第百十七話 かあちゃんはヘビ肉をふるまう
子猫たちのお世話を嬉々としてやってるみんなに動物たちのことは任せて、私は夕食の用意をする。
本日のメインディッシュは唐揚げ。
早速、獲ってきたヘビ肉を使ってみよう。
一口大に切り分けたヘビ肉は、もう鶏肉にしか見えない。
醤油、酒、摺り下ろしたニンニクと生姜を混ぜたタレにしばらく漬け込んでおく。
味が染み込むまでに味噌汁を作っておこう。
昨晩のパーティーに豆乳を提供したり、今朝のヨーグルトを作った時に出たおからがまた大量にあるので、今日はおからの味噌汁。
南の狩り場の方は、ここやいつもの森よりも多少暖かいのか、葉物の野草がまだ数多く見られたので、ポチくん待ちの私が解体に精を出していた間に、女の子たちが結界内でいろいろ集めてくれてあった。見たことの無い果物もいくらか手に入った。
その中には、結球しないタイプのレタスに近い野草があったので、サラダ代わりにお皿にこれを敷いて唐揚げをのせよう。
母猫や牛たちのご飯も用意しなきゃ。
今は栄養をたっぷり摂って欲しいので、昼にも食べてもらって体に無理の無さそうだった大麦粥にしよう。
こちらにもおからを混ぜる。
牛たちの分はこのままで、母猫の分にはヘビ肉を叩いてミンチにしたものも混ぜてそれぞれ火にかける。弱火でじっくり柔らかくなるまで炊き上げる。
下味を付けたヘビ肉は片栗粉をまぶして油で揚げていく。
大量の揚げ物はちょっと大変だけど、じゅわじゅわと良い音を立ててキツネ色に揚がっていく様子は、見てるだけで生唾が出てくる。久々の唐揚げに私のテンションは上がりっぱなしだし、みんながビビっていた大蛇を美味しく食べることで怖さを克服して欲しいと思えば、このくらいの苦労なんて訳もない。
唐揚げを揚げ終わる頃には、お粥もいい感じに炊けている。
子猫たちにデレデレになっている子供たちに声を掛けて夕食にしよう。
パン、味噌汁に続いて、湯気を立てる唐揚げが居間に入ってくると、醤油とニンニクのいい匂いが立ちこめる。
母猫もピクリと反応して顔を上げた。
「今日は狩りで緊張もあっただろうから、みんな疲れたでしょ? 大変だったけど、おかげでまたたくさんのお肉が手に入りました。ありがとう。それにお客さんも来たね。水牛のお母さんと子供たち、猫のお母さんと子供たち。弱った体が癒えるまで、うちで暮らしてもらいます。よろしくね。
それでは、仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」
「いただきます!」
美味しい匂いをプンプンさせている唐揚げに、堪らずみんな齧り付く。
「あっつ!」
「うめえ!」
「うっわ、美味しーい!」
はふはふしながら夢中で食べてる、食べてる。
よしよし。
私はユニに風魔法で冷ましてもらったお粥を牛のお母さんと子供たちに、そして猫のお母さんにと配っていく。
「栄養をしっかり摂って欲しいから、食べ慣れないかもしれないけど頑張っていっぱい食べてね」
「はーい!」と元気良く答える仔牛たちと、「ありがとうございます」と少しずつゆっくり食べ始める母牛。
母猫はくんくんとお粥の匂いを確かめている。
一口食べると、
「……もしかして、これ、肉を入れてくれてあるん? あっちのみんなの食べとるのも、ごっつええ匂いしとるけど、肉なん?」
「そうだよ。人間は味付けして料理して食べるんだよ。あれはしょっぱいし、油っこいから猫さんたちに食べさせてあげる訳にはいかないけど、もっと元気になったら、ちゃんとしたお肉も食べられるようになるからね。今日のお粥にもお肉は入れてあるけど、細かいミンチにしてあるから食べ応えはあんまりないと思う。しばらく食べてなかったって言ってたから、体に良くて負担のかからないものから少しずつ。だんだん普通のご飯が食べられるように慣らしていこうね」
説明している間も、気に入ってくれたのかペチャペチャと食べ進んでいる。ちゃんと食べられるなら回復も早いだろう。良かった。
「美味しいわぁ。これって何の肉なん?」
