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第百二十三話 かあちゃんは冷蔵庫の調子をみる

 

 翌朝、いつもより早く目覚めた私は、すぐに冷蔵庫の確認に向かった。


 果たして、庫内の温度はどうなっているだろうか……。


 広間を抜け、通路を通り、冷蔵庫に近付くにつれ、ひんやりと冷気を感じるようになってきた。


「あー、うん……。こうなるよね……」


 木製の扉の周囲の隙間からは、白い冷気が漏れ出している。


 やっぱり気密性は必要かな……。


 冷蔵庫の扉を開け、そろりと中へ入ると、まだちゃんと庫内は冷たく冷えており、鍋の中の水を飲めば冷水を保っていた。


 最上段の氷は半分以上溶けてしまっていたので、清浄(クリーン)をかけてから再び氷へと変える。


「一日に数回はこうやって氷を作り直さなきゃいけないかな……?」


 それでもMPに余裕さえ持たせておけば、冷蔵庫としては機能しそう。氷の塊が大きいのも一役買っているのかもしれない。


 棚全体に物を並べても全てを冷やせるかも実験してみなくちゃ。


 一旦、冷蔵庫からは出て、続いて冷凍庫の扉も開けてみる。


 先程よりも更に冷たい冷気に晒されて、ぶるりと震えがくる。


 棚に並べたヘビ肉の様子から見てみると、大きいかたまり肉は未だカチコチに凍ったままだ。五百gに切り分けたものも大丈夫そう。百g程に小分けにしたものは、凍ってはいるけれど表面は少し溶けてきていて、薄切りにして並べたものに至っては、すっかり溶けているとは言えないものの、指で押せるくらいには柔らかくなってしまっていた。


 保管するもの、それ自体も、大きい程氷の役割を果たしているということかな?

 ある程度の大きさで保管すれば、冷凍保存も出来そうな気がする。


 もう少し時間をかけて見ていこう。


 冷凍庫の氷はというと、間にヘビ肉を並べた棚の辺りは、まだ殆ど溶けていない。二段目の棚が空いていた部分は、上の段の氷は大分溶け出してしまっているし、下の段の氷も周囲は水になってしまっていた。


 やはり先程の仮説の通り、保管している物自体も氷の役割をしていて、相乗効果で低温を保てるのかも。


 こちらも全体に物を入れてみて、氷の溶け具合の観察を続けてみたい。


 取り敢えず、溶けてきてしまっていた小分けにした肉と薄切り肉は、一度凍らせた肉の味を確かめるためにも、今日の料理に使ってみようと思う。


 冷凍庫の氷も清浄(クリーン)をかけてから凍らせて、凍える体を抱きしめながら部屋を出た。



 今日はパン焼きの準備もしなくちゃいけないので、いつもより朝が忙しい。

 ともかく、すっかり冷え切ってしまった体を温めたい。歯の根も合わなくなってしまっているので、居間に入りストーブの傍を陣取ると、体をゴシゴシと擦る。


「モモちゃん、おはようさん。早いんやね」


「うー……、スバルおはよう。パン焼きの日の朝は早起きなんだ」


 震える声で挨拶を交わし、「パン焼き?」と不思議そうなスバルに、私たちの主食となるパンについて説明したりしているうちに、だんだん体も温まってきた。


 私たちの話し声で目を覚ましてしまったのか、子猫たちも起き出して、スバルも慌ただしく授乳を始めたので、私もユニとルーを起こして動き出そう。



 初の自作天然酵母でのパン生地作りをし、恒例のピザ作りはユニとルーに任せて、ジェフとコリーを起こして窯に火を入れてもらえば、私の手は少し空く。


 植物たちに朝の挨拶をしながら癒しの力をかけて回り、その足で岩山の上の牛たちの元にも向かう。


 朝日はすでに顔を出している時間なので、牛たちもすでに起きていて、のんびりと斜面の草を食んでいた。


「おはよう。今日もいい天気だね。夕べは良く眠れた? 不便は無かった?」


「モモちゃん、おはようございます。ええ、私も子供たちもぐっすり休めました。やっぱりこうして、お日様の光とともにのんびり暮らせるのは幸せです。こんな良い場所に住処を与えていただいて本当にありがとうございます」


