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第百十九話 かあちゃんはソーセージを作る

 

 地下の肉と魚の保存庫の作業部屋に移動すると、みんなには猪肉をミンチにしてもらう。


 ミンサーは増やしたけど大変な作業だ。なんたって今回の猪肉は百kg以上ある。ベーコンにしたいバラ肉や干し肉にするモモ肉、料理に使いやすいロース肉などを除けても、まだまだ大量の肉があるのだ。


 取り敢えず、みんなには十kgくらいの肉をミンチにしてもらおう。脂が多くて使いにくそうな部位や硬そうな部位も、ミンチにしてしまえば問題ない。


 今は楽しそうにハンドルをぐるぐる回しているけど、すぐにキツくなると思うよ。頑張って!


 心の中でエールを送る。


 みんながせっせとミンサーのハンドルを回している間に、私は漬け込み液を作っておく。

 ユニとルーはレシピを覚えたいからと、こちらを手伝ってくれている。

 調味料を混ぜるだけなら簡単だけど、前回美味しかったので気に入っている特製調味液には、玉ねぎ、リンゴン、ニンニク、生姜の摺り下ろしも入れるので、お手伝いはありがたい。

 三人で涙を滲ませながら、玉ねぎを摺り下ろした。


「これに液糖と醤油、ワイン、塩、胡椒とハーブも入れてひと煮立ちさせたら出来上がり」


 かまどには火を入れてないので、ひと煮立ちは魔法でやってしまう。


「ベーコンにする分の肉は、一週間くらいこれに漬けておいてから燻製にしようね。薄切りにして干し肉にする分は……」


「任せて。よーく揉み込んだら布に広げて乾燥させればいいんでしょ?」


「干し肉の燻製もする?」


「うん、これから作るソーセージ……今みんながミンチにしてくれてるお肉を使うやつね。あれを燻製にするから、一緒に入る分は燻製室の棚に並べちゃおう。ソーセージは吊すから」


「それじゃあ、干し肉も先に漬けておいた方がいいね」


 そんな流れで、私たち三人は今度は薄切り肉を切っていく。

 ひたすら肉を切り続けてクタクタになった頃には、ひたすらミンサーを回し続けていたみんなもクタクタになっていた。


「道具を用意してくるから、みんなはちょっと休憩しててね」


「一緒に用意するから、モモも一緒に休憩にするの!」


 ユニ、ルー、キティ、ピノは薄切り肉を漬け込み液に入れる係、私とジェフ、コリー、ルーシーは資材倉庫に行き、さっき作ったソーセージ用の絞り袋と先の長い口金、昨晩作ったケーシングを運んでくる。



 みんな揃ったところで、ひと休みしながら、これから作るものの説明をする。


「まずは、みんなが作ってくれたミンチ肉に液糖と塩と胡椒と乾燥ハーブを砕いたものを混ぜて、よーく捏ねるの」


「ハンバーグみたいに?」


「そうそう。ハンバーグよりももっと捏ねた方がいいから、肉が手の熱で傷まないように氷水を入れながら混ぜるよ。手が冷たくて大変だけど頑張ろうね」


「今日はハンバーグなのか!?」


「残念。まだ続きがあるんだよ。捏ねて空気を抜いた挽き肉をこの袋に入れて、こっちの長いのに詰めるの。食べやすい長さに捻ったりもするんだけど、それは後でやりながら説明するね。それで出来たものを燻製したらソーセージっていう食べ物になるよ。干し肉ほどは保たないけど、ベーコンくらいは保つ保存食になるの」


 休憩を終えると作業台や器具に清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけて滅菌してから、それぞれ土のボウルに挽き肉を分けて、液糖、塩、氷水を入れて捏ねていく。ある程度捏ねたところで、胡椒、ハーブ、氷水を入れて、さらに捏ねていく。我慢大会の様相を呈していた。


「うー、手が冷たーい」

「冷たい通り越して痛いような」

「感覚無くなってきた」

「これ……大変だなぁ」


 みんなで手の冷たさに耐えて、耐えて、ソーセージの種がなんとか出来た。ルーに出してもらったタライの水をぬるま湯に変えて、みんなして急いで手を浸けて温める。かじかんだ手指にじわーっと温もりが染みてきて、だんだん手の感覚が戻ってきた。


