表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/130

第百十八話 かあちゃんは回復を喜ぶ

お待たせいたしました。

やっとやっと更新です。

 

 何度目の授乳かわからない。

 三巡目だったか、四巡目だったか。

 うとうとしながら、さすがにボーッとしてきた頭で子猫の世話をしていた。


『……そうやって一晩中お世話しててくれはったん?』


 急に話し掛けられてビクッと体が反射して跳ねる。


『おはようさん。ありがとうな。あんた……モモちゃん? もしかして、全然寝てへんのんと違う?』


「おはよう。ってもう朝か……。猫さん、体の調子はどう? ゆっくり休めた?」


 ちょっとびっくりしたように目を見開いた母猫は、ぷっと吹き出し、苦笑した。


『あんた、それじゃあ会話になってへんよ。ふふっ、ありがとう。おかげさんでウチはゆっくり休ませてもろた。なんかもう、めっちゃ元気になっとるで。ウチよりモモちゃんの方がぐったりしとるやんか。……大丈夫なん?』


「へーき、へーき。ちょっと眠いけどね。えっと……、灰色の子二匹にはミルクをあげたから、次はクリーム色の子の番だね」


 私がうとうとしていた間に三匹目の子猫もお腹を空かせて目を覚ましてしまったようだ。みゃうみゃうと空腹を訴えている。


「ごめん、ごめん。ちょっと待ってね」


 声を掛けながら、今授乳した子の体勢を変えてゲップをさせる。続けて排泄を促している間も、


「みゃう、みゃう、みゃう!」


 と催促されている。


「ふふっ、これだけ大きい声で鳴けるんだもん。ちびちゃんたちも随分元気が出たみたいだね。良かった」


 お腹を空かせて鳴く子猫をじっと見つめる母猫は、すくっと立ち上がり子猫の傍に横たわる。


『ああ、お腹空いたなあ。ほら、お乳やで……』


 優しい声で子猫を誘導して乳首を含ませると、んくっ、んくっと勢い良く吸い付き始めた。


 あまりにも自然な流れだったので、止めようとも思わず、その愛情溢れる光景に見惚れてしまった。


『……ああ、……モモちゃん。お乳出とるで。ほら、見たって。ちゃあんと飲んどるやろ……?』


 涙に詰まった声でそんな風に言われたら、私までウルッときちゃうよ。


「うん……、うん……、良かったね……」


 すでにミルクは飲ませたけど、灰色の二匹も母猫の懐に潜ませてあげると、半分寝た状態でもそもそとお乳を探り当てて、チュパッと吸い付いたまま眠ってしまった。安心しきった顔をしている。


