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第十四話 かあちゃんは眠れない


 新拠点へと引っ越した最初の晩。


 いろいろと不安や焦りに苛まれつつも、これからの暮らしに夢を馳せ、私は一人、子供たちの寝顔をニマニマと見つめていた。



 そう。私はまだ起きている。


 もう既に夜半過ぎ、日付も変わったことだろう。

 深夜となってもモンスターや夜行性の動物が活発に動き出している反応は無い。この辺りは本当に住み易そうな土地だ。

 周囲に実り豊かな山々がたくさんあるから大型の生き物のテリトリーはそちらなのだろうか。


 ともあれ、初日の今日は夜明けまで、まだ数時間、警戒を緩めるつもりはない。


 この時間を利用して、今の自分に出来ることを確認することにした。



 まず一番分かるのは月の加護の力。


 これはまるで誰かが頭の中で教えてくれているかのように使い勝手が分かる。


 例えば、癒しの力には傷や病気を癒すことの出来る力があるのだが、緩和するように優しく治す力なので即効性なら光魔法の方が上だということが分かる。


 直ちに痛みを取りたい、毒を即無効にしたいというような時は、癒し(ヒール)治癒(キュア)を使うべきだと加護が教えてくれる。

 体の一部を欠損してしまったような時も光魔法だ。


 その時々で魔法を使うべきか癒しの力を使うべきか、なんとなく分かるんだ。



 次にユニークスキルの創造の力。


 こちらも加護ほどではないが何度も使っているうちに、だんだんと体が理解してきた気がする。知識としてマニュアルが植え付けられた感じだ。


 零から何か作ろうとするとMP総量の九十%を消費するので、一発で魔力枯渇を起こしてしまう。

 メインとなる材料の一種類でも用意出来れば九%でいけると思う。

 いつも私が使っているのは、全てではなくてもいいからメインを含めてほぼ主要な材料を揃えての創造だ。これなら〇・九%のMPを消費するだけで済む。

 木しか使っていない木工品なら木があれば作れるということだ。

 金属の部品が必要なものなら、金属を用意出来ない場合は九%かかると思われる。


 試しに検証してみる。


 大豆の入った容器から両手で掬えるくらいの大豆を取り出して、魔力を集め、集中して味噌をイメージする。

 味噌のメイン食材は大豆だが、作るには大豆以上の量の麹が必要なのだ。もちろん塩も。


創造(クリエイト)・味噌」


 魔力がぐぐっと減っていく感じがし、目の前の大豆が消えて、私の両手の中には味噌が現れた。


 逸る気持ちを抑え、取り敢えず棚にしまった木のボウルに移し、手に付いた味噌を舐めてみる。


 ああ、懐かしい味噌の味だ……。

 キュウリにつけてポリポリ食べたいよ……。


 ちょっと泣きそうになりつつもMPを確認すると八百十五減っていた。間違いないようだ。


 名残惜しいが手を洗って、今度は土鍋に半分くらい大豆を入れ、豆乳をイメージし創造する。豆乳は大豆だけで作れるので消費MPは八十ニだった。


 では、豆腐ならどうだろう? 豆腐にはにがりが必要だがにがりは無い。


 ボウルに豆を入れ木綿豆腐をイメージして創造を使う。うーん、八百十五。

 キーになるものは必要なのかな?


 試しにもう一つ、含有量はものすごく少ないが海塩である伯○の塩を少しと大豆ををボウルに入れて同じように木綿豆腐を創造した。八十ニ!


 量は足りなくても素材があればいいのかな?



 面白い実験が出来たと思う。

 これは明日の朝食においしくいただきましょう。

 ウフフ。



 あともう一点。私がわからないもの、知らないものは、いくらスキルでもさすがに作れないらしい。


 例えば、この国のお金を作り出そうとしても、私は見たこともないのでデザインも材質も知らない。そういうものはスキル様でもどうにもならないらしい。魔法と同じくイメージの力も大切なようだ。まあ、出来てもそんなことしないけどね。


 本で読んだ知識に依ると、土魔法でものを作る場合は(他の魔法を発動する時もそうだけど)、細かくちゃんとイメージしないと作れない、発動しない。


 ものを作るなら、その外見やどう使うか、どんな触り心地か、などイメージ出来る限りのことをイメージした方が上手くいく。


 光の矢(ライトアロー)(シールド)みたいに発動させる不思議パワーは、私が上手く理解しきれていない分を詠唱や知識で補える。人に教わったり、本で勉強した知識で「こう魔力を使ってこの呪文を言うとこうなる」ってことをわかっているから、魔法のイメージが頼りない部分を補強してくれるんだ。


 スキルで作る時は、材料が足りなくても、知識が朧気でも、スキル様の補助が働くのでなんとかしてくれる。そして足りない部分をMPで補填しているようだ。


 この辺りのことも多分、加護が教えてくれているんだと思う。



 加護の力は精霊に与えられた不思議パワー。


 原理がどうこう理屈がどうこうじゃないらしい。


 考えるな、感じろ! ってやつだ。



 魔力枯渇が子供の内はいい魔法の鍛錬になるって知識も加護が教えてくれた。


 私は他にやることがないとか、眠りにつくためとか、ちょっと違った意味でやっていた鍛錬だったけど、成人前の子供が魔力量を増やすのに有用らしい。

 成人後には、殆ど効果がなくなってしまうようなので、小さい内からの鍛錬が大切なようだ。


 魔力量が増えると魔力操作がやりやすくなるので、操作の練習も捗る。

 魔力操作が下手な内は無駄にMPを消費するし、上手くなると魔力の流れが良くわかるようになる。なので魔力操作が上達すると消費MPを軽減出来たり、詠唱を省略出来たりするようになる。