 斜面の草にも癒しの力を与えながら、ニコニコとご機嫌な母牛と会話を交わす。

 一晩中過ごしてみても、特に脅威を感じることも無かったそうで、緩い斜面を二頭で転がるように駆け巡りはしゃいでいる仔牛たちを眺めながら、牛たちが穏やかに暮らせそうなことに安堵した。



 家に戻ると、子供たちもすでに起き出していた。


 朝食までにはまだ少し時間がありそうだったので、冷蔵庫の棚全体に土魔法の容器を増やして、アンにお願いしてそれぞれに水を出してもらう。


 冷蔵庫全体がきちんと冷えるか、これで確認出来るかな。


 冷凍庫の方には、ヘビ肉を一kgくらいに分けて、魔法で瞬間冷却して凍らせたものを並べていった。朝の身支度を整えた子供たちも手伝ってくれたので、朝食までに約半分、五十kgほどのヘビ肉を冷凍庫に並べることが出来た。二段目の棚はほぼ埋まったので、これでさらに冷凍庫の温度を維持出来るかもしれない。



 朝食はユニとルーの作ってくれた焼き立てのピザ。二人はまた腕を上げていた。具材にも凝っている。


 いつものベーコンとトマトとバジルのピザの他にも、ほぐした干し魚とマヨネーズを和えてドングリ茸をトッピングしたピザや、溶けてきてしまったヘビ肉を甘辛味でテリヤキチキンのように味付けした具が、サイコロ状の小さなお芋とともにのっているものもある。


 どれもとっても美味しくて、ユニとルーのアレンジ力には舌を巻いてしまう。


 一度凍らせて解凍したヘビ肉も、品質の劣化は感じられず、見た目にも氷焼けした変色も見られなかったし、水っぽくなってしまったり、逆にパサついたりということもなかった。肉汁も旨味もそのままギュッと閉じ込められている。


 魔法による瞬間冷凍のおかげだろうか?


 薄切り肉はスバル用にと、味付けせずに窯で炙って火を通しただけにされていたので、それも少し味見させてもらったけど、そのままでも実に美味しいヘビ肉の旨味を感じられた。ヘビ肉素晴らしい!


 そして、冷凍保存にも期待出来そう!

 ここまでほぼ成功!



 さすがに獲れ立てフレッシュでないと、生肉のまま出すのは憚られた。スバルは本当は生肉の方が好きかもしれないけど、生肉が食べたい時は自力で狩りをして頑張ってもらおう。


「火を通してあるお肉なんだけど、これでも食べられそう?」


 炙り薄切り肉をスバルに勧めてみると、


「美味しい! これ、めっちゃ美味しいわ!」


 大きく見開かれた瞳がキラリと光って、ピンと立った尻尾がその後ユラリと躍るように振れる。


「気に入ってもらえたみたいで良かった」


「いやいや、モモちゃん! 料理ってすごいもんやなあ。ビックリや!」


 それから、みんなが喜び勇んで食べているピザへと視線が移った。


「……なあ。みんなが食べてはるアレ。モモちゃんの言うとったパンってやつ?」


「あれはパンの生地を使った料理でピザって言うの。パンとはちょっと違うけど、まあパンの仲間?」


「ウチも……、アレ、食べてみたいわあ……」


 みんながあんなに美味しい、美味しいと騒ぎながら食べてたら、そりゃあ気になるよね……。でも……。


「あれは味付けしてあるからしょっぱいし、猫って肉食でしょ? 穀物の摂り過ぎって良くないんじゃないかな……?」


「せやけど、ヤスのアニキもおうはんとくうはんも食べてはるやん。ウチらモンスターやから、よっぽど耐性のない毒でも喰らわん限り、何か食べて体調崩すなんてことないんやで?」


