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第三十八話 かあちゃんは充実した一日を終える


 木材の積み込みに時間がかかったので帰った時にはそろそろ夕方と言って良い日の傾き具合だった。


「ただいまー……」


「あらあら、くたくたですね。おかえりなさい、みんな。お疲れさまでした」


「ただいま! アンねーちゃん。なんか家に帰ると元気が出るな」


 うん。ヤスくんは元気だね。聖域の効果があるので家に帰ると元気になるのは確かなんだけど。


 荷卸しは少し休んでからにしよう。


「アン、お茶淹れてくれる?」


「あ、お茶の葉がもうなくなってしまって……、どうしましょう」


 うう、今どうしてもお茶で一息入れたい。休憩の前にもう一仕事しよう。



 創造の魔法を使い、摘んできたお茶の葉を蒸して煎って揉み終わった状態のお茶っ葉へと変え、先に土魔法で作り出しておいた蓋の出来る壺に詰めていく。


「石灰石を炉で焼いた物を小さく裂いた布とかで包んで入れておくと湿気取りになるんだよ」


 マークが教えてくれた。


 なるほど。海苔なんかに入ってる石灰乾燥剤だね。


 石灰石から創造で生石灰を取り出し、言われたように手拭いを小さく裂いた布で包んで壺の中に入れる。


 十個の壺に茶葉を作れた。

 一個をアンに渡しお茶を淹れてもらい、残りはしまっておく。


「これだけあったら一冬保ちますね。初夏の新芽は香りが良くて美味しいですから、それも楽しみです」


 マリーも嬉しそうに言う。



 アンが淹れてくれたお茶を飲みながら話しをしつつ体を休める。

 こういうのんびりした時間も大切だよね。


「バズたちの方はどうだった? あんなにたくさんのお芋片付けるの大変だったでしょう?」


「モモが使うって言ってたから、半分は袋に詰めてそのまま倉庫に運び込んであるよ。あと半分はいつもモモがしてるように穴にオガクズを敷いて埋めておいた」


 そこで気が付く。私は穴を掘っていかなかった。


「大丈夫だよ。ベルと二人で穴を掘って、オガクズは用意してくれてあったから、いつものように保管したよ。ただ、僕たちじゃ蓋は作れなかったから、今は上が開きっぱなし。モモに後でお願いしようと思ってたんだ」


 ちゃんと自分たちで考えて生活魔法を使いこなしている。

 子供たちの成長の早さと応用力には驚かされっぱなしだよ。


 バズとベルを褒めると得意そうな笑顔がこぼれた。


 大豆も袋に入れて倉庫にしまい、麦も束にして干してあるそうだ。

 これだけの仕事をこなしてるなんて、みんなも相当頑張って手伝ってくれたんだろうな。疲れたなんて言ってられないや。


「明日の麦は多く穫れるだろうから、干す場所が足りなくなると思うんだけど増やせるかな?」


「うーん。作ってもいいけど、麦は熟成させるためじゃなくて乾燥させるために干すんだよね」


「そうだよ。乾燥させないと熱を持ったり、傷んだりしてダメになっちゃうんだ」


「なら、魔法でやっちゃおうか。乾燥(ドライ)熱気(ヒート)も使って。五人掛かりならなんとかなりそうじゃない?」


「……!」


 バズはハッとして、「その手があった」と呟く。


「村でも魔法を使える大人はやってた。うちは日干しだったから気が付かなかったけど……いけるよ!」


 クルッとみんなの方へ振り返り、


「ジェフ、コリー、ルーシー、ユニ、ピノ頼むよ!」


 とバズが興奮気味に言うと、


「任せて!」

「俺らの出番だな!」


 と快く引き受けてくれた。



「みんなの魔力量の問題もあるけど、大地の魔法はMPの消費が大きいから、私も今のところ一日大きい畑で二枚くらいが限界かな? 肥料作り、畑作りから成長の魔法までで一枚の畑に三千くらいMP使うんだ」