 私はみっちり練習してきたので、そこそこ上手くなっていると思うけど、魔法が使えるようになったのはつい先日のことなので、これから魔法の練習を繰り返していけば上達すると思う。頑張ろう。



 さて、問題のその魔法だ。


 今、私は本で勉強したことを思い出しつつ、試すように使っている。

 その時々に最も有効な魔法を即座に思い出せるとも限らないし、自分が何が出来るのか一番把握出来ていない部分だ。

 さんざん必死になって知識は詰め込んであるので、何の魔法が使えるのかさえわかれば、その効果や呪文は思い出せるはず。


 ステータスには魔法については適性しか載ってなかったし、ちょっと不親切じゃあないかい?

 使える魔法の一覧、リストとか作れたら便利なんだけどなぁ。


 んん? 頭の中でリストという単語に何かが反応した。もしかして……。


「リストオープン……? うわっ」


 目の前にステータスと同様の不思議ウインドウが開いたのだが、とてつもない文字の羅列だ。



 ======================


 土+ S 会心率Ⅶ 植物補正Ⅶ


      泥

      粘土 穴

 〈砂魔法〉掘削 作製 復旧 落とし穴

 〈岩魔法〉平滑 強化 採掘

 〈木魔法〉魔法製作(詠唱省略)

      魔法建築(無詠唱)

      起動 大地の恵み 大地の癒し

                  大地の導き




 光+ S 死霊補正Ⅶ 魔法耐性Ⅶ


      灯

      輝き 清浄

 〈光魔法〉浄化 癒し 盾 回復

 〈輝魔法〉障壁 更なる癒し 治癒 聖なる癒し

 〈聖魔法〉結界 大いなる癒し 幻影 遠見

                  聖なる恵み

      不可視 先見 反射 領域 癒しの壁

              物理結界 魔法結界

      聖域 壮大なる癒し 複写 転写




 闇+ S 状態異常耐性Ⅶ 物理耐性Ⅶ


      闇

      潜む

 〈闇魔法〉捜す 罠 罠解除

      毒 麻痺 睡眠 魅了 奪取 盗視

                  暗視 感知

〈混沌魔法〉混乱 呪縛 影牢 遠視

      捜索 潜伏 感知強化 質問 地図作製

      闇の霧 読心 多重 調教


 ======================



 なんということでしょう……。


 こんなにあるの? え、こんなにあるの?


 これは朝までお勉強確定です。

 ええ、わかってますとも。

 全部ものにしてみますとも。

 愛しい子供たちのためなら、かあちゃん、頑張りますとも。


 私は知識を総動員して、暗号を読み解くようにそれらの魔法を理解し、確認していく。


 読み解くうちに分かったのは、上から属性、ランク、属性特性。さらにFからSの順に魔法が並んでいること。山括弧内は攻撃魔法。


 そして、Sランクの魔法については本には殆ど書かれていなかった。

 聖域などは勇者が使った伝説の魔法として眉唾物の御伽話のように載っていたくらいだ。


 Sランク魔法については、夜が明けてから外で少しずつ検証してみようと思う。


 Aランクまでの魔法は網羅されていたのでだいたい分かった。


 土魔法に関しては森に来てからよく使っていたからか理解しやすかった。掘って、作って、滑らかにして、強化する。

 道具を作る時は詠唱というよりブツブツ言う感じだし、家を作る時は言葉より頭の中のイメージを大切に作り進める感じだ。


 光魔法に関しても、回復系、結界系の魔法については問題なく飲み込めた。光学系の魔法は使い処を考えてみよう。


 闇魔法は探索や攻撃の際の補助として非常に便利なものばかりだったが、一般人だったかあちゃんには無縁の世界なのでピンと来ていない。というか使い熟せていなかったようだ。しかし、闇魔法、使える子が盛り沢山だ。

 感知系、探索系は今すぐ役に立つし、戦闘や狩りの時には罠や状態異常は大活躍するだろう。


 ああ、勉強しておいて良かった。



 ここで問題になるのが攻撃魔法。

 かあちゃんの不得意分野だ。


 攻撃魔法にはそれぞれに球、矢、壁、支援、槍、爆撃、嵐の魔法がある。基本、後のものほど破壊力が上がる。成長とともに一つずつ覚えていくのだろう。

 だが、さすが常識外れのSランクということなのか、既に一応全てが開放されてはいる。

 だけどこんなの知ってるからって使い熟せる訳がない。


 光の矢(ライトアロー)で牽制するだけでいっぱいいっぱいなんだよ? 爆撃(ボム)(ストーム)なんて扱える気がしない。


 テンパって魔力が暴走して辺り一面大惨事、なんてあり得そうで恐いから。少しずつ練習していくほかないと思う。



 扱いきれない大き過ぎる力は恐いです。




 大分時間が経っていたようで、外からはピチュピチュとかわいい鳥の囀りや、デッデー、ホロッホホーという独特のリズムの鳴き声が聞こえてくる。



 この世界にもキジバトがいるのかな? なんて思いながら夜明けの到来を感じていた。


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