 そんな子猫たちの様子を、幸せそうに、愛おしそうに見つめる母猫の優しい眼差し。


 なんだか無性に子供たちの笑顔を見たくなってきちゃった。


「朝ごはんが用意出来るまで、子猫たちと一緒にもう少しゆっくりしててね」



 そっと居間を離れた私は、今何時頃なんだろうと外へ出てみた。


「うわ、とっくに日が昇ってるじゃん」


 朝日はすっかり顔を出していて、辺りは陽差しに包まれている。


 この時間まで誰も起きてこないということは、やっぱりみんな昨日は相当疲れていたんだろうな。

 私にしても、寝不足が結構響いている。時間感覚が無くなるくらいボーッとしてしまっていたらしい。


 プルプルと頭を振って、しっかりと目を覚ますためにも外の空気を大きく吸い込む。

 朝の冷たい空気が肺をキュッと締め付けるけど、それが頭をハッキリさせて気持ちが良い。溜め込んだ空気をふうっと吐き出すと息が白い。


 だんだんと冬が近付いていることを感じる。


 植物たちに癒しを与えながら朝の挨拶をして回ると、ちょうど良い散歩になって鈍っていた体も頭も動き出した。



 居間に戻ると、ストーブの上に昨日多めに作っておいた猫と牛用のお粥を載せて温める。


 私たちの朝食も昨日の残りの唐揚げだ。さすがに五kgは作り過ぎだったようだ。

 液糖と酢と醤油を混ぜた甘酢ダレにくぐらせた唐揚げを、レタスとマヨネーズと一緒にパンで挟んだ唐揚げサンド。


 ドングリ茸で出汁をとったスープには、ルーが作ってくれた芋づるの佃煮を入れれば、良い味が出て具にもなる。


 鍋から湯気が上がり、いい匂いが漂えば、一人、また一人と子供たちも起き出して集まってくる。


 朝食の用意が出来たので広間の様子を見に行くと、牛の親子もすでに起きていた。仔牛たちはサツマイモの葉っぱを食べている。


「おはよう。その葉っぱは食べられたんだね。お母さんも体調はどう?」


『ありがとうございます。すっごく力が溢れていて、前より調子が良いくらいですよ』


 立ち上がって広間を歩いてみせてくれたりするが、昨日と違って足にふらつきも無いし、瞳にも力が漲っている輝きを感じる。


「うん、元気そうだね。良かったあ。水の癒し(ヒーリングフォース)の効果がすごいのかな? 思ったよりもずっと回復が早かったね。猫たちもずいぶん元気が出たみたいで、お乳も出るようになったんだよ!」


『え? そうなんですか……』


 一緒に喜んでくれると思ったのに、母牛が戸惑いを見せた。


「あれ?」


 私が母牛の反応に怪訝そうにしたのを見て、慌てて母牛が言い募る。


『あの! 元気になって、お乳も出るようになって良かったです! ただ……その……。昨日からモモちゃんに美味しいごはんをいただいて、美味しい葉っぱも用意してもらったものですから、子供たちがあまりお乳を飲まなくて……。お乳が張ってちょっと辛いんです。猫ちゃんたちのために搾ってもらおうと思っていたものですから……』


 母牛の話によると、美味しいごはんを食べてゆっくり休めたので、体の不調は無くなったらしい。むしろ、この家にいると森にいた時よりも元気になったように感じると言う。


 ああ、聖域の効果もあるもんね。

 私だってほとんど寝てないけど、慈しみの力と聖域のおかげで疲れはあまり残ってない。

 ポチくんたちもあれだけの毒に侵されていたのに、一晩聖域の中で休養してもらったら、翌日には大分力を取り戻していたし、もうすぐ一カ月になるけど、病気になったり寝込んだりした子もいない。


 聖域って結構すごいのかもしれない。


 まして、猫たちと母牛には水の癒し(ヒーリングフォース)の効果も重ねがけになっているのだから、体が活性化して回復が早いのにも頷ける。


『どんどん力が湧いてくるように元気が出たのは嬉しいのですけど、お乳もどんどん作られちゃってるのかしら……? もう、胸がパンパンで……』


「あの……、じゃあ、私たちに分けてもらってもいいかな?」


『もちろんです! お願いします! 自分ではどうしようも出来なくて』


 ヤッホー! 牛乳だ!

 大急ぎでバケツを作ってきて、清浄(クリーン)でバケツも私の手も牛の乳首もキレイにしてから搾らせてもらう。中腰キツいな。イスも作ろう。


 指を人差し指から小指へ順番に握っていくようにしながら、上から下へとお乳を搾らせてもらうと、ジューッと勢い良くミルクが出てくる。

 確かにお乳は固く張っていて、これは辛そうだ。

 少し搾ったら、乳房を軽くマッサージしてあげると、さらに勢い良く搾れるようになった。


 バケツにいっぱい搾れたので、新しいバケツを用意して、座る場所を反対側に移してそちらのミルクも搾らせてもらう。


『はあ……、楽になってきました。ありがとうございます』


「私たちも新鮮なミルクがもらえて嬉しいよ。ありがとう。ずっと立ってたけどしんどくない?」


『いいえ、もうすっかり元気になったようです。体は全く大丈夫ですよ』


 動物たちもみんな元気になったようだし、ミルクのおすそ分けももらえて良かった、良かった!