「三千?!!!」


「うん、だから三枚だと倒れちゃう。朝二枚、夕方一枚がギリギリかな? 魔力量が増えれば変わってくるから、それまでは二枚ずつでお願い」


「そんなやり方で大丈夫なのか?!」


「そんなにも負担かけてたなんて……。ごめんなさい」


「モモにだけ無理させちゃダメだよ」


「……うん。一日一枚にしよう、モモ。それでやりくりしよう」


「そうだよ。足りないなら採取頑張るからさ」


 MP三千のインパクトが強すぎたのか、みんな心配して次々に声をかけてくれる。


「モモはほっとくと倒れるまで魔法使うからな。みんな心配するに決まってるだろ」


 はい。すみません。もっとしっかりします。ということで考え直す。


「うーん、じゃあ、眠る前にMPが残っている時に肥料と畑の準備をして、昼間は無理しない範囲で成長の魔法を使うようにするよ。寝る前には私もMP使い切りたいからね。物作りや他にも魔法を使うこともあるし、一人で無茶はしません」


 みんな納得してくれたところで休憩は終わりにして、荷卸しを始めよう。



 まずはブドウと薪を下ろしていく。

 立派な採れたてのブドウは、今日の夕食にも出されることになった。


 ついでにバズたちが保管してくれたお芋の穴に蓋を作っておいた。

 ちゃんと保管されている。私のしていたことを見て覚えてくれてるんだな。


 さて、それじゃあ気合を入れて木材を下ろしますか。


 総勢十四人で身体強化を使うことにより、積む時は二時間くらいかかったのに、一時間とかからず下ろすことが出来た。


 なんと、キティやピノまでお手伝いしてくれた。逞しくなったなあ。


 本人たちも自信がついたようで、ちょっとお兄さん、お姉さんになったような顔をしている。


 今日一日、本当にみんな良く働いてくれたから仕事がぐんと捗った。


 ご褒美という程じゃないけど、明日は家でいろいろ作る日にして、何か美味しいものをごちそうしたいな。



 夕食はユニとルーが用意してくれていた。荷車を片付けたら、みんなで夕食の準備だ。手分けして手早くテーブルの上に料理や食器が並べられていく。


「今日はみんな一日中いっぱい働いてくれて大変だったと思います。おかげで資材集めも畑も順調に進めることが出来ました。明日は鉄を使った道具作りや、収穫したお芋や大豆で美味しいものを作ったりしたいと思います。木材もいっぱい集まったので、みんなの欲しい道具もあったら作るよ。そして、あさってはお待ちかねの麦野原へ探検に行こうと思います。だから、明日は体を休めつつ頑張りましょう」


 わーっ! キャーッ! と歓声が上がる。


「では、今日も無事一日を過ごせたこと、美味しいご飯を食べられることを仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます!」


 興奮冷めやらぬまま、楽しくおしゃべりしながらの夕食になる。


 今日のメニューは大豆とトマトとドングリ茸の煮物とパンケーキみたいなものとブドウだ。


 煮物は水を加えずトマトから出る水気だけで煮込んであるようで、ドングリ茸の旨味とトマトの濃厚な味が大豆に染み込んでいて噛めば噛むほど美味しさが口の中に広がる。


 パンケーキのようなものは茹でたサツマイモに干しブドウを混ぜたものを生地にして焼いてあるようだ。干しブドウの甘さがアクセントになっていて美味しい。


「煮物をのせて食べても美味しいよ」


 ルーが教えてくれたのでやってみると、確かに!

