第二十一話 かあちゃんは魔力についてレクチャーする その二
本日も二話更新します。
これは一話目です。
しばらくすると、みんなも集まってきた。
「じゃあ、寝る前に昼間約束した魔力の訓練をしようと思います」
「おおー!」とみんなのテンションが上がる。
「でも、その前に明日の予定だけ確認しておいて下さい。今日のみんなの頑張りが素晴らしかったことを踏まえて、みんなはきちんとお留守番出来ると思いました。なので、明日は森へ行って食べ物を集めてこようと思います。
小さいみんなはお姉ちゃんたちの言うことをよく聞いて、仲良く遊んでいてね。アン、マリー、大変だと思うけど、明日は一日よろしくお願いします。ユニ、ルー、明日私たちは朝早く出るから、お留守番組の朝食から全部お願いすることになっちゃうけどよろしくね」
みんなが「ハイ!」と答えてくれる。
今日も林で食べ物を集めてあるから、無理しないで果物や木の実で済ませてもいいからと伝えておく。
「ジェフ、マーク、バズ、コリー、ルーシー。明日は夜明けとともに出発する予定だから早起きだけどよろしくね」
「任せとけ!」「わかった!」と気合の入ったいい返事がくる。
荷車は入り口まで動かしてあるし、水筒の水もアンに用意してもらった。
「それでは今度こそ、魔力の訓練を始めよう。まず、体の隅々まで魔力が行き渡っているのがわかった人はこっちへ」
ジェフ、マーク、マリー、アンが集まる。
四人の手を一人ずつ取り、右手の手の平の真ん中に溜まるように私の魔力を流す。
ポワッと僅かに光を放つ。
「魔力が集まっているのがわかる? こんな感じになるように、自分の魔力を右手に集めようとしてみて」
四人に課題を出した。
「他のみんなは魔力がぐるぐる回っているのはわかってる?」
うん! はい! と元気な返事がくる。
「体の中を動いているのがわかる人は?」
バズ、コリー、ルーシーが手を挙げる。
ちょっとごめんね、とルーシーのおへそに手を当てて、魔力を少しずつ送り体の中を循環させる。
「おへそから温かい力が体の中を流れていくのわかる?」
「うん! わかる。じわじわと手や足の先へ向かってる。あ、おへその方に戻ってきてる?」
「魔力の流れる道に私の魔力を流したの。今度はおへそにある自分の魔力が今の道をいつも通っているのを集中して感じてみて」
バズ、コリーにも同じようにレクチャーする。
あとの六人とは輪になって手を繋ぐ。
「私からユニへ魔力を流して、みんなの中をぐるっと通って私まで戻ってくるのを感じてね」
右手で握ったユニの左手へ魔力を流す。
「あ、流れて来た!」
ユニの中を通って隣のルーへ。
「あ、私もわかった!」
続いてベルへ、ティナへ、キティへ、ピノへ。
みんなが「わかったー!」と声を上げる中、魔力は一周してピノから私へ。
「じゃあ、今度はもっとぐるぐる回すからね」
流れを早めて七人の中をぐるぐると流れ続ける魔力。不思議な感覚にみんな興奮してきた。
魔力の流れをピタッと止める。
「あれ?」「止まっちゃった?」
「ようく気を付けて感じてみて。私の魔力は止めたけど、みんな自分の魔力が動いているはずだよ?」
様子を見ていると一人、また一人と自分の魔力の動きに気付き始める。
気付いた子からルーシーにやったように、おへそから全身へ魔力を循環させてみせる。
体の隅々まで魔力の道が繋がっていることに気付けたら、そこを通る自分の魔力を感じてもらう。
しばらくコツを教えていると、ここまでは全員出来るようになった。
「みんな本当に上達が早くてびっくりしちゃうよ。うちの子みんな天才?」
とニマニマしてるとみんなが照れてる。どうやら声に出てしまっていたらしい。
集中してるのに邪魔してごめん、ごめん。
ジェフとアンは既に魔法が使えるので、手に魔力を集めるのは今までもやっていたけど、
「どう? きちんと訓練して意識すると手の平に集まる魔力が前より大きくなってない?」
と聞いてみる。
二人とも集中しながら激しくコクコクと首を縦に振っている。
「じゃあ、今度は足にその力を集中させてみて。手の平みたいに一カ所じゃなく、足全体を魔力がぼんやり包むような感じで」
ジェフとアンには新しい課題を与える。
他の子たちには順番に手の平に魔力が集中する感覚を体験してもらってから、自分で魔力を集める訓練をしてもらっている。
魔法として発動する前の魔力が手の平に集まった状態をキープ出来ればぼんやりと光るので、そこまで出来た子は私のところへ来てもらうように言い、みんなの様子を見回っている。
感知で流れを見ていると、みんなだんだんと上手くなってきている。手の平に集められた子もいるが、集中力が必要なのでキープが難しいみたいだ。
