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プロローグ2

「いえ。そこで少し手違いが……。

 申し訳ありません。こちらで用意した贈り物はスキルと加護をそれぞれ一つずつなのですが、その。

 まず、スキルについて説明しますと、先ほどおっしゃっていた特別な力のような物で、○○ができるようになりたい、という感じで希望を言っていただければ、それに準じた力を一つ授けさせていただきます。こちらは皆さん全員に一つずつ叶えさせていただきます。ですが……」


 解説天使Aさんは苦い顔をして口ごもる。


「加護の方に問題がありまして……」


 解説天使Bさんが引き継いだ。


「お贈りするのは精霊の加護。これから行く異世界で魔法を使うのに非常に有用になるものなんですが、それが……六つしか用意できないんです……」


 上目遣いでこちらを窺うような素振りをしつつ話を続ける。


「魔法には六つの属性があり、それぞれを司る六体の大精霊がいます。これから行く異世界では誰もが魔法を使えますが、なんでも使えるという訳ではありません。生まれながらの魔法適性というものがあり、例えば火属性に適性のある人なら火の魔法が得意、というように使える魔法はそれぞれです。また知識を得、鍛錬すれば誰でも魔法は使えるようになりますが、高い適性が無いと火がつけられるだけ、水が出せるだけ、という所謂、生活魔法程度しか使えません。殆どの人はそんな感じですね。もちろん魔力も身体能力と同じく鍛えなければ力は上がりませんから、鍛錬をサボり続けていれば高い適性があるにもかかわらず強力な魔法が使えないという人も出てきますし、ひたすら鍛錬を繰り返すことで高い適性を持たなくとも初級、中級までの魔法を使いこなすようになる人もいます。そこは努力次第です」


 えらいまくしたてるなぁと思いつつも「ふんふん、なんとなくわかったような」と相槌を打つ。


「重要なのは高い適性を持たない人はどれだけ頑張っても強力な上級魔法は使えません。だから高い適性を生まれながらに持っている人は持たない人より有利に生きることが出来るかもしれないということです」


「そうね。使いこなせるか、どう生きるか、は、その人のがんばり次第なとこがあるからってことよね?」


「ご理解いただきありがとうございます。ここまでご理解いただいた上でここからが問題となる部分です。……みんな、出てきて」


 赤、青、緑、茶、黄、紫の六つの光の玉が現れる。少しずつ輝きを増しながら、それらの光は解説天使さんたちと似たような姿の少女へと形を変えていった。それぞれ色が違うだけでそっくりだった。


「彼女たちが火、水、風、土、光、闇の大精霊です。本日急に起きた大事故だったので、みんな予め力を貯めた状態ではなかったものですから、一体につき一つの加護を与える力しか持ち合わせていません。つまり、お一人にどれかの属性精霊の加護をお一つだけ与えることになるのですが……とても大きな事故だったため巻き込まれて亡くなられた方が七人も出てしまって……遺憾ですがお一人には加護を与えることができないんです」


 天使Bさんも悲しそうに口を噤んでしまったので、気を持ち直した天使Aさんが後を続ける。


「精霊の加護があれば高い魔法適性を確実に得られるので、本来ならば皆様全員にお与えしたいのですが、こういうことになってしまいましたので、その……どなたかお一人に自らご辞退いただけるとスムーズにことが運びますので、話し合いで解決していただけないかなぁってお願いしましたら……揉めちゃいました……」


 そこで、みんなを宥めていた彼が勇気を出したらしい。


「僕は辞退するって言ったんです。あまりにもみんながエスカレートしてきちゃって。加護が無くたってスキルが貰えるなら、それなりに頑張っていける気がしたし。だから、あの人をそんなに責めちゃダメだって」


「責める……?」


「その、すみません! さらに問題が……」


 鈴の声が申し訳なさそうに鳴った。


 そこで、さっき揉めていた人たちがキッと蹲っている男を睨みつける。


 あれ? 私を入れてここには八人いる。揉め事をおさめようと頑張っていた彼、揉めていた五人、蹲っている男、私。


「その……事故を起こしたトラックの運転手の方が一緒にここに来てしまいました」


 蹲っている男は、さらに真っ青な顔になり、ガクガク震えながら大声で叫び出した。


「お、俺だって、起こしたくて事故ったんじゃない! 無理なシフトで無理矢理働かされて、もうとっくに俺は限界で、あの時は意識を失ってたんだ……会社が悪いんだ……そうだ! 会社が悪いんだ! 会社のせいだ! 俺だって被害者なんだよ! 俺のせいじゃない!」


 困った……。言い訳ばかりのダメな男は元旦那で慣れているけど、こうなっちゃうと取り付く島もないことを知っている。なんと声をかけるべきか逡巡している間に、


「言い訳するなよ!」

「何を言おうとあんたのせいで私は死んじゃったんだよ?!」

「……もともと来る予定じゃなかったんだろ?」

「同じ扱いにされても困りますね」

「ありえねーんだよ」


 異世界転生に納得はしていても、理不尽な死には納得いかないということなのか。一人が責め出すと五人で猛烈な口撃を始める。蔑むような視線を蹲る男に突き刺す。


 どうしたらいいものか、怒れる五人を見つめていると、なんだろう? ただ怒っているだけじゃない? 僅かな違和感を感じた。ふと見るとみんなの口元が目が、僅かに笑みを作っている。楽しんでいる??


