのような大きめのハサミをイメージする。
指を入れる輪の付いた刃を二枚クロスさせ、それを真ん中で金具で止めることにより、ジャキジャキ切れるイメージだ。
魔法を使うとちゃんとハサミが出来上がっていた。現代のステンレスと樹脂で出来てるハサミより大分重かったが使えるだろう。
でも、今回ハサミを使う目的の羊の毛刈りには使いにくそう。いっそ和バサミの方がいいのかもしれない。
お裁縫用の和バサミよりはずっと大きいイメージで、中央を握ることにより刃と刃が擦れ合って切れる、羊の毛を上手く刈り取れるイメージまでのせて、
「創造・羊の毛刈りハサミ」
と魔法を発動した。
目の前にはイメージ通りの和バサミ。
手に取り握ってみると、ショリショリと上手いこと刃が動かせた。
指に鉄の重さの負担が全部かかってくる先に作ったハサミよりはずっと軽く、使い勝手が良さそうだが、試してみないことにはわからない。
試行錯誤していくしかなさそうだ。
次に、木材と鉄鉱石を入り口まで運ぶ。
せめて入り口にはドアを付けたい。
冬までには暖房を作る予定なので、部屋を暖めるためには居間にもドアが必要だけど、まずは入り口から。
木製の両開きのドアで外開き。しっかりした蝶番で開け閉め出来るようにする。鉄の把手と内側には閂も付けて、外からの侵入を防げるように。
「創造・扉」
右扉、左扉、閂は、それぞれ別パーツ扱いらしく、三つ分の二百五十程のMPを消費したが、イメージ通りの重厚な扉を設置出来た。
あまりにも良い出来だったので、居間にも付けてしまいたい衝動に駆られたが、一人で木材を運ぶのはかなりしんどい作業だったので、またみんなに手伝ってもらいながら作ることにしよう。
これで取り敢えず、自分の作りたかった物は作った。後は探検用の装備だっけ?
装備と言っても防具や武器って訳にはいかないな。せいぜい腰カゴか。
腰カゴはすでに今、十二個作ってあるので、キティ用とピノ用の少し小さめの腰カゴを二個作った。
探検用の装備はこれと水筒だね。他にいろいろ持っても身動きし辛くなるだけだろうし。
繊維が手に入れば身につけるものも作れるんだけど。それはまた今度ということで許してもらおう。
コリーに頼まれていた魚取りの網はどうしようか。
一応試しということで、鉄の輪っかに木の持ち手、葦の繊維で編んだ網の付いた、タモのような物を作ってみる。イメージはとにかく強く。破れたり、折れたりしない物を。
ちょっと大きかったかな?
後でコリーに見てもらって、こちらも使い勝手で調整していくことにしよう。
これで、すぐに使いたい道具作りは一通り出来たかな? また足りないものや忘れているものがあったら随時言ってもらおう。
さてさて、それでは待望の調味料作りに取り掛かりますか。
まずは落ち着いて作業出来る場所と、作った調味料を貯蔵しておく場所が欲しいな。
いっそ地下室でも作っちゃおうか。
倉庫の間の広間の居間側の角を掘り、下り階段を作っていく。
階段はもちろん、壁や天井にも強化を掛けつつ掘り進み、五m程降ったところに部屋を作る。作業部屋だ。
作業部屋はある程度の広さを確保し、大きなテーブルとイスを作り、物作りや考えごとをしたい時に使えるようにしたい。
脇に貯蔵室となる部屋も作った。
貯蔵室の壁は棚にする。そこに土魔法で瓶のような蓋付きの容れ物を十個並べた。
食料倉庫へ行き、バズが調味料、加工用に分けておいてくれたサツマイモと大豆を作業部屋へと運び込む。
聖域に守られてはいるけど、部屋、瓶、材料には清浄と浄化をかけてキレイにしておいた。
まずは何より砂糖だよね。
私の良く知る白砂糖、上白糖はサトウキビやサトウモロコシから作られる。ショ糖という糖だ。
今回はサツマイモから作る。
材料違いで白砂糖を作るとなると魔力の消費がどうなるかわからない。素直に異性化糖にしておいた方がいいだろう。
サツマイモでんぷんから作る異性化糖は果糖ブドウ糖液糖などと呼ばれ、日本ではジュースやジャムなどいろんな加工品に使われている液体状の糖だ。
戦後の日本で、サツマイモでんぷんから果糖やブドウ糖を作り出す研究がされ、作り出されたものだ。これなら消費MPも抑えられるだろう。
材料のサツマイモを前にし、瓶を一つ手に取って蓋を外し、この瓶にたっぷりの甘ーい液体を、とイメージする。
過程として、サツマイモからでんぷんを取り、でんぷんから果糖やブドウ糖を作り出す。甘い調味料にしたいので果糖多めで、というようなイメージもしていく。自分の中のイメージがはっきりするように、ジュースやジャムの甘さも思い浮かべる。