ジェフとアンは上手く足に魔力を纏えるようになっていた。
「ジェフ、アン。そのまま軽くジャンプしてみて。軽ーくね」
「え? わかった」「はい」
二人が軽くピョンッと跳ねると一mくらい跳び上がった。
「ええ?!」
「な、なんですか? 今の???」
「今のが魔力を使った身体強化。魔力を身体に纏うと、魔力の補助で普通以上の力が出せるの。私が三歳なのに力持ちなのはその力のおかげだよ」
他のみんなも、思わず自分の訓練を忘れてジェフとアンから目が離せなくなっている。
アンはもう一度、今度はもう少し多目に足に魔力を纏わせ、さっきより勢い良くジャンプして見せた。
天井に届きそうな程跳び上がる。
「アン! 着地の時にも足に魔力を使って!!」
慌ててそう言うと、アンも咄嗟に魔力を纏って着地出来た。
――危なかった。
「着地の衝撃も魔力で和らげないと怪我するからね。気を抜かないで魔力を纏い続けていてね。間に合って良かった」
アンはびっくりして目をまん丸にしたまま、コクコクと肯いていた。
そんな騒ぎの中でも、ジェフは集中して体全体に魔力を纏おうとしていた。
そして、ようやく体を魔力で覆えた時、引き出された自分の力に気付き驚愕としていた。
ぐっと拳を握り、腕に力を入れてみたりしていたが、私に向き直り真剣な顔付きで、
「モモが凄いのはモモだから、じゃないんだな。ずっと訓練していたから、なんだな……」
と言った。
そして、自分の拳をじっと見つめてから二カッと笑い、
「俺、訓練頑張るよ」
と、一言だけ言って、また魔力に集中しだした。
アンも、アンとジェフに気を取られていた子供たちも、何かを悟ったような顔をして、
「うん、頑張る!」
と決意の籠もった声を出した。
――なんだか、みんながちょっぴり成長したように見えた。
少しして、マリーの手の平が淡く光った。
「!!」
マリーがワタワタと私の元にやって来て、その光を見せて私を見つめる。
「おめでとう。マリー。やっぱりマリーはすぐ出来るようになったね」
と微笑んで頭を撫でる。マリーの目には涙が溜まっていた。
「さて、じゃあ早速やってみようか? やって見せるから私の真似をして」
「灯」
ポワッと光の玉が浮かぶ。
「集まった魔力がこういう光の玉になって浮かぶイメージをしながら呪文を言ってみて」
マリーはこくんと頷き目を瞑り、しばらく集中してから、
「灯」
マリーの手の平の魔力は、小さな光の玉になってふわりと浮いて消えた。
「い、今のって!」
「うん。光魔法の灯だよ。おめでとう。魔力の扱いが上手くなれば、もっと大きく長く出せるよ」
マリーの涙がポロリと零れる。
「ううう、嬉しいです。私が魔法を使ったなんて……」
頭をよしよし、しながら優しく言う。
「マリーならすぐ出来るって思ってたよ。今日はまだ魔力が少ないから、もう一回発動したら倒れちゃうと思う。だから休み休み魔力を集める練習をしていて。寝る前にもう一回使ってみようね」
「う、うん……ぐす。わかった。頑張ります」
その後もしばらく訓練を続けたけど、今日は発動出来そうな子はいないかな?
マークがあと少しって感じだけど。今日はこのくらいにしておこう。
手をパンパンと叩いて注目を集める。
「明日も早いので今日はここまでにします。みんな、初の魔力枯渇を起こして寝てもらうよ。目がぐるぐる回ったり、頭が痛くなったりして辛かったら、かあちゃんがおまじないをかけてあげるからね。明日の朝には少し成長していることを楽しみにちょっとだけガマンして下さい」
と言うと、ちょっとドキドキ、ちょっとコワイな、という雰囲気をみんなから感じた。
「それじゃあ、まずはジェフとアンから。新しく覚えた魔法を披露して眠ってもらいましょう。ジェフからいい?」
ジェフが一歩前に出る。
私は手で大きな輪っかを作り、
「このくらいのでっかい火の玉が出るイメージをして、集中して呪文を言ってね。みんなは少し離れて」
ジェフは緊張した顔で頷くと目を閉じ集中する。再び目を開けた時、私を見てもう一度頷いた。
「炎よ」と、小声で教える。
ジェフが頷く。
「炎よ!」
ボムッとくぐもった音がして、ジェフの目の前一mくらいの空中にサッカーボールくらいの火の玉が現れ、一瞬炎を強くしたかと思うと消えた。
「うまい、うまい! 練習すればもっと大きな火も出せるよ。これはものを燃やす魔法だね」
ジェフの魂はどこかにお出かけしてしまったようで、驚いたまま固まってしまっていた。
次にアンを呼ぶ。