「今日使ったのは蛇の肉だよ。みんなが食べてるのもね。脂が少なくて、お腹に負担がかからなそうだったから」
母猫の目が大きく開かれて、ビックリしたように瞳が縦に細くなった。
「……蛇! て、天敵やけど、食べると美味しいんやね……」
牛たちも猫も問題なさそうに食べているので、私も席に戻り唐揚げに手を伸ばす。
カリッと揚げられた唐揚げにザクッと歯を入れると、中の肉は柔らかく肉汁が溢れてきた。
前世では蛇は食べたことは無かったけど、鶏肉に近い味だと聞いたことがあった。
噛み締めるその味は確かに鶏肉に近い。鶏のモモ肉のような噛み応えと、脂ののった魚のようなふわふわ感もある。もっと淡白な味を想像していたけど、肉汁とともに旨味が溢れてくるし、思った以上に食べ応えがある。
臭みや独特のクセも無いので、いろんな料理にも使いやすいだろう。
「この肉、すっごい美味しいね!」
喜びとともに顔を上げると、みんなが微妙な顔をして、手が止まっている。
「……どうしたの?」
「……モモ、これって」
「へ、蛇の肉なの……?」
「あの……、でっかい蛇……?」
猫との会話を聞いていて、初めて気が付いたようだ。
「そうそう! でかかったから肉もいっぱい取れたんだよ。嬉しいね。この味なら、毎日でも食べたいよ!」
ピノに、「お手柄だよ!」と褒めながらもガツガツと唐揚げを食べ進める。久しぶりなのでつい夢中になってしまう。
私は肉の中でも鶏肉が一番好きだ。
だってムネ肉とかメチャ安いし。
うちの近くのスーパーでは百g三十七円。特売の時ならなんと十九円! 安いは正義!
当然、我が家の家計を助け、食卓に上がる回数も増える。
今日は頑張って五kg近い量の唐揚げを揚げたので、みんなにもたっぷり食べてもらえる。
ニコニコと頬張りながらみんなを見回すと、なぜかポカンとこちらを見ている。
あれ? やっぱりヘビ肉なんて嫌だったのかな?
「ふっ、ふふ」
「あっはははは!」
急に笑い出すので、今度はこちらがポカンだよ。
「やっぱモモはすげーな!」
「うん、つっえーや!」
「あははっ、ヘビ肉って美味しいね」
みんなの手が再び動き出す。
これは吹っ切れたかな?
怖かった想いも、食って腹の中に入れちゃえば栄養とともに力になるってもんさ!
そこからは、いつものように楽しい夕食の時間が戻ってきて、和気あいあいと過ごせた。
お腹いっぱい食べた後のお茶の時間には、通訳しながらみんなで動物たちに自己紹介もした。
ちなみに、今回動物たちには名前を付けてない。元気になったらそれぞれの生活に戻っていくことを考えたら、下手に力を与えたりしてもまずいかもしれないからね。
ともあれ、ご飯と寝床と安全を確保されたことで、見知らぬ場所に連れてこられた動物たちの緊張も大分ほぐれてきたように見える。
広間では子供たちと仔牛たちが戯れている様子も見られた。
仲良く暮らしていけそうで何よりだ。
今日は子供たちも、もちろん動物たちも疲れきっているはずだから、ゆっくり休んでもらいたい。
日課の訓練は早めに切り上げることにしよう。
明日からはまた畑仕事もしなければいけないし、今日の成果の肉を大量に加工しなくちゃいけない。
その準備とも言える作業、物作りをするために、私は資材倉庫に向かった。
今回の百kg程もある猪肉。
もちろん、そのまま食べたり、燻製にして干し肉やベーコンにしたりもするけど、ソーセージを作ってみたいと思っている。
ベーコンやソーセージは料理に使いやすくて重宝するからね。
ソーセージは腸詰めとも言うその名の通り、一般的には羊の腸に詰めて作るものだ。猪や水牛の腸を使っても作れるだろうけど、内臓は全てポチくんたちに譲ってしまったのでここには無い。
そんな状況でどうやって作るのかと言うと、腸詰めの腸の代わりとして使われる人工ケーシングというものがある。
