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プロローグ3

「それでは、大雑把な感じでもいいのでお一人ずつ、これからどう生きたいか、とか、欲しい力はこんな感じ、とかを言って下さい」


「もちろん俺はチートで、俺TUEEE! だ。人のスキルを奪うとか無いの? そういうの」


 待ってましたと、一番に高校生っぽい男の子が言う。


 少し呆れた様子の天使が答える。


「先ほどの話でも触れましたが、スキルや加護は転生するあなた方への天からの贈り物です。異世界の住人たちはほぼ持っていません。極稀に努力や行いにより天に愛され、加護やスキルを与えられる者はおりますが、奪うほどスキル持ちはいませんので無用なスキルになりますよ。スキルを持つあなた方は同じ異世界の同じ国に転生しますが、それぞれ別の場所へ生まれますのでいつ出会えるかわかりませんし、あなたはこの方たちからスキルを奪うおつもりで言っているのですか?」


 いきなりそんな風に言われて、びっくり顔の彼は


「え? ええ? そんなつもりじゃねーよ! 奪うほど無いもんならいいや。やめる。とにかく俺は強くなりたいの! ドラゴンとかでも倒せるくらい強くして!」


 慌てて希望を変えた。


「わかりました。そういうことですね。攻撃ステータス激増のスキルを贈りましょう」


「お、おお。頼む」


 天使はOLさん風の女性に向かい「あなたは?」と聞く。


「私は戦うのは怖いので街の中で暮らしていたいです。危険なことをしなくても不自由なく暮らせるような、お金持ちの家に生まれるとか、そういうのはありですか?」


「生まれる家は、今現在お腹にある受精卵に転生しますので、タイミングもありますからあまり選べないのですが。金運のスキルを贈ることで不自由しない暮らしは送れると思います」


「なら、それでいいです」


 続いて、女子高生は


「ええとー私はー……私もモンスターとかコワイから、どんな敵からも守れる力? とかー。そういうの使える魔法の力かなー。こうMPがスッゴいみたいなー?」


「なるほど。わかりにくそうで意外にわかりやすいですね。天才的な魔力と結界の力があれば叶うと思いますので、そんな感じですね」


 あなたは? と中学生を見る。


「いろいろあって迷うんだけど。……やっぱテンプレ空間魔法がいいな!」

「申し訳ありません。一般的に空間魔法というものはありません。もう少し具体的なことを言っていただければ、該当するスキルがわかるんですが」

「ええ? じ、じゃあ、別のやつにする。召喚魔法! これにしよう」

「重ねて申し訳ありません。召喚魔法というのもありません」

「えええ?! じゃあ、異世界の王や王女が魔方陣で勇者を呼び出して悪巧みしてたりとか、そういうのしないの?!」

「??? そういったことはございませんが……」

「マジか……」


 がっかりした様子の彼に天使は


「一部、魔族と呼ばれる種族の中には、転移による短い瞬間移動ができる者や、使い魔を召喚する者などはおりますが、人々が使う魔法としては無いんです。どのような力が欲しいのですか?」


 そういった限定的なスキルならあるんですけど……と、問いかける。


「うーん。じゃあ転移にする。できれば短距離じゃなくて、遠いところにも自由にどこでも行ける方がいいな。そういう転移の力があれば異世界のいろんなところへ安全に旅できるでしょ? 絶対便利で絶対楽しいし。俺TUEEE! もいいけど、知識チートで無双も面白そう!」


「ふふっ。今度はピンポイントなんですね。わかりました。転移のスキルをお贈りします」


 スッと手を挙げて


「あの……空間魔法が無いってことは、マジックバッグとかアイテムボックスとかも存在しないんですか? 見た目よりずっと多くの物を収納出来て、時間経過もしないような、そういう……」


 二十代後半くらいの男性が問いかける。


「有るには有りますが非常に貴重ですね。そういったアイテムはダンジョンの宝箱から稀に出てくるだけなので、手に入れた冒険者は手放したがりませんし、容量が小さく時間停止の付いていない物でもかなり入手困難です。商人や冒険者が欲しがりますから結構な値が付いてます。それなりに容量の大きな物や、時間経過の緩くなる物などはかなりの高額で取引されています。王族、貴族、大商人などしか手が出ないでしょう。大容量、時間停止となると国宝級です」


 彼はその答えを聞き、眉根に皺を寄せて目を瞑る。少しの後、目を開けると


「だったら僕はアイテムボックスがいいです。これも便利チートのテンプレですよね。時間停止で大容量のアイテムボックスとか、何をするにしても役立ちます!」


 ずっとポツポツ喋っていた彼が妙に饒舌に話すので少しびっくりした。でも最後には


「僕は異世界行っても……何したいかまだわからないから……。農家しかしてなかったから、他のこと……今は思いつかない」


 と、やっぱりポツポツ喋りで付け加えていた。


「ふふっ。わかりました。スキルとしては収納になります。時間経過の無い物です。最初から無制限ではありませんので、育てていただくことになりますが」


 そして、視線はトラック運転手の男へ向く。


「わ、私は、目立たず、ひっそりと生きていけたらそれでいいです。もし、叶えてもらえるなら、モンスターとか強い敵にも見つからないような、目立たなくなる力を……」


 相変わらず震えながら小さく告げた。


「わかりました。隠密の力を贈ります。ですが、あまり卑下しないで。新しい人生なのですから、前向きに生きて欲しいと願います」


 そこで改めたように、仲裁を頑張っていた彼と私に向き合う。


「スキルはお贈りできますので、希望を……」


「それでは、僕は……そうですね。無用な争いの中にいたり、理不尽な不幸を強いられている人たちの助けになれるような、そういうスキルはありますか?」


 みんなを、そして運転手の男を見つめて彼は言った。みんながスッと目を逸らす。


 何この子、立派。聖者なの? 勇者なの?