「アンの新しい魔法は冷気と洗浄なんだけど、ここで洗浄しちゃうとびちゃびちゃになっちゃうから、今日は冷気の方を使ってみよう。ここに冬みたいに寒い風が吹くイメージをして集中したら、冷気って呪文を唱えてね。多分、十秒くらいで魔力枯渇になっちゃうと思うから、床に座ってやってみよう」
「わ、わかりました。やってみます」
アンが集中しだしたので、後ろに回って支えられるように準備する。
「冷気」
アンが呟くと扇風機の弱くらいの冷気が部屋を流れる。
「わ、寒い」「アンすごい」
みんなからも声が漏れる中、アンは力が抜けて座っていられなくなる。
「で、できました……」
弱々しい声でアンが言う。顔色は悪く辛そうだが嬉しそうだ。
頭を撫でて癒しの力を使うと、少し楽になったようだ。
「うん。上手く出来てた。良く頑張ったね。今日はもう眠って。おやすみ、アン」
「はい、おやすみなさい……」
ニコッと笑ってアンは眠った。そのまま横たえる。
冷気で意識が戻ったジェフにも、
「ジェフももう一つ魔法が増えてるよ。熱気。夏の暑ーい空気をイメージして集中して。ジェフも十秒くらいで倒れちゃうと思うから、座ってやろうね」
言われた通りにジェフは座り、集中して、
「熱気」と言った。
先程の冷気をかき消し、エアコンの温風みたいな暖かさが周囲に漂う。
今度はみんな「あったかーい」「おお、ぬくい」と感想を述べる。
そのうち、ジェフもだんだん息が荒くなり、フラーッと倒れて来たので背中を支え癒しの力を使う。
ジェフは「おやすみ、モモ」とだけ言うと、そのまま眠ってしまった。
ジェフも横たえてマリーを見る。
「マリーもやってみる?」
マリーは近づいてきて、
「うん。やってみます」
と緊張した声を出した。
マリーも座らせ、さっきの灯りが消えずに光り続けるイメージで魔法を使ってもらう。
「灯」
光の玉が現れる。今度は消えない。でも五秒としないでマリーの顔が辛そうになっていく。
背中を支え、頭を撫で、癒しの力を使うと少し楽になった様子のマリーが、
「これが魔力枯渇……」
と呟く。そして私と目を合わせ、
「明日も頑張ります……おやすみなさい……」
と眠りについた。
「おやすみ、マリー」
マリーを横たえ、みんなを見回して笑顔で話しかける。
「これが魔力枯渇だよ。ちょっと辛そうだったでしょ? でも、寝ちゃえば治るからね。おっかないからどうしても嫌って人は無理しなくていいから。誰かやってみたい人はいる?」
すると、
「あい!」
「ピノ?」
「ピノはどんぐいひろいにいくからつおくなるの」
と言って手を出してきた。
その手を取り、頭を撫で、ギュッと抱きしめる。
「そっかあ。ピノ男の子だね。ピノかっこいい」
と言うと、鼻の穴を膨らませて、
「モモ、おちえて? どうやるの?」
と本気の声で聞かれた。
「私がピノにやったみたいに、ピノのあったかい力を私にちょうだい?」
と言って、両手を握る。
ピノの体をスムースに魔力が流れているのが見える。ピノはその流れを繋いだ手へと集めている。
こんなに小さくても頑張って練習して強くなろうとしている。偉いなぁ……と考えていると大分魔力が集まってきていた。
「ピノ、明日はお留守番お願いね。みんなのこと頼んだよ。男の子だもんね」
じゃあ、魔力もらうね、と言うと、
「あい。モモ、どーじょ」
と魔力を私に流してきた。
吸い上げるように魔力の流れを補助してあげたら、ピノの力強い魔力が流れ込んでくる。
ピノから力が抜けてふらっとしてきたのを支え、
「ありがとう。ピノ、おやすみ」
と癒しの力を使う。
「うん。モモ、おやすみ」
ピノはほぼ全ての魔力を私に流して眠ってしまった。
……うん。私も強くなろう。
ピノの勇姿にみんなの怖じ気も消えたようで、キティから小さい順に私に魔力を流すことで魔力枯渇を起こし眠りについていった。
明日の遠征メンバー、ルーシー、コリー、バズ、マークが残った。
「明日、頑張ろうね」
「オレたちも頑張んなきゃな」
「僕も強くなるよ」
「みんな小さくても頑張ってるんだもんな」
明日への、未来への、やる気を籠めた魔力を私は受け取った。
全員が魔力枯渇とともに眠りについたのを見届け、周辺の気配に危険は無さそうなのも確認し、私も眠ることにする。
みんなが頑張ってる姿を見たことで、また少し回復していたMPを使い、葦から肌掛けの布を十四枚作り出し、一人一人に掛けていく。
もう魔力枯渇ギリギリなのでふらふらしながら私も横になり、
「ここは聖域なりて……」
私たちの家を神々しい煌めきが守っていく。
伝説の光のS級魔法を使い、意識を手放した。
私も頑張ろう……。
三連休二話更新ラストスパート!
二十三時更新分もお楽しみに!
よろしくお願いいたします。
(≡ε≡)/




