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第三十七話 かあちゃんはいろいろ教えてもらう


 岩山を降り、南側まで廻って来た私とコリー、ヤスくんは、麓に荷車を置いて鉱石を探すことにした。


 この間付けた上向きの矢印は良い目印となり、すぐにそのポイントを見つけることは出来た。


 だけど、そこは十mは上にある。どうやってあそこまで登ろうか。


「オイラが登りやすいコースを教えてやるよ」


 ヤスくんが岩肌をピョンピョンと跳び回って比較的緩やかなルートで登れそうな場所を探してくれた。


 そのコースを私が土魔法でネコ車でも通れるスロープに加工していく。


 変則的な九十九折りのようなスロープが鉱石のあると思われるポイントまで繋がった。


「ヤスくんありがとう。これなら採掘しやすいよ」


 へへっと照れるヤスくんと一度下まで戻り、腰カゴを付け、ネコ車に葦袋を載せて三人でまた登っていく。



 岩肌にキラキラしたものが混ざり、光が反射しているところをコリーが調べてくれる。


「モモ、この辺を一度掘ってみてくれる?」


 コリーが指差す辺りに向かい、採掘(マイン)を使ってみると、赤茶色の岩のような塊が出てきた。


「よし! 鉄鉱石だ! モモ、鉄が採れるよ!」


「え? これが?」


 鉄ってこんな感じなんだ。

 そりゃ山から私の知ってるあの鉄の塊がゴロゴロ出てくる訳ないか。これを精錬するんだろうな。


 採掘(マイン)を使って更に掘り進めてみる。


 赤茶色の鉄鉱石がゴロゴロと。他に黄色っぽい岩も出てきた。


「これは銅だね。量は少ないみたいだけど」


 せっかくだからこれも集めておこう。


「それから、この辺の石。これも村で使ってたよ。高炉に入れて鉄を取り出す時に使ったり、その灰を畑に撒いたりした。このまま粉にしてもいいんだ。後はなんかと混ぜて壁に塗ったり」


 灰色の石に白い粉が吹いたような石だ。


 畑に撒くってことは石灰かな?だとしたらセメントとか漆喰の材料だった気がする。


「余裕があったらこれも採っておこうか」


「うん、マークやバズなら使い方わかるかもしれないし」



 ある程度掘っては袋に入れ、ネコ車で下まで運び荷車に載せ替える。


 何回目かのスロープ登りの途中でヤスくんが草原を指差して言った。


「あの辺りにモコモコがいたはずだぜ」


「え? どこどこ?」


 南の林より先、川との中間辺りだ。


 遠見(ビュー)遠視(レンズ)を併用して視力を強化して見てみると、葦を刈ったおかげで三分の一程刈り取られてしまった麦野原がここからも見える。その橋を架けた川の辺りと南の林の中間の草原で、草を食んでいるのだろう、モコモコした塊がじっとしているのが見えた。


「本当だ。見えた。あの辺か……」


 麦野原の探検の時に寄れるだろうか。


 でも、どうやって毛を刈ろう。取り敢えず、この鉄からハサミは作っておこう。


「かあちゃん、こっから見えんのか? すげぇな」


「魔法使って見てるからね」


「へえ、魔法って便利なんだなー」



 そろそろ日が高くなってるし、思いのほか鉄鉱石は豊富だったので、荷車も重そうになってきている。


「もう少しだけ集めたら帰ろうか」


 採掘の時に、採掘(マイン)・石灰石とイメージと呪文を変えてみると、石灰石も切り出せたので持ち帰れる。


 コリーの言う通り、バズやマーク、マリーなら使い途を知っているかもしれないしね。


 石灰石を切り出したところにキラリと光るものを見つけた。


 結晶のようなものが一部飛び出している。


 それを掘り出すイメージで採掘すると、透明な結晶の塊が採れた。この六角柱の結晶って、


「もしかして水晶?」


 キラキラしたその結晶を見て、私が喜んでいると思ったのだろう。ヤスくんが、


「かあちゃん、そういうの好きなのか? オイラ、そういうのがいっぱい生えてるところ知ってるぞ」


 と教えてくれる。


「ヤスくん、本当にいろいろ知ってるね。すごいね!」


 手放しに賞賛すると照れながら、


「そんな形のやつや、もっと四角っぽいけどごつくてデカいやつなんかが壁に埋まってるんだ」


 是非、そこにも行ってみたいと思うけど、それはどうやら北側の川向こうの岩山らしい。


「うーん、そっちの方も行ってみたいけど、麦野原の後だね。ヤスくん、また今度案内してくれる?」


「任せとけよ! そっちの方には他にも見せたいものがいろいろあるしな。楽しみにしてていいぜ」


 ヤスくんが意気揚々と胸を張る。


「この辺のキラキラの混ざった石は火打ち石かもしれない」


 コリーがまた新たな石を見つけてくれたので、それも切り出した。



「二人とも、ホントにいろいろ知ってるから助かったよ。おかげでたくさんの鉱石が採れたよ」


 褒められて上機嫌な二人と足取りも軽く採掘場を後にした。


 結構な量の石が積まれた荷車は、やっぱりすごく重くてギシギシいっていたが、身体強化を使えるようになったコリーと私の二人で掛かれば、なんとか家までの坂も登りきることが出来た。