「わかりました。統治がいいですかね。あなたが人の上に立つ者となれば、あなたのもとに集った人たちは心豊かに幸せな暮らしを送れるという力です。あなたならきっとこの力で、そんな不幸から人々を解放することが出来るでしょう」


 そして最後に私。


「みんな、すごいなぁ。いろんな力のこと知ってるし、先のビジョンがあったりするんだね。私はホント、のんびり普通の村人暮らしでいいんですよ。異世界のこともよくわかってないし、だから、私の分のスキルを、加護を辞退した代わりに彼にあげて下さい」


「なっっっ?!」

「ダメだよー、絶対苦労することになるよー!」

そう言って、みんなは止めるけど


「苦労するかもしれないけど、苦労が不幸せとは限らないんだよ。私は大丈夫。ただのんびりしたいだけの自分が使うより、彼が使ってくれた方が私が嬉しいんだよ。ねえ、君。人の為も大切だけど、自分の為も大切にしてね。二つ目のスキルは自分の欲しい物にして」


「いや、でも、それはおばさんが自分の為に」


「おばさん何を貰ったらいいかもわからないし、おばさんの為に受け取って。私にも君みたいな息子がいたから、最後の息子へのプレゼントみたいな気持ちなんだよ。おばさんのワガママに付き合って。お願い!」


いやでも、いいから、を数回繰り返し、彼は私の意思が変わらないのをしぶしぶ理解してくれた。


「では、僕も異世界転生といえば! の、鑑定をお願いします」


 と告げる。他の五人から「おお! テンプレ来たー!」と声が上がる。


「それでは、スキルの付与を致します」


 二人の天使が胸の前で手を組み、何かブツブツと呟きだした。二人向き合って、祈りの言葉なのか、何かの呪文なのか。彼女たちを包む輝きが一段と増した時、遥か頭上から八本の光が降り注いできて、彼ら七人を包み込んだ。


「スキルの付与が終わりました。さらに加護の付与を致します。すみませんが本当に時間が無いので、あなた方の選んだスキルに相乗効果をもたらしそうな加護をこちらで選んで付与させていただきます」


 それでは……と、一人一人に向き直って


「力を望んだあなたには、強い攻撃魔法に優れる火の加護を……」

「金運を望んだあなたには、幸運をもたらす水の加護を……」

「守りの力を望んだあなたには、結界や癒しの力を持つ光の加護を……」

「転移の力を望んだあなたには、旅立ちの守り、風の加護を……」

「収納を望んだあなたには、大地の恵み、土の加護を……」

「そして、隠密を望んだあなたには、影の力を持つ闇の加護を……」


 精霊たちが、また輝く球体へと姿を変え、それぞれの胸へと赤、青、黄、緑、茶、紫の光が溶け込んでいった。


「これで転生に入ります。お一人ずつ旅立ちの間にお入り下さい」


 何もなかった白い空間に八枚の扉が現れて、一人ずつ扉の中へと(いざな)われる。


 順番に六人が移動して、私と彼、加護無しの二人が残った時、天使たちが急にこちらに向き直り言い出す。


「一つ謝らせて下さい。実は、我欲に走らない人、他者を思いやることができる人が、自ら加護を辞退することができた時だけ、渡すことが可能な特別な加護があるのです」


「私たちから贈る加護です。私たちの加護は、加護自体が贈る相手を選びます。彼女は太陽の精霊、私は月の精霊。私たちの力は大きすぎるので、我欲に走り他者を慈しめない人は決して選ばれることはありません。この旅立ちの時に、あなた方になら託せると我々の加護が判断しました」


 一言発する間もなく、私と彼は一際輝く大きな光の玉を胸に受けた。


「あなたには、人々の上に立ち、全てを照らす人生を送る力を授けました。望めば勇者にだってなれる力です。とても大きい力ですが、正しく使ってくれることを祈ります」


「あなたには、人々を癒し、慈しみ、幸せを分かち合える人生を送る力を授けました。こちらもとても大きい力ですが、正しく使ってくれることを祈ります。時間が来ました。さあ、二人も旅立ちの間へ」


 急なことに理解が追いつかないまま、私たちも旅立ちの間と呼ばれた部屋へ入れられた。辺りが明るく輝き出す。眩しくて何も見えない。不意に頭の中へ直接響くような声が聞こえる。


『贈られたスキルや加護は、大きな力を秘めています。あなた方の成長に伴い、順時開放されていくでしょう。身体能力や魔力の鍛錬の他、行いや心持ちによる魂の成長、強い願いなどがきっかけになる場合もあります。あなた方の願った人生を掴み取るため、頑張って下さい』


『天や私たちは、あなた方に大きな力を授けましたが、これは魔王を倒すなどの試練や使命を与えるためではありません。受け取った力を、どこまで、どのように扱うかはあなた方次第です。実り多く、楽しく、第二の人生を送ってくれることを、天の意思も私たちも祈っています』



『新しい人生が佳きものとなりますように……』



 祈りのような、祝福のような声と、荘厳な音楽が響き渡り、私は意識を手放していた。



 ――異世界ライフ 第二の人生の始まりである。

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