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第百十話 かあちゃんは森へ行く

 

 今日は畑の片付けと肉の燻製をする予定。

 急ぎの仕事は無い。


 昨日作った大麦のグラノーラにヨーグルトをかけたもので朝食をとりながら、今後の予定についてみんなと話している。


「部屋作りで木材もリネンも綿も大分使っちゃったんだよね。素材収集を兼ねて、またみんなで出掛けようか」


 少し歩き回って靴の調子も確かめたいし。


「やったー!」

「行きたい!」


 みんなも乗り気だし。


「畑仕事の区切りもちょうど良いから、明日は畑を休みにして行く?」


 バズからもOKが出た。

 バズだってたまには外出したいよね。


「約束してた湖に出掛けようか。それとも、今日燻製にしちゃえば肉も大分片付くから、狼さんのところに行く?」


「狩りか!?」

「しばらく会ってないから狼さんに会いたい!」


 実は私も雨の被害に遭っていないか、狼たちの様子が気になっていた。


「じゃあ、森に行こうか。お酒のお土産も持って、ポチくんたちに会いに行こう。……でも、今回、昼の狩りをお願いしたいから、ポチくんたちに聞いてみないとだね」


 先にポチくんたちの予定を確認してから決めた方がいいかな?


「燻製の支度をしたら、ちょっと森に行ってくるよ。狼さんたちの都合を聞いてみて、大丈夫なら明日はみんなで森に出掛けよう。都合が悪ければ湖に行くことにしよう。それでいい?」


 みんなが納得してくれたので、今日の予定も決まった。


 おうとくうに乗せてもらって、ひとっ走り……と思ったんだけど、一人ではさすがに危ないとジェフがついてきてくれることになった。



 食事を終えると、バズたちは畑の片付けに、肉の燻製はユニ、ルー、コリー、キティ、ピノがやってくれる。


 昨日、魚の燻製もしてくれたメンバーなので、手順は殆ど同じだから任せられる。


 朝食の片付けや、干し台を出すのもやってくれると言うので、肉の燻製の手順だけ説明すればすぐにも出発出来そうだ。


「魚と同じように、まずは水に浸けて塩抜きをして、水分を拭いて乾燥する。燻製にはサクラのチップを使ってね。熾火を使うほど温度に気を配らなくて大丈夫だと思うけど、あまり高温にしないでね。炎を上げ過ぎないように時々薪を足していてくれればいいと思う。昼前から燻製室に入れて、夕方近くまでじっくり燻してみよう」


「今回は全部ブロック肉だよね」

「干し肉はなかったよね」


「うん、薄切りの干し肉はこの前全部やってもらったから。ブロック肉はフックに吊してね。吊しきれない分があったら並べちゃってもいいからね」


 狼たちとすぐに会えれば、それほど遅くならずに午前中のうちに帰ってこれると思うけど、何があるかわからないので、一応全ての手順を説明しておく。


「昨日もやってるし大丈夫だと思う」

「うん、任せて!」

「雨の後だし、気を付けて行ってきてね」



 ジェフ、ヤスくんとともに、おうとくうに跨がり、先日作ったリンゴン酒の一瓶だけをお土産に持って、私たちは出発した。


 みんなで出掛ける時には大麦を持っていって向こうで作るつもりだけど、今日はこれだけ。気に入ってくれるかな?


 先触れと森の様子を見に行くのが目的なので荷車は着けていない。背中の私たちを気に掛けて走ってくれてはいるのだろうけど、身軽なおうとくうは速かった。


 三十分程で森の広場に到着してしまった。


「気持ち良かったな!」


「おう、くう、すげーぞ!」


「うわ……、さすが速いね! ここからは感知しながら進むから、スピード控え目でお願いね」


「楽しかったー!」

「りょーかいー!」


 ポチくんたちは巣穴にいるかな?