 煮物の塩味がお芋と干しブドウの甘味を引き出して、甘塩っぱい感じがなんとも言えなく合う。


「これすごく美味しいよ。次々美味しいものを考えついてすごいね」


「やったね!」


 二人は手を合わせはしゃいだ。


 それからブドウ。

 大粒のブドウは木の高いところで太陽をたっぷり浴びていたせいか、すごく甘い。


「うわ、こんな美味しいブドウ初めて食べた!」


 みんなも口にして驚いている。


「ホントだ!」

「すっごく甘ーい」

「美味しい!」


 ヤスくんお手柄とみんなに褒められて、


「そうだろ? 高いところの実はデカくて美味いんだ! また採ってやるからな」


 とヤスくんも嬉しそう。


 ベルとティナは「探検、探検」とウキウキしながらご飯を頬張っているし、キティとピノも、


「私たちも良い物見つけようね」

「ねー!」


 とはしゃいでいる。


 年長組は鉄を見つけたコリーを褒めたり、何が必要か話し合ったりしている。


 ユニとルーは香辛料を絶対見つけようと意気込んでいるし、みんな楽しそうだ。



 食後のお茶の時にバズから、


「取り敢えず、肥料を混ぜるのにスコップとクワ、水を撒くのにひしゃくやバケツが欲しいんだけど」


 と言われる。


「今まで全部道具無しで大変だったよね。わかった。明日、作る時に細かいイメージを教えて」


 私はハサミと入り口にドアを付けたいと思っていることを告げると、みんなからもだんだん意見が出てくる。


 焼き料理用のフライパンとか、食材を小分けに持ち運べるザルやカゴとか。広場が畑用になってきてるから遊び場が欲しいとか、探検隊の装備が欲しいとかいろいろだ。


 話すうちにどんどん夢が広がってきたようで、だんだんと変な方向にずれてきてしまって(ピノとキティは馬に乗ってドングリを探す冒険の話しをしていたし)、夕食はこれまでとし、「ごちそうさま」をして片付ける。


 ほんの数日前まで不安で押し潰されそうだったのに、キラキラした目で希望を語る子供たち。

 それを見ているだけで幸せになれる。


 干し台も調理場も片付けて居間に集まった。



「これから何するんだ?」

「魔力の訓練をするんだよ」

「魔力?」


 生き物には魔法を使うための魔力って言う力があって、それを上手く扱えるようになると魔法が上手く使えるようになるということを説明する。


「かあちゃんだけじゃなくて、みんな使えるの?!」


 ヤスくんがびっくりしている。


「魔法も使えるし、身体強化って言って体に魔力を集めたり、纏わせたりすると力持ちになったり、早く動けたりもするよ」


 みんなで身体強化の練習をして見せて、足に纏った魔力の力で高くジャンプして見せたりすると、


「オイラにも出来るのかな?」


 ヤスくんも興味が出てきたようだ。

 ヤスくんにもステータスって見れるのかな?


「ヤスくん、『ステータスオープン』って言ってみて」


「?? ステータスオープン?」


 ======================


 ヤス レベル3 ワイズモンキー 男 五歳 ☆

 HP 120/120  MP 100/100  風+

 攻D 守F 早B 魔F 賢C 器E


 ======================


「わわっヤスくん強いんだね。風+だし」


「ん? わかんないよ。魔法なんて使ったことないし」


 ヤスくんにステータスをあちこちいじってもらって確認したが、職業特性『使い魔』が付いてること、ファミリアという魔法が使えること以外わからなかった。

 ワイズモンキーという種別もよくわからないし、ファミリアという魔法がどんなものかもわからない。


「うーん。人間と動物ではまた何か違うのかもね」


 取り敢えず、魔力を感じてもらうところから始めようとヤスくんの手を握り、魔力を循環させる。


「体の中にある魔力って感じられる?」


「かあちゃんの魔力はそりゃあわかるよ。名前と一緒に力をもらったからな。体の中をぐるぐる流れていて、オイラ昨日よりずっとパワーみたいのが溢れているのを感じてる」


 あれ? もしかして、あのステータスも名付けの効果? 