「……ふう。お疲れさまでした。これで一番大変なところは終わりだよ。頑張ってくれてありがとうね。この後は、ちょっと難しくて面倒くさいけど、大変ではないから」


「うえー。難しい方が俺はちょっと……」


 ジェフが及び腰になっているけど、コラーゲンケーシングを使うし、慣れちゃえばそんなに難しくもない。



 みんなの手が元通り動くようになり、一息ついたところで、次はソーセージの種をビターン、ビターンと作業台に打ちつけて空気を抜き、口金をセットした絞り袋に入れる。


「口金の先にこれを着けるよ」


 二m程に切り分けたケーシングを手繰り寄せて、先の長い口金にセットしていく。口金の先から少しだけ肉を絞り出して絞り袋の中の空気も抜いたら、ケーシングを少し引っ張り出して縛って端を止める。


「こうやって空気が入らないように、袋の中の種を少しずつ絞り出していくの。この長いのはパンパンに入れたら破けちゃうから、このくらい余裕がある緩い感じでどんどん詰めていくよ」


 ケーシングにニュルニュルと挽き肉が詰まっていく様を、みんなは珍しいものを見るように、面白そうに見つめている。


 最後まで絞り終えた時には、もう一度詰め具合を確認して、大丈夫そうだったのでこちらの端も縛って止めた。


 二m弱の長ーいソーセージが出来た訳だけど、これを捻って小分けにしていく。ここがちょっと難しい。


「まず、この真ん中のところで捻って二つ折りにするでしょ?」


 くるくる回して捻った真ん中をジェフに持っていてもらって、ダランと垂れた二本をそれぞれ十cmくらいのところでまた捻る。

 捻った部分を重ねて、それぞれ手前からと向こうから輪の中へ残りの部分を通す。

 また十cmくらいのところで捻って、輪の中を通して、と繰り返していけば、八の字が連なったようなソーセージの集合体が出来上がった。


「これを燻製室に吊して燻製にするの。食べる時には、この捻ったところから切って小分けに使えるんだよ。さあ、二人一組になって作ってみよう」


 最初から上手くはいかないだろうけど、空気が入って破裂しちゃっても、見た目がいびつでも、売り物にする訳じゃない。自分たちで食べるんだから問題ない。


 ジェフとルーシー、コリーとルー、ユニとピノ、私とキティがペアになって作り出した。


 ケーシングをはめるところからいきなり苦労していたけど、ニュルニュルと種を詰めていく作業は面白かったようで、みんな夢中になってソーセージを作った。

 最後の端を結ぶ時にだけ私が詰め具合をチェックしていたけど、数を熟せば感覚もわかってきたようで、そのうちに自分たちで確認出来るようにもなった。


 長ーいソーセージが次々と並んでいく。

 全部で二十四本も作れた。


 これを今度は先ほど実演したように捻っていく。

 最初は困惑していた面々も、やってみればそんなに難しいことをしている訳ではないことに気付き手慣れてくる。


 四苦八苦しながらの全工程が終わり、二十五本の八の字ソーセージが出来上がった。


「みんな上手くなったねえ! これであとは燻製にすれば出来上がり!」


 やり遂げた充実感から、みんな誇らしそうな顔になっている。


「よしっ! すぐに燻製にしよう!」


「まだだよ。一緒に燻製する干し肉も用意しなきゃ」


「じゃあ、早くやっちゃおうぜ!」


 先走りをルーに止められながらも、やる気漲るジェフに先導されて、続けて干し肉の準備も進められた。

 早く食べたいって顔に書いてあるのには、あえて触れないでおこう。



 ソーセージを作っている間に、すっかり味の染み込んだ薄切り肉をみんなで干布に並べていく。燻製室の棚に置けるくらいの分を並べ終えたら、ジェフたちに軽く乾燥してもらって、ソーセージとともに燻製室へと運ばれる。