 取り敢えず気配を探りながら北を目指そう。



 森の様子も確認しながら進んでいく。


 雨が止んでから丸二日経っているが、まだ地面は水分を含んでいる。ひどくぬかるんだところこそ殆ど無いが、森は充分に保水されているようだ。しっかり根を張った木々のおかげだろう。

 背の高い木が生い茂っているからか、比較して背の低い果樹や灌木にもあまり被害は無く見えた。


「ここはまだ実りがたくさんだね。すごい」


「リンゴンもベリーも残ってるな」


 サツマイモも無事だったので、これなら大麦だけ運んでくればお酒作りも出来そうで良かった。



 相変わらず他の動物の気配の無い森の中を北へ進むと、ポチくんの魔力が近付いてくるのを感じた。

 迎えに来てくれたのかな?

 他のみんなは巣穴にいるみたい。


「モモ! 久しいな! 今日はみんな一緒ではないのか?」


「ポチくん! 元気だった? また狩りのお願いに来たの。ポチくんたちの都合を聞きに来たから、今日は私たちだけ。それより雨は大丈夫だった? 川が増水したりしなかった?」


「そうか、そうか。モモたちとの狩りならいつでも良いぞ。雨など問題ない。この時期は毎年のことだ。冬の前の長雨の時だけ、少しばかり不自由するくらいのものだ。まあ、とにかく巣に戻ろう。群れのみなもモモに会いたくて待っておる」


 ポチくんと雑談しながら洞窟の巣穴に向かう。

 ちょうど狩りから戻り、食事を終えて眠ろうとしていたところだったらしい。


「ごめんね。そっか、これから寝るところだよね。お邪魔だったかな」


「よいよい、構わないぞ。明日はモモたちと狩りをするのであろう。ならば今日は夜に眠ることにする。明日が楽しみだ。みなも喜ぶぞ!」


 あれ? もう明日が狩りで決定してる?

 ありがたいけど……。


 野生に生きる狼たちは少しくらい寝なくても大丈夫、とポチくんが言うので、お言葉に甘えよう。



 巣穴ではひなちゃんはじめ、狼たちがずらりと並んで出迎えてくれた。いつものように伏せのポーズで、持ち上がったお尻ごとしっぽをフリフリしている。かわいい。


「モモちゃん、いらっしゃいませ! お元気でした?」


「ひなちゃん、みんなも、お出迎えありがとう。元気だったよ! みんなも元気そうだね」


 抱きついて首の辺りをわしわしと掻いてあげると、気持ち良さそうに目を細める。


「明日はモモたちと狩りをするぞ! 昼の狩りに備えて、今日は夜まで起きていることに決めた!」


「まあ! それは楽しみですね」

「っうぉーん!!」


 みんなポチくんの決定に異論は無いらしい。群れのボスってこういうものなのかな? 


 ともあれ、無理矢理な感じはなく、みんなも喜んでくれているようなので嬉しい。


「今日は食べ物を集めないのか? あの車は引かないのか?」


 ……ああ、荷車を引きたかったのか。


「今日はポチくんたちの都合を聞きに来ただけなんだよ。あ、でも、お土産に新しいお酒を持ってきたよ。気に入ってくれたら、明日はもっとたくさん用意出来ると思う」


 リンゴン酒の入った瓶を出すと、ポチくんの鼻がヒクヒクする。


「……ね、寝てしまう訳にはいかぬからな。少しだけ……、味見だけしてみよう。果実の酒だな、これは」


 土魔法でボウルを作って、一杯だけ注いであげると、


「ほお……! これは良い味わいだ。初めて飲む味だが、果実の味だけではないな?」


 しっぽをブンブン振り回しながら、ピチャピチャと一気に飲み干してしまう。


 どうやら気に入ってもらえたようだ。

 良かった。ポチくんのために作ったお酒だもんね。


「うん、麦で作ったお酒とリンゴンで出来ているんだよ」


「明日またこれを持ってきてくれるのか?」


「この森にある果実で作っているから、材料の麦を持ってきて、ここで作ろうかと思ってるんだ」


「ほうほう、それはありがたい! だが、その麦を運んでくるのも、小さいモモたちには大変であろう。我らが出向いて運んでくるのを手伝おう!」


 え……。そんなに大量に持ってくる予定ではないんだけど……。


「えーと……。私たちでも運べるくらいの量だから……、大丈夫だよ?」


「……そうか? ならば、お主らを森まで運んでやろう。お主らの足では森に来るのも大変なのであろう? どうせ今日は夜まで起きていることに決めたのだ。このままモモの家へ一緒に行き、明日はまた我らの背に乗って森へ来れば良いではないか」