コラーゲンケーシングと呼ばれるその人工のソーセージの皮は、天然羊腸の代わりとして作られたもので、羊腸を使ったソーセージのようなパリッという食感は出せないものの、たんぱく質を原料としたコラーゲンで出来ているので安全に食べられる。腐らないので羊腸のように塩漬けにする必要がなく、そのため塩抜きの手間もかからない。さらに天然羊腸よりも強度が高いため、素人には難しい腸詰め作業にも扱いやすい。
ご家庭でお子様と一緒にソーセージ作りに挑戦するなら、人工ケーシングがお薦めなのだ。栄養士の仕事で親子で手作りソーセージ教室を行った際にも、とても重宝した覚えがある。
そんな便利な人工ケーシングは何から出来ているのか。コラーゲンケーシングと言うからにはコラーゲンからなんだけど、そのコラーゲンはどうやって作っているのか。
実は、動物の皮から抽出している。
骨なんかからも作れるけど、牛や豚の皮から作られているものが殆どだ。
前回の狩りでも、今回の猪や蛇の皮でもそうだけど、解体の魔法を使って、その場で扱いやすい鞣し革の状態にしてしまっている。
この革からコラーゲンを得るのは難しいだろう。
だが、今回ひなちゃんから譲ってもらった水牛の皮は、狼たちの取り分となる予定だったので処理をせずに生皮の状態のままになっている。
こちらからならコラーゲンを抽出出来るはずだ。
土魔法で大きめの甕のような容器をいくつか作っておいてから、生々しい水牛の皮を用意する。
コラーゲンの抽出の仕方はさすがにわからないけど、現物を知っていて材料はあるのだからスキル先生にお願いしてしまおう。
「創造・コラーゲン」
魚や肉の煮こごりなんかのプルンとしたあれを思い浮かべて魔法を発動する。
大きな水牛の皮からは大量のコラーゲンを手に入れることが出来た。表皮は残ったので、こちらは鞣し革に加工することも出来た。
いくつもの甕の中のプルプルを眺めてニンマリしてしまう。
煮こごりのプルンとしたあれがコラーゲンということは、つまりここからゼラチンも作れるということ。
ソーセージだけじゃなくて、ゼリーも作れるようになる! やったね!
試しに、一甕のコラーゲンからケーシングを作ってみる。
これも作り方はわからないけど、完成品は見たことも使ったこともあるので、見た目や触り心地、ソーセージの作り方なんかも思い浮かべて創造で作り出す。
太さは羊腸に準じた仕上がり直径で二cmほど。
それが何十mも作り出された。
広げてみれないので実際の長さはわからないが、十mくらいで二kgくらいの肉を詰めることが出来るので、これだけあればかなりの量のソーセージを作れると思う。
大満足な結果が得られた。
明日が楽しみだなあ、なんてワクワクしながら片付けを終えれば、そろそろみんなも寝る時間だろう。
アンとルーには、寝る前にもう一度母牛と猫たちに水の癒しをかけてもらった。
各自おやすみの挨拶をして部屋に入る。私も一度はキティたちと自室に向かったけど、子供たちが寝入ったのを確認したら居間に戻った。
子猫たちのお世話をしなくちゃいけないからね。
母猫は心配そうにしてるけど、早く良くなってもらうためにもお母さんにはきっちり休んで回復してもらいたい。
「子猫たちのことは任せて。安心してゆっくり眠ってね」
「おおきに……」
優しく撫でてあげると、母猫も微睡みだした。
ミルクや布の用意は出来ている。
とはいえ、私一人で三匹の子猫のお世話を一度にするのは無理なので、順番に一匹ずつ起こしてはミルクを吸わせ、ゲップをさせて、お尻をちょんちょんと刺激して排泄もさせる。
それを三匹繰り返すと、少しだけ私もうとうとする。仮眠とも呼べない時間を休むと、また一匹目から順番にお世話をしていく。その繰り返し。
かあちゃんは大変だなあ、なんて苦笑しつつも、そうして長い夜を過ごしたのだった。
更新が遅れましてすみません!
ちょっと今月スケジュールが厳しく、
更新頻度が落ちてしまいそう……
出来るだけ早くペースを戻すように頑張りますが、更新出来ない時、遅れてしまう時には、活動報告にてお知らせします。
こんな作者ですが見捨てないでやって下さい。
今後とも応援よろしくお願いいたします。
(≡з≡)/