「創造・果糖ブドウ糖液糖」
瓶の中にはたっぷりの液体が出来上がっていた。
ちょん、と指に付けて舐めてみる。
「甘ーい!」
見事、成功したようだ。
ほっとすると同時に精霊様への感謝も忘れない。こういう特別な物が出来上がると、お恵み下さっているという実感が大きい。
「……ありがとうございます」
感謝の祈りを捧げてから、五つの瓶を液糖で満たした。
次の瓶には大豆から油を作ってみる。
大豆を搾って油を抽出するイメージで、
「創造・大豆油」
と魔法を使う。もちろん料理で使うので、炒め物や揚げ物のイメージもしている。
瓶の中には油が出来上がった。
こちらも指に付けて少しだけ舐めてみた。酸化したような匂いも一切しない、サラサラとした搾りたての油は芳ばしい良い香りがしていた。
大豆もバズに作ってもらった方がいいな。他にも調味料を作りたいし、豆乳や乳製品、加工品など使い途がいっぱいある。
早速、次の瓶を用意し、大豆を醤油に変えてみる。
醤油も麹などを使うので、材料が大豆だけではMPの消費が多くなる。
しかし、この世界にいる麹カビを見つけ出す術は私にはないのでスキル先生の力を借りるしかない。
下手に素人がカビの研究なんてして、カビ毒とか蔓延させたりしたらパンデミックを引き起こしてしまう。聖域に守られているとはいえ、この世界の生態系に影響を与えたくもないので、自分たちの使う分だけスキル先生の力で安全に用意した方がいい。生醤油をここから持ち出すような真似はやめておこう。
「それでも醤油や味噌が恋しい日本人のかあちゃんをお許し下さい……」
精霊様に許しを乞いつつ、懐かしの醤油の味を、香りを、見た目を思い浮かべながら魔法を使う。
「創造・醤油」
瓶の中には黒い液体が出来上がっている。くんくん匂いを嗅ぐ。
「……ああ、醤油だ」
ちょっぴり泣きそうな気持ちになってしまうけど、笑顔で精霊様に感謝した。
もう一度、食料倉庫へ行き、ブドウと傷物リンゴを持ってくる。
ブドウは前に林へ行った時に採ってきたものの残りだ。干しきれなかったブドウはそろそろ傷み出してしまうので、全て使わせてもらうことにした。ヤスくんが美味しいブドウをたくさん集めてくれたので、こっちを遠慮なく使える。
地下室に運んだブドウとリンゴをそれぞれ瓶に入れる。
ブドウは瓶二つ分あった。これはワインにする。
本当は米で作る日本酒の方が使い慣れているけど、クセや渋味の少ない白ワインならいろんな料理に使えるだろう。
私はお酒の味には詳しくないが、子供ばかりで暮らしているここでは、こだわりを持つ人間はいないので、私の知るお安い白ワインを参考にイメージしても文句を言う人はいない。
一本数百円の安物ワインを参考に、味をまろやかにしたり、臭みを消したり、食材を柔らかくするのに使うイメージでブドウをワインへと作り変える。
「創造・白ワイン」
瓶の中のブドウは、うっすらと黄色味がかったような透明なワインへと姿を変えた。
香りと味を試してみると、思いのほか爽やかで、フルーティで、まろやかなクセのないワインが出来上がっていた。
酒好きな人には物足りないのかもしれないけど、料理に使うには丁度良い。
最後のリンゴの入った瓶、これはリンゴ酢にするんだ。
こちらも爽やかでクセがなく、香りの良い酢をイメージして魔法を使う。調理に、生食に、どちらにも使いやすい酢になるように。
「創造・リンゴ酢」
瓶の中に出来上がった液体は、酢特有の匂いを発しているけど、吸い込んでも咽せる程キツいものではない。上々の出来だ。
これで酒、砂糖(液糖)、塩、酢、醤油、味噌の調味料と油が揃った。
これだけあれば料理の幅も増える。
後は香辛料が見つけられればと期待してしまう。
出来上がったこれらの調味料は、この貯蔵室で保管し、使う分だけ小分けに持ち出すようにしよう。
塩と味噌もこちらの貯蔵室に移した。
土魔法で、持ち出す時に使う蓋の出来る小鉢のような小さなポットや水差しと、取り分ける時に使う小さなひしゃくを作り出し、瓶や容器の表に油、ワイン、砂糖、塩、酢、醤油、味噌と転写しておいた。
全てが棚に並べられると、やり遂げた感が気持ちいい。
これらを使って保存食作りもしなきゃいけないけど、午前中の作業はここまでにしてお昼ごはんに取り掛かろうと思う。
思う存分物作りに勤しめて充実した気持ちで、取り敢えず液糖と塩の容れ物を持ち出し地下室を後にした。




