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第百二十四話 かあちゃんは生クリームで幸せを運ぶ

 

 午後、私たちは畑班と肉加工班に分かれて作業している。


 午前中のソーセージ作りは概ね順調に終了しており、調味料を混ぜる時の分量を確認された以外は、腸詰め作業も捻り作業も子供たちだけで問題なく進めてくれていた。


 そんなソーセージは、すでに午前中のうちに燻製室へと運び込まれて、今はじっくりと煙に燻されている。


 なので、時折、燻製室の火の番をしに交替で誰かが出て来る以外は、肉加工班のみんなは地下室で干し肉作りに精を出している。


 私を含む畑班は、私が魔法で収穫していく大豆を、せっせと食料用の地下保存庫へ運び込んでくれている。大きな畑四面分の大豆はおおよそ二百kgくらいあると思う。


 牛のお母さんから牛乳も分けてもらえる今、油や調味料に必要な大豆も、この冬を越すに足る備えを確保出来てきたと思う。

 ヨーグルトなどの乳製品を含め、豆乳に加工して使っている分が一番多かったからね。牛乳を分けてもらえるようになったことで、大豆の消費量を著しく軽減出来るようになった。


 何しろ、母牛一頭から、朝の搾乳で三リットルくらいの牛乳が搾れる。母牛は搾ってもらうと体が楽ということで協力的だし、朝夕二回搾乳しても良いと言ってくれている。

 今は、仔牛たちもまだすっかり離乳してはいないので、朝の一回のみにしているが、斜面の草を気に入ってくれて大分離乳が進んでいるようなので、そのうち朝夕二回、一日五、六リットルの牛乳を分けてもらえるようになりそうだ。


 カロリーが高いので肥満には気を付けなければいけないけど、カルシウムはもちろん、タンパク質や乳糖、ビタミンも摂れる。

 水牛の乳は、日本で飲んでいたホルスタインやジャージー等の牛の乳よりも、脂肪分が高いのにコレステロール値は低かったはずなので、かなり優秀な栄養源なのだ。


 高タンパク、低カロリーな豆乳とも併せて、上手く活用していけそうだ。


 そんな訳で、今回、大量の大豆を入手出来たことで、これからは麦作りにもっと力を入れていける。冬を目前にした状況で牛親子に出会えたことは、私たちにとっても非常にありがたいことだった。