「まあ、素敵ですね! 雨のせいで毛皮も汚れてしまって……。お風呂を使わせていただけると嬉しいです!」


 ひなちゃんまでそんなことを言う。

 狼たちのしっぽもブンブン揺れている。


「じゃあ……、そうしてもらっちゃおうかな? お風呂も入って、一緒にごはんも食べよう。うちの子たちも喜ぶよ!」


 そんな訳で、狼たちとみんなで岩山に帰ることになった。


「木や蔓を集めていかなくていいのか? 我らが運ぶぞ?」


 ポチくんが提案してくれるけど、今はハーネスを持ってきていない。


「ならば、一度戻って準備をしてから、また取りに来れば良いな。何、まだ一日は長いのだ。いくらでも時間はある」


 ワッハッハッと楽しそうにポチくんが笑う。

 今日こそは自分が荷車を引きます! とばかりに狼たちの目も輝く。


 ちょうど木材が不足していたことだし、この申し出もありがたく受けよう。


 帰りはジェフがポチくんの背に乗っかって、狩りの話を聞かせてもらっていた。

 私とヤスくんはひなちゃんの背に乗せてもらい、おうとくうも、


「ひな姐さんと一緒に走る!」

「姐さんと一緒! 嬉しい!」


 と併走していた。



 予定よりもずっと早く、二時間と掛からずに、しかも狼たちを引き連れて帰ってきた私たちに子供たちは驚き、そしてやっぱりすごく喜んでくれた。


「ポチくんだ!」

「ひなちゃん!」


 キティとピノは転がりそうな勢いで駆け寄ってきて飛びついていたし、他の子たちも作業の手を止めて狼たちを招き入れ、約一週間ぶりの再会を喜びあった。


 しばし挨拶を交わし合い、今日、明日の予定を確認しあうと、子供たちはまたそれぞれの仕事へ戻っていく。


 私は新たに四つの狼用のハーネスを作り、


「今日は狼さんたちに、お仕事譲ってあげてね」


 とおうとくうを説得して、大中の荷車をポチくんとひなちゃんに、小三つの荷車を今日担当になった狼たちに装置すると、再び木材を切り出しに森へ向かった。


 ジェフとヤスくんとおうとくうもついてきてくれる。


 木材集めは近くの林でも良かったんだけど、冬支度の最中の林の動物たちを警戒させてしまっても可哀想なので森へ行くことにした。

 たくさん荷物を引けるとポチくんたちも喜んでいたし。


 森ではさらに二つのハーネスを装着した狼が、狩りに使った二台の荷車も引いて、計七台の荷車に木材が集められていく。


 それだけの量の木材を積むのは大変だったけど、私とジェフだけではなく、おうとくうも、狼たちも、上手いこと両端を咥えることで積み込みを手伝ってくれたので仕事は捗った。


 ヤスくんがヒノキも見つけてくれたので、杉、ナラ、クルミ、ヒノキと種類も豊富に集められた。


 これだけあれば物作りにも燃料にもしばらく不自由しないだろう。


 ついでにナラ材で明日の酒作りに使う樽も作って、ポチくんたちの巣穴に置いてきた。この樽に酒が作られると、ポチくんはホクホクしている。



 ドングリ茸用の丸太や蔓なども手に入れて、ずっしりと重くなった荷車を意気揚々と引くポチくんたちと凱旋する。


 目を丸くして、あっけにとられてた子供たちも手伝ってくれて、資材倉庫には大量の木材が確保された。


 冬の憂いがまた一つ解消された。

 これは本当にありがたい。


 お昼にはポチくんのリクエストで、また焼き芋をふるまった。


「ポチくん、ありがとう。大変な木材集めを手伝ってもらえて本当に助かったよ」


「我らも楽しかったぞ。ヒトのやることは面白い。他にもやることはないのか?」


 一杯だけと、果実酒用のホワイトリカーを味見してみてるポチくんは、味気ないけどアルコール度数の高いことにご機嫌で、今さらながら樽でお酒を渡すことにちょっぴり不安を感じてしまったのだった。



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