 ちょうど太陽が真上に昇った頃に家に辿り着いた私たちの目の前には、小山のように積まれたサツマイモと、大きな袋にズッシリと詰め込まれた大豆があった。


「ただいまー。うわっ! すごい量! 収穫の方も終わったんだ?」


「あ、おかえりなさい。ちょうどお昼にするところですよ」


 アンが、コリーもヤスくんもおかえりなさい、お疲れさま、と出迎えてくれた。


「帰ってきたら、ただいまって言うの?」


「そうだよ。迎える方はおかえりなさいって言うんだよ」


「わかった! ただいま、アンねーちゃん」


「ただいま!」


「うふふ、おかえりなさい」


 ヤスくんとコリーも挨拶して、取り敢えず荷卸しは後にして家に入る。


「外でお仕事した後は手を洗うんだよ」


 コリーが洗面所に誘導してヤスくんに教えてあげている。


「わかった!」


 桶に水を汲んでもらって、ヤスくんもバシャバシャと手を洗った。コリーが手拭いで拭いてあげてる。


 微笑ましい光景だ。ニヤニヤしながら私も手を洗い居間へ向かう。


 ヤスくんが率先して、


「ただいま!」


 と言うと、居間に揃ったみんなから、


「おかえりー」「おかえりなさい」


 と声が返る。ヤスくん嬉しそう。


 テーブルには私たちの分のお昼も並べられていた。


「ただいま。みんな、あんなにたくさんの収穫ご苦労さま。ユニとルーもごはんの用意までありがとう。大変だったでしょ? 私たちも鉄を見つけられたよ。まずはごはんにしようか。家族と森と大地の恵みと、精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます」


 お昼はお芋とドングリ茸のスープと塩トマトだった。お芋は疲れてペコペコのお腹を満たしてくれるし、塩トマトは良く働いて汗をかいた体を瑞々しく潤してくれる。


 ヤスくんの分のスープはちゃんと少し冷ましてあって、みんなと同じようにスプーンを使って上手に食べている。


「うまい! うまい! ユニねーちゃん、ルーねーちゃんありがとう!」


「うん、美味しいよ! ユニ、ルー、ありがとう」


 みんなも続いて、美味しい、ありがとう! と声が飛び交う。


「凝ったものを作った訳じゃないのに、恥ずかしいよ」


 ユニとルーが赤くなる。


「とびきり凝ってなくても、心が籠もっているよ。だから余計美味しいよ。ありがとね」


 ユニとルーは赤い顔のまま、「どういたしまして」と笑った。



 コリーのおかげで、鉄鉱石の他にも石灰石や火打ち石になりそうな石、少しの銅鉱石と水晶も見つかったこと。

 ヤスくんの情報で、羊の場所がわかったこと、他にも鉱山がありそうなことを報告しながらお昼を食べる。


 バズからも、サツマイモの収穫量が凄かったので、これからは小麦を主体に育てていきたいこと。小さい畑で大豆やたまにはサツマイモを、大きい畑は一枚だけ大麦を育てるのはどうだろうかと報告と提案をもらう。


「あの量のお芋は保管場所も大変だもんね。畑に関してはバズの方が詳しいんだし、それでいいと思うよ。あ、お芋と大豆は調味料にも使っていいかな?」


「うん、もちろんだよ。保存食や加工品についてはモモの方が詳しいんだし、モモに任せるよ。あ、でも、僕やモモが詳しいとは言っても、こうしてみんなに報告するのは必要だと思うから、これからもやっていこう」