 大豆の収穫が終われば、畑班のみんなは畑の片付けに取り掛かる。


 私は解放されて物作りの時間だ。

 昨晩考えていたようにゴム作りをしたいと思う。


 樹液の採取セットを持って杜仲園に向かう。

 毎日の癒しの力の効果もあって、すでに杜仲園のほとんどの木が直径三十cmを超えて成長している。前回よりも大量の樹液を集められそうだ。


 事前に家を出る前に、資材倉庫で採取用の道具は増やしてある。

 約五十本の木に採取用のゴム栓付きパイプを取り付けて、木の下には土魔法で作った容器を設置して、癒しの力を与えつつ樹液の採取をさせてもらった。


 二時間程の採取時間の間、時々木に話し掛けたりもしながら、今後作ってみたい衣類や靴等のデザインを描いたりして過ごした。

 癒しの力を与えながら採取すると、木々はたくさんの樹液を流し出してくれるので、一本の木から二、三リットルくらいの樹液が採れた。


 大きな容器を土魔法で三つ作り出し、採取穴を埋めて癒し(ヒール)をかけながら木々にお礼を言い、集まった樹液を回収してきてはその容器へと移す。


 全ての樹液が集められたところで、柔らかさを用途で変えた三種類のゴムを作り出す。


 靴底等に使う硬いゴム、パッキン等に使う中間の弾力性の高いゴム、ゴム紐等を作る柔らかいゴム。それぞれ二十kgずつくらいのゴムが作れた。


 出来上がったゴムと器具を荷車に載せて片付けると、


「今日もみんなのおかげで助かったよ。ありがとう」


 ともう一度感謝を伝える。

 木々はサワサワと優しく枝を揺らし、それに答えてくれているかのようだ。


 振り返り、振り返り、手を振って家へ戻った。




 さて、まだ午後も半ば。

 他のみんなの作業も終わっていないし、時間は残っている。


 とは言え、樹液の採取とゴム作りで結構なMPを使ってしまった。

 ここで更に調子に乗って物作りを続けるのは愚策だ。何か作るとしたら、後は寝る前の時間にしよう。


 そこで私は、また冷蔵庫に向かった。午前中にもお昼の後にもちょいちょい確認していたけど。


 冷凍庫に関しては、凍った食材を詰め込んだおかげか、朝作った氷は未だにあまり溶けていない。この調子なら、朝晩二回、上手くすれば毎日寝る前の一回だけ氷を作れば、冷凍庫の稼働は出来そうな感じだ。


 逆に冷凍庫よりも簡単だと思っていた冷蔵庫の方が管理に手間がかかりそう。庫内の温度は一応冷えてはいるけれど、お昼の後に確認した時にはまだ残っていた氷も、今では大分溶けてしまっている。


 棚全体に並べた水の容器も、氷のすぐ下の二段目はキンキンに冷えているし、冷気の溜まる一番下の段もまだ冷たさを保てているのだけど、間の二段は少し冷えが足りなく感じる。庫内全体を同じ温度に調整するのはかなり難しそう。三段目にも氷を置いた方がいいのかな。


 上下を氷で挟まれる二段目はチルドのように肉などを保管するようにして、四段目と一番下は飲み物や野菜等をしまうという風に、用途で使い分ければいいかもしれない。


 ゼリーやプリンを冷やしたい時にも二段目が使えるかな。


 まあ、冷蔵庫に関しては、これからどんどん気温が下がっていくことを思えば、あまり急いで必要とはしない。これも冷凍庫が上手くいきそうだから言えるんだけど。


 とにかく、夏場には冷たい飲み物などで重宝しそうだけど、冬の間は倉庫や外だってもっと寒くなるかもしれないんだ。逆に凍らせたくない生野菜などの保管に使えるかもしれないけど。


 牛乳や乳製品、生野菜の保存と、冷たいデザート作りを目的と考えれば、この冷蔵庫もなんとか使えそう。


 朝、午後、夜と、一日三回は氷を作らないといけないのが、ちょっと手間ではあるけどね。


 どちらかと言うと、扉の隙間から冷気が逃げてしまっていることの方が何とかするべきなのかも。

 三段目の氷のことも併せて、寝る前の時間を使って、もう少し改良してみたいと思う。


 取り敢えず、冷蔵庫の氷は凍らせて、この場を後にした。



 残りの時間は、失敗したスポンジケーキを使ったおやつ作りをしながら、みんなの仕事が終わるのを待とう。


 失敗したスポンジケーキは、一口大に細かく切ることで無惨な見た目を誤魔化し、一人分ずつ器に盛る。

 そこにベリーのジャムを伸ばして作ったシロップを掛けて、少し浸みさせる。膨らまず固くなってしまった食感も、しっとりさせることが出来る。


 朝搾った牛乳は、バターなどに使ったけどまだ残っているので生クリームを作り、液糖と混ぜて氷水に充てながらひたすらホイップする。

 液糖を使っているせいか、いくら頑張ってもピンと角が立つほどまでは、固くホイップすることは出来なかったけど、これでも全然大丈夫。


 緩めの生クリームをたらーりとスポンジの上からかけて、さらにその上にベリーを飾る。


「うん! 美味しそう!」


 いよいよ子供たちが生クリームの洗礼を受ける時が来た。早くみんなの喜ぶ顔が見たい。


 出来上がったスイーツは冷蔵庫の中で冷やしておこう。ふふふっ、さっそく冷蔵庫が大活躍!