 名前を付けたことで使い魔の扱いになってHPやMPも上がったのかな? うーん、わかんないや。

 まあ、いいか。魔力を感じてくれてるなら話しが早いし。


「そのパワーを自分で動かせるように練習するんだよ。みんながやってたみたいに足に集めればジャンプ力が上がったりね」


「……うーん。難しいや。でも、みんなも頑張ってるしオイラも頑張るよ」


「そうだね。でも、ヤスくんは元々充分早いし、ジャンプ力もあるだろうからゆっくりでいいよ。焦らないでいこう」


 ちょっと素早く動き回ってみてくれる? とお願いすると、練習しているみんなの間をひょいひょいとすり抜け、あっという間に居間を一周して戻ってきた。


「ざっとこんなもんだぜ」


 魔力の流れを確認しつつ見ていたが、ああ、無意識で魔力を使ってるんだ。


 やっぱり意識して練習させるより、ヤスくんにはこのままのびのびやってもらった方が良さそうだ。

 人間のやり方で枠にはめるよりも、動物なりの成長の仕方に任せよう。


「うん! やっぱり素早いね! さすがだよ」


 へへっと照れ笑いをして顔をほころばせる。


「そうだ、ヤスくんみんなの練習相手になってくれない? ヤスくんと追いかけっこすれば身体強化の練習と体力作り、両方の訓練になるよ!」


「いいよ! 今からやるか?」


「今は寝る前だし、ここじゃ狭いから、また今度外でお願い。これは広場を広げないとだな」


 ホクホク顔で役目を引き受けてくれるヤスくん。

 しばらく一緒にみんなの練習を眺める。


 そして、今日の練習は終わりにし、ヤスくんに魔法を披露して眠りにつくことにした。


 火をつけてみたり、水を出してみたり、風を吹かしてみたりとわかりやすい魔法を使ってみせると、その度にヤスくんが、おお! すげえ! と喜ぶ。


 最後にはおやすみの挨拶とともに、昨日と同じように生活魔法を使って眠りについていった。


「ああやって魔法をいっぱい使うと魔力が減っちゃって寝ちゃうんだよ。それで一晩寝ると魔力が成長してるんだ。だから、みんな毎晩こうして練習頑張ってるんだよ。ヤスくんもそろそろ寝ようか」


 子供たちに肌掛けを掛けたり、バズたちが作った穴などを直しながらそう言う。


「かあちゃんはまだ寝ないのか?」


「私もこれから魔法を使ってから寝るよ」


「見ててもいい?」


 ヤスくんに見守られながら魔法を使うことになったけど、今日は畑に資材集めにとたくさん魔力を使ったので残りMPが二千程。畑の準備は明日からにして、物作りをして寝ることにしよう。


 まずは昨日作り損なった味噌を作ろう。

 昨日準備したままの壺に創造を使うと、中の大豆が味噌に変わる。


「これ何?」


「味噌っていう調味料。ごはんの味付けに使うもの」


 それから、今日採ってきたお茶の木の木材で大きいブラシと中くらいのブラシ、小さい櫛を作った。


 これでもう魔力枯渇ギリギリだ。


 少しふらつきながら、ヤスくんと床に座る。


 ヤスくんを膝にのせ、小さい櫛でそっと撫でるように梳く。


「こうやって使うものだよ」


 痛くないように少しずつ毛並みを整えていく。


「……気持ちいい」


 ヤスくんの目がトロンとしてきた。


「おやすみ、ヤスくん」


「おやすみ、かあちゃん。また明日……」


 ヤスくんがぐっすり眠りにつくまで梳かしてあげた。背中がふわふわだ。


 ふわふわのヤスくんを抱いたまま私も横になる。


 一緒に肌掛けを掛けていると、前世の子供たちが小さかった頃を思い出す。


 今世でも愛しい子供たちに出会わせてくれたことを精霊様に感謝して、私も眠ろう。



ここは聖域なりて(サンクチュアリ)



 今日も充実した一日だった。

 明日も頑張ろう。



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