 うん、バズ素晴らしい。


「そうだね。バズの言う通りです。ありがとう。みんなも気が付いたことや意見があったら遠慮なくどんどん言ってね。お願いします」




 午後の予定は、外班は林で木材などを集め、家班は収穫したものを片付けることになった。


「木材を多めに用意したいから年長組には林の方を手伝ってもらいたいんだけどいいかな?」


 ユニとルーを筆頭に小さい子たちまで、


「その分、家の方は私たちが頑張るから大丈夫!」


 と胸を叩いた。


「みんなも身体強化が少しずつ使えてますし、こちらは大丈夫ですよ。私とバズが残るから、マリーはバズの代わりに林の方を手伝ったらどうかな?」


「うん、わかった。茶の木の様子も見たいし、行ってきます」


 アンの提案でマリーが同行することになった。


「林なら案内出来るからオイラも行くよ」


 マリーが嬉しそうでキティが残念そうだが、午後の予定が決まった。



「ごちそうさま」をして昼の片付けと重い鉱石の荷卸しだけはみんなでしてから林へ向かうことにする。


 小さい子たちは「キレイ!!」と水晶に夢中になっていて、その間に年長組と倉庫に石を片付けていく。ユニとルーはお昼の片付けをしてくれてる。


「これは確かに火打ち石に使えそうだ」


「そうですね。鉄があって、火打ち石があれば火起こしが楽になりますね」


 マークとマリーが確認してくれた。バズも、


「石灰の粉は土を元気にするんだ。肥料と混ぜるといけないんだけど、どうしようか」


 と教えてくれた。


「畑作りの魔法を使う時に用意しておけば、必要なら使われるかもしれないね。魔法で農業をしてるうちは使わないでも良さそうな気がするけど、今後、手作業で畑をやっていく時にはバズに頼んでもいいかな?」


「うん、そっちは任せて!」




 石の荷卸しが終わったのでみんなの分も腰カゴや水筒を用意し、今度は三台の荷車で出発する。


「いってきます。鉄で作るべき道具も考えてみてね」

「いってらっしゃい」

「いってきます!」


 ヤスくんもみんなに手を振る。



 岩山を降りると十分程で南の林まで到着出来た。


「木を伐って重くなっちゃう前に採取をしちゃおうか?」


「かあちゃん、ブドウは? オイラ、高いところの良い実を採ってきてやるぜ」


 そういえばここで最初にヤスくんと会ったっけ、と思い出しながら、


「ふふっ、じゃあブドウも採ろうか」


 と言うと、やっぱり思い出したジェフとルーシーが、


「あん時のヤスはひどかった」


「豆をめちゃくちゃぶつけてきたよね」


 とお尻ペンペンの真似付きで言う。


「あ、あれは……、その……、ごめん」


 素直に謝るヤスくんと笑い合うみんな。


「私もあの時はひどいいたずらっ子だと思ったけど、今は出会えて良かったと思ってるよ」


 みんなで笑い、「気にすんな」と声をかけ、林の中へ進んでいく。



 ブドウ畑では、ヤスくんが汚名返上の大活躍で、大きな実がたわわに付いた房を集めまくってくれた。


 それから茶の木のところへ向かい、茶の葉を摘もうとすると、


「この木ならあっちにもっといっぱいあるぞ」とヤスくんが教えてくれた。


 すでに花が落ちてしまってわかりにくかったが、案内してくれたところには茶の木が群生していて、茶の葉も大量に確保出来た。この量を手揉みで作ってもらうのはあまりにも大変だと思うので、これは魔法でやっちゃおう。


 そんなことをブツブツ呟いていたらルーシーに聞かれていたようで、


「干し野菜とかの乾燥も魔法でやっちゃえば?」


 と聞かれる。


「保存するだけならそれでも良いんだけど、太陽に当てることで旨みや栄養が凝縮されるんだよ。日光に当たることで作られる旨みや栄養もあるしね。だから、大変だけどできるだけ干した方が良いんだ」


 と答えると納得してくれた。


 乾燥の魔法が役に立つと思ったんだけど、とちょっと残念そうにしていた。



 椿の実……お茶の木の実も付いている木があったので、少しばかり採取しておいた。


 それから密集しているところの木も木材にして少しもらった。

 これで櫛を作ってあげよう。



 今度は物作りと燃料用の木材集めだ。


 杉の木が集まっているところへ案内してもらい、間引くように所々から木材に変えていく。


 上の方の細い幹や枝は薪に変えて、次々に荷車に積み込む。


 身体強化をみんなが使えるようになったおかげで、前に来た時よりはずっと楽に作業出来た。

 とはいえ、今日は量が多いので、結局みんなくたくたになってしまったけど。


 回復(リカバリー)や癒しの力も使って、体力とスタミナを回復しながらみんなで頑張った。


 十五本の杉の木を資材に変えて、大きい荷車にはずっしりぎっしり木材が積まれた。中くらいの荷車は薪でいっぱい。小さい荷車もいくつもの葦袋に入れられた茶の葉と実と木材、腰カゴ六個分のブドウがたっぷり積まれた。




「ヤスくんがくれたお薬の木の皮も、この林にあるの?」


「あれはあっちの林の中だよ」


 北の林か。


「あっちは猪とかいるでしょ? 大丈夫だったの?」


「オイラ、すばしっこいからな。木の上をスイスイ逃げれるから大丈夫だぞ」


 確かにヤスくんの逃げ足は電光石火だったっけ。


「今度またあっちの林のことも案内してくれる?」


「うん、あっちにはクルミとかの木の実があるよ」


 今日はもう荷車が満載なので、北の林はまた今度にしよう。



 荷車に布とロープを掛けて固定すると、私たちは身体強化を使っても尚、ひいひい言いながら荷車を引き、岩山を登って家へと帰ったのだった。



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