 牛の親子と母猫には冷ましたお粥を用意して、私たちは唐揚げサンドとスープ、搾りたて牛乳の朝ごはんとなった。ミルクには一応、浄化(ホーリー)を使っておいた。人間は殺菌してから飲んだ方がいいんだよね。


 ヘビ肉の唐揚げは、翌日になって冷めてしまっていても固くなったりしてなくて、甘酢ダレが染み込んだところにマヨネーズが合わさって、レタスのシャキシャキ感とともに味わうと最高だ。


 口いっぱいに頬張って咀嚼すると、搾りたて牛乳とともに流し込む。


 うわっ、牛乳も美味しい!


 濃いミルクなのにさっぱりしていてクセもない。

 ヤギの乳なんかは独特の臭みがあるって聞くけど、水牛の乳はすごく飲みやすい。

 コレ、前世の牛乳よりも美味しいんじゃない? 

 やっぱり搾りたてだからかな?


 この濃さなら、生クリームも作れると思う。

 森に帰っちゃう前に、また分けてもらえるかな?


 ゴキュゴキュと牛乳を飲みながら、ついついケーキやプリンに想いを馳せてしまった。



 食事をしながら、いつものように今日の予定を話していく。畑仕事と肉の加工に人手を振り分けなければいけない。


「今日は種蒔きからだよね。大豆の番だっけ?」


「そうだよ。種蒔きはそんなに人数がいなくても出来るから、肉の加工の方に人手を回して大丈夫だと思う」


「大分寒くなってきたから、畑もピッチ上げたいところだよね。大豆なら収穫は魔法で出来ちゃうから四面分作ってみない? その分小麦を作れる回数が増えるでしょ?」


「……うーん、大豆ならやれる。四面分の種蒔き自体は問題ないよ。でも、モモは大丈夫? 朝から疲れた顔してるよ? 四面分の魔法を使って倒れるなら、やらないよ?」


「……え? ああ、夜中ずっと子猫のお世話してたから、ちょっと寝不足なだけなんだけど。そうだね、MPが回復してないか」


「はあ……、モモ!」


 またもや、みんなから怒られてしまう。


「どうして一人で無理するの!」

「相談して下さい!」

「交代でお世話するとか、やりようはあるんです!」


 朝食を食べたら寝るように、と叱られてしまった。


「えっと……、それじゃあ、新しい肉の加工方法をやってみたいから、やり方だけ覚えてもらって、その後でお昼寝させてもらうから。それでMPが回復してから、畑の魔法を使うから、……ね!」


 全く寝てなかった訳ではないから少しはMPだって回復しているし、母猫が元気になってお乳も出るようになったから今晩は徹夜する必要もなさそうだし、と説明してお願いする。実際、MPだって三分の一くらいは残っているのだ。


 しぶしぶながらも了解を得られたので、畑仕事はバズ、マーク、アン、マリー、ベルとティナ。肉の加工はジェフ、コリー、ルーシー、ユニ、ルー、キティ、ピノと仕事の分担が決まった。


 干し肉の乾燥が出来るように火属性と風属性のみんなが肉の加工に回ってくれた分、ヤスくんとおうとくうが畑仕事を手伝ってくれるそうだ。肥料を運んだりと力仕事があるので、おうとくうは頼もしい。ヤスくんも畑仕事はいつも手伝ってくれていて慣れたものだし。


 四面分の種蒔きは初めてのチャレンジだけど、頼りになるメンバーが揃っているし、肥料も作ってあるし、畑も用意してあるので、いつも通りバズに任せてしまえば大丈夫だろう。私は後で成長の魔法だけ使えばいい。



 畑仕事のメンバーが出掛けると、肉の加工をするみんなで朝食の片付けをしたり、干し台を出したりの朝の仕事から済ませていく。


 私は休んでいるようにと言われたのに、こっそり加工に使う道具を作ったり、肉を漬ける壺やミンサーを増やしたりしていたのが見つかって、またまた叱られてしまった。



 一部始終を見ていた母猫と母牛には、


『ホンマ、仲がええんやね』

『優しい仲間たちですね』


 とクスクス笑われてしまった。




十日も空いちゃってごめんなさい。

しかもあんまり話進んでないな……。


次話は二十日(水)に更新する予定です。


水、土の週二回更新になると思います。

ちょっとペース落とさせていただきます。


(/≡з≡) ごめんやで

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