 みんなの仕事が終わるまでは、スバルと一緒に居間でデザインの続きをしながら過ごした。



 少しすると、まずは畑班が片付けを終えて帰ってきた。それに合わせてお湯を沸かしたりしているうちに、肉の加工班も干し肉作りは完了したと合流した。


 よーし! お茶の準備も出来たし、おやつの時間です!


「みんなお疲れさま。今日はおやつがあるよ!」


 実はみんなも、パン焼きついでのおやつ作りには期待していたようで、


「やっぱりね!」

「やったー!」

「楽しみにしてたんだ!」


 と声に出して喜びながら、いそいそとテーブルに着いた。


 ひんやりと冷たさを放つケーキを配り、温かいお茶も用意され、みんなの目が釘付けになった。


「こ、これは何……?」

「白くて柔らかそう」

「冷たくて……」


 ぱっと見、スポンジは隠れてしまっていて、目に入るのは真っ白な生クリームと飾られたベリーとのコントラスト。


「その白いフワフワは生クリーム。牛さんのミルクから出来ているの。その下にはケーキも入っているから、ケーキとクリームを一緒に食べてみてね。では感謝をこめていただきます」


「い、いただきます……」


 挨拶はしたものの、そのキレイなものにフォークを刺すのがためらわれるようだ。ケーキと聞いて緊張しているのかもしれない。


 私が率先してフォークを入れて、クリームを絡めたケーキを一欠片取ると、視線を集めながら口へ運ぶ。


 ふんわり、とろっとした緩めの生クリームはきめ細かく、舌に蕩ける。その優しい甘さの後には、少し固めの、でもシロップを吸ってしっとりとしたスポンジケーキ。噛み潰すとシロップがジュワッと溢れてくる。それが口の中でクリームと絡み合う。


 酸味の強いクランベリーに似たベリーのジャムを使って大正解。冷蔵庫で冷やされた冷たさと、その酸味の爽やかさで、コクのあるクリームの後口もスッキリする。


 さらにそこで温かいお茶を一口。

 冷えた口の中が温められ、スポンジのパサつきも濯がれていく。


「ほお……、美味しい」


 一連の流れを食い入るように見つめていた子供たちも、ハッと我に返り、おもむろにフォークを刺すとケーキを口に運ぶ。


「うわあ、ふわっとして……」

「ジャムみたいなのがジュワッて出てきた」

「甘くて、酸っぱくて、冷たくて……」

「これが……ケーキ……」

「幸せ……」


 そこで「美味しい」じゃなくて「幸せ」か。うふふ。


 うっとりしながら一口、一口、大切そうにケーキを味わい、最後にお茶を飲み干すと、あちらこちらから「ほお……」とため息が漏れた。


「喜んで食べてくれてありがとう。牛さんのミルクから作る生クリームすごいでしょ? これを食べさせてあげたかったんだ」


「うん、美味しかったあ」

「私たち、幸せだよねぇ」

「牛さんに感謝だよ」

「卵をくれたおうとくうにもね」

「もちろん、作ってくれたモモにも!」


 生クリームみたいにふわふわで蕩けそうな笑顔を見せてくれた。


 あー、うちの子たちやばい! かわいい!

 生クリームを出して良かった!

 この笑顔が見たかった! 大成功!


 それから、幸せ気分に浮かされながら、牛さんたちにお礼を言いに行き、そのままみんなでお風呂に出かけた。


 みんなにお母さんが褒められて、鼻高々の仔牛たちの足並みも軽く、


「今度、僕たちにも食べさせてね」

「食べてみたーい」


 とおねだりもされてしまった。


 ぜひ、今度は牛たちにも味わってもらわなきゃね。



 余談だけど、お風呂では当然のように、生クリーム最強説について、熱くガールズトークが交わされていたよ。





プライベートが慌ただしく、次回更新少しお休みいただき遅くなります。


大変申し訳ございません。


更新の際は活動報告でもご連絡いたします。

のんびりお待ちいただけますようお願いいたします。



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