 前回の燻製もルーたちに任せたので、今回も私は手を出さない。聞かれたことに答えるだけだ。


「ソーセージはフックにこのまま引っ掛ければいいんだよね」

「うん、そうだよ」


「干し肉はこっちの棚だな」

「うんうん」


「今日はチップは何を使えばいい?」

「決まりは無いから。好みで決めていいんだよ」


 三つの燻製室で、それぞれクルミ、サクラ、リンゴンを試してみることにしたようだ。


 準備が出来たら薪をくべてチップをいぶす。

 ゆらゆらと煙が立ち上ってきて、燻製室の中が白く煙っていく。


「モモ、入り口を閉めてくれる?」

「はーい」


「煙の上がり具合は良さそうだな」


「肉の時の火加減でいいんだよね」


「このくらいで維持していけば大丈夫そう」


「そろそろ窓も閉めよう」


 みんながテキパキと働いている。

 まだ数回目なのに手際がいいなあ、なんて思いながら、言われた通りに覗き窓も閉じる。煙突からうっすらと煙が昇り始めた。


「後は火加減を見ながらベーコンを漬け込んだり、魔法で作る分の干し肉を作ったりすればいいね」


「モモはお昼寝してきていいよ」


「お昼は私が作るから」


 みんな頼もしいなあ、と感慨深く思いながら、


「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて、ちょっと休んでくるね」


 みんなに任せて、私は一人部屋に向かった。



 清浄(クリーン)で一応身ぎれいにしてから、自分のベッドに潜り込む。


 お昼まで一時間くらい寝れるかな、と考えている間にも、どんどん睡魔に引き寄せられていく。


 ああ、結構疲れてたんだな、と気がついた時には意識を手放していた。



 ◇



 スッキリと気持ち良く目が覚めて、布団から体を起こしたけど、三つ並んだベッドの中には誰もいない。


「そうだ、お昼寝させてもらったんだった……」


 妙に静かで、家の中にみんなの気配は無い。

 広間に回ると牛の親子がいて、


『モモちゃん、目が覚めました? 疲れているようだからと、お昼にも起こさなかったようです。みなさんはごはんを食べてましたよ。私たちもいただきました』


 大丈夫ですか? と心配そうにしている。


「うん、寝不足だっただけだから。もう元気だよ」


 あらら。結構寝ちゃってたのかな?


 MPを確認すると、午前中にいろいろ使って大分減ってたのに、三分の二くらいまで回復していた。

 三、四時間くらいは眠ってしまったようだ。



 居間に猫たちの様子を見に行くと、子猫たちは眠っていて、私の物音に気付いた母猫だけがピクリと顔を上げた。


「体調はどう? お乳は出てる? お昼ごはんはもらった?」


『ふふ、モモちゃんは心配してばかりやね。ちゃあんとごはんももろたよ。お乳も出とるし、体ももう平気や。ありがとうな。モモちゃんの顔色もようなったみたいで安心やわ』


 母猫からふんわりとした優しい雰囲気が漂う。

 牛たちも猫たちも落ち着いたようで良かった。


 体調も気持ちも落ち着いたなら……。


「ちびちゃんたちも良く寝てるし、ちょうどいいから少しお話してもいいかな?」


 と尋ねると、「ええよ」と言ってくれたので、抱き上げて母牛のところへ戻る。母牛にも少しお話がしたいと言うと快諾してくれた。


「牛さんも猫さんも、予想以上に早く回復出来たみたいで本当に良かった。……それで、これからのことなんだけど、みんながいた南の森とここでは環境が結構違うでしょ? 元気になったなら、これからどうしたい? 牛さんが泥浴びする沼はこの辺には無いから、元いた森に戻った方が暮らしやすいかな? 川ならあるんだけど……。猫さんも、狩りをするにも、子育てするにも、見知った環境の方が暮らしやすいでしょ? この辺はあの森よりも寒そうだし。あの森に帰りたいなら送って行くよ。ここにいてくれてもいいけど、もし帰りたいなら長雨が来る前の方がいいと思うんだよね」


 私は選択肢として何の気なしに提案したつもりだったんだけど、母牛の焦った声に驚く。


『わ、私たちは! モモちゃんと従属契約しました! 私はモモちゃんに従う者です。どうか……、お側に置いて下さい。もう群れにも戻れず、あの森で私たちだけで生きるのは……すごく難しいです。……モモちゃんが喜ばれるならお乳を捧げられますし、狼たちのように荷を引くことも出来ます。私に出来ることなら何でもいたします! ……どうか、こちらにいさせて下さい。……やはり、……ご、ご迷惑でしょうか?』


 上目遣いでビクビクした様子で、追い出されるのではないかと怯えているようだ。


 そんなつもりじゃなかったんだけどな。


「ミルクを分けてもらえるのはありがたいけど……。そっか、ここにいたいんだね。契約のことは気にしないでいいから。でも、あそこに戻りたくないっていうことなら、そういう方向でみんなとも話してみるよ。すぐに決めなくてもいいんだけどね。この周辺も見てもらって、住みやすそうな場所があればそこで自由に暮らしてもいいし。でも、気持ちはわかったよ」


「猫さんはどうしたい?」と視線を向けると、緊張したように、怯えたように、体を固くして目を見開きフルフルと震えている。


『ウ、ウチ……、ウチは……。どうしたらええか、わからへん。す、少し、考えさせてくれへんか……』


 捻り出したように、囁くように。

 そんな答えが返ってきて、


「うん、もちろん。ゆっくり考えてみてね」


 とは言ったものの、先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは打って変わったその様子に、私は当惑してしまった。


 言い方間違えたかな……?




ご覧いただきありがとうございます。


次の更新は二十三日(土)になります。



これからも応援よろしくお願いします!


(≡з≡)/



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