 集団心理っていうか人は自分よりも弱いものを作りたがる。誰かにイライラや悪意をぶつけて、自らの心に平穏を作り出したい。自分より下を作って、あいつのせいだとか、あいつよりマシって思うことで自分の心を保つのだ。


 人を貶めるとか、蔑むのは良くないって思っている人でも、何人かが集まると流されるし強気になってしまう。


 ――だから、今起きてるこれは、ただの悪意の捌け口だ。



「いじめ! カッコ悪いよ!!」


「はあぁ?!!」



 ハイ。かあちゃんはこんな時空気を読みません! 悪意に流されたって、私はちっとも幸せになんかなれないので。


 悪いのはコイツでしょ? なんでウチらがそんなこと言われなきゃなんない訳? って感じがヒシヒシと伝わって来て、私にも悪意をぶつけてくる。


「こんな、いかにも弱りきっちゃってる人に、よってたかって悪意をぶつけて。こんなのいじめと変わんないよ。彼も、通り魔みたいな極悪人って訳じゃないみたいだし」


 ひとりひとりの目を見つめて言う。


「みんな、転生には納得してたんでしょ? これから新しい人生始めるんだから、そういう悪い感情はリセットして、これからの楽しみなこと考えよう?」


 そして、今度は男の方に向き直り、


「それから、あなた!

 事故を起こしちゃったことは、もう取り返しつかないけど。今のあなたの一番悪いところはそこじゃない!

 たとえ理由があったとしても、やってしまったことには言い訳じゃなくきちんと謝るの。ごめんなさい、って。心から言えれば、あなたも新しい人生、きっと幸せになれるよ」


 そう言ってから優しく微笑んで

「大丈夫……大丈夫……ちゃんとできるよ」

 と呟きながら、そっと背中に手を添え摩る。


 しばらくそうしていると、怯えてパニックを起こしていた男は、床に這い蹲り泣き出した。温かいものに触れ、溶かされた氷のように、溢れ出した涙を止め処なく流しながら。最初は小さな呟きだったけど、「ごめん……ごめんなさい……」


 それから床に額を擦り付けながら


「許されることじゃないけど……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい!」


 と、必死に謝り続けた。


 イライラしてた人たちも、いいおっさんがガン泣きしながら謝る姿に面食らって気まずそうに目を逸らす。


「で、でも。やっぱり俺たちに加護を貰う権利があると思うぜ」

「そ、そうだよね。その人、ついてきちゃった訳だしー」

「そうですよ。加護があると無いとじゃ、これからが全然違う訳ですし」

「謝る気持ちがあるなら、加護は諦めて……くれよな?」

「そだね。そこはね」


「よし、決まりだ。それでもう責めない。これでいいだろ? かあちゃんみたいなおばちゃん。もう揉めない。いいよな、みんな。これから俺のチート人生が始まるんだ! 俺、ワクワクしてんだから、もう次に話進めようぜ」


 高校生っぽい男の子がまとめた。


「ん……うん」じゃあ、そうしようか、と言いかけた時、目に入った土下座中の彼は、加護が貰えないことに絶望し、ひどく青白い顔をして、怯えるように小刻みに震えていた。


「うん。話を進める前に一つ聞かせて。その加護っていうの、もともと住んでいる人たちは持ってなくても暮らしていけてるんだよね?」


 天使たちに振り向いて問いかける。


「もちろんです。だから、そこのあなたも、そんなに心配しなくてもなんとかなりますよ。せっかくの転生なんですから」


「だったら、私も辞退するわ。前世って言うのかな? みんなに比べたら、私、結構生きたし。第二の人生は普通にのんびり暮らせれば幸せだよ。異世界なんてよく分からないし、大きな力はいらないよ」


 びっくりした目のみんなの視線が集まる。


「お母さん? モンスターとかいるコワーい世界なんだよー?」

「そうですよ。チートがなきゃ、すぐ死んじゃいますよ?」


 女の子二人が心配そうに助言してくれるが


「うわぁ。尚更だよ。私に力なんてあっても戦える訳ないし。私は普通の人と一緒でいいや。みんなの方がきっと上手く使えるし。そこのあなた、必要なんでしょ? 持っていきなさい」


 母は強し。そして、かあちゃんとはすぐ人に物をあげちゃう生き物なのだ。


 男は震えたまま、コクコクと頷き

「あ、ありがとうございます……」とだけ言った。


 全員を見回して天使Aが言う。


「それでは、よろしいですか? そろそろタイムリミットも近づいてきましたし、話を進めさせていただきたいのですが」


 何か言おうと口を開きかけた者も口を噤む。


「ちなみに、皆さん0歳からの転生ですので、いきなり森の中などにいてモンスターにあっさりやられる、なんてことありません。ちゃんとお母さんから生まれるので、ひとまずご安心を」


「今の記憶を持ったままの生まれ変わりですので、0歳からとはいえ言語理解に困難するかもしれませんので、翻訳のスキルは贈り物とは別に皆さん全員におつけしますので、そちらもご心配なく」


 天使Bが付け加えた。


 みんなチラチラと私を気遣し気に見ていたけど、時間が無いとのことで話を進めることに同意した。


 跪いたままの男は、少しだけホッとしたような、申し訳なさそうな顔で、まだビクビクしていた。

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