 ヤスくんたちの呼び方に、思わず吹き出しそうになったけど、今の論点はそこじゃない。


 やっぱりポチくんたちも言ってたように、地球の生物とここのモンスターとではいろいろと違うようだ。私の日本での知識、押しつけても意味が無いみたい。それでも、


「じゃあ、少しだけ食べてみようか。体に合わないようなら食べちゃダメだよ?」


 おそるおそる干し魚のピザを一切れ取り、少しだけちぎって手の平に乗せる。


「…………美味しい! めっちゃめちゃ美味しい! こんな美味しいもん初めてや!」


 全く躊躇せずパクリと口にしたスバルは、少しの溜めの後、体全体で喜びを表すようにしてから叫んだ。


 それから、私の手の中の残りのピザと私の瞳とを、期待の籠もったキラキラした目で交互に見る。


 私はまだ躊躇してしまう。


 食べさせてもいいのかな……?

 本当に大丈夫なのかな……?


 ポチくんたちほどの巨体なら、なんとなく少しくらい大丈夫かな、と思ってしまったけど、授乳中のスバルに与えてもいいのだろうか。


「かあちゃん、オイラたちだって毎日食べてるけど全然大丈夫だぞ。何がそんなに心配なんだ?」


 振り返るとスバルよりももっと体の小さいヤスくん。

 そう言われてみると、ヤスくんたちもずっと一緒の食事とってるな。そうだね、今更か。授乳中ということで、ちょっと過敏になってしまってたかもしれない。モンスターはこういうものって納得しよう。


「はい、じゃあこれもどうぞ」


 スバルのお皿に残りのピザをのせてあげると、「おおきに!」と嬉しそうにして頬張った。


 うん。一緒のものを食べられるなら、その方がいいよね!



 食事の後には、私とルーはパン焼き、他のみんなは肉の加工へと分かれて作業に入る。


 ユニやジェフたち、昨日一緒に作業した面々が教えながらやってくれると言うので、肉の方はみんなにお任せしちゃう。


 私とルーは、いつも通り順番に九十個のパンを焼き、その後は大麦のグラノーラを作ったりと保存食作りも頑張った。


 さらに今日は、牛のお母さんに分けてもらった牛乳もあるので、新作のお菓子作りにも挑戦した。


 鉄鉱石からパウンドケーキ型とケーキ型を作って、バターたっぷりのパウンドケーキを焼く。他にも、南の森で採ってきた、見た目はマンゴーのようだけど果肉はバナナに似た果物を生地に練り込んだバナナケーキ。同じく南の森産の、酸味と香りの強いパイナップルに似た味の果物を液糖漬けにしたものを、刻んで入れたフルーツケーキ。栗やナッツを入れたもの、と四種類のパウンドケーキを焼き上げた。


 パウンドケーキは、粉と砂糖、卵、バターをほぼ同量入れれば作れるケーキなので失敗が少ない。うちの場合はグラニュー糖なんて無くて液糖を使うから、水分を卵で調整しなくちゃいけないのが難しかったけど、甘さ控えめに出来たと思う。


 もう一つ、スポンジケーキにも挑戦したんだけど、こちらはやはり材料が目分量では上手く出来なかった。クッキングシートなんてもちろん無いので、型から出すのもすっごく大変だったし、上手く膨らまなくて出来上がりはかなり悲惨……。


 お菓子作りは趣味の範疇で、プロではなかった私には、スポンジケーキは荷が重かった。

 まあ、これはこれで活用出来るのでおやつに楽しもう。


 パウンドケーキは温かいうちに油紙で包んで保管しておいて、数日馴染ませたくらいが一番美味しい。バナナケーキは冷めてから冷蔵庫に入れるけど、他は常温で一週間くらいは保つ。保存食ではないけれど、しばらくおやつの時間を楽しめそう。



 その後は、お昼用にヘビ肉の香草焼きと野菜スープ、夕食用にポトフを仕込んで、私たちの午前の仕事は終了した。




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