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第十二話 かあちゃんは拠点を作る


 ひとしきり美しい風景を堪能し、疲れを癒した後は、比較的なだらかな斜面であった三合目辺りまで戻ることにした。その辺りに拠点を作ろうと思う。とにかく、安心して休める場所を早急に確保しておきたい。


 毎回斜面を登り降りして行動するのは苦労だろうけど、少し高い位置にしておいた方が動物などに襲われる危険が少なくなるのではと考えた。


 それに川が近くにあるということは、便利ではあるが氾濫の危険性もあるということだ。


 すぐ上流にあれだけ大きい湖があるのだし、もしものことを考えて平地より高台に居を置いた方が良いと思った。

 まあ、一本の川から入った水が二本の川から流れ出すのだから、それ程心配しなくてもいいとは思うけど。


 私はこの世界の天気や降水量などに詳しくない。雨期があったり、冬は雪に埋もれる可能性もあるし。取り敢えずは考え得る安全策を講じておいて、暮らしていく中で追々改善していこうと思う。


「この辺りを私たちの新しいおうちにしたいと思います。良く日も当たるし、景色もいいからね」


 三合目付近まで降りてきて私が言うと、


「うわあぁっ!」と歓声が上がった。


「少し魔法を使うので、みんなはここにいてじっとしていてね」


 と少し離れた場所で待機してもらった。


 そして、集中し魔力を集め、山肌を三十m四方くらい平らに削り出すイメージで土魔法を使う。

 ズズッと魔力が流れていく。

 目の前には望んだ通りの平らな空き地が出来上がった。


 使ったMPは五百。まだまだ余裕だ。


 みんながわあっと駆けて来ようとするが、

「まだ途中だからもう少し待って!」

 と留める。


 山肌を削り取ったので山側は壁になっている。まずはその壁が崩れないように魔法でしっかり強化した。


 その壁の真ん中に高さ三m幅三m奥行き五mの穴を掘り、天井、壁、床をこちらもしっかり強化した。ここが入り口になる。


 さて、どんな家にしようか。

 これからみんなで暮らす家になるのだから、よく考えて作りたいのはやまやまなんだけど、今日のところはみんな疲れているし、早く休ませてあげたい。


 森の地下室方式で広い部屋を一つだけ作ることにした。


 まずは通路をさらに五m伸ばして十mにし、その奥に十m四方の部屋を作った。きちんと床をフラットにし、空気穴を斜面側に開ける。もちろん強化もしっかり施す。

 通路の真ん中あたりに戻り、左右に奥行き三m幅一mくらいの細い通路と、その奥には小部屋を作り、小さな深い穴を掘ってトイレを二カ所用意した。


 本当に取り敢えずの住処だ。


 きちんと作った暁には、創造で木のドアを取り付けたりもしたいが、今日のところは入り口を土魔法で固めちゃう方式で我慢してもらう。


 それから、部屋の中には水瓶を作っておき、部屋とトイレに(ライト)で明かりをつけた。


 一度外の広場に出て入り口の右側のところにかまどを三個作った。

 かまどの前に作業用のテーブル。その上に土鍋三個、まな板(土だけど)、包丁などを一応用意しておく。


 もう一度部屋に入って、入り口の左手に八人掛けれるテーブルとイスを二組作る。


 今日はきちんと料理している余裕は無いと思うけど、お湯を沸かしてドングリ茸のスープくらいなら作れるだろう。それなら座って食事が出来る場所もあった方が少しは家っぽい。

 あとは壁に棚をいくつか作り、持ってきたものをしまえるようにしておこう。


「みんな、お待たせー! 取り敢えずのおうちが出来たよー!」


 イジイジして待ちぼうけを食らっていたみんなは「キャーッ」とか「うわあーっ」と叫びながら走って集まってきた。


「新しい秘密基地……じゃなくて俺らの家だな!」


「うわぁい、うわぁい。私たちのおうち!!」


 ジェフとキティが筆頭になって喜んでいる。


 他のみんなも中を確認したりしつつ、キャイキャイとはしゃぎあったり、小躍りして喜びを表している。


 私はニコニコとそんなみんなを見守り、かわいい様子を楽しんだ。


 それから、はしゃいでいるところ悪いけど、年長組に集まってもらう。


「この辺りには危険は無さそうなんだけど、林の方に大きめの獣の反応があるの。林からは出てこないと思うけど、一応確認してきたいんだ」


「モモ一人じゃ危ないだろ。強えのは分かってるけど、俺たちも一緒に行くぞ」


「そうだよ。私たちだってみんなのために頑張りたいよ」


 ジェフとルーシーがそう言うと、他の子たちも真剣な表情でコクコクと頷く。


「うん。ありがとう。だけど他にもやって欲しいことがいろいろあるから、役割分担でお願いしたいの」


 アンには無理をしない範囲で水瓶に水を溜めて欲しい。

 マリーとバズには小さい子たちの相手をしていてもらう。

 マークとコリーには持ってきたものを棚に片付けてもらうようにお願いした。(トウガラシには素手で触らないように注意した)


「ジェフとルーシーは一緒に来てくれる? 林の中まで行って様子を見て、モンスターや危険な獣がいるか確認する。危険が無いようなら周辺に食べられるものがあるかどうかも少し調べたいから。一、二時間くらいで戻ってくるつもりだけど、ここに残るみんなには、小さい子たちがこの広場より外に出ないようにきちんと見ていて欲しいの。お願い」


 みんなが気合を入れて「わかった」「わかりました」と口々に言うのを確認して、広場を覆う結界(ドーム)を発動させる。


「広場の中にいれば安全だから。よろしく頼むね。それじゃあ、ちょっと行ってきます」


 何か見つけたら持ち帰れるように、中のものを取り敢えず部屋のテーブルの上に出して空にした木箱を、三人それぞれ背負い、私たちは山を降りた。


 岩山の北側をぐるっと回り、魔力感知に反応する気配の主を探すため、林へと近付いていく。


 岩山のほぼ半周を回るのに、だいたい十分程だった。


 隣の山との境に長く続く林は、岩山の西側に面した部分でちょうどWの形のように丸くカーブを描いていた。Wの真ん中にあたる部分はまるで隣の山への入り口のように、そこだけポッカリ開けているのだ。


 件の魔力反応は向かって右側、つまり北側の林の中にある。私たちは警戒しつつ、そちらの林の中へと入っていった。


 いざとなったら障壁(バリア)を張る準備をし、反応へと近付いていく。その大きな獣はごそごそと木の根元を漁っているようだった。


 大分近付いてきたので遠見(ビュー)を使って姿を見てみる。木と木の間を目をこらし見つめると、


「見つけた。イノシシだよ。イノシシはこっちが食べ物を持っていたり、いきなり現れて驚かせたりしなければ襲ってこないと思うけど、万が一襲われたら大怪我することになるから刺激しない方がいいね」


 ジェフとルーシーが緊張からびくっとなる。ルーシーがよろけて近くの木に当たってしまい、木の葉がガサガサと音を立てた。


 音に気付いたイノシシが、下を向いていた顔を上げ、大きな二本の牙を持つその顔をこちらへと向ける。


 林の中を嫌な緊張感が支配しようとしていた。


 双方ぴくりとも動けずにいた。ジェフとルーシーがいきなり騒いだり、走り出したりしなかったのが幸いだった。あるいはそれすら出来ない程に固まってしまっていたのかもしれないけど。


「……障壁(バリア)


 出来るだけ落ち着いた声で魔力多めの障壁を張る。

 イノシシの突進に耐えられるものか分かっていないので、内心は穏やかでなんていられなかったのだが、イノシシを刺激しないように細心の注意を払いつつジェフとルーシーに優しく声をかける。


「二人が落ち着いていて騒ぎ出さないでいてくれたから助かったよ。私もパニックにならないでいられる。ありがとう」


 慈母の微笑みパワーを全開にして、


「大丈夫。心を落ち着けて。敵意を出しちゃダメ。何でもないふりをして。向こうもいきなり現れた私たちを怖がってるの」


 すぐ傍で固まっている二人を安心させるように穏やかな笑顔で語る。


 この距離だし、動物にも通じるものかなんて知らないけど、それでも精一杯、慈しむ母の笑顔に想いを乗せて、イノシシにも気持ちを伝える。


「いきなりお邪魔してごめんなさい。驚かせるつもりは無かったの。大丈夫……。何もしない……。安心して……」


 安心して、安心して、と繰り返すうちに、林の中の緊張感が霧散していくのを感じた。



 鼻息の荒かったイノシシの見開かれた瞳も落ち着きを取り戻し、ふいっと目を逸らすと林の奥へとゆっくりと歩み去っていった。



「……」

「……」

「……」


 脱力して三人してその場にへたり込む。

 顔を見合わせホーッと息を吐いた。


「イノシシってでかいな。……焦った」


「……うん。怖かったね。帰ってくれて良かった」


「わ、わたし……ご、ごめんなさい……!」


 ルーシーが目に涙を溜めて謝るが、別段ルーシーが悪い訳ではないので「大丈夫……大丈夫……」と落ち着かせる。


「もう大丈夫だよ。イノシシは林から出ては来ないだろうから、おうちは安全だと思うし。確認できて良かった。怖い思いさせてごめんね」


 だが、こちらから林に入る時には

充分な注意が必要だ。何か音を鳴らしながら進むなどしていけば、向こうが気付き離れていってくれるだろう。野生動物は案外臆病なものだし。


「繁殖期や子連れの時は特に気を付けなくちゃいけないけどね」


 それから「いつも一緒、みーんな元気!」と声を出しながら、まだいくつか散在していた他の魔力も確認していく。


 あまり近付き過ぎないように出来るだけ離れた場所から遠見(ビュー)で見て回るが、みなイノシシや鹿などで、こちらに気付くと踵を返して逃げていってくれた。


「熊じゃなくて良かったね。冬眠前の熊だったら私たちじゃ手に負えないかもしれないし」


「かもしれないってところがモモはすげーよ」


「ホント、ホント。私たちなんて瞬殺だよ」


 二人が笑ってそんなことを言う。


 もうすっかり平常心を取り戻してるあたり二人も充分すごいと思うよ?


 それからもしばらく、野草や木の実や時折なっている果実なんかを集めながら散策するが、鳥やリスなどの小動物に出会うだけでモンスターは見当たらなかった。



 知能が低下し凶暴性が強いモンスターや、興奮しきった肉食獣などが相手では慈母の力なんて通用しないだろうし、未だろくに戦闘を経験していない私たちには荷が重い。



 ここで暮らしていくと決めた以上、だんだんと狩りや戦闘も覚えていく必要があるのだろうが、今はまだ間近に脅威となるものがいないことは僥